月夜見
 puppy's tail 〜その55
 

 “Sweet Honey♪”
 

あんね?
お空に大っきなおちゃかなが ひらひらすゆと、
カイのまーまの おたんじょびが来ますvv
どして おちゃかな?って訊いたらば、
ママが食いちんぼだからだ、なんて笑ったパパへ、
ママが“ちやう〜〜っ”て言ってて、
でもでもやっぱり あっはっはっvvて笑ってたの。
そだよねぇ、マーマはお肉のほが好きだもんねぇ。
したら、カイん時は“おむあいす”の大っきの、作ってほしーですvv
あ、あ、クッキーとかイチゴのけぇきでもいいかなぁ…vv




  ◇  ◇  ◇



世間様がゴールデンウィークでにぎわう頃合いも、
ロロノアさんチではもっと大事な催しを前後に挟む祭日扱い。
隣り町のアスレチッククラブに、インストラクターとして勤めるゾロパパも、
連休だからという集中トレーニングの予約、毎年きっちり断ってまでして、
集中して準備にかかってしまうほどだったりします。
わんちゃんネコちゃんつながりの
ご近所のお友達を集めてのホームパーティーで幕を開け、
大っきなケーキにスコーン、マフィン。
山盛りのお菓子にサイダー、大人の皆さんにはパンチワイン。
グリルチキンに、真アジのポアレ、ローストビーフと、スパゲッティのサラダ。
茹でエビの赤白のしましまと、錦糸玉子の黄色とキヌサヤの緑がきれいな五目寿司。
小鳥の巣みたいな千切りポテトの空揚げはサックサクのカリカリで、
オムライスはふかふか、マグロのカルパッチョはひんやりのうまうまvv
ブロッコリーのグラタンは甘くてジューシーで、

 「はぁあ、お腹いっぱいだよ〜いvv

わんちゃんたちも交えてのゲームもしたし、プレゼントも色々と頂いたし。
まるっと一日、そりゃあにぎやかに大はしゃぎをしたもんだから、
小さな海
(カイ)くんあたりは、
パパとお風呂に入った頃合いからもう、白河夜船という状態で。
いつの間に寝ちゃったんだろって、
明日の朝は皆に訊いて回るかもしれないねなんて、
くすすと微笑ってベッドの縁へ座った奥方の、
すぐお隣りへと続いて腰掛けたご亭主。
寄り添いながら薄い背中へと腕を回し、
かあいらしい小さな肩を懐ろの中へと引き寄せる所作も もはや馴れたもの。
まだそんなにも遅い時間帯じゃあないのだが、
手際良くお片付けを終えたツタさんも、
もう早々とお部屋のほうへ下がってしまわれているし。
それでなくとも晩の早い土地柄だからだろ、
少しほど開けたままな窓の隙間からすべり込むのは、
涼風を届けてくれる静かな宵の気配だけ。
気の早い半袖なんてな恰好でいたルフィの小さな肩に、
そぉっと頬寄せ、んん?なんて目配せを送れば、

 「…ん。////////

抱え込まれた広くて大きな懐ろへ、
凭れ切ってた小さな温みが、もぞり・もぞもぞと身じろいで。
あのねあのねと甘えるように、
まだどこか子供のそれの気配の色濃い造作の小さな手、
頬を寄せてた胸板へ、ぱふりと伏せて何か言いたげな所作をする。
相変わらずに小さな奥方、
少しくらいは背丈も伸びたらしいのだけれど、
こうやって抱き寄せられると、難無く掻い込まれてしまうのはいつものことで。
大好きなゾロの大好きな温みと匂いにすっぽりくるみ込まれるのが、
嬉しいけれど、時々…ご不満。

 “だってさ。こうやってるとこっちからは顔が見えねぇんだもんな。”

