月夜見
 puppy's tail 〜その61
 

 “また来年♪”
 

 おねちゃん、こんにちはvv
 クイスマスは どしてましたか?
 ケキ食べましたか?
 カイはネ? あんね?
 チュタさんとママのケェキ、いっぱい食べましたvv
 キラキラのツイィ(つりー)がきれーで、でも、
 あんないっぱいぱいボールくっつけて、
 いっことか ほしかったのに、もうナイナイしちゃってないの。
 赤いのとか金のとか、首わにつけてって ゆったのにね。む〜。



   ◇◇◇


今時のは、簡易なプラスチック製だったりもするのだろうけれど。
ロロノアさんチのクリスマス飾り、オーナメントのグラスボールは、
時代の古い、ガラス製の逸品だったりするものだから。
小さな坊やがうっかり落っことして割ったりしたら一大事。

 『ただでさえ大きくて真ん丸な、
  そりゃあ可愛い海
(カイ)のお眸々に欠片でも入ったらどうするんだ。』
 『う〜〜〜。』

言わずもがななことと、
過保護なお父さんが絶対にダメだぞと堅く禁じたのであって。
むむうと膨れた坊やへは、

 『だってカイ、首輪のところに飾ったら、自分からは見えないじゃんか。』
 『ぷや?』

ほら、お散歩に出るときにつけてる首輪にだって、
迷子札の小さいトップがついてるんだけど…あれって見えてる?
ママからはそうと訊かれて……あれれぇ?なんて、
真ん丸で やらかい頬っぺごと、小首を傾
(かし)がせる坊やだのを。
うあ、なんて可愛いんだろうかと、
フリースの着ぐるみ、ペンギンさんVer.ですっぽりくるまれておいでの、
実は わんこな坊やを抱っこして差し上げ。
随分と高くなる視界に“きゃいvv”なんてはしゃぎつつ、
間近になってるパパの懐ろ、
各々 はっきり見て取れる雄々しい筋骨の浮いた胸元や首なんかへ、
坊やの小さな手がぴたぴた触れようものなら。
あああ、なんて可愛らしいねぎらいか、
はたまた…もしかして早くも羨望されているものか。
あああ、でもダメだぞ、カイはママに…ルフィにこうまで似ているのだから。
わんこの姿だって、
両手に抱えて、そおっと くしゅくしゅしてやりたくなるほど、
そりゃあそりゃあ愛くるしい、小さなウェスティなんだから。
パパみたいになりたいな なんて、思ってくれるのは嬉しいけれど、
カイは絶対にママと同じ路線で…もとえ、タイプのまんまで通して欲しいと。
にゃは〜なんて屈託なく笑って見せる愛らしい我が子へ、
そんな切なる願いを毎日のように念じ続けているというから、

 「もはや呪いになりつつあるのかもだね。」
 「…奥様。」

だって俺には“そんなこんなを案じております”なんてゆう、
不安げな眸とか、したことないじゃんかと。
こちらももはや恒例の、
どこまで本気か“カイにばっかりズルイ”という駄々を、
ツタさん相手に捏ね始める奥方だったりもし。
クリスマスのお片付けと入れ替わりで始まった、
年末のお掃除やお正月への準備の数々も。
手際のいいツタさんの采配の下、
そんなやり取り挟んでの和やかに、
そりゃあ順調に消化されての、
あとはお節を仕上げるだけという、余裕の進行状況を見せており。
まだまだ大してお仕事をこなせぬカイくんにも、
大人たちのパタパタっぷりは届くらしく。
一丁前にも、
お重箱を収納庫から出して来たり、
晴れ着を出しての空いたお部屋で衣紋掛けに提げてあるの、
しわが寄ってないか、陽が当たり過ぎてないか、
しげしげと見やるなんていう見回りしたり。
そういう おしもと…もとえ、お仕事をやりたがるもんだから。
そんな坊やから目を離さずにはいられないパパと、
二人掛かりでせっせと貢献しておいで。
日頃からだって骨惜しみはしない、力持ちのパパさんだけど、

 「気づいた? ツタさん。」
 「何がです?」

今日のおしもと、玄関前の落ち葉掃きと古新聞をぎゅぎゅっと縛るの、
パパと二人で頑張ったので、
今はちょっと疲れたか、ソファーでくうくう眠るカイくんの、
小さな頭への枕になってあげて。
ついでにご当人もお昼寝しているゾロへと眸をやった奥方、

