月夜見
 puppy's tail 〜その63
 

 “りゃいばるが いっぱい”
 

 あんねあんね、おねいさんは かあいいもの好きでしゅか?
 かあいいものってゆーのはね?
 ちょみっとしてゆ、小っちゃいものとかぁ、
 うすいピンクとかキミドリの、ほわほわって色してるとかぁ、
 マフマフみたーに、ふわふわわってしてるものとかぁ。
 そゆのを ゆいます。

 え? カイのこと?
 しょんなぁ〜vv////////




   ◇◇◇



不況でも廃れないブームというか、外れのないものといえば、
動物の仔、特に ふかふかモコモコものだそうで。
バラエティ番組の収録中など、
仔猫や仔犬が登場すれば、スタジオは一気に盛り上がるし、
ペット産業も、その売り上げはなかなかガッタンと落ちることは少ないとか。

 「でも、不況だからって言って、
  素人ブリーダーの人が、
  無責任にも親犬や育った仔を捨ててく例は結構あるんだってね。」
 「…らしいな。」
 「そんな人は保健所や警察に厳しく罰してもらわないと。」

ツタさんまでもが怖いお声になったので、

 「うに?」

パパのお膝に抱っこされてた、ロロノアさんチの王子様が、
どしましたか?と、そのお顔を上げて、
大人たちをキョロキョロと見上げたほどであり。

 「あ、いやいや、何でもないんだよ?」
 「そだよ。ほら、テレビ、テレビvv」

今年の冬は、暖かいかと思ったら、急転直下で寒くなったり。
雪がなかなか降らないねぇなんて言ってたら、
どういう帳尻合わせなのか、妙なタイミングでどんと降ったり。

  ―― まるで人間たちの会話を聞いていて、
      油断してる間合いを読んででもいるかのようだねと。

なかなかうがったことを言ったのが、
綿がしっかり入ってる、クマさんの着ぐるみパジャマ姿になって、
パパさんの頼もしい肩へ こてんと凭れているルフィママで。

  ―― それって人を困らせようとしてるってのかい?
      まるでお仕置きみたいだな、なんて。

くすくす笑って、小さなママさんの細い肩を抱き寄せるのが、
その上、お膝には最愛の王子様をも抱えてる、ゾロパパさんで。

  ―― ??? おしゅおき?

それって何でしゅか? 何か押しゅでしゅか?
ママ似の黒髪ゆすぶって、
うやうやと、頭上の両親を見上げてしまった小さな海
(カイ)くんへは、

  ―― いつもいい子の坊っちゃまには縁のないものですよ。

ふわふかなスポンジケーキ(ツタさん特製キャラメル風味)を、
テーブルへと並べていたツタさんが、にっこり微笑って付け足してくれて。

 「旦那様はジントニックでしたね?」
 「ああ、すいません。」
 「え?え? 何それ。ジュースみたい?」

ライムの香りを嗅ぎ取って、くんと小鼻をひくつかせた奥方だったが、

 「酒だよ。引っ繰り返っていいなら舐めてみるか?」

さして度数は高くはないからと、
それでも…確かまだ微妙に未成年のはずだわ、
そもそもわんこに飲酒はタブーだわと、
本当はいけないことだのにそんな言い方をしたご亭主へ。
たちまち、むむうと頬を膨らませたルフィさん。

 「そんな意地悪言ってると、しまいにゃあ。」
 「しまいにゃあ?」

悪口をあんまり知らないルフィママ。
一体何を持ち出して詰るつもりかと、
むしろ楽しむかのように待ち受けていたパパさんだったが、

 「カイに嫌われんだからな。」
 「………っ☆」

すっぱり言われてそのお顔が凍ってしまうあたりが、

 “可愛らしいことvv”

形無しですわねと、キッチンへと下がりつつ、
苦笑がついついこぼれてしまうツタさんだったのも無理はなく。
そんな相変わらずなご一家は、
日頃は、腕相撲をしたりビニールボールを転がし合ったり。
そんな他愛ないお遊びをして日を過ごすのが日常なのだが、
時々、これだけは外せないと観るようにしているテレビ番組もあったりし。
例えばパパさんが好きな、
サッカーとかアメフトとか、剣道の全国大会の中継とか。
ママさんが好きなのでと、
お昼間にツタさんと並んで観ているのは、
ワイドショーの中のお料理紹介のコーナーだし。
それからそれから、これはどれと決まってもないのだが、
動物がたくさん出て来る番組は、
放送枠が決まっているものから特集らしき特別なものまで、
どれでもほぼ無条件に楽しみにしているご一家で。

 「にゃーにゃ映ゆ?」
 「どっかなぁ。何ってのは書いてないものね。」

ルフィ奥様が新聞の中で唯一眺めるテレビ欄にも、
本日の内容の詳細までは記されていないらしく。
それでも観る機会が多いのは、楽しい特集が多い番組だから。
今宵も“スゴ技美人パフォーマー”というアオリこそ載ってるが、
それ以外の詳細は省略されていて、だが、

 「CMでは何か動物が映ってたしサ。
  わんこやにゃんこが出て来るといいね。」
 「うっvv」

当家の小さな王子様、はたらく自動車も好きだけど、
毛並みむくむくな わんこやにゃーにゃ、
うさぎやフェレットも大好きでvv
「志○動物園を録画した分は、DVDに落としてるほどだしね。」
キツネとパンダが大好きな、わんこの精霊さんというのも、
まま、今時には“有り”なんではないだろか。
(苦笑)
そうこうするうち、軽快な女性バンドの演奏が始まって、
お目当ての番組が始まった。
様々な部門のびっくり事実や、先進の技術などなどを紹介するバラエティで、
今時の技術でこんな凄いハサミがあるんだよという話だったり、
そりゃあ綺麗なイカがいるの知ってる?という映像の紹介だったり。
そして今夜は、

