月夜見
 puppy's tail 〜その83
 

 “初秋の涼風”
 

 おねさん、こんにちは。
 あんなあんな暑ちゅかったのに、
 今はなんか しゅじゅちいでしゅね。
 (涼しい、と言いたいらしいです)
 朝とか晩とか、
 わんこになったら そーでもないでしゅけぇど、
 そでないまんまは、くしゅんが出ましゅ。
 晩は そーそー、しゅぐに真っ暗になぃましゅし。
 はやく帰んなきゃメですよって、
 マーマや ちゅたしゃんにも言わりてましゅ。
 おねさんも、はやく帰んなきゃメでしゅよ?
 おねさんのマーマのかぁりに、
 カイがメッて しときましゅ。



    ◇◇◇


いや本当に、今年も半端じゃあない暑さの夏でしたが、
そしてそれが、
九月に入っても延々と続くでしょうなんて言われておりまして。
被災地のかたがたは大変だろうなぁなんて案じておりましたら、
その足元を掬うよに、近畿を襲ったのが二つの大型台風で。
殊に、和歌山は大変な被害が出ており、
しかも、少しでも雨が降れば土石流の氾濫が危惧される地域もあって。
そんなこんなで、
いまだに瓦礫の整理に手が出せぬところも累々とあるとかで。
人の迂闊からの事故も居たたまれませんが、
自然の起こす災害は、
人の手がどれほど強く器用になろうと敵いはしない存在なこと、
まざまざ見せつけてくれますよね。


  そういった残念なことが幾らでも撒き起こっては、
  気鬱のタネも なかなか無くなりはしない
  今日このごろではありますが。


 「うわあ〜〜、いいお天気だな〜っ。」
 「いー おてんきっ!」

両腕を思い切り振り上げての天へと突き出し、
うあぁっと歓声を上げる、無邪気なおっ母様のすぐ傍らから、
片方のお手々はママの腰辺りに掴まったまま、
うおーっと真似ごと半分に、
やはりお手々を突き上げている坊やなのがまた、
何ともかんとも可愛らしくて。

 「本当に。晴れてようございましたね。」

土曜日曜や祭日ほど、
予約が入ってのお仕事となりやすい、
アスリートにもてもての、
カリスマインストラクターなお父さんなので。
平日こそお出掛けをすることとなる機会が多いご一家なのだが、
今週は週の頭から曇り空、昨日は一日じゅうの雨。
週末から連休になってのお父さんが忙しくなる前に、
お外が暖かいうち、
どっかへお出掛けしておこうと計画していたものだから。
なかなかに晴れ切らぬまま日が過ぎて、
しかもしかも日を追うごとに気温も下がっての、
文字通り冷や冷やさせられたけれど。
明け方は肌寒かったのも、
陽が昇ればほどよく暖められての丁度いい案配、
きゃあい〜っと駆け回れば あっと言う間にじんわり汗が出て、
上着なんてポイッてほどにも暖まるいいお日和。
この頃ではベビーカートも要らない坊やが、
それでもまだまだどこか覚束ぬ足取り、
お膝も曲げぬまま、とてとたと駆け出したのを、

 「あ、カイ、待て待て。」

転んだらどうするかと、
それでなくとも上背のあるお父さんが、
屈強な見るからに頼もしい体を屈ませ、
待て待てと不器用そうに追うのがまた、
何とも微笑ましい構図だったりし。

 「おはようございます。」
 「あ、本山さんトコのvv」

通りすがりの、お散歩中のわんこ連れのご近所さんなどから、
あらまあと微苦笑されてもいたりするが、
まま、いつものことなのでと、
今更 態度を変えるでなし。
むしろ、坊やを見失っては一大事と
そちらを優先して駆けてってしまった父上に代わって、
ツタさんがこんにちはと会釈をし、
ルフィが“あはは…vv”と、
乾いた笑いでお愛想を振り撒いていたりするのもお約束。
何しろ、

 「キャ〜vv の〜vv」
 「あ、こら。」

はしゃぎ過ぎの度が過ぎてか、
ぱさんと飛び込んだ茂みの中での早変わり、
出て来た時は あら不思議、
真っ白いウェスティくんでした…なんていう、
大人には ひやりもののお茶目もやらかす坊やなので、
目が離せないことこの上なくて。

 『今のところは見つからずに済んでるけどな。』

勿論、そんな“昨日まで大丈夫だったから…”なんていう、
いい加減なことを保証にしてはいけないのは百も承知の皆様なので。
単独での駆けっこから置いてかれては一大事、
ご挨拶は他の家人へ任せてでも追っかけるのがパパさんのお仕事で。

