月夜見
 puppy's tail 〜その81
 

 “まだ土用どころじゃないのにね”
 

   あちゅい…………




    ◇◇◇



以上、とろけそうになってる海
(カイ)くんでした。


  ……じゃあなくて。


暑中お見舞いは“土用”の日が過ぎてからだそうですが、
そんなどころじゃあない、
六月末辺りから既に猛暑日が連日続いている今年は、
だっていうのに“節電”の夏でもあるから堪りませんで。
箱根のお山は、地上に比べれば多少ほど涼しいそうだけれど、
それでも、雲の上というほど遥か彼方へ遠いワケでなし。
朝晩の涼しさは確かに格別かもだけれど、
お昼間の陽の射しようは同じだし、
陽向の目映さはそのまま、気温の高さにもつながって。
電力消費量が最も多いと言われる、
午後2時から4時にかけての時間帯は、
この辺りにだって結構な暑さが訪れてのこと、
町はしんとした沈黙に包まれる。

  そうはいっても

さすがに、天然の緑が間近に多いのはありがたく。
色合いも堅さも擦り切れたほどに古いアスファルト、
そのまますぐにも土になる道を選んで分け入れば、
まだまだ若いスズカケや椎の木といった瑞々しい木立ちのどこかから、
さやさやさらさらという せせらぎの音をBGMに、
冴えて軽やかな小鳥たちの囁きが、
緑の苑から聞こえて来るのではあるけれど。

 「木陰は建物の日陰よりずんと涼しいと昔から言いますしね。」
 「そういやそうですよね。」

早く明けたとはいえ、結構まともに降った梅雨のこれも余韻か、
まだ蝉の声は聞かれないのに、
昼が近づく頃合いともなれば、
じりじり炙られるような陽が容赦なく照って来るこの七月で。
涼しいからってあんまり遠くまでお散歩に行くと、帰るのが大変だと。
早速にも散歩帰りに朝一番の行水をして来た奥方が、
タンクトップの胸元へ手扇で風を入れつつ舌を出して見せたので、
クラッシュアイスにそそがれた琥珀色が何とも綺羅らかな、
甘いめのアイスティーを出してくださったツタさんが、
出来るだけ木陰を選んで帰っていらっしゃいと、教えていたところ。
それへと、ゾロパパも自分の感慨を付け足しておれば、

 「あれって、木の出す酸素とかの影響もあったんでしょうね。」
 「うや? しゃんしょ?」

こちらさんはまだまだネムネムだと、
ふくふくした小さなお手々でお顔中をこしこしと擦ってた王子様。
パパのお話を耳にし、
ふわふかな頬に埋もれかけのお口をぽっかり開けており。
うあ、何て可愛いかなと目許を細めたお父さん、
ソファーに腰掛けたそのまま、懐ろへ抱えていたカイくんへ、
顎を引いてのお顔を向け直すと、

 「そうなんだ。
  木や草もな、カイやパパみたいに
  息を吸って吐いてっていうのをしていて。
  人と違うのは、
  木は酸素っていうのを作ってくれているから。
  その“呼吸”っていうののおかげで空気が綺麗で涼しいんだ。」

 「……う? う〜っと?」

確かにその通りではあるけれど、
そこまで細かい理屈までは、
小さなカイくんにはなかなか飲み込めまいにねと。
シャワーで濡らした前髪の生え際辺り、
拭い損ねた細い髪を張り付かせて…という、
いかにも幼いお顔のまんま。
それでもそんな機微を飲んでのこと、ご当人たちの頭越し、
ツタさんと苦笑を交わし合うルフィママだったりし。


  ほ〜ら、カイも寝汗でべとべとだろう。パパとお風呂入っといで。

  うっ、カイ、おふよ入るっvv

  よっし、風呂だ風呂。


まだまだ小さくって、
とはいえ あまりに暑いお昼間は、
抱っこされるのやーよと逃げ回る坊やなので。
朝のうちに目一杯スキンシップ取っとこうねの構えとなる、
猛暑日のロロノアさんチだったのでありました。







   ■ おまけ ■


体格と腕力とそれから、
そこは大人で 人を構う余裕も有りということで、
頭から爪先まできちんと洗ってやる、
意外とまめまめしいところが買われてのこと、
お風呂はママよりパパのほうが頼りになるロロノアさんチですが、

 「パーパは かちこちでごちゅごちゅなのね。」
 「???」
 「マーマは ぽよぽよでふあふあなのね。」
 「?????」

濡れてしまうとたちまちペッタリ頭に張りつく髪を、
ツタさんからごしごしと拭ってもらいつつ、
ご機嫌さんでお喋りするカイくんで。
それが聞こえたものか、
あ〜っと奥方が頬を膨らませて見せる。
まだちょっと、手元がおぼつかないと思われるための、
飲み口へストローを装着したペットボトルの麦茶を持って来たそのまま、
カイくんを挟むようにして、
ツタさんと逆のお隣に腰掛けたルフィママ、

 「カイくんひど〜い。」

非難囂々という言いようをするのだが、

 「だぁって ふやふやだーもん。」

小さなお手々を延ばした坊やは、
ママのお胸あたりを ちょむちょむと叩いてみせるばかりであり。

 「………あれって一体何のお話でしょうか?」

なんだか話が見えませんがと、小首を傾げたお母さんへは、
バスルームを軽く流してのこと、
後から出て来たゾロパパが、苦笑をしつつのご説明。

 「ああ……えっと、何と言いますか。」

そちらさんも、
ボトムこそ涼しげな揚柳素材の陣兵衛だったが、
上はタンクトップというご自身の胸元を、
立てた親指の指先で素早く軽くつついて見せてから、

 「ここの堅さの話らしいです。」
 「あらまあ。」

成程、そこは“ママ”でも男の子なだけに、
パパと比べたら柔らかいだのふわふわだの言われると、
ちょっとばかり“物申す”したくなるママであるようで。

 「そりゃあ、
  ゾロのお腹みたいに腹筋が割れてたりはしないけどさ。」

そいでも力持ちじゃああるんだからなと、
それこそ“子供のケンカ”のような言い合いっこになっている、
かあいらしいママさんだったようでございます♪





   〜Fine〜  11.07.11.


  *ここだけの話、
   書きたかったのはおまけの方です。
(笑)
   原作様のルフィさんは、
   あれでなかなか腹筋だって割れていて、
   確かに雄々しい頼もしい男の子ですが。
   それでも……ゴム仕様なせいでしょか、
   2年経っても、体バランスとか顔の部位の配置とか、
   かあいらしいまんまだったそうなので、
   ついつい そこんところを突っ込んでみたくなりましてvv
   いいじゃあないですか、ギャップが大きい意外性の男♪
   いつまでもいつまでも
   ゾロにぎゃあぎゃあと我儘言っては
   仲よくじゃれついててほしいですvv

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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