月夜見
 puppy's tail 〜その58
 

 あまあま・うまうまvv
 

おねちゃん、こんにちわです。
おひしゃちぶりですねぇ、元気してましたか?
そですか、そりは何よいでしゅ。
何かいっぱい雨あめが降ったですねぇ?
おんもに出られないのが、つ〜まんな〜いでした。
もう降んのヤメ。い〜い? メ、よ?




  ◇  ◇  ◇



一体何が見えるやら、
お空を見上げて神妙なお顔をしていた小さな坊や。

 「…………………。??」

ふと、何にか気づいたらしくって。
ふりふりとまとまりの悪い髪をぱさぱさ振り回すよにあたりを見回し、
最後にまたお空を見上げたは良かったが、

 「わ。」

勢いをつけ過ぎたか、
そのまま背後へすてんと引っ繰り返ってしまったのがまた、

 「か〜わいいったらないよねぇ。」
 「そうですねぇ。」

キッチンの窓から見えた光景へ、
肩を震わせ、くすくす笑ったのはルフィママとツタさんで。
いくら“可愛らしかったから”であれ、本人の目の前で大笑いは致しません。
大人同士ならともかく、
そんな行為は子供の自尊心を傷つけるってことくらい、
重々判っておりますから。
そしてそんな二人の代わり、

 「大丈夫か?」

リビングの大窓から ひゅーんって素っ飛んできたのでしょう、
窓枠というフレームの中、素早く姿を現したお人もまた。
笑うなんてとんでもないと判っておいで。
まだまだ青い芝の上、仰のいて倒れ込んだままな坊やへ、
手を貸せないのを歯痒そうにしているパパはゾロといい、
上背があって腕も脚も長くって、
均整が取れた体つきは、ちょっとしたモデルさんにも負けてません。
七分袖のTシャツに濃色のカーゴパンツという、
いかにも砕けた格好の、お洋服の下はもっとびっくり。
筋肉の形や位置が良く判る、
陰影もくっきりと、鍛え抜かれた体をしておいで。
知る人ぞ知るとは正にこのこと、
名前を出せばアスリートたちが神様くらい拝んでやまない、
体作りのコーチングのエキスパートさんなのだそうで。
空き巣退治をした武勇伝は、どういう尾ひれがついたやら、
勤め先のアスレチッククラブでは、
ヒグマを退治したことにまでされてるそうなというのは、
はっきり言って余談ですけれど。(うわぁ☆)

 「海
(カイ)、大丈夫か?」

視野の中へひょいと逆さまに現れた、パパのお顔が可笑しかったか。
芝草に投げ出していた寸の足らない手足をばたつかせ、
鈴でも転がすような“きゃい〜〜っvv”という笑い声が聞こえたから、
どこか打って痛かった訳じゃあなさそうで。

 「パーパ、いーによい すゆvv」
 「ああ。ツタさんとママがな、あんこ煮てるんだ。」
 「あんこ?」
 「そ。カイも好きだろ? お饅頭とかお餅とか。」
 「うっvv」

大しゅきvvとこっくり頷き、
よいちょと立ち上がってやっとパパに抱っこさせて差し上げ。
愛しい王子様を雄々しき腕へ、大切そうに抱き上げた父上はというと、
お背
(おせな)についた草を払いつつ、
さぁさ お手々を洗おうなと、蕩けそうなお顔で話しかけており。

 「そういやゾロって、
  カイとお喋りするようになってから、
  何にでも“お”をつけるようになったよね?」

わんことかおんもとか幼児語で話しかけるのがあんまり意外だったから、
そっちまでなかなか気がつかなかったけど、と。
すりこぎで蒸したおこわを撞いてるツタさんのお手伝い、
大きなすり鉢押さえつつ、
そんな言いようで零したルフィ奥様だったりし。

  何にでもってこともないでしょう。
  いいや。前は、饅頭で餅で、手を洗う、だったもん。

 「…そういう会話、なさってましたか。」
 「うん。」

お耳もいいです、精霊の奥様。
別に妬いてる訳じゃあありませんで、
ただ、放っておくと 見かけによらないにも程があるほど過保護なパパは、
可愛いカイくんをどこまでも果てしなくお子ちゃま扱いし倒すもんだから。