 「あんね? ちょっとしたことなんだけど、
  ゾロの色んなことへの力の加減が柔らかくなってんの。」
 「力加減が?」

うん。
高いところの何か取ってくれて渡してくれるときとか、
つんのめってコケそになったときに、腰とかに腕を回して庇ってくれるのとか。

 「前は結構力任せだったのにサ。
  最近は、こう、ふわんって柔らかくなってんの。」

あれってサ、
カイが相手だと潰しちゃうんじゃないかって考えての、
それで加減して来た成果だと思うんだよね。
そうと言って、自分で“うんうん”なんて頷いて、
いかにもその通りと納得している小さな奥方。
このままいつもの“自分にはそういうことしてくれなかったのに”と運ぶかと、
先にちょこっと苦笑しかかったツタさんだったが、

 「そういうのって、何か いいよなvv」

  ―― おや。

俺が相手でも随分と加減してくれてたゾロだけどサ、
そういうんじゃなくて、何つか、うっとえっと。
優しい中に頼もしさもあっての、えっと…と。
思った通りのこと、即妙に表す言い回しがなかなか思いつけないか、
うっとうっとと言葉に詰まって、それから……にひゃりと微笑って見せて。

 「ゾロもそやって父ちゃんになってくんだなって。」

そんな思って、そしたら何か、
背中とかお腹とかがムズムズって擽ったくなってサと。
にんまり微笑ったルフィであり。
そんな言いようへこそ、あらまあと、
こちらはツタさんが感心してしまう。
子供のようなところがいつまでも抜けないような、
それでいて、母親らしいことを言いもしの落ち着いてもいのと、
ルフィへだけの変わりようには気づいてもいたが。
お相手である旦那様のことも、そうやって見ていて気づいてて。
しかもそれへと“頼もしくなってくれて嬉しい”と感じておいでなところが、
幸せそうで何よりですねぇなんて、
見ているだけで、こっちまで嬉しくなっても来るというもの。


 「〜〜〜、ま〜ま。」
 「あれ、起きたんだ。」
 「う。まあたんの ごはん。」
 「ああ、はいはい。」


眠そうに目元をこしこしと擦りつつ、ダイニングの方へとやって来た王子様。
自分へのおやつをねだるより先、眸に入ったのが気になったからだろ、
今 一番のお気に入り、リビングに浮かんで回遊中の物体へ、
ちょこまかとかけ戻ってゆく。

 「ほれ、食べてもらおうね。」
 「あいvv」

パパからのクリスマスのプレゼント、
カイくんと同じほどあるんじゃなかろうかというほども大きい、
銀色の樹脂製のマンボウの風船が、ちょっぴりその高度を下げていたので、
これはお腹が空いてるサインだと教えられたカイくん、
ヘリウムの“餌”をあげてとおねだりに来たらしい。

 “いや、本当のプレゼントは靴だったんだけれども。”

あくまでもオマケにとつけてもらった風船の方を、
靴っくよりも気に入ってしまった王子様。
しぼんだら補給してくださいねというヘリウムボンベを買い足したほど、
いつまでも気に入って浮かばせてたがるものだから、
お父さんが複雑そうな顔になったのは言うまでもなくて。

 『いいじゃん、靴の方だってちゃんと気に入ってるんだしサ。』
 『それはそうだが…。』

お店の人のご厚意の方が勝ったのが、微妙に口惜しいらしいところが、
そちらは可愛くってしょうがないなんて言ってた奥方、
カイくんがいい子で待ってる窓辺へ、
マンボウ風船へのご飯を補給しに向かうところ。

 “さあさ、それじゃあ。”

こちらは人間のおやつにと、
今日はさつまいもをちりばめたツタさん特製の蒸しパンを、
(ふか)していたのがそろそろ出来上がるから。
煮物用のお鍋を幾つか、見守っていた手を休め、
忙しい中の骨休め。
懐ろが寂しくなったのでと、お父さんもじきに目を覚ますだろうから、
一緒にほこほこ食べましょう。
窓の外には穏やかな陽射し。
今年もバタバタしましたが、元気に過ごせて何よりでした。
新しい年も、どかよろしくねと微笑ってるみたいです。





  〜Fine〜 08.12.30.


  *大人たちが忙しいと、自分も落ち着かなくなるものか、
   かまってほしいのとは別、自分も何かさせてと思うようになるのって、
   幾つくらいからなんでしょうかね?
   カイくんの場合は、といいますか、
   こちらのお宅の場合、3人子供がいるようなものかもで、
   お片付けや準備ってのへの段取りがどう運ぶかは、
   ツタさんの手綱さばきにかかっているのでしょうね。

  *今年もお世話になりました。
   お部屋が増えたあおり、前のような更新が出来なくなっておりますのに、
   それでも沢山の方々にお運びいただけて、
   ご新規のお友達もお越しの模様で、それは嬉しゅうございました。
   来年もまた、
   何かとばたばたするどうしようもない筆者かと思われますが
(こらこら)
   よろしかったら、引き続きお付き合い下さいませですvv
   それではどちら様も、よいお年をお迎え下さいますように。

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