月夜見
 puppy's tail 〜その77
 

 “へそくりって 何?”
 

 おねさん、あのネ?
 今日は何の日かしってゆ?
 ぴっぴっぴっぴ・ぷーいvv
 判りましぇんか? ぶぶーでしゅね。
 今日はあのね、いーふーふのひ、なんだってvv
 とぉってもなかよしなパパとママのひ、なんだって。
 カイは? カイはいっしょと ちやうの?って
 パパに訊ーたらね?
 もちゅろん、カイもちゅたさんも一緒に仲よしこよしだから、
 よかったねぇっておゆわいする日なんだってvv
 どーだ、しゅごいでしょーvv
(えっへん)


    ◇◇◇


いやもう、いくら何でもそろそろ、
年賀状は準備されましたか?だの、
クリスマスケーキのご予約は?だの、
大掃除の準備は出来てますか?だのと。
テレビや新聞なんかでも、
口々に案じてくださるもんだから。
いくら暢気な奥方でも、
ウチは大丈夫なのか?
大掃除とか始めなくてもいいのかな?と、
頼もしいお母さんでもあるツタさんに、
ついつい訊いてたりするほどで。
そしてそのたびに返って来るお返事もまた同じ。

 「大丈夫ですよ?
  ウチは毎日、奥様も坊ちゃまもお手伝いくださって、
  お掃除を欠かしておりませんからね?」

普段使いのお部屋は勿論のこと、
庭先や玄関周りから、お風呂やお廊下に階段も、
毎日毎日、お家に居残り組でぴっかぴかにお掃除しているし。
月に一度は、背の高いパパが
レンジフードとか外しての、腕まくりしてお掃除してくれて。
お台所はツタさんのお城だからね、
言うまでも無くのキラキラしていてきれいだしってことで、
どこもかしこも特に大掃除なんて気張らなくたって大丈夫。
…ああ、耳が痛いわ。中耳炎かしら。
(苦笑)
それでも一応の“大掃除の日”というの、
大晦日前に構えているので、
その日に頑張ってくださればいいんですよと。
ほっこりと笑ってくださったので、ああ安心。
よかったねぇvvってことで、
ワケも判らないまま、それでもママと同じように、
ダイジョブでしゅか?と眉を下げてたカイくんを懐ろへ抱きかかえ、
ね〜っと可愛らしくも小首を傾げつつ、
似た者親子がまろやかな童顔見合わせ
安堵の笑みを向け合っておれば、

 「考えてみりゃあ、随分と大人になったもんだよな。」

表へ出て、門柱のポストから新聞を取って来たらしい
今日はジムもおやすみのゾロパパが、
くすぐったそうに笑ってそんなことを言う。
んん?と陽だまりになってるラグの上から振り仰げば、
わしわしゆったりと歩み寄ってきたそのまま、
ちんまりと胡座をかいてた奥方の、すぐ傍らに腰を下ろした旦那様、

 「昔は、着たものも何も
  そこいらに出しっぱなし脱ぎっぱなししてただろうに。」

 「あやや…。///////」

毛並みふかふかなシェルティに変化
(へんげ)した直後なぞ、
小さなあんよに絡まったパンツや靴下を、
えいって蹴り飛ばしてはそのまま捨て置いてったもんだろよと。
両手を坊やでふさがれながら首だけこっちを向いてた、
こちらさんもまだまだ坊やなお顔の中、
やわやわな小鼻の頭をつついた旦那様だったのへ。
そういやそうだったかなぁ?と、白々しくもあさっての方を向く奥方だが、

 「??? まぁま?」

そっちに何かあるですか?と
カイくんまでもがきょろきょろしたため。
それを目撃しちゃった大人3人、
何をどう勘違いしたかも判っただけにという小さな笑い、
ぷくくとかみ殺すのが微妙に大変だったりし。
(笑)

 「そうそう、あんなあんなゾロ、」

じきにご飯にしましょうねと、おみおつけの加減を見つつ、
ルフィママとカイくんへのホカホカのパンケーキを焼きにと、
キッチンへ向かってしまったツタさんを見送りつつ、
ルフィが何か思い出したらしくって。
頼もしい胸板へと凭れ込みつつ、
仰のけになっての小さな顎を仰け反らせもって聞いたことがあり。
なんだ?と目顔で訊いてきたのへ、

 「あんなあんな? へそくりって何だ?」
 「あ?」

さっきな、ワイドショーでな、
今日はいい夫婦の日だからってことで、
色んなアンケートの話が出たんだけどもな、

 「その中で、へそくりしてますか?って話が出てて。」

奥さんのほうがたくさんためてるようですねって、
数字見て司会のおじさんがほぇ〜ってゆってた。

 「〜円ってなってたからお金のことらしいんだけど。
  俺、そんなの貯めてないしさ。」

いいのかなぁ?と黒々したお目々をきょろんとさせるので、

 「貯金ならあるだろうよ。」

何をまた、妙なことを案じているやらとばかり、
ゾロが口にしたのは他でもない、
この小さな自然世界の精霊くんを養子として引き取った
作家せんせえだったミホーク氏が、
亡くなった際にルフィへと相続させた資産のことで。
結構な資産もちの彼なので、
預金を預けている銀行からも、
四半期ごと、わざわざ担当の方がご挨拶にとお見えになるくらい。
それでなくたって、
今や立派な旦那様に養われてもいる可愛い奥方、
そんなことへと案じる必要はないぞと、
んん?とこちらからも小首を傾げて聞き返せば、

 「え? いい夫婦は持ってないといけないんじゃないのか?」
 「おいおい。」

そもそも、へそくりって何かも判んないしと、
む〜んと目許を眇める奥方だったので、

 「う〜ん、何て言やいいのかな。」

ないと夫婦失格みたいに誤解しているらしいところからして
ほぐした方がいいのだろうが、
実は…こちらもあんまり、口の回らぬ方の旦那様。
む〜んというお顔をお揃いにしかかったそのまんま、口から出た一言が、

 「いざっていうときに困らぬよう、
  誰にも言わずに用意しておく、ナイショのたくわえ、のことかな?」

出来るだけ遺漏がないようにと、思ったのだろうが、
知識というジャンルではまだまだ子供のような素直さでいる奥方へ、

 “ちょぉっと難しい言い回しではありませんか?”

ふっかふかのオムレツを焼き終え、
ごはんですよと呼びに来たツタさんが、
あらまあと微妙なお顔をしたのとほぼ同時、

  「なんだそっか。」

意外なほどにホッとしたルフィさん。にゃは〜っと笑うとお庭を見遣り、

 「だったら大丈夫だぞ?
  俺も、お庭のあっちこっちへいっぱいぱい、
  骨ガムとかおもちゃとか、埋めてあるからな。」

  ……………………………はい?

自慢げにえっへんと小鼻をそっくり返らす奥方へ、
その真似っこをするカイくんともども、
あまりにかわいらしかったもんだから。

 「〜〜〜〜〜〜〜〜。」×2

残りの大人二人、笑いをこらえるのが大変だったそうですよ?





   〜Fine〜  10.11.22.


  *何でまた、いい夫婦の日のテーマが
   「へそくり」だったのかは不明ですが、
   それによれば、ヘソくってる人に限っての平均額は、
   旦那様は 90万、奥方は 170万なんですって。
   奥方の方がお上手なのか、旦那様は自由の利くお金をもてない立場なのか…。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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