月夜見
 puppy's tail 〜その49
 

 “うみないえ? きーれいねvv”
 

あんねあんねっ、今日ねっ。
テレビでみたのっ、きれーだったのっ!
ちかちか・ぴかぴかって、
赤とかだいだいとか、青とか みーどりの電気が点いて、
お顔がいっぱいあって、
皆でバイバイとかしてて、ワクワクだったの〜〜〜っ!/////////


 「…カイ、お客さんは展示されてないから。」
 「うや?」





  ◇  ◇  ◇



そういうシーズンですよ、いよいよという、
いわゆる“年末の風物詩”に加わって、かれこれ13年にもなりましょうか。
神戸は元町の、それは豪奢なイルミネーション。
ゲイトから始まっての、アーチ状に通りに沿って延々と連なっているものと、
広場を囲んで背の高い、光の舞台の書き割りみたいなのと。
イタリアのライティング・デザイナーさんが考案して構成されてる、
そりゃあそりゃあ目映くて、
夢幻の世界に迷い込んだようになりそうな、
絢爛豪華な光の氾濫…だと聞くが、

 「人の波がまた、凄まじいよねぇ。」
 「そうだな。」

テレビを一緒に観ていた小さな坊やが、
思わずそれも出し物の一環かと思ったくらいの、
尋常ではない、人、また人、の波。
イルミネーションの全景を映そうと、
カメラが引いたその遠景画面の底のほうを埋め尽くしてた勢いは、
さながら巡礼の最終地、メッカの大通りのごとく。

 「…いや、メッカなんて遠いトコへは、まだ行ったことはねぇけどな。」

物の例えでしょ? 判っておりますってばvv

 「ちゅたさん、きれーねーvv」
 「そうですねぇ。」

早いめの夕飯がすんでのすぐ。
つけたテレビのN○Kのニュースで、
ンパッといきなり映し出された宝石箱みたいな光景に、
家族の一同が見惚れてしまい。
殊に、大きな瞳をきらきらと潤ませて、
小さなお手々でぱちぱちと、
拍手をしもっての はしゃぐほどというカイくんの気に入りようは、
久方振りの反応でもあって。

 「一番最近って、いつの何へでしたっけ?」
 「えと、確か…あ、そうそう。
  ゾロの誕生日に皆でデコレーションした、二段ケーキ以来だっ。」

  美味しかったよな、あれvv
  けーきっ♪
  あああ、こらこら、別な火がついちまったぞ。
  デザートのババロア、もうお腹に入りそうですか?

おおう、さすがツタさん。手筈は万全でございます。
(笑)
ひんやりデザートが再び美味しくなるほどに、
既に程よい暖房が足元からのしっかりと、利いてるお部屋だったりし。
リビングにてのデザートタイムに供された、
バニラとイチゴの二段ババロアは、
ルフィママとカイくんが思い出した、
パパのバースデイケーキを彷彿とさせつつも、
綺麗なドームがプルルンと、なまめかしくて魅力的vv

 「ライティングといえば、一般のお家でも、
  お庭や屋根へイルミネーションを飾って楽しむご家庭が増えているそうですね。」

街が丸ごと、競い合うかのように飾り立てられてるようなところもあるそうで。
でも、見に来る人のマナーが悪かったりすると、
晩のこととて迷惑度もただごとじゃあなく、
なかなかに痛し痒しだそうですが。

 「あ、知ってるっ。」

ツタさんからのお話へ、ルフィがお元気に手を挙げて見せ、

 「LEDだっけ?
  今までの電球より電気代が安くって熱も出さない電球が出来たからって、
  青とか白のロマンチックなのが流行ってるんでしょう?」

でもさすがにというか、此処いらじゃあ見ないねぇ。お屋敷町だのに。
ええ。お年を召した方のお家での飾り付けは大変ですし。
就寝時間も早いからな、のんびり眺めてる人も少なかろうし。
大人たちがそんなお話に沸いているのに気づいて、
小さな王子様、クマさんの柄の丸いスプーンをふと止めた。

 「お家で、電気ちかちか?」
 「うん。そういうところもあるってお話。」

クリスマスだからねとそれは嬉しそうに笑った、はつらつお母さん。
こちらのお家でも、リビングの窓辺に、
今週の末にでもツリーを飾る予定になっている。
パパが隣り町のスポーツジムへと出勤してのその帰り、
目新しいオーナメントがあったら買ってくるよと言っていたので、
飾りつけはその後となるのだが、

 「ゆみなーいえ、みたいの?」
 「ウチじゃあ、無理、かなぁ?」

どうやら殊の外 お気に召したカイくんであるようで、
あんなのいいなと、何だかいつまでもこだわってるご様子であり。

 そしてそして…。

 「………。」

 「……な〜んかイヤんな予感、しない? ツタさん♪」
 「イヤんな予感てのは何ですよvv」

うう〜んと何事か考え込んでみる、父上の無駄に精悍な横顔に、
野生の勘が擽られたらしいママさんが、
こちらさんは屈託のないお顔でそんな囁きをちらりとこぼし。

 「脚立の確認とか、しといた方が良さそうですね。」
 「それと、お外用の電気のコンセントとかケーブルの点検もだね。」

もしかしてカイくんへのサプライズにしたいのかもしれないから、
俺もお手伝いでお屋根に登る練習、しとかなきゃね。
大丈夫ですか? 奥様。
ま〜かせてvv …なんてな、
頼もしいんだか、そっちはそっちでフォローが要りそうなのやら な、
何やらひと騒ぎが起きそうな気配でございますが。

一段と冷え込んで参りました。
慣れぬ作業を慣れぬ場所でなさる折には、
防寒と同時、動きやすい服装で挑まれますよう、
どうかご自愛くださいませね?





  〜Fine〜  07.12.06.


  *実はここ数年、毎年開催が危ぶまれつつあるルミナリエ。
   これも不景気のあおりか、予算が集まらないのだそうで、
   復興の証しという始まりだったのだから、
   ご支援をありがとうございましたと…
   いやなかなか終われないものなんでしょうねぇ。
   もはや歳時記的な名物にさえ、なってますしねぇ。
   東京のほうの何とかいう似たようなあれは、
   協賛企業も多そうで、きっと安泰なんでしょうねぇ…。

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