月夜見
 puppy's tail 〜その60
 

 “パパはドキドキ”
 

 ずいぶん 寒くなってきましたね。
 お腹出してネンネしてましぇんか?
 ない? ならいいですvv

 あのねあのね、カイのパパ、知ってう?
 かぁっこいーパパなのに あのね?
 ときどき、おかしいのvv
 カイの真似っこすゆのよ?
 微笑うと笑うし、コケて痛いたいだと泣きそになるし。
 おもちゃが見つかんないとパパも困ったなあってお顔すゆし、
 ぷんぷんて怒りゅと、パパもむうって怒っちゃうし。
 カイと同んなじお顔してっちゃうの。
 大人なのに変よねぇ?




   ◇◇◇



ロロノアさんチの海
(カイ)くんは、
相変わらずに小っちゃな坊やではありますが、
それでも たかたかとてとてと危なげなく駆け回れるお年頃になりまして。
重心が高いのは幼児体型だから詮無いこと。
お膝の折り曲げようもいかにも拙い、
小さなあんよを投げ出すような駆け方ではあるけれど、
ちょっとでも気を抜くと あっと言う間に、
大人のこっちまで走らなきゃあ追いつけないくらい、
ずんと遠くまで離れていることもザラで。
しかもしかも、

 「きゃうっ♪」
 「あ、こらっ。」

実は…わんこの精霊の末裔でもあるものだから。
目の前をボールが転がってこうものならば、
よいちょと延ばした手が勢い余って地面へつきそになっての、
わあ転んじゃうという展開から一転。
真っ白い毛並みもふわふかな、
そりゃあ小さくて愛くるしい、
ウエストハイランド・ホワイトテリアなんていう、
小さな小さなテリアの仔犬の姿になってしまうのが、
周囲の大人たちには困ったもので。

 「あうっあうっvv」
 「待て待て、待てっての。」

顎の毛並みを残すのが、お顔をいかにものテリアっぽく、
四角く見せる英国系。
されども中身は純和風の躾けをされており、
ノブを回して開けるドアは元より、
横へと引いて開け立てする戸までも、
小さな前足でかりかりして開けてしまえるよになっており。

 「ちょっと待て、それって“躾け”の賜物か?」
 「え〜?
  だって、こんな小さいのに そんなこと出来るわんこは、あんまりいないよ?」

だからそうじゃなくてだな、と。
片手でも余裕で抱っこ出来そうな小さな小さなウェスティくんを、
赤ちゃんのように両腕でその懐ろへと抱え上げてたゾロパパが、
方向違いなお返事をしたルフィママへ、何かしら反論しかかったのだが、

 「きゅうんvv」
 「だあ、こら。わ、わかったから。」

パパ好き好き〜っとばかりの勢いで、その坊やからのぺろぺろ攻撃に遭い、
あわわとたじろいでいなさるところがまた、
動物大好きドラマの一シーンみたいで、何とも微笑ましいばかり。
とはいうものの、

 「ルフィもこうだったのか?」
 「? 何が?」
 「だから。おもちゃを見ると矢も楯もたまらず、
  人目も忘れて勢いよくわん…犬の方の姿へ変わってしまうってことだ。」

わんことかにゃんことか口にするのが、いまさら恥ずかしいものか、
微妙に言い直した旦那様へ。
黒みが滲み出しそうなほど潤んで愛らしい、
大きな大きな瞳の座った目許を細め、
くすすと笑い出した奥方が、

 「ん〜、あんま覚えてないかな。
  父ちゃんがフォローすんの上手だったし、
  そもそも俺ら放浪の野良だったから、
  正体がバレそうになったらなったで、
  そのまま逃げ出してって戻らなかったしさ。」

そんな風に言いながら、ソファーに座ったまんまで腕を延べて来る彼であり。
空中での犬掻きよろしく、
小さな四肢をばたばたと掻いて見せるカイくんを、
そおと受け取り、お膝へ乗っけて、
きゅうんと丸くなるおチビさんを愛おしそうに撫でながら、

 「ゾロが心配してるのは、
  そうやって誰かの目に留まるような場で、
  変化(メタモルフォゼ)をしちゃあ不味いってことなんでしょう?」

つい先日から、お母さんであるルフィが放つ波動に便乗することもなく、
自分一人で“坊やからわんこへ、わんこから坊やへ”という、
その身の変化が出来るようになったカイくんであり。
一番に警戒せねばならぬのが、
彼らの秘密を他人に知られてしまう危険。
だっていうのに、

 「好奇心がそそられると、それでもう他は見えなくなっちまうんだものな。」

そこが可愛い、屈託のなさじゃああるけれど、
タネも仕掛けもない中でのこんな奇跡、
目にした人はどう思うだろか。
そういう人もいるわねでは、到底済まないに違いなく、

 「それでこないだっからボールをやたら転がしてやってる訳か。」
 「まぁな。」

ますますのこと、頭身が下がった、ぬいぐるみのような小さなテリアくん、
ピンク色のビニールボールを、
ゾロパパがその大きな手の中で、右へ左へパスして見せると。
ただそれだけだのに、もうお眸々はキラキラと潤み始めており、
むくりと身を起こし、短いおしっぽ、ピンピンピンッと懸命に振っている。

 「そうそう神経質になる事もないけどね。」
 「そうなのか?」

だって、俺がそうでしょう?
むくりと身を起こしたカイくんの、ふわふかな頭の毛並みを撫でてやりつつ、
ルフィがにひゃっと微笑って見せて。

 「俺だってボールにじゃれるのは大好きだけど、
  何てのかな、それって動くボールへの関心ばっかじゃないからね。」

それを放ってくれた人、遊んでくれてる人への関心の方が大きいからね。
ほ〜ら取っておいでって、投げてくれた人のとこへ、
ちゃんと持ってってあげて褒めてもらうのが嬉しいんだもの。
そこがだんだん判って来るから、そんなに案じることはないと、

 「………まあ、今はまだ、
  ぴかぴかなボールが転げるのが、不思議でしょうがないみたいだけれど。」
 「だな。」

うんうんと頑張って身を延ばし、後ろ脚で立っての、
パパの手元のボールへ“ちょうだいちょうだい”と
懸命にモーションかけてる姿を見てると、
まだまだそのあたりの分別が備わってる坊ちゃんには見えなくて。

 「あうっあうっ!」
 「カイ〜。たまには、パパとキャッチボールとかしてみようよ。」

まだ今は、投げたボールを追っかけるほうが好きなカイくんですんで、
向かい合ってのキャッチボールを楽しむなんて、
夢のまた夢なお話みたいですよ? パパ。


  ―― それこそ、それが出来るようになることがいい贈り物になりそだね。
      そうですね。来年目指して練習でも始めますか?
      うんうんvv こっそりとね?


今年はまだまだ間に合いませなんだけれどと、
お母さん二人がこそりと示し会い、
今年はとりあえず、そっちはお預けの、



   
HAPPY BIRTHDAY!  TO ZORO!



  〜Fine〜 08.11.26.


  *ゾロのBD企画とは思えぬ話の更新ばかりが続いておりますので、
   ここいらでベタなのを一席。
(笑)

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