月夜見
 puppy's tail 〜その64
 

 “さくら色の 甘いのvv”
 

 お陽様ぴかぴか、お空も青あお。
 あたかくてポカポカで、お花がいっぱいぱい咲いて、
 春ってゆーのが、あのね? 来ましたっ!
 菜のはなも しゃくらも、お花がいっぱいぱいで きれーなのvv
 小鳥も ぴーちちちって鳴いてゆし、
 どっかへ遊びにゆきたいねぇ




     ◇◇◇



(カイ)くんの言う“しゃくら”とは、
言わずもがな“桜”のことです、念のため。
ソメイヨシノの淡い緋色は、
冬の間の枯れ木ばかりだった寒々しい眺望の中、
ダケカンバの幹の先が白くけぶって見えていたのと ちょこっと似てる。
それと同んなじお山の傾斜に、
数日前から咲き始めてる野生の桜は緋が濃くて。
それが少し傾けた傘みたく、
斜め斜めにお辞儀し合ってるように見えるのは、
陽あたりのせいだってツタさんが言ってた。

 「少しでも陽に当たろうとして傾いちゃった枝振りが、
  遠くからだとそう見えるんだって。」
 「ふ〜ん。」
 「ここいらだと、西の外れの駐車場のが大きくてサ。」
 「うん。」
 「どこが一番みっしり咲いてるかって、
  カイやツタさんと散歩行くと、いつも下から見上げて探すんだよ?」
 「そーかそーか。」
 「……昔むかし、おじいさんとおばあさんが。」
 「ちゃんと聞いてるって。」

今年は箱根の春も早くて、
桜だけじゃあない、桃や木蓮、馬酔木までが、
陽あたりのいいところでは五分咲き以上の花盛り。
人の姿のまんまでの のんびりしたお散歩もすがすがしいが、
ワンコになってたかたかと駆ければ、
毛並みを梳く甘やかな風を感じるのがまた楽しいと。
そういった今時の季節感を口にする奥方なのへ、
これでも随分と感心しているのだ、ご亭主は。

 「ルフィの方がよっぽど、エッセイとか書けるんじゃないか?」
 「な、何 言ってんだよぉ。////////////

ロビンが聞いたら笑っちゃうぞと、
文筆業で生計を立ててる知己の名前を持ち出して、
真っ赤になった奥方だけれど、

 「そりゃあさ、物書きさんはプロだから、
  “そうそうそういう感じ。
  ああそうか、そういう風に言い回すんだね”って。
  それはそれは即妙だったり味があったりする言いようを、
  たくさん知ってもいるんだろけどな。」

でもな、感じる側にしてみたら、
とつとつと積み上げられた言いようの方が、
少しずつ判ってってくすぐったいのも嬉しいと。
そんな味わいの方がいいって場合もあるもんだぞ、なんて。

 「特に今頃のほんわかした気候のことなんかは、
  ルフィが今言ってみせたような言い回しのほうがいい。」

さすが、実父がやはり小説家だっただけのことはあるものか。
ご当人は頭の中まで筋肉なんじゃないかと思わせるような、
筋骨隆々、とっても雄々しい風貌をしているのに。
時々こんな言いようをしちゃあ、

 「〜〜〜〜おだてたって何もやんねぇぞ?//////////
 「?? 何言ってんだよ、そっちこそ。」

知らず 奥方を褒め殺ししかけたりもする辺り。
いい勝負でおそろいの
“天然ご夫婦”だったりしています、相変わらずに。
(笑)
ちょこっとご無沙汰してる間に、
こちらさんのご家族が住まうご町内へも 春がやって来ておりまして。
朝晩の冷えように、近在で畑をお持ちな行商のおばあさんなどが、
遅霜を注意せんといかんのよと話してくださる、
どこかのんびりとしてもいる土地柄で。
その冷えがあってこそ、
一斉に華やかに開花する桜の名所もあちこちにいっぱい。
空き地や公園、
お散歩の通り道沿いに立ってる、大きなお屋敷の立ち木とか、
時期や種類によって見どころの異なるお花見スポットを、
一通り知り尽くしているこちらの奥方、
実は実はシェルティ姿でならもぐり込める、
よそのお宅のお庭という“穴場”も知っているから恐ろしい。
何たって そういうことへは妙に要領がいい奥方なのと、
よ〜く手入れされた絹糸みたいなふわっふわな毛並みの愛らしいわんこ、
特にお粗相をするでなく、大人しく身を伏せて木陰にいるだけなら、
ムキになって追い払うこともないかと思われるらしく。
怒鳴られたこともないというのが、