 【 もこもこな動物のベスト3です。】

女性タレントが持って来たネタというのが、
毛並みがそりゃあふかふかな動物という代物。途端に、
「やたっ。カイ、わんことか出て来るぞvv」
「きゃいvv」
楽しみ楽しみと無邪気にはしゃぐ、
坊やや奥方だったのもいつものこと。
微笑ましいですねと胸底を暖めつつ、
あ・そうそうと何かしら後片付けでも思い出したか、
ツタさんだけはキッチンへ運んでしまって…幾刻か。


  「………………?」


ついでにと、
淹れ直した暖かいミルクを二人分と、
旦那様はそろそろ次のお酒かなと、
この頃よく飲んでおいでのコニャックをオンザロックで、
トレイに載せてお持ちしたツタさんだったが……。
どうしたことか、何だか空気が不審な重さ。
ほんのちょっと前までは、そりゃあ楽しげな明るさに満ちていたのに。
一体何があったものやら、
小首を傾げて皆さんがおいでのソファーまで近づけば、

 「ぷう。」
 「かーい、機嫌直せって。」
 「やーの。」
 「なになに。すねてるなんておかっしいな。」
 「むい。」

きゅうと結んだお口のまわり、やわやわな頬が微妙に膨れてて。
どうやら、カイ坊っちゃまには何かしらご立腹のご様子らしい。
だが、

 “…どしました?”

トレイをテーブルへと載せながら、
目線で訊いたが、父上も母上も、どこか困ったようなお顔をするばかり。
説明すらしにくいややこしいことなのかなと思いきや、

 「カイはどーしぇ、かーいくないですもの。」

  …………………はい?

画面にはもはや別な画像が展開されているようで、
そりゃあきれいなご婦人が紹介されており。
当然のことながら、それを見て拗ねているのじゃあないらしく。
後から詳しいところを訊いたところ、
毛並みのふわふわな動物というのが紹介されていて、
プードルよりも目の詰んだ毛並みのわんこや、
どこに顔が有るのかも判らないほどの長毛種のうさぎへ、
ついついご両親が“かわいいねぇvv”を連呼したら、
途端に…ご機嫌が傾しいでしまったらしい。

 「何を拗ねておいでかは知りませんが。」
 「ちゅたさんも、さっきのわんわんのほが好ゅきなのっ。」

ぷいっとむくれて むいむいと身じろぎし、
ソファーから降りがてら、

  ―― ふわりと、総身が光ったかと思ったら

次の瞬間には、もうウェスティに変化
(へんげ)しているところ、
何だか屈折気味の拗ね方らしいなと気づいたらしいツタさん。
ひょいと手を延べ、駆け出しかけてた小さな仔犬を造作なく捕まえると、

 「どんなワンちゃんが出たかは知りませんが。」

小さな手足を宙にてじたばた、
エアスイミングもかくやと、もがいて見せる小さなわんこへ、
文字通り、赤子をあやすように懐ろに掻い込んでの、
よいよいよいと揺すって差し上げ、

 「カイくんの方が、ふかふかで可愛らしいに決まってるじゃないですか。」
 「………………う〜〜〜。」

ちんまりした四肢に、ふさふさの純白の毛並みが暖かく。
黒々としたつぶらな瞳はいつもうるうると濡れていて愛おしく。
短いお尻尾がピンピンピンッとお元気に振られれば、
見ているだけでこちらの頬もほころぶ愛らしさ。
うにうにと抜け出そうともがく様子さえ、
寸足らずな手足の連動が、得も言われず稚
(いとけな)く。
わんこになったので反論出来ないおチビさん、

 「〜〜〜。////////

お口は むむうとつぐんだままながら、
それでもツタさんの胸元へは大人しく収まることにした様子。
ご両親が二人がかりになっても宥められなかった憤懣を、
見事に収めたなんて さすがツタさんだと、
ルフィあたりは手放しで感心していたけれど。

 『そんなじゃあありませんよ。』

ただの大人に窘められたのへは聞けることでも、
自分を一番に想っている両親へはね、
そうと知っているからこそ、もっともっとと甘えてしまうのですよと。
これもまた、後日に諭された新米ママさんだったりするのだが。
今はとりあえず、鎮火して下さいなとのツタさんからのお願いへ、
仕方がないなあと憤懣の鉾を収めた王子様。


  でもでもホントに、いや本当に。
  このご一家に限らなくとも、
  やんちゃなだけじゃあない、勇ましくもある小さな王子、
  皆があなたを大好きですのにねぇvv
  大切なことほど目に見えず、気がつきにくいというけれど、
  こういうことに限っては、気づかせてあげるべきなのかどうか。
  今宵のどこかの微妙なタイミングで、
  ママさんがパパさんにひざ詰め談判で訊くこととなろうとは、
  さすがのツタさんでも気がつかなかった運びだったりしたそうな。




  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.02.20.


  *相変わらず何だか妙な〆めですいません。
   先日観た、某「ベストハウス」の、
   もこもこな生き物シリーズが妙に気に入ってしまいましてvv
   でもね、カイくんが喜んでるからって油断をすると、
   カイより可愛いんだ…なんて嫉妬を招きますので、ご用心なのです。
   小さな坊やも“ししゅんき”ですかも。(いや、それはなかろう…)


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