月夜見
 puppy's tail 〜その84
 

 “なぜなぜな〜に?V
 

 おねさん、こんにちは。
 なんしか しゃいきん、
 暑ちゅかったり寒ゃむかったり忙しょがしですねぇ。
 わんこになったら しょーでもないでしゅが、
 パーカとか着ないとメッて、
 はだしもメンメよって、
 マーマやパパが追っかけっこしゅるの。
 しょしたら もっともっと暑ちゅくなんのにね。
 変〜んなの。



    ◇◇◇


以上、微妙にもーりんのここ最近の実話でした。
(苦笑)
冷えるから着なさい履きなさいと追っかけてたのに、
気がついたらドッと汗かいてちゃあ意味がない。
そんな微妙さで暑かったり寒かったりするという、
何とも ややこしいお日和が続いてるもんだから、

 「油断していると爪先が冷たくなってたり、
  そこからお腹こわしちゃったりしかねないものね。」

うんうんと鹿爪らしく頷いて見せるルフィではあるが、
そんなことを言ってるご当人からして、
シェルティのるうちゃんの姿でのお散歩から帰るとすぐにも、
半袖シャツに短パンという今の格好へと早変わりし、
その上で“暑い暑い”を連呼した挙句に、
ツタさんへと冷たいオレンジジュースのおねだりをしていたほどであり。

 「おなか?」
 「そだぞ〜?
  暑ちゅいからってお腹出してたり冷たいものばっか飲んでると、
  ここんところがチクチクってして、
  中から痛い痛いになっちゃうんだぞ?」

大きめのカラーボールを小さな両手で抱えて
駆け寄って来たカイくんへ、
季節外れの怪談でも語るよに、
怖いんだぞ〜?っと脅すように言うママなものだから、

 「こあい〜〜vv」
 「あ、ちっとも怖がってないな、こいつぅ〜。」

確かにまあ、満面の笑みで“こあい〜vv”はないもんだ。
(苦笑)
そんな二人に くすすと微笑っているツタさんはといえば、
きれいな黄色も目映い柿の実の皮をくりくり・するると、
そりゃあ器用に剥いておいで。
いかにも美味しそうな秋の味覚だが、

 「まぁだ ニガニガね。」

美味しそうだと寄っても行かぬルフィやカイくんなのが、
ゾロパパやツタさんには実は驚きの現象であったりし。

 『甘いのはこっちですよって、用意もしてあったんですけれど。』
 『う〜ん。匂いとかで判るもんなんだろか。』

そう、今ツタさんが用意しておいでなのは、
このまま吊るして乾かして干し柿にする予定の、
ずんと渋い渋い柿だったりし。
だが、そうなんですよという説明さえしないうちから、
母子揃って苦手なワサビやカラシが相手なときと同じようなお顔をして見せ、
遠巻きにしているばかりだってのが、

 「さすがは野生の感覚だよなぁ。」
 「そぉっかな、そんな不思議なことでもないだろと思うけど。」

今日はジムもお休みのパパさん、
暑い暑いと騒いでいる間はそばに寄らぬ方が善かれと離れていたが、
そんな向こうからチョコチョコッと寄って来ての、
こっちの二の腕へぺとりとくっついて来た奥方だったので、
そんな風に話を振れば、

 「柿自体の匂いも違うけど、
  それより何より、ツタさんが“ごめんなさいね”ってお顔になってたし。
  カイが近寄りかかるとゾロも“あっあっ”て気配になってたし。」
 「…そういうのも いい勘してるからこそだろうよ。」

やっぱり鋭いもんだと、ますますのこと感心し、
きゃ〜いっと駆けて来た小さな王子をぱふりと受け止める。
皮剥きの手をとめたツタさんが、
こちらは甘いのをと
用意しておいでだったお皿を運んで来たのへついて来たようで。

