月夜見
 puppy's tail 〜その50
 

 “パパ、遊ぼvv”
 

えと、しんねん あけまいて おめでとーござーましゅvv
ことしも、どーか よーしく
おねがい…んと、おねがい たしましゅvv




  ◇  ◇  ◇



カイくんが新年のご挨拶を覚えたのは、
ゾロパパやルフィママが教え込んだからじゃあなく、
お正月そうそうのテレビ番組のどれででも外れなく、
冒頭で同じことをばかり言ってたものだから。
ニュースにお天気のお知らせに始まって、
時事放談やスポーツ中継からバラエティもの、
ともすればアニメ番組に至るまで。
どの番組でも始まるご挨拶として
“明けましておめでとうございます”を連呼しており。

 「まあ、お正月なんだから仕方ないっちゃ仕方がないんだけど。」

どうかするとCMも、新春Ver.はそのクチだったりしますものねぇ。

 「それで始まらなかったものと言えば?」
 「特別ドラマスペシャルとか、新春シネマとか。」
 「あ・それと、好評だったドキュメンタリーの再放送とか。」
 「そうですね。
  そういった“お話”とか“ドラマ”はさすがに、
  そんなご挨拶では始まりませんでしたね。」

日頃からもそれほどテレビを観る家庭ではないものの、それでも皆無とはいかず。
そんなお家だってのに、
小さな坊やが元日だけでこのご挨拶を覚えてしまったというから、
子供の記憶力はすごいな、柔軟だなとひとしきり感心していた約1名は別として、
画一化も考えもんではないのかと、肩をすくめた家人たちだったりして。

 「テレビと冷蔵庫がないと暮らしてけないおばさんには、
  非難の資格はないかもだけれど。」

うう…。
それだけじゃないもん、水道とPCも要るもん…じゃあなくて。
(苦笑)
そんな風潮批判の放談をするよなカラーのお話じゃあないんだから、
どうか本来の軌道へ戻ってくださいませ。



 今年のお正月は曜日配列が絶妙で。仕事納めの頃合いが週末と重なったため、早い会社だと29日からお休みに入り、3が日明けが金曜なので、そこを何とか…年休などで埋めれば学生ばりの長期休暇を取れることとなるとかで。勿論、誰も彼もが仕事初めの日に休めるとはいかないが、それならそれで分散型に拍車も掛かったものか、道路の混みようなどはさほど凄まじいそれには至らなかったとか。そういった…帰省ラッシュだの海外脱出だのにはほとんど縁のないロロノアさんチのお正月は、日頃に輪をかけてののんびりと穏やかな日々が続き。年末から元旦にかけての日本を襲った“爆弾低気圧”によるいきなりの極寒も、お家でぬくぬく、ツタさんのお手伝いという格好でのお正月準備に取り掛かっているうちに通り過ぎたような案配で。年によっては、正月返上で自主トレだと決意したアスリートさんが、伝説の名トレーナーであるゾロパパへコーチングを依頼してくる冬もあるにはあるのだが、
『…ここ数年ってものは断りまくりだよねぇ。』
『そうですね。』
 正確には、カイくんがとてちて歩き回れるようになってからこっち、片時も離れたくはないという我儘を通すため、半月以上のコーチングは数えるほどしか承らなくなってる親ばかトレーナーさんであり。だってのに、そんな態度をどう解釈されたやら。ますますもって“謎めき”度合いが深まりでもしたか、有名なプロ選手からの熱烈な指導依頼も舞い込むようになった始末。そのうち、どこぞの格闘技の創始者みたいに、人間離れした神業があるとか、若いころにはとんでもない修行行脚をした人だとか、あることないことで超人伝説とか半生記とか紡がれかねないぞとは、東京在住のお友達の皆さんの話のタネにもなってるそうですが、まま、それらはくっきりと余談なので今回は置いといて。

 「そらっ! 頑張れっ!」

 大きく振りかぶって…もとえ、上体を大きくひねっての反動をつけて。反対側の真横まで引いていた腕を、ぶんっと勢いよく繰り出したその先から放たれたのは、樹脂製の蛍光色の丸い円盤、昔はフリスビーと呼ばれていた、小ぶりのフライングディスクが1枚。ルービックキューブもそうですが、NHK以外でもあんまりそっちの名前で呼ばれないのは、特別な使用許可のいる登録商標だからでしょうかね。ギネスブックというのもN○Kでは障りがあるとかで、何かしらへ挑戦した話題がニュースで扱われると“世界記録を集めた本に掲載されるそうです”なんて紹介のされ方をしておりましたが、それもともかく。お正月らしいお遊びというのにこだわらず、思い切り駆け回ろうじゃありませんかとばかり、広々とした原っぱに繰り出したロロノアさんチのご一行。何しろ、小さなご家族たちの一日に必要な運動量が半端じゃあないので、寒いなんて言ってられないし、そもそもそんな御託を持ち出す不精な性分の御主人でもないと来て。羽根突きや凧揚げもそれなりに嫌いではないけれど、坊やがまだまだ幼い身ゆえ、そういったテクニックの必要な遊びも今一つ盛り上がらず。
『…よっし♪』
 そこでとママさんが、自分に瓜二つなわんぱく坊やを抱っこして…あっと言う間にわんこへ変化
へんげ。そのままリビングの隅にあったおもちゃ箱へ直行し、ウェスティのカイくんにはビニールボールを咥えさせ、シェルティのるうくんになった自分はフライングディスクを咥えての“お出掛けしようよvv”とお尻尾をはたはた振って見せれば、
『そっか。じゃあ、おんもに行こうかvv』
 どちらもお膝までという、それは小さなわんこになった可愛いご家族を引き連れて、トレーナーにワークパンツとスカジャンというラフな恰好になったご主人、ただでさえ人通りの少ない別荘地の、閑散と冬ざれた街路をほてほてと進んでゆくと。元はテニスコートだか駐車場だったのか、結構な広さのある空き地まで繰り出して来たという訳で。

