月夜見
 puppy's tail 〜その54
 

 “なぜなぜな〜に?U
 

あのねあのね?
じつはカイ、一人でわんこに変身できゅりゅよーになりました。
えっへんっvv(胸張りっ)
すごいっしょー?
最初はよく判んなかったのだけれども、
マーマと何遍もれんしゅーしたら、
うんうんって、わんこになれなれって思ったら、
マーマと一緒でなくても なれるよになったのーvv
でもね?あのね?
お約束がふえたの覚えるの、
ちょっといっぱい たーいへんだから、
あんましお外ではメェなのね。
つーまんなぁいだけども、う〜んとォ。


  …………………………ま、いっかvv





  ◇  ◇  ◇



そうそう、そうなんですのよ、奥様。
(こらこら)
とうとう海
(カイ)くん、ルフィママの念じの余波という格好じゃあなく、
自分の意志の力だけでもメタモルフォゼが出来るようになりまして。
おっとビックリという展開の前のお話から、
“しばらくお待ちください”とばかり、ちょっとばっかり間が空きましたが。
その間に、大人たちが大慌てで対策を練ったのは言うまでもなく。

 「でもさ、考えてみりゃ
  わんこになること自体にはあんまり問題ってないんじゃないか?」

これまでだってとっくにウェスティの姿にはなってたし、
一人でお友達のマキちゃんとかリクちゃんとかのお家まで、
わんこの姿で遊びに行ったりもしてたんだし…とはママのご意見。

 「鼻が良いんだし動作も素早くて足も速いんだから、
  迷子になる心配も、一人でいるときに無防備さから誘拐されるかもって心配も、
  今までとそうそう変わるとは思えないんだけど。」

お膝に抱えた自分のミニチュア然とした愛息子へ、
ねぇ〜vvなんて言いつつ頬擦りしてやれば。
やわやわな頬っぺ同士がくっついて少しへしゃげるのがまた、
双方ともに どれほどの柔らかさかを見せての愛らしく。
勿論のこと、
気持ちが良くてだろう“きゃわvv”とはしゃぐ坊やの笑顔も
例えるものがないくらい絶品だったものだから、

 「〜〜〜。////////
 「………ゾロ、瞬きくらいはした方が。」
 「あ?」

そんな眸ぇ剥いて固まってしまっちゃあカイが怖がるってばと、
奥方に言われて我に返っているところが相変わらずで。

  ………じゃあなくて。

げほごほと空咳をしての仕切り直し、

 「あのな? ルフィ。
  俺らが気をつけねばと言いたいのは、だ。
  カイがウェスティになれることじゃなくて、
  カイやお前が、人の姿にもわんこの姿にもなれる、
  そんな身だってことが他所の人にバレないようにしなくちゃってことだ。」

同じことの重複に聞こえるかもしれないが、実は微妙に違うこと。
海くんと同じ“カイ”という名前のわんこがいても、
それだけならば何の不思議もないことだけれど。
そのわんこが むくむくむくっと人間の坊やへも変身出来るとなれば、
誰だって不思議なことだと思うだろうから。

 「今までお前は何に気をつけて来た?」
 「そりゃあ、人が見てる前での変身はいけないって…あ・そか。」

何を論じているのかへ、やっと理解が及んで、
いっけねと小さく舌を出し、薄い肩をすくめて見せたママさんで。

 “…かわいいじゃねぇか。////////

おいおいご亭主、惚気てる場合かい。
(苦笑)
しっかりして来たようでも、
まだまだ幼い部分が外見以上に多く残るママさんであるがゆえ、
すっかり大人な旦那様やツタさんや、
出来る限りの目配りをし、フォローしたげることがまだまだ必要。
とはいえ、
彼らの視点というものが理解出来ない場合もあるのもまた事実であり、

 「んと、それじゃあ。
  一人でする変化
(へんげ)は、パパかママかツタさんがいて、
  それ以外の人は居ないトコでしか、しちゃいけませんてことだよね?」
 「ああ。」
 「ロビンさんは構いませんでしょう?」
 「それと、他のわんこも。」

いけませんのお約束。
これまでだってあったところへ、新しいのがまた増えた。
でもね、これはどれも大事なこと。
わんこの時は良いけれど、
坊やのときは裸ん坊でお外に出たらいけないのと同じくらい。
壁の小さい穴々へ、
テレビやびでおのお尻尾がはまってなくとも触っちゃいけないのと同じくらい。
ツタさんの居ないおだいどこへ、一人で入っちゃいけないのと同じくらい。
ちゃんと守りましょうねというお約束。
でないと大変なことになる。
何がどうとまでは、言ってもまだ判らないだろうし、
怖い人が攫いに来るという言い回しも、
曖昧が過ぎると勝手に想像が膨らんだ結果、
トラウマになりやすいので、あんまりお薦めじゃあないと聞いているので、

 「いいか? カイ。
  わんこから人の姿へ戻るのは特に、お家でしか しちゃダメだ。」
 「めぇなの?」
 「そぉ。」

  なんで? なんででも。
  どして? どうしても。

ダメなものはダメ。
そこんところははっきりさせて、あとは…大人の事情で逃げるべし。

 「…それはそれで問題があるような。」
 「それよか、なんでまた“わんこから人へ”を特に注意なの?」
 「だから。人からわんこの方への変化は、そのままたったか逃げられるだろうが。」

けれど、ルフィならともかく カイはまだまだ小さい幼児だからね。
目撃した人から追いかけられたらひとたまりもない。

 「でも、人からわんこへの変化も脱いだ服から足がつかない?」
 「う〜ん…。」

持ってけないから置いてくことになろうしさ。
そうか…迷子札とか縫いつけてたっけ?
そこまではしてないけど。
第一、坊やの姿のときに一人でお外にいるってことは滅多にありませんよ。
いやツタさん、だからこそ怖いんですよ。

 「はい?」
 「迷子になって心細くて、
  そうだわんこになれば によいで探せるとか思ってご覧なさい。」
 「あ…。」
 「ゾロ、いつの間にカイ語を使えるようになったの?」

奥さん奥さん、突っ込むのはそこじゃないでしょうが。
(苦笑)
ああだこうだと検討中のママやパパのお話は、
どうやら自分のこと、カイくんのことを話しているのらしいのだけれども。

 「…ぱーぱ?」
 「んん?」

リビングの真ん中、テーブルもどけてのラグの上、車座になっての討論会。
マーマのお膝からよいちょと降りて来た皇子は、
お向かいにいたパパのお膝へよじよじ登り、
ごつごつの頼もしいお胸と向かい合わせに腰を下ろすと、
あーね?と口を開いて訊いたのが、

 「あーね? わんこはなりゅで、かーいはもどりゅなの、どして?」
 「???」

カイ語が使えるようになったと言われたばっかなご亭主だけれど、
長文になるとさっぱりなのは相変わらず。それでも、

 「なりゅ? ……………あ、そかそか。」

おおお、判ったらしいですぞ?
好きなものへの“理解したい”という積極性は、そのまま学習能力をも上げるもの。
すなわち、

  ―― わんこには“なる”と言って、
      カイには“戻る”という言い方をするのはなぜ?

そうと訊いているカイくんであるらしい。

 「マキちゃんがゆってた。どっちも“なりゅ”ちがうの?って。」

特に何かしら、
裏書きとか下敷きとかいったものを感じ取っての不安を覚えたというのではなく、
単に“なんで使い分けるの?”と思っただけであるらしかったが、

 「…そか。うん、おかしいよな、言い分けるなんて。」

怯みもせず伺いもせずの素直なまんま。
こちらを真っ直ぐ見やる大きな瞳の、
潤みといい色合いといい、なんと無垢で清らかなことか。
そして、

  ―― ごめんな、ややこしいことしてたな。
      パパはわんこにはなれないから、
      つい、そういう言い方をしてしまうんだ。

他のことでは大いに戸惑うくせにね。
大事なことへは率直で真っ直ぐで、しかも相手へだけと押しつけない。
常日頃、その胸へ抱いてる信条が潔白だから、
間違ってると判れば、すぐ素直に正す馬鹿正直さもまた、

  “…大好きなんだよなぁ。/////////

これこれ奥方、惚気てないで。
(苦笑)
カイもママも可愛いから、
パパとしては心配で心配でたまりまちぇんと、
どこまで剽げてのおふざけか、子供のような言い回しをして坊やをあやす旦那様。
ちゃんと注意して差し上げないとじゃありませんか?
どかどか、それが…マッチョなアスリートを指導中の職場でも出ないように、
せいぜいお気をつけてくださいましね?
(笑)






  〜Fine〜  08.4.25.


  *よく、独立してった娘さんとかが、
   当初は実家のある町へ“戻る”という言い回しをしてるのが、
   じきに“行ってくる”なんてな言い方をするようになるもんで。
   いや、そういうのともまた違うのかも知れませんが、
   無意識の言い換えって結構やってるもんだなと…。

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