 「後から話を聞くこっちは、気が気じゃないんだがな。」
 「?? 何でだ?」
 「だから。」

向こう様へご迷惑かけてないかとか、
実は叱られたこともあるの、そっちは隠してんじゃないかとか。
そんな仄かに叱責にじませたような言いようも、
よ〜しよ〜しと頬や髪を撫でながらでは、あんまり効果はないというもの。
というのが、先程からのおしゃべりは、
寝室の寝台の上という、非常にまったりとした場所でなされておいで。
とはいえ、
風邪だの怪我だのと具合が悪いときを例外に、
とうに明るくなっているのに、何でまたいつまでもそこにいますかと、
こちらのご夫婦に限ってはあまりそぐわぬ場所でもあって。

 「…カイくん、まだ戻ってないの?」
 「ああ。よっぽどのこと、元気にはしゃぎ回ってるんじゃあないのかな。」

ご近所のわんこ仲間の、
本山さんチのプードルのマキちゃんや、
角のおばあちゃんトコのロングコートチワワの陸くんと、
今日は朝からお花見散歩。
お揃いで買った新しいピンクのボールのお披露目だとかで、
ぽ〜んと放られるビニールボールを追っかけるの、
何時間だって飽きずに熱中しているお元気坊やたちだもの。
広い広場での駆けっこなのだから、まずお昼になるまで戻らない。

 「何かあったらツタさんが携帯で知らせてくれるって言ってたし。」

だから、案じることはないぞと、
内緒話でもするように、
低められたゾロのお声の甘さが…何でかな、

 “……落ち着けないなぁ。///////

時々“カイくんばっかり構ってる”と、
大人げなくも悋気立ったりするのにね。
こうやって1対1になって、真っ正面からじっと見つめられるのって、
明るいうちだと、こちらのお顔や姿も隠しようなく晒されてるから、
何だか照れちゃうなぁなんて。
妙にヲトメっぽいこと、感じてしまってる。
な〜にを柄でもないこと言ってんだと、
ど〜んって どつき合いになってるのが日頃なのにね。

 「んん?」

どした?なんて瞬きで訊く、間近になった男臭いお顔とか、
ただパジャマの上から撫でてくれてるだけな手の温みとかへ、
あやや…って/////// ドキドキしちゃってる奥方であり。


  ―― そしてそして


実を言うとそれって おあいこ。
こちらはこちらで…小さなカイくんに全くの全然 引けを取らぬまま、
出来立てのマシュマロの如くにふわふかな頬や小鼻、
まとまりは悪いけれど指通りは絶品な髪を、
無造作に散らした丸ぁるいおでこに、潤みの強い黒々した眸などなど、
どうしてだろうか、日頃より数倍も愛らしい奥方。
いつもより精悍に見えるご亭主なのへ、
どしよどしよと“きゅうぅ〜んんっ”という困り顔をするのがまた、

 “…マジかよ、おい。”

ちょっぴり気怠げ、なのに頬はほんのり桜色で。
こちらを見つめちゃあますます赤くなるところが、
うあ勘弁〜っと、旦那様を焦らせているのだと、
果たしてどれほど気づいているやら。
そもそも、こうして陽も高くなったっていうのに、
いつまでも寝室に居ずっぱりな二人だってのも、

 『〜〜〜ぞろぉ、つたさぁん。』

何か変なの、体がだるいのと、
片やは早朝のトレーニング、片やは朝ご飯のお支度にと、
はやばや起き出していた家人を珍しくも呼びつけたほどの、
身体の不調を訴えた奥方だったのがコトの始まり。
風邪でしょうか、それとも花粉アレルギー?
でもでも、熱もないし、お鼻も詰まっちゃあないみたい。
もしかして彼らだけへの罹病じゃあないのか、
そこまでものこと、案じかかったものの、

