月夜見
 puppy's tail 〜その79
 

 “わぁいわぁいの日vv”
 

 おねさん、おねさん、こんにちはvv
 すっごいすっごい おひちゃちぶいでしゅねぇvv
 いい子いい子してまちたか?
 そですか、だたらいいですvv
 カイも いこでしたよ?
 まぁまや ちゅたさん、ぱぱのゆこと聞いて、
 そーなの、いこでしたもの。




    ◇◇◇



そんないい子の海(カイ)くんですが、
昨日は微妙に、挫けかけてもいたようで。
だってだって、あのね?

 「あれ? カイ、一人なのか? ゾロやツタさんはどうした?」
 「ちやなぁもん。(知らないもの)」

お寝坊して起きて来たルフィママ、
う〜んって背伸びしながら階段を降りて来たのを、
玄関手前のホールで待ち受けて。
抱っこ抱っこと手を伸ばせば、

 「あ、ちょっと待っててな。俺、顔洗って来るし。」

それからなと、微笑ってくれたのへ、

 「やぁの、いま抱っこっ。」

通り過ぎかかるママが履いてたトレパンに、
小さなお手々でわしっと掴まって、
やぁのやぁのと地団駄踏んでの駄々をこねた。
いくら…もう自力で立って歩けてるお子様だとて、
大人の元気で引っ張れば、
弾みでバタンと転びかねない恐れがあったし。
それより何より、

 「あ、あ、判った判った。抱っこだな?」

どっちかと言うと、
妙に力いっぱいに引っ張る坊やだったものだから、
下手すりゃズボンを引きずり降ろされそうな危機をも感じてのこと。
慌てて立ち止まり、どーらと手を延べての抱き上げてやれば、
ママの頬っぺへ、そちらもふわふかな頬を擦り寄せて来ての、
キャハハと愛らしい声立てて微笑ってくれて。

 「何だ、どした。」

いやに甘えん坊さんだなと、
このところは抱っこよりも追っかけっこの方が好きだったのになと、
早速にも そんな“あれれぇ?”を抱えたらしいルフィだったのへ、

 『さすがは“お母様”ですよねぇ。』

ツタさんが目許細めてにっこり笑い、
そっかなぁ//////と照れたのは、少し後でのお話で。
小柄で細身とはいえ、
坊やの抱っこには慣れもあるお母さんなのだし、
その前に男の子でもあったので。
胸元へ添わせてという手慣れた構え方にての、
片方の腕だけで軽々と、坊やを抱えてさてと向かったのがリビングで。
すっかりと朝も訪れての明るい空間には、だがだが、

 「あれぇ? 此処にも居ねぇ?」

ツタさんもご亭主もいないのが何とも拍子抜け。
キッチンからも物音はしないし、
試しにと意識して鼻を利かせたが、
誰かがいるという匂いや気配も感じないので、

 「変だなぁ。」

今日はゾロもお休みだって言ってたのにな。
ご近所で何かあってのお出掛けなのかな。
でもそれなら、カイを一人で置いてくもんだろか。
俺がいるったって、
いつ起き出してくるかも判らないほど寝こけてたのになと。
ますますのこと不審を覚えたその矢先、

 「………………んん?」

すんすんすんと匂いを嗅いでて、
やっぱ誰も居ないみたいと辞めかけたその刹那。

 「これってこれって、もしかして……。」

あんまり際立ってない代物なので、
人との生活が長いと勘が鈍っててのこと、
なかなか嗅ぎ当てにくいかも知れない匂いだったけれど、

 「………そこかぁっ!」

カイくんを抱っこしたままで勢いよくもダッシュして、
キッチン抜けて裏庭へ。
初夏を思わせるいいお日和な中、
サツキの茂みが柔らかそうな新芽の発色のいい緑に覆われてるのが、
何よりも真っ先に目につく…はずなのだが。
そこの手前で、金物の足つき台の底へ黒々した塊を並べの、
クーラーバックを慌てて閉めのしていたお顔が何人か。
いきなりの急襲に驚いてだろ、
ギョッとしての動きを固まらせてしまい、
さながら、予想だにせぬ“ダルマさんが転んだ”状態になっており。

