月夜見
 puppy's tail 〜その82
 

 “意外なお好み?”
 

 おねさん、こんにちは。
 今年は暑ちゅかったでしゅね。
 ジュースばっかり のんでましぇんか?
 カイはお外にあんまりいけなかったのが、
 つーまんなーいでしゅた。
 木がいっぱいぱい生えてるとこは涼しいからって
 前は おしゃんぽしてたのに、
 今年はそこもダメダメって。
 はーやく おちちゅいたらいーのにね。



    ◇◇◇


子供の言うことですんで、どうかご容赦を…。
といいますか、
今朝の“きょうのわんこ”を観ていたら、
毎日のお散歩で、これまでは出来るだけ土の上を歩かせてたのに、
今だけはアスファルトのほうを選んでいるし、
庭先のドッグランもどきというほど広い芝の空間も今年一杯は封じてて、
放射線量が減ったらねと、
レトリバーちゃんをなだめてるご家族が紹介されてまして。
そうか、人だけじゃあない、
わんこにもまだまだ影響は続いているんだなと知らされた次第です。
どうか頑張って乗り切ってくださいね。



  ……………で。

こちら様のわんこ二人は、
人の恰好になりさえすれば、
ゴム底のスニーカーを履いて、
場所を選ばず駆け回れるのではありますが、
その前に、むんと塊のように圧のある熱気に立ちはだかれてしまい、
結局、なかなかお外へ踏み出せなかった夏だったらしいです。
その代わり、お子様プールは大活躍したらしいですが。
(笑)

 「ゾロも自宅待機が多かったもんな。」
 「まぁな。」

屋内ジムでの運動は、
自然と冷房じゃ空調じゃと電力を使いまくりにもなるのでか。
それとも…単に暑さ負けして、
トレーニングどころじゃないとなった人が多かったのか。
インストラクターのバイトが最も忙しいはずのゾロパパ、
この夏はお客様からのキャンセルでという、
急なお休みが多かったらしいです。

 「その点に関しては“やった♪”だったけどな。」
 「おいおい。」

倒れた人も出たんだから、そうそう喜ぶんじゃないと、
ラグの上へ座ってた傍らにちょこりとついて来て、
そのままお膝にまたがる奥方の“言いよう”へは、
一応のクギを刺したご亭主だったが。
お手々のほうは正直なもの、
向かい合った恰好の、小さな奥様の細腰へ回されていて。
そのままぱふ〜んっと、
分厚い胸板目がけて凭れ込んで来たルフィを
ちゃっかりホールドしちゃう呼吸も相変わらず。

 「ん〜、いい匂いだな、ルフィは。」
 「何言ってるかな、カイと同じ匂いだぞ?」

ボディシャンプーは皆一緒ながら、
唯一の男らしい存在として、ゾロパパはトニックシャンプーをご使用だけれど、
ルフィとカイくん、そしてツタさんの3人は、
フローラルな香りのするシャンプーを使っており。
そんな判り切ったことへ、
今更実感したということか、
抱え込んだ奥方の小さな耳元やら
ふかふかな髪の乗った頭のてっぺんやらに鼻先を突っ込んで
ふんふんと匂いを嗅ぐところなぞ、

 「どっちがわんこか判らないよな。」

それでも、いやじゃあないらしく、くふふと微笑うルフィではあったが、

 「…お、なんだこりゃ♪」
 「え? あ、こら。」

カイくんはお昼寝中とあって、
ツタさんにお願いしますと任せての“いちゃいちゃタイム”だったのだけれど。
フローリングの上へと腰を下ろしていたせいで、
目線が下がったルフィが、
背もたれになってたソファーのクッションの隙間に
何か挟まってるのを見つけてしまって。
おややぁと引っ張り出したところが、

 「か〜わいいvv」
 「…そう来るか。」

クラフト紙の封筒に入っていたのは、数枚のスナップ写真。
どうやらゾロが勤めておいでのあのジムで、
スポーツタレントのグラビア撮影があったらしく、

 「記念にって、皆にも配られたんだがな。」

ご亭主には関心がなかったようだが、
それでもそこいらに捨てるのも忍びなかったか、
それとも…こんな風に奥方に見つかることを恐れたか、
明日の古新聞回収日に紛れ込ませる所存だったらしい。
というのが、

 「この子知ってるぞ、結構人気あるんだろ?」
 「…らしい。」

水泳だったか新体操だったかの元選手で、
お顔が童顔で性格も明るく、
引退した今も解説とそれから
バラエティ番組にも時々出ておいで…なのはルフィも知ってたようで。

 「可愛い子なのに、水着になるとちょっと大人だなぁ。」
 「…だから、見せんのヤだったんだ。」

一応は男性雑誌のグラビア用だとかいう代物、
トレーニングマシンに寝そべったりまたがったりしているお姉いさんは、
セパレートタイプの水着姿だったので。
意外と、体の線が連なってしまうレオタードより健康的ではあったけれど、
そこはそれなりの3サイズでいらっしゃるのか、
黒いレザーのシートにうつ伏せたりしている恰好は、
なかなかに煽情的でもあって。

  あ、俺が妬くと思ったか? 小せぇなぁ。
  昔は拗ねたぞ、忘れたか。
  毎日じゅーじつしてっから、昔のことなんて覚えてらんね♪

とはいえ、
シートに伏せられた上体の脇あたり、
少しひしゃげたお胸がはみだしているのが目に止まったらしく、

 「………Dはあるのかな。」
 「はい?」
 「だから、カップが。」

ふ〜んとしげしげ眺めるルフィなのへ、
おやぁ?とついつい自分も覗き込んだゾロだったが、

 「ゾロは胸がデカい人は苦手か?」
 「う〜ん、あんまりそういう体格の人は来ねぇしな。」

このお嬢さんも引退してから育ったクチだそうで。
アスリートに巨乳がいないとは言わないが、
体を絞った方が有利な競技が多いので、
ゾロコーチにはあんまり縁がないらしく。
今も特に関心はないなぁという声だった彼だが、

 「俺はこのくらいが好みかな。」
 「……………はい?」

だからと、写真の上の、
豊かな胸がもったいなくも潰れかけてるところを指差し、

 「今時は痩せてる子が流行ってるらしいけど、
  20代越えたら、このくらいになって やーらかくならんと。」

俺もさ、もちょっと柔ーらかい方がゾロも楽しーだろうにさ、
いくら食っても太らねぇんだ、これがと、
はぁあなんて溜息までついてしまう奥様だったりし。

 「る、るふぃ?」

意外や意外と、
そりゃあ無邪気な視線で
体も柔らかいのか随分と深く前屈しておいでのお姉さんに
しみじみ感心している奥方の横顔を見やったゾロだったりし。


  “………そういや、
   こいつも一応男ではあるんだっけ。”


そーか、胸の大きいお姉さんが好みか、と。
新しいデータを
その胸へ深々と刻み込んだ旦那様だったらしいです。
女性たちが大胆な恰好で、
元気な魅力を誇示する夏もそろそろ閉幕。
微妙な頃合いに微妙なことへ気がついた
パパさんだったのでございます。







    〜Fine〜  11.08.26.


  *ただ単に やーらかそうだなぁと思っただけでしょうにね。
   セックスアピールがどーのこーのとまで感じ取ってはないって事も、
   ちゃんと説明…する必要もないかな?
(こらこら)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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