月夜見
 puppy's tail 〜その51
 

 “冬の朝。”
 

時々、ママは一人でお散歩に行っちゃいます。
カイがまだ寝てる 朝はぁくに。
カイも起っき出来るもんてゆってもね、
風邪こんこんになるからメッて、一人で行っちゃうの。
うみゅ〜〜〜、ずゆい〜〜〜。




  ◇  ◇  ◇



いつの間にか、藍色一色だった空がじんわりと明るみを帯びていて。
世界は淡い青灰色に染まってる。
いつかテレビで見た海の中みたいだと言ったらば、
『そうね条件は同じだわ』
ロビンが褒めてくれたのを思い出す。

  ―― 鼻の頭がきんと冷たくなる冬の朝。

暖かい寝床でゾロの匂いにいつまでもくるまってたい時もあれば、
何かに呼ばれて無性にお外に出たくなる朝もあって。
わんこの姿になれば裸足でも平気だから不思議だなと、
人の姿のない町を、ほてほて静かに散歩する。
どこもかしこも まるきり静かって訳じゃあなくて、
小鳥が ちききっと短く鳴きながら飛び立つ気配とか、
遠いところで自転車を漕いでる音とかも聞こえてくるけれど。
それでもどこか、夢の中みたいに思えるのは、
誰の姿もないことで、時間が停まって見えるせいかも?

 “リードがないの、見つからないのは助かるな。”

すっかりと葉を落とした木の梢が、
網の目みたいに絡まり合ってるその向こう。
空がいよいよ白くなってる。
家並みの連なる大通りの入り口、
その先を差し渡し合う梢が
あみあみの天蓋みたいになってた木立ちを抜ければ。
土手の上、冬ざれた小道から見下ろせる枯れ野に居残る茂みの木々が、
その姿を1本1本浮かび上がらせて見せるほどになった頃合い。

  ―― 辺りの空気が、不意にピンと張る。

今は名残りさえ見えない川のあった、その うんと向こう。
空の縁が金色になって来てゆくのが見える。
あ、もうじきだと、
口元から流れる吐息を白くけぶらせながら立ち止まれば。
遠い遠い山々の稜線を少しずつこじ開けて、
橙がかった金色がお顔を覗かせるの。
まるで目に見える魔法みたいに光がぱぁってあふれ出して。
それが触れた端から順に、周りにあっと言う間に色がつく。
何度見ても不思議だな、これ。
そいでね?
色がついた途端に、何だかそわそわ、別のそわそわがやってくるの。
お外に出たくなったのと反対のそわそわ。
早くお家に帰らなきゃっていうそわそわ。
お尻尾をふりふり、たかたかと急ぎ足になって。
ふさふさの毛並みをなびかせながら、
小さなシェルティ、お家へ急ぐ。

  “お腹 空いちゃった。”

温ったかいポタージュと、プリンみたいにふわとろのフレンチトースト。
あ、玉子でとじたお雑炊も捨て難いな。
ササミを茹がいてほぐしたのが入ってるのと、白身魚のとどっちも好きvv
でもね、あのね、
朝ご飯も待ち遠しいけど、それだけじゃないの。


  ―― おおルフィ、お帰り♪
      お帰りなさいませ、奥様vv


あらあら、こんな冷たくなさって。
ツタさんがお庭の窓を開けてくれて、
ひょいって上がるとゾロが待ち構えてて、

  ―― ほら。飯の前に風呂だ風呂。

人の姿に戻った途端、体中が寒くなるからって、
問答無用で捕まっちゃうの。
う〜ん、一度くらいはご飯食べてからにしてくんないかな。
でも、クシャミが出ちゃうの、ホントだし。
あ…この匂いは ツタさんのとろとろドリアだっ!
やたっ! 急がなきゃっ!


足取りも軽やかに、小さなシェルティくんが駆けてく町並みに。
遅ればせながらの朝の気配が、待って待ってとやって来ます。
今日も寒いですよ? 暖かくして過ごしましょうね?






  〜Fine〜  08.2.11.


  *今日のわんことかでシェルティくんを観ると、
   無性に書きたくなるのがぱぴぃですが、
   コーギーとか柴犬とかトイプードルに押されてますね。
   コリーよりは小さいとは言え、
   ダックスフンドやパピヨンに比べりゃ大きい方だからかな?
   ラブラドール・レトリバーの人気は不動ですのにね。
   ポチたま観るときはつい、モブ(犬の)の中に捜してしまいます。
   そいや、ウェスティもCM以外では見ないなぁ。
   あんな可愛いのに…。

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