 「……あ、サンジだ。久し振り。」
 「お、おうよ。」

東京に住まうお友達、金髪碧眼のシェフさんが、
片手に持ってたトングをかちかちと、カニの真似のように合わせて見せれば。
カイくんが けたけた・キャワワvvと、オルゴールを転がすような声で笑い出し。
凍りつきかけていた空気が………へなへなっと萎えてのそれから。

 「大したもんねぇ。まだ何にも焼いてないのに。」
 「おお、ナミだ。」

そちらはちょうどルフィの背後、キッチンからお顔を覗かせた、
明るいみかん色の髪を背中まで延ばした美人さんが、
ありゃりゃあと苦笑していて。

 「髪、延ばしたんだ。」
 「うん。エクステだと髪質が揃わなくってね。」

じゃあなくて、と。
呑気な問答になりかかったのをツッこんでくれてから。
ルフィの懐ろ、そっくり双子のような坊やのおつむを優しく撫でてやり、

 「足止め作戦、頑張ったのにね?」
 「うっ。」

力強く頷く坊やへ“え?”と。
今になって大きな瞳を見開く幼いママさんへ、
にっこしと意味深に笑いかけたそのまま、

 「ホントは準備万端整ってから呼ぼうと思ってたのに。
  ……って、そこ、あからさまにホッとしてんじゃないっ。」

こちらは飲み物の下準備を仕掛かっていたらしいマドラーで、
クーラーバックの上へどっと疲れたというお顔で手をついてた当家のご主人を、
ビシィッと指さしたナミさんだったのは、

 『勿論、あんの朴念仁に、
  おはようのキッスつきで起こして来いって。
  そんな話がまとまってたのよね。』

 『起こす?』
 『そうよ、ルフィを。』

もしかして?と、自分のお顔を指さすお元気わんこの奥様へ、
にぃっこり笑ったナミさんは、
ツタさんに任せていたベルちゃんが
“たぁたvv”と呼ぶのへ手を振ると、

 「ホントはお誕生日に来たかったんだけど、
  高速の混みようが尋常じゃなかったんで。」

GWだからしょうがないとはいえと、
しごく残念そうに言ってから。

 「よくよく考えてみたら、
  子供の日よりお母さんの日と
  ブッキングした方がいいんじゃないかってことで。」

そうと付け足しつつ、
サンジが火の用意をしていたバーベキュー用の焼き床を、
手のひらで差して“どうぞご覧あそばせvv”と示して見せる。
まだ焼いてもない肉の匂いがよく判ったねぇと、
一応は感心された奥方としては、

 「だってあのその、
  炭の匂いと来たら焼肉じゃんか。////////」

生でも喰いたいと思うほど、とんでもない食いしん坊じゃないやいと、
何だかややこしい方向で照れたお母さんだったのへ、

 「じゅーじゅーは お肉よね?」

懐ろから、坊やにまで言われていては世話はない。
坊やはどっちかといやソーセージがお好きなのも、
ちゃんと揃えて持って来てくださってた凄腕シェフ殿。
他にも、ほぐしたカニ入りのキュウリと春雨の甘酢和えに、
タラのフリッター、蜂蜜入りのパンケーキ。
つくね団子の照焼き風煮に、
鮭と刻みネギの味噌和えホウバ焼き、
甘く煮た薄切り豚肉を巻いたおむすびなどなど、
サイドメニューもたっぷり揃えて。
それでは始めましょうかと、
母の日のパーティーが始まって。


 Thank you, and I love you, Mothervv





   〜Fine〜  11.05.09.


  *冒頭のカイくんのご挨拶じゃないですが、
   本当にお久し振りのぱぴぃですね。
   小姫ちゃんという
   リアルな赤ちゃんがいる家庭になっているせいか、
   小さい小さい子の愛くるしさってのは、
   どんな創作上の描写でも敵わない代物なんだなぁと
   思い知らされてる毎日ですvv
   うふふvvと微笑ってくれると、
   忙しいとか疲れたとか、何もかんも吹っ飛びますものねvv

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

bbs-p.gif**


戻る