 『まぁま、むいむい刺した?』

やっぱり案じてよいちょよいちょと駆けつけた、
まだまだネムネムのお眸々をこすってたカイくんが、
ちゃっかりと上がってたベッドの上、
間近になってたママの首元、あれれぇ?と触ったその途端、

 『ひ……ぁんっ。』

切なげに眉を寄せ、
なかなかに色っぽいお声を出してしまったママだったので。

 『あ…。』
 『な…。』

ビックリしちゃった男性陣を差し置いて、
なぁんだと納得がいってのこと。
ほっと安堵の笑みになりつつ、
さあさ、ご飯の前にお顔を洗いましょうねと、
カイくんをひょいっと抱き上げて、
的確な判断の下、穏やか且つ速やかに
お部屋から出ようとしかかったのがツタさんならば。
そのツタさんから、

 『…もしかして、さかりの季節だからじゃあありませんか?』

直接的な言いようですみませんと前置かれてから、
こそりと耳打ちされたパパさんで。
カイくんが自力でワンコになれるようにもなってますし、
そろそろ次のお子様を作れるよという身になられた頃合いだからという、
それでの過剰な反応なのかも。それと、

 『言うまでもなく、奥様が起き上がれないのは……。』
 『は、はい…。/////////

そういやぁと、今頃になって思い当たったのが、
昨夜の“いやんvv”な一部始終。
もつれ合うよに交わした口づけも、
そのまましがみついて来た様子のすがるようだった性急さも、
妙になまめかしいというか、
日頃以上の愛らしさで受け止めようとしてくれたものだから。
ついつい、あのその、加減が利かなかったような気が……。////////

 『〜〜〜。////////

大の男だ…ってだけじゃあない、
世界を目指すレベルのアスリートたちが、
こぞって指南を受けたがるレベルの有名コーチさんが。
似合わないにもほどがある所作・態度、
照れ過ぎての口許たわめて俯いちゃったの、
あらまあと微笑ましげに見やったツタさんのはからいで、
急性過労状態の奥方を、午前中じっくり休ませてあげることという看病、
仰せつかったワケだったりし。


 「腹は減ってないか? お前、今朝はカップケーキ1個しか食ってないぞ?」
 「うん…まだいい。」
 「話しかけてないで寝たほうが楽かな?」
 「ううん、そんなことない。」
 「そっか?」
 「うん。////////
 「でもなあ、また真っ赤になったしよ。」
 「いい。居てくれないと…そっちのがイヤだ。////
 「………そか。////


傍にいるとドキドキするけど、居ないと今度はそわそわするの、と。
黒みの強い目許を潤ませ、愛くるしいお顔を火照らせたまま、
どうしてだろななんて訊くこと自体が、既に罪作りな奥方へ。

 “自覚がないのがなぁ。////////

当人へは罪のないこと、
恐らくはきっと、いい季節だから子を成せという、
単なる自然からの働きかけを、
自然に受け止めた末の現象なのだろと。
そんなこんなな理解をお念仏のように理性へと唱えつつ、

 “他所の雄は絶対に近づけらんねぇよな。”

こ〜んな魅惑と蠱惑の塊、そこいらの通りすがりに奪われてなるものかと、
あらためての独占欲に決意の拳をこそり握りしめてたりもする、
こちらも案外とかわいい旦那様だったりする、春の一景なのであった。




  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.04.09.

  *カウンター 307、000hitリクエスト
    あい様 『ゾロに ものっそい甘やかされるルフィ』


  *見つめ合うだけで胸の底が熱くなる、
   いえす、ふぉーりんらぶ な、春のゾロルでございました。
   別のお部屋だったら“惚れてまうやろ”でしょうか。(おいおい・笑)
   指定のない場合、本来は原作Ver.で書くべきなのでしょうが、
   すいません、甘やかす→甘い話というのが念頭にあったらしくて、
   こんな特殊設定の話で書いてしまいました。
   まあ、ウチの場合は、
   どのシリーズのゾロでもルフィにはおおむね甘いのですが…。

bbs-p.gif**


戻る