 『物の限度を俺のほうが諭すことになろうとはねぇ。』

困った父ちゃんだと、
それでも妙に楽しそうに微笑って見せた奥様だったりしたそうで。
でもって、
父子の会話、聞こえてまではいなかったツタさんとしましては。


  「でも、お饅頭で手を洗うのはどうかと。」
  「ち〜が〜う〜〜〜。」


  お後がよろしいようで。
(おいおい)




        ◇



春と秋とにあるのがお彼岸で、
昼間と夜がちょうど半々の日を中日にした七日のうちに、
お墓参りをし、お先祖の供養をする仏教の習わし。
春には牡丹、秋には萩に名前をもらった、餡ころ餅を供えたり食べたりする。
箱根のお山のふもとへも、秋の気配が少しずつ訪のうており、
窓を開ければ随分と、涼しい風がそよぎ入るよになって来た。

 「俺、粒あんの方が好きvv」
 「つか、こしあんで作るもんなのか?」
 「月見団子みたいですが、そういう土地もあるらしいですよ?」
 「おちゅきみ〜vv」
 「こないだ したよねぇ♪」
 「まんまゆ、おちゅきみ♪ きれーきれーだったのvv」

もち米を混ぜたおこわごはんをおにぎりにし、
それをあんこでくるむのが、ツタさん流のおはぎのつくり方。
この頃では十分に 物の役に立つよになって来たルフィママが、
腕まくりしてお手伝いに勤しんでいるキッチンへ。
あんこの甘い匂いに誘われたものか、
パパに抱っこされたまま、小さな王子もご入来。
もみじのような小さな手をぶんぶんと振り、

 「カイも。カイも ちゅくゆの。」

抱っこされてやっと見えるほど、まだまだ高くて届かぬ調理台で、
ママとツタさんが楽しそうに にぎにぎくるくるしているのへ、
微妙に触発されたらしくって。

 「遊んでるんじゃあないんだよ?」
 「うん。カイも おしもとすゆの。」

お仕事だってのは判っているらしいのでと、
小皿へおにぎりを4つほど、ボウルに分けたあんことともに差し出せば、
間続きになってるダイニングのテーブルで、
パパの監督の下、よーいちょ・よいちょと小さな両手でお団子作りが始まって。

 「こんな?」
 「う〜ん、凄いな。上手だぞ、カイ。」
 「そぉお?」

ご機嫌そうに うにゅいと微笑ったお顔は、正しくママとそっくりで。
小さなお手々で出来た、握りずしみたいな小さなおはぎは、
きっとパパが全部食べちゃうかもしれない。
1つくらいは分けてとママが駄々を捏ねなきゃいんですけれど。
そして…そんなルフィママはといえば、

 「奥様、チョコソースを入れるのは辞めた方が。」
 「え〜? だって美味しいのに?」
 「春のぼたもちへも カスタードクリーム入れて、
  旦那様を怒らせたでしょうに。」



  お後がよろしいようで……。
(再び)



  〜Fine〜 08.8.22.


  *ちょこっと間が空きましたねの ぱぴぃです。
   相変わらずのラブラブなご家族なようで、
   脱線もしょっちゅうなんで、ツタさんも大変だぁ。
(苦笑)

  *ところで…話は大きく変わりますが。
   一時期、ひょろっと世間様で囁かれてた“うま○ま”っていうのが、
   何の話だか よく分かってなかった関西人です。
   (関西人は関係なかですか? 全国ネットだったですか? おやぁ?)
   カイくんとルフィだったら
   “どんだけ〜”とか芸人さんのギャグの連呼はしなくとも、
   ああいうのには飛びついて、何かにつけてやって見せ、
   パパを悩殺しまくったに違いない。
   ああでも、今は妙に一発ギャグの芸人さんが流行っているから、
   「ちゅがうか?」とか「ちゅみまめ〜ん♪」とか、
   舌が回り切らないまま鼻歌みたいに真似をして、
   知らぬ間に両親を悶絶させてたり?
(笑)


bbs-p.gif**


戻る