 「きゃあい〜〜vv」
 「カイ〜、待て待て♪」

まま、不器用そうに見えても、
振り切られることはないのが自慢の体力パパだから、

 「それしか取り柄がないとは言わないけれどもねvv」
 「当たり前です。」

奥様、少しはご遠慮を…と窘めるツタさんだったが、

 「何言ってるかな、ツタさん。」

  本人に聞こえたらどうすんの。
  ゾロって、おだてられると
  案外 隙だらけになるタイプなんだって。

 「……それ、誰からお聞きに。」
 「ん? えと、ナミさんだったかサンジさんだったか。」

  おいおい。(苦笑)

そうこうする内にも、きゃーい〜vvとはしゃぐお声が 戻って来、
自分でとたとた走るより断然速い、
お父さんの肩車で戻って来た坊やだったのへ、

 「あ、ずるいぞ、カイだけ。」

俺も俺もと、小さい子供と同じよな頑是なさにて、
まだ坊やを抱えたまんまの旦那様の腕へと まとわりつく辺り。
ほんのついさっきまで、おだてに弱いのどうのと、
ご亭主を捕まえて大人びた言いようをしていたお人がまあまあと。
ついのこととて、ツタさんへ苦笑を誘うのも相変わらずな、
可愛らしいご一家だったりいたします。







  ● おまけ ●


わんこの姿になると、靴も履けない、服も着てはないせいか、
まだ少々、土の上でのお散歩はためらわれるとのお声もある
微妙な土地柄じゃああったけれど。

 「あん、あうん♪」
 「あん、ひゃん♪」

ふさふさの純白の毛並みが
口許の左右でちょみっと跳ねてるところ、
見ようによっては夏目漱石おじさんの立派なお髭にも似て見える。
そんな、いかにもテリアというお顔の中、
黒々とした真ん丸お眸々を潤ませて。
短い四肢をちょこまかと動かし、
てことこ・ぴょこたん、跳ね回るカイくんの鼻先を。
こちらは絹糸みたいなふさふさの毛並みを、
風になびかせ、ふさりさらさらと泳がせながら、
小さなコリーみたいなお鼻の尖ったシェルティさんの、
お尻尾やお顔が先回りしての“とおせんぼ”と立ち塞がっては、
お庭のお外までは出ていかぬよう、それは上手にいなしておいで。
まだまだ小さな坊やだから、
さほどに長々駆け回りたいとまでは思わぬか、
お庭の中での鬼ごっこでも十分楽しめるらしくって。

 《 待て待て待て〜vv》
 《 きゃあぁい〜vv》

秋めいた金色の蜂蜜がけのような陽の中で、
鼻先でひらんと舞う、ママのお尻尾の先が楽しくて、
わぁいわぁいと追いかける無邪気なところが何とも愛らしく。
時折、勢い余って転びかかると、
眺めていたパパさんが ついつい、
腰掛けていた掃き出し窓の縁から立ち上がりかかるものの。

 「あんっ。」

こちらも うるうるしたお眸々で
“ダメダメ”と制止して来るママさんの一声が。
うっと、一瞬で機敏なパパさんの反射へ響き、
引き留める連携もなかなかにお見事。
そもそも、これは大変と
大人が立って来るほどのつまずきじゃあないのだしと、
こういうところで少しずつ、
パパさんへも“子離れ”の躾けは大切…というところだろうか。


  早くお友達とも駆け回れる日が来るといいんですのにね。
  来年の春は、きっと楽しい春になるよと、
  小さなわんこが ころころまろぶように、
  お元気に駆け回る、
  秋の初めの昼下がりだったそうでございます。




    〜Fine〜  11.10.06.

  *カウンター 389、000hit リクエスト
    ひゃっくり様 『パピィ設定、秋の感じられるお話を』


  *すぐ前のお話は夏の終わり頃でしたが、
   まだまだ暑いですねぇという始まりだったはず。
   酷暑をそのまま引き継いで、
   九月もすさまじい残暑になると言われてて。
   確かに月の頭では、
   大型台風が去った後も さして涼しくはならず、
   暑さが居座っていた感が強かった関西ですが。
   雨が多かった東はそうでもなかったのでしょうか?

  *そんな西方も ここンところは、
   朝晩寒いくらい涼しいだの、
   油断して風邪を拾わぬようにだの、
   秋めきを感じる言いようが飛び出す季節に入ったワケで。
   東北の被災地はもっと肌寒いのでしょうね。
   どうかご自愛くださいますように。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

bbs-p.gif**


戻る