見上げればまずは喉元が目に入り、
今時分だと薄着になるので、
顎下やおとがいから鎖骨の合わせまでが、すっかり全部剥き出しになっていて。

 “う〜〜〜。////////

自分よりずっと男臭いくせに、こんな色っぽいのってズルイよなって、
ドキドキしながらも目が離せなくなるから、
お顔にまでなんて目が行かない。
頬をぽそんてくっつけてる胸板だってさ、
シャツ一枚越しの硬い感触が、ほのかに熱くなっていて。
これって、俺がポッてなってるからかな。
だったら癪だけど、でも…離れたくはないもんな。
いっそお膝の上へまたがっちゃおうか、そしたらお顔も真っ正面だし。
でもねあのね、そうしちゃうとね。
ゾロの側からも俺んコト、隅から隅までよく見えちゃうからさ。
それが恥ずかしいって思う俺って…変なのかなぁ?

 「ルフィ?」
 「…うん。」

どした?って、低いお声が囁いて。
何でもないってかぶりを振れば、大きな手が頭に乗っかる。
重みがあって、大きい手。
髪の中へと差し入れられて、ゆっくり梳いてくれるのが気持ちいい。

  ―― あのな? 前から訊きたかったんだが。
      なんだ?
      首輪ってのは…なんだ、窮屈じゃねえのか?

結構ムーディな雰囲気だったのに、持ち出した話題がそれってのが、
何というのか、まあゾロらしいのかもな。
歯が浮くような何か言われても俺だって困るしさ。

 「そりゃあ、無理から引っ張られれば喉が詰まって苦しいし、痛くもあるけど。」

でも、人の何も生えてない柔らかい肌に無理強いされるよかは大丈夫だぞ?
俺って毛並みがふさふさなシェルティだし、
首輪するのは飼われてますって目印なだけだから、そんなきつく締めてないしさ。
そのまま人に戻ってもゆるゆるで、アクセのチョーカーみたいなもんかなぁ?
「それに、今みたいに人の姿のほうで居るときも、微妙に肌は強いみたいで。
 丈夫だってだけじゃあなく、多少は暑さ寒さも我慢出来るしな。」
そうと言ったら、

 「嘘をつけ。」

暑いの寒いの、結構わあわあと言うくせにって、
くすすと微笑って言い返したお声が、
ああ ちくしょ、何だってそんな良い響きなんだよ。///////
人になってても、耳だって鼻だって感度いいんだからな、俺。
さっきからちょこっとだけ、お誘いの匂いするしサ。
でもでも、だから判れなんてズボラはしないゾロで、
こっちが何だかドキドキしだしたかなっての、見計らって。
それから ちうとかしてくれる。
今も、

 「〜〜〜。////////
 「ルフィ?」

ちょっとだけうつむいた俺に気づいたか、
覗き込むとそのまま、
自分のおでこでこっちのおでこ、押しつけての上げさせて。
んん?なんて小首傾げるんだ。
そやって“どした?”なんて訊くなよな。
ごちゃごちゃ言えるか、恥ずかしい。///////
う〜〜〜って唸ってると、ほれって。
差し出されたのが小さな包みで。
え? プレゼントはもうもらったのに?
カイとツタさんとで作ったっていう、
バスタオルを綯ったのぐるぐるって平らに巻いて作った、お昼寝用の大きなラグ。
いいから開けてみって目顔と顎しゃくりとで言われて、
何だろって思いながらも封を開いたら、
片面ダンボールみたいな箱が出て来て、その中に入ってたのが、

 「あ! 新しい首輪だvv

今使ってるのと同じ革で同じ色合いの赤のが2つ。
柔らかくって薄い紙で、傷が付かないようにか ふんわり包んであって。
大きいのと小さいのだから、カイとお揃いでおニューってコトなんだろな。
わざとに褪せさせた金の迷子札もついてるし、

