月夜見
 puppy's tail 〜その76
 

 “木枯らし吹いたら”
 

 おねさん、おねさん、こんにちはvv
 なんか きゅーに、寒む寒むになったよね?
 マァマとチュタさんがお庭で葉っぱのおそーじしてたら、
 ぴゅうって、ぴゅうぅって寒む寒むなのが吹いて来て、
 ありゃあって見てたらば、
 パァパが“裸足でいたら寒む寒むだろ”って。
 カイにも、くちゅした はきなさいってゆーのよ?
 パパもあんまり履かないのにね。じゅりゅいーい。


    ◇◇◇



毎度お馴染みのカイくんのお喋りですが、
漢字表記になってるトコは、
口述筆記担当のもーりんにきっちり聞き取れた部分だと
思ってくださいませ。(…苦)

 それはともかく。

ほんの数日前までは、
朝晩涼しくなりましたね、
でもねぇ、まだまだ半袖は仕舞えませんね、
なんていうご挨拶ばかりをしていたものが。
昨夜遅くからこっち、
突然がくんと気温が下がった日本列島だったりし。
数日前から既に秋めいていたところは それなりに。
まだまだそれほど代わり映えしないじゃないと、
余裕で言っていたところでは劇的に。
前の日の装いのままでは居られないくらいの、
格別な寒さがいきなりやって来たものだから。
日頃からあれこれと自然体な子育て推奨のこちら様でも、
やんちゃなカイくんを精悍なパパが、
待て待てと追いかけの、
小さな靴下、はきなさいという鬼ごっこの真っ最中。
寸の足らない足元で、たんとんとフローリングの床を叩きつつ、
きゃあぁわあとはしゃいで逃げ回る小さな坊やを、

 「待て待て、こぉら♪」
 「きゃう〜vv」

わざとになかなか捕まえないで追い回すお父さんなの。
こちらは陽あたりのいいラグの上へ座り込み、
あぁあと微笑いながら眺めやってる小さなお母さんへは。

 「ココアを淹れましたよ。」
 「わあ、ツタさんありがとうvv」

ほんのちょっと前ならば、
スプーンへ掬ったうえで、
何度も何度もふうふうと冷まさないと、
猫舌なルフィには
なかなか飲めなかったはずのココアも、あのね?
今日は ちょっとだけふうふうすれば、
すぐにも口をつけられるほど。
頬っぺやお腹がほこほこと暖かくなって、
ああ、幸せだなぁって口許が自然とほころんでしまう。
そのまま見遣った先にては、
小さな坊やを追い回すところが、
ともすりゃあ情けないほど甘甘な、
我が子に目尻が下がりまくりのパパという姿。
だけれども…。

 “ちょっとサギだよなぁ…。”

懐ろに掻い込まれると、そりゃあ暖かいのを知っている。
トレーナー越しでも、
堅くて隆起のはっきりした肉付きがすぐにも判るほど。
そりゃあ雄々しい胸板だったり、
厚みがあって頼もしい肩だったり。
楯みたいに頑丈で、
それでいて…ルフィなら軽々片腕だけで、
ベッドへひょいって出来ちゃう、
力持ちの二の腕だったりするんだのにね。
そんな男臭いところが
明るいところじゃあすっかりと隠れてるって、どうよと。
何とはなくお尻の下とかがこそばゆいなぁって、
もぞもぞと思っておれば、

 「きゃぁいvv」
 「おおっと。」

カップを持ったままだったルフィを目がけ、
突進して来たカイくんだったが、
そこはこちらも慣れたもの。
ひょいっと片手だけ遠ざけてのマグは安全地帯へ避けつつ、
空けた右手で小さな腕白さんを捕まえる。

 「こらこらカイくん。
  朝から くしゅんしてたでしょうが。」
 「ちやうも〜ん。」
 「違わない。
  靴下はかないと、もっとクシュンが出ちゃうぞ?」

小さくて柔らかな温みを抱き込めば、
懐ろに抱え込まれても、
まだまだと ちょみっと抵抗するやんちゃぶりが、
得も言われず愛らしく。

 「……………う〜ん。」

つややかでふわふかな毛並みも品のある、
最近では落ち着きも増したシェルティの姿のルフィへと。
ころころピョコピョコと、
縫いぐるみのように小さなウェスティのカイくんが、
その純白の毛並みを光らせてじゃれかかる、
そんな図も麗しいほど絵になって愛おしいけれど。

 「こぉら、
  もうちょっとで火傷しちゃうとこだったろーが♪」
 「にゃあvv まぁま、くしゅぐたいよぉvv」

細っこい身ながらも腕力はあるものか。
やんちゃな坊やがじたじたしているのを難無く押さえ込み、
脇腹をくすぐって、きゃあはははと はしゃがせている、
こちらもなかなかに頼もしいママさんであり。


  ―― で? 何でまた、耳の先が赤いんだ?
     う……。

     何か思い出してたのかなぁ?
     ナイショだもんvv////////


鋭いんだか、野暮なんだか。
そんなことを訊くオヤジなパパは、
左右から母子からのダブル攻撃で、
頭のてっぺんで胸元グリグリの刑にされるんだからね。
むむうと膨れつつも嬉しそうなお顔のママなのへ、
カイくんが“おややぁ?”と、
幼いお顔を懸命に仰向けていた、晩秋の午後でございます。







  ■ おまけ ■


 「だってホントにちやうんだもん。」

鬼ごっこのそもそもの原因、
朝も早くから カイくんが放っていたのが、
くさめの連発と思っていたらば、

 「…………………あ。」

窓の外、テラスに舞い降りたスズメが
ちゅくちゅくさえずるのへと合わせ、
ぷしん・くしんと
くちびるを弾くように鳴らして見せるカイくんで。

 「もしかして、あれの真似?」
 「みたいだねぇ……。」

紛らわしいからとのことで、
さっそくにも禁止令が出たのは、
言うまでもなかったのでありました。





   〜Fine〜  10.10.27.


  *いやホントに、いきなりがくんと寒くなりましたよねぇ。
   暖房機を慌てて捜索中なのも何ですが、
   探さずとも出しっ放しというウチの部屋は、
   もっと問題だったり致します。
   ………埃くらいは払わにゃねぇ。
(苦笑)

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