 「あうっ、はうっvv」

 絹糸みたいにつややかな毛並みをなびかせて、たかたかっと軽やかに地を蹴るすばしっこい足回りもなめらかに。風を切って駆けるとは正にこのこと、ゾロパパの大きな手から遠くの宙へと目がけて送り出された平たいディスクを、時折ちらりちらりと見上げつつ、上手に間合いを読んでの伴走は、時間にして数秒もなかっただろう素早さで、ジャンプ一番、見事なキャッチングを見せたるうちゃんが空中にてディスクを捕まえてしまい、
「ナイスキャッチっ!」
 よく出来ましたと頭から顎の下から背中まで、ぐりぐり撫でてもらえるパパのところまでを、やっぱり風のように駆け戻ってくるので1セット。どんなに遠かろうが高かろうが、投げるたびにコースや勢いを変えているのにもかかわらず。冬枯れした原っぱの中、弾丸のように駆けていっては、胡蝶や小鳥のように軽やかに跳ねての躍り上がると、確実にディスクを咥えてしまう小さなシェルティ。今投げるぞほら投げるぞというフェイクやフェイントを加えつつ、ほれほれとディスクを振って見せられると、理由もなくのワクワクしてしまい。お尻尾がぱたぱた、音が出そうなくらいに振られての、早く早くと落ち着けなくなる。そんな小さなシェルティくんがディスクを3つ持って来る間に、こちらはもっと小さなウェスティの坊やが、蛍光ピンクのボールを“よいちょ・よいちょ”と運んで来るのがまた可愛い。少し萎ませてあるボールは、まだ顎が小さなウェスティくんでもかろうじて咥えられるけれど。カイくんにはお顔の半分くらいはある大きなボール。ぽーいと放られたところまではママに負けない、風のような疾走で到着出来るのに。まだ余力で転がっているのへと、あうあうと吠えついての威嚇をし、止まったのをお鼻でつついて確かめてから、かぷりと捕獲し、うんしょ・よいちょと持って来るのがちょこっと大変。ぽろりと転げては待って待ってと追っかけ直さなきゃならなくて。やっと持って行くと、
「うわぁ。凄いな、カイ〜〜〜vv」
 わしわしと撫でるだけじゃあ収まらず、高い高いと抱っこまでして、そりゃあ大袈裟に褒めてくれるパパだけど。
「お。ルフィもか。凄いな、あんな遠かったのにな〜vv」
 よっし、じゃあ今度はこっちだぞ。それっと、ディスクを投げる思い切りのよさが…何だか、

 《 ママのほが、楽しそ。》

 ふみみとお鼻を鳴らしての、パパのお手々へ抗議のすりすり。だってさ、あんな風にたかたかって駆けてって。そのまま同んなじ速さで、たかたかって戻って来るのよ? ほとんど飛んでるみたいな、地面にあんまりタッチしてないくらいな速さでのたかたかで、カイも走ってみたいのに。ボールはね、すぐにお口から逃げちゃうの。だから、

 《 カイもそれがいーぃ。》
 《 カイにはまだ無理だってば。》

 愚図ってる間にもう戻って来たマーマが咥えてきたディスク。横合いからガジガジって咬んで見せれば、シェルティママ、かっくりこと小首を傾げてしまって、あのね。

 《 ほら。咥えてみ?》
 《 う〜〜〜。》

 ゾロパパに渡す手前で、ほらと反対側の端っこを坊やへ振り向けてやったらば、

 《 〜〜〜。》

 あ〜んしたものの、あれれやっぱり。ママより小さなウェスティの坊やにはやっぱり、まだまだ分厚いので咥え切れたものじゃない。

 《 どしたの。ボールは詰まらないの?》
 《 ちやうけどぉ〜〜〜。》

 ボールをお鼻でグリグリこすり、随分と冷たくなった風の中、毛並みをふわふわ撫でられながら、ふににと言葉を濁す坊やであり。

 「どうした? 二人して。」

 さっきまであんなにはしゃいでいたものが、急にしょげちゃった坊やと それを宥めるるうちゃんという図になってしまい。くうくう・きゅぅ〜んと、わんこの鼻声での相談モードに入られちゃうと、悔しいかな“蚊帳の外”状態になってしまうのが哀しいゾロパパ。どした?と、膝を折っての二人の様子、同じ目線になっての窺えば、

 《 だって。パパとママと、ワクワクぴょこぴょこしてんだもの。》
 《 え?》

 一緒に遊んでたのに?と。キョトンとしたルフィだったけれど、

 《 カイが うんせうんせってしてる間に、何回も撫で撫でしてもらってて。》
 《 それは…だって。》

 黒々としたお目々を潤ませるカイくんへ、そんなことで拗ねないでよ〜〜〜っと、こちらも上目遣いになっちゃったルフィママ。そんな二人が、よもや自分のことでやきもきしていようとは、今のところは気づいてないパパと来て。はてさて、だれが一番幸せ者なのだか。とりあえず、今年もなかなか楽しげなご一家になりそうな気配ですねと、ひゅうぅん、吹きすぎてった木枯らしが微笑ましげに囁いてったそうですよvv






  〜Fine〜  08.1.04.

  *明けましておめでとうございますvv
   今年の更新、第一弾は“ぱぴぃ”のご一家となりました。
   相変わらずの親ばかゾロは、書いてる分には楽しいのですが、
   いい加減にしなさいと、そろそろ叱られそうかもですね。
(苦笑)
   何はともあれ、今年もどうぞよろしくですvv

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