月夜見
 puppy's tail 〜その75
 

 “秋風 立つころ”
 

 おねさん、こんにちはvv
 ずとずっと、あんな暑ちゅ暑ちゅだったのに、
 このごろは しゅじゅしく(涼しく)なりましたね?
 夕方すぎりゅと お外出たらさむさむで、
 パパのお迎えにって出たらば、
 ひえひえしてて、はやや〜ってビックリしたの。
 みんなで花火観たときとか、
 こんくらい しゅじゅしかったら良かったのにね。
 ゆ、ゆう、ゆーじゅーが きかないんだから、もお。


    ◇◇◇



そんなご無体な。(笑)
つか、何だか難しい言葉を覚えた海(カイ)くんみたいですが。
これはきっとご両親の会話から覚えたそれに違いなく。
いつまでも幼い子供だと思っていると、
いつ何処で覚えたのやら、
ひょんなところで大人びた物言いをしもするものだから。
間違った言い回しや乱暴な言葉遣いなぞを直さずにいると、
意外なところで恥をかきかねないので、
親御さんは特にご用心のほどを。

  それはともかく

カイくんのお喋りにもありましたように。
あれほど凄まじかった酷暑…とはいっても、
さすがにここまで日が過ぎたれば。
薄着でいると風邪を引くんじゃないかというほど、
朝晩の空気は随分と冴え返って来ており。
道やお庭には落ち葉が散らばり、
それをお掃除しながら、ふと視線を遠くへ向ければ、
箱根のお山も、そのところどころが
赤や黄色に色づき始めていたりして。

 「秋だねぇ。」
 「秋ですねぇ。」

リビングの掃き出し窓の際に座ったツタさんが、
昨夜からお水に浸けて鬼皮をふやかしといた栗を、
くり刀という小さな包丁で、
1つ1つ丁寧に剥いておいで。
その傍らでは、興味津々という態度でもって、
小さな奥方、栗の始末をお勉強中。
茹でた栗なら昨日のおやつで食べたけど、
新鮮な風味を味わいたければ、やっぱり栗ご飯でしょうということで。
その下準備を手掛けるツタさんの器用な手つきを、
ほぁあ〜と感心しきった眼差しで眺めているのだが。

 「なあなあ、ちょみっとだけ。」
 「ダメですよ、まだ難しいです。」

何分かおきに、思い出したようにルフィがねだり、
やんわりとダメを出すツタさんだというのが、
傍から見ていると何とはなく面白い。
言わずもがな、
自分もやってみたいとねだっているルフィなのだが、
リンゴの皮むきも覚束ない子に、
こんな堅柔らかい難物を相手の皮剥きなんて、
言語道断だと思われてもそこはしょうがない。
その辺りの道理からして、
ちゃんと説明されたのにも関わらず、
くりんさくり、ぺりぺりと、
それは小気味よく剥かれてゆくのを見ていると、
ついついお尻がむずむずするらしく。

 “好奇心旺盛、だからなぁ。”

小さい子供が大人の真似をしたがるようなもので、
強制されるお手伝いを嫌がる年頃に、
まだ至ってはないということか。

 「いいですか? 奥様。
  リンゴの皮が剥けるようになって、
  アジを3枚に下ろせるようになったら。
  それこそこちらからお願いして、
  お手伝いしてもらいますから。」

 「む〜〜〜。」

ルフィの側だとて、理屈は判っているのだけれど、
焦げ茶色の栗からするすると、
まずは渋皮が覗き、
次にクリーム色した中身が出てくるのの、
手早い処理が手品みたいに見えて、
楽しくて楽しくてしょうがないもんだから。
ちょっとだけ、真似っこだけと、
性懲りもなくおねだりしているらしい。
器用なことは苦手でも、
お買い物に出ればこの細腕で山ほどバッグを抱えてくれるし、
ご近所のワンコやにゃんこの相談にも乗っている、
なかなかの頼もしさだというのにね。
ツタさんの前では、いつまで経っても幼子も同然であるらしく。

 「リンゴは後ちょっとですものね。」
 「うんっ。」

お母さんに褒められたというように、
そりゃあ嬉しそうに大きく頷いてから、

 「でもなぁ、アジはなかなかだよなぁ。」

お父さんのお膝に凭れ、くうくうと うたた寝していた坊やが、
うや?と目を覚ましたのへ、くふふと笑いかける奥方へ、

 「それって、
  カイが自分でお箸を使えるようになんのと、どっちが早いかなぁ?」

 「あ〜、言ったなゾロっ。」

余計な茶々を入れられて、またまた膨れたものの、
そんなママを真似っこしたらしい、
小さな坊やの、お団子のような真ん丸ほっぺを見た大人たちが、
そろって吹き出してしまったの。
窓の外には、少しずつ金色を増してく秋の陽射し。
遠い梢では小鳥さんたちが、
きちぃ・ちぃちぃ、甲高い声で鳴いていて。


  ああ、もうすっかりと秋ですね。





   〜Fine〜  10.10.10.


  *ハッピーマンデーとやらで“体育の日”は明日だそうですが、
   今年だけは今日だったらよかったのにね。
   そうしたら、
   いろんな表示が“ 10.10.10,”になって楽しいのにねvv

  *そんなこんなで、こちら様でも秋色のお話です。
   凄まじい残暑が続いたせいでしょか、
   秋と言えばなものもあれこれ出遅れており。
   それが一気に出回り始めたようなので、
   お買い物だお料理だに、秋の話題が尽きません。

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