 「うん、甘〜いvv」

ちょっと柔らかくなりかけてる時のが、一番好きだな俺…と、
スリムなフォークに刺した甘い柿をうっとりぱくつくお母様へ、

 「ねー、なーんで ニガニガのもあんの?」
 「んん??」

なんでなんでと小首を傾げる坊やなのへ、

 「うん、干したら美味いって判ったからなんだなvv」
 「……ルフィ。何か変だぞ、その理屈。」

だって そうなんじゃん、どうやっても美味しくないなら駆逐されてるって、と。
結構難しい言い回しもした上で、

 「何てったっけ? インカ論?」

強いとか美味しいとか、
競争に勝った方が生き残って自分の仲間を増やすアレ。
ああ、そりゃあ“進化論”って…いうんだがと応じかけたゾロパパが、
あれれぇ?と微妙に眉を寄せてしまう。

 「…何でそんな難しいこと知ってるんだ?」
 「んっと、昔にミホークのおっちゃんに教わった。」

象の鼻が長いのもキリンの首が長いのもそういう理屈だって。

 「だからな、俺らが数減っても生き延びてるのはサ、
  生命力が強いからか、世の中から必要とされてるからかなんだぞって。」

そんなゆってたもんと、嬉しそうににっぱーっと笑われてしまっては、

 “……親父。”

要らんところで点数稼いでんじゃねぇと、
息子さんが歯軋りしておりますが…まあそれは いっか。(こらー)

 「…まあ、進化論が出て来る話かどうかはともかく。」

んんんっとあらたまったように咳払いをしたお父さん。
お膝によじ登って来た小さな坊やの、
ママに激似の愛らしいお顔へちょっとばかり蕩けつつ、

 「苦いのも生き残ってるのはあれだ。
  人間の味覚だけが左右するもんじゃあないからだと思うぞ?」

そこは正しておかねばと思ったか、一応の説明を繰り出しておいで。

 「?? そうなのか?」
 「しょーなの?」

ドングリ目やふやふかな頬のそっくりな、
そりゃあ可愛い子二人から見上げられたのへ、
うんうんうんと多いめに頷いたお父さん、

 「タデ食う虫も好き好きって言い回しがあるように、
  そりゃあ苦い苦い草だって、それが主食だって虫は案外といるもんだし。」

そうと説明されたのへ、
ああ…と納得がいったものか、お顔を上げたルフィママ。

 「そういや、
  罰ゲーム用の苦いジュースの素の野菜とか、やっぱ苦いんだものね。」

そうそうと、ツタさんも頷いたところへの後押し、

 「トウガラシなんてのは、
  人間だけじゃない、どんな虫でも動物でも食えない辛さなんだが、
  実は鳥には大丈夫なんだと。」

 「??? なんで?なんで?」

カラシ? そだよ、カレーより辛い辛いのだよ〜と、
小さな王子へ怖いものででもあるかのように説明したお茶目なママさん、
でも、なんで鳥は平気なのか?というところは
パパに頼っての“どうして?”というお顔を向けたれば、

 「鳥の舌には味を感じる機能はないらしくてな。」

  甘いも辛いも判らないから、
  そりゃあ辛いトウガラシだろうがシシトウだろうが平気で啄めちまう。

 「…そっか。じゃあ、トウガラシは鳥しか食べないんだ。」
 「そうして、遠くまで運んでもらえるから、
  滅びるどころか繁殖しまくりってわけだ。」

じゃあ渋柿も鳥が食べてくれるから、
大きい実を作るのが堂々と生き延びて来れたのかなぁ?
来れたのかなあ?…とばかり。
なあなあと、ねえねえと、
かわいいママと坊やに詰め寄られの擦り寄られ、

 「さあてなぁ?」

にんまり微笑っておいでのお父様なのへ、
随分緩んでおいでだと、こそり笑ったツタさんだったなんてこと、
ええもう、そんな、
放っておいた方が面白いことだもの、
わざわざ暴露したりなんかするