月夜見
 puppy's tail 〜その78
 

 “寒い日だから…ネ?”
 

 おねさん、おウチは どこでしゅか?
 せかく暖かくなってたのに、
 また寒む寒むが戻って来たよね?
 テレビでネ?
 あっちもこっちも雪こんこんですってゆってて、
 ウチは慣れてるけど
 そじゃないトコはたいへんねーって、
 ママやチュタさんとゆってたの。
 おねさんトコは そじゃないトコ?
 たいへんねー。




    ◇◇◇



夏が暑かった年は冬も極寒になると聞いたことがあります。
……根拠はないけど。
(こら)
その伝でいけば、
この冬はきっと極寒になるんだろうなとの予測があったので、
クリスマス寒波に始まって、一月後半にはクライマックス迎えた極寒も、
致し方なしという方向で、何となく許容出来ておりました。
それが…二月に入った途端、
前日との気温差も途轍もなくの、
三月下旬並みなんてな暖かさが押し寄せて。
うあ なんてこと、
このまま暖かくなってくれるんだろかと
ついつい浮かれかかったものの、いや待てと、
昨年の冬の終わりと春とを思い起こしました。
やはりいきなり暖かくなり、
ところにより桜も早咲きなんて一報が出はしましたが、
そういうお日和は残念ながら続かなかった。
結局、GWまで
ダウンのコートをクリーニングに出せなかったほど、
いつまでも“寒の戻り”が居残り続けた春だったでしょう?



 「今年もあんなになんのかな?」
 「あんにゃに?」

お揃いのモヘアのセーターもお似合いの母子が、
似通ったお顔の頬と頬、ひたりとくっつけ合うようにして。
二重になってるため結露で曇らぬ出窓の外、
しんしんと降り続ける雪を眺めやる。
箱根のお山は下界よりも冬が長くて、
雪が降ってもそれが続いても驚きはしないが。
此処なりの移り変わりからも逸脱していた先の春は、
さすがに“変なのだった”と記憶しているお母さんルフィが、
まだまだ子供のような陰も濃い口許を、
う〜むむと一丁前に曲げて見せ。

 「なあなあツタさん、今年もあんな春になんのかなぁ。」

ソファーに膝から乗り上がっての後ろ向き、
窓の外をばかり眺めていたお揃いの小さな背中の、
片やが振り返ったのへ、

 「さぁて、いかがなものでしょうか。」

キッチンからやって来た、エプロン姿の 大お母さんが、
困ったように小首を傾げる。
判らないことがあると近間の大人へ訊くという、
まさしく幼子のようなこと、
相変わらず続けておいでのルフィもルフィだが、

 『だってツタさんの天気予報って、
  ○○テレビのお天気お兄さんより当たるんだもん。』
 『もんっ!』

ね〜っvvと、
そっくり母子が笑顔を見合わせ、
自慢げになってのこと、愛らしくも相槌打つほどに。
その的中率が高いのも事実ではあって。
とはいえ、長期予報はさすがに管轄外ですようと、
困ってしまわれたらしいのもまた道理。
すると、そこへと割り込んで来たのが、

 「何だ何だ、ルフィは寒いからって へこたれてんのか?」

玄関からのよく通るお声。
わっとお顔を輝かせ、ソファーからよいちょよいちょと、
もどかしげにお尻からよじ降りたそのまま、
たかたか駆けてったおちびさん。
さして間をおかず、きゃうっと弾んだお声を上げたのは、

 「ゾロ、今日は早かったんだねぇ。」

隣り町のスポーツサロンへ、
インストラクターのお仕事に…と、朝早くに出掛けたはずの旦那様。
冬仕様のダウンが入ったトレーニングウェアという、
判りやすい出勤着のまま帰って来たゾロが、
ふわふかの頬っぺを むぎゅうっとお顔へくっつけてくる、
かわいらしい皇子様を抱えてのご帰還で。

 「途中で道が通行止めになってたんでな。」

こりゃあ遅れるかなって事務へ電話したら、
予約していた相手も“雪でそちらまで行けません”と
キャンセルして来たって話だったので。
途中で引き返す格好で戻って来たんだというもんだから、

 「うあ、ラッキーvv」
 「しゅごい、しゅごいvv」
 「こらこら…。」

雪のお陰様、パパがお休みになったと、素直に喜ぶ幼子二人(?)へ、
困ってる人もいるんだぞとまでは…切り出せなかったお父さんも甘いが。

 「他からもらうバレンタインデーのチョコもお預けだな。」
 「……あ。」

そんな意味合いからも
“らっきぃvv”なんて言ってた奥方なのだとまでは、
さすがに気がつかなんだ、相も変わらず朴念仁なご亭主の鼻先、
ほわりと甘い香りが届いて。

 「さあさ、温かいのを持って来ましたよ。」

お子様がたにはマシュマロ浮かせたホットチョコ、
旦那様には昼間っから強いお酒もなんですので、ホットワインの蜂蜜割りをと、
マグカップにて運んで来てくださったツタさんであり。
甘いの大好きとわぁいというお声が上がり、
窓の外に降る雪を、
ほかほかと温もりながら眺める、聖なる日でございます。





   〜Fine〜  11.02.14.


  *昼間の明るいうちから降り出した雪が、
   そのまま数センチも積もったなんてのは、
   こっちに越して来てから初めてのことなんじゃなかろうか。
   あの、春めきはほんの数日前のことなのに、
   この急転直下は何の呪いなんでしょうかね、ホンマ。
   異常気象や火山のご乱心に揺れる農家の方々、
   それと受験生の皆様も、負けずに頑張れ!頑張れ!

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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