  ………あれ? でも、これ。

も一個入ってるのに気がついた。
同じデザインの、でもなんか。
俺のだろう大きいほうのより もうちょっと大きいので、
色は緑だったから、

 「…これは?」

依然としてくるみ込まれてた懐ろの中から見上げるようにして、
誰の?と訊いたらば、

 「俺の。」

悪戯っぽくにんまり笑ったゾロだったりし。

 「なんて言うのか、こんなのホントは付けたかないんじゃないかなとか。」

そんな風に時々ふっと思ってたんだって。
迷子にならぬよう、
はたまた誰ぞかに攫われぬようにという意味あってのものだけど、
どっちにしたってそんなの人間の側の勝手だ。
首輪をしてたって、心ない奴は捕まえて担ぎ上げての攫ってくだろうし、
用途としても、
掴みやすいよう、鎖
(リード)につなぎやすいようにというのが目的のものなんだろし、
それってやっぱり人間の側の事情でしかなくて。

 「でも、それって俺じゃなくても…他のわんこにだって言えることじゃん。」
 「まあな。」

でもだから、
自分にとっての特別なルフィに、こんなこと無理強いしてさ、
それって意味とか意義とか あるんだろうかと時々思っていたのだそうで。

 「こんな細い首に、さ。」

ひょいってすべり込んだ手の熱さに、背条がちょこっとゾクゾクってした。
そんなルフィへ、

「巻いてる意味はないのに別な意味を押しつけるような札提げられたら、」
「ぞろ。」

ああまただね。時々そうやって、ゾロってば小難しいこと考えてる。

 「いいんだってば、俺は。」

だってこれって、ゾロのもんだって目印だもの。
この子は俺んだからな、勝手な手ぇ出したらただじゃあおかんぞって、
見た人全部に触れ回るため、そういう意味なんだろ?
ね?って付け足して、輪っかのまんまな首輪を手に笑ったルフィで。

 「あんな? そうなんだって思うと、
  胸とかお腹とか、嬉しいで一杯になってムズムズすんだvv

だから良いんだと、にゃは〜〜vvと笑った小さな奥方へ、
あらためて惚れ直した大きなご亭主だったそうで。
ああ、だからいつまでも“好き”が止まらない。
いつまでもどこまでも、暖かなまま育ってやまない“好き”をくれた、
そんなキミと出会えてよかった。
やっぱりキザなことは言えないから、

 「〜〜〜。//////
 「あやや〜vv///////

屈強な双腕にぎゅむと抱きしめられてしまい、
それで十分、あのね、伝わってるんだよって、
こちらさんも そりゃあそりゃあ嬉しそうな奥方で。



  
Happy Birthday! to Luffy!




  「ところで、ゾロ。」
  「んん?」
  「これってゾロが嵌めるのは、何て“ぷれい”なんだ?」
  「………るふぃ?」



  〜Fine
(笑)〜 08.5.24.


  *冒頭のカイくんのモノローグを考えるとき、
   時々、別のお部屋のおチビさんの口調が出て来ちゃって困ります。

    ex,お誕生日が来るの → おたんじょびが来ゆの。

   微妙な違いながら、カイくんの方がちょっとだけお兄さんなので、
   ら行がや行になるというのを使わないことで区別しているのですが、
   やっぱ、ついつい使ってしまいまちゅね。
(こらこら)


  *さて、お待たせしましたの“ぱぴぃ編”です。(誰も待ってない?)
   ここんとこカイくんとパパのお話が多かったので、
   久々にちょこっと甘ぁ〜いラブラブ篇を目指してみました。
   皆様のお目に触れるカッコで書いてなかっただけで、
   相変わらずにいつまでも新婚さんみたいなママとパパでして。
   カイくんの次の子がなかなか出来ないのが不思議なくらい。
   でも、パパとしては複雑でしょうね。
   またぞろ、あんな可愛い子が生まれたら、
   体が1つしかないのが口惜しいほど、ホントにもうもう身がもたないと。
(笑)


bbs-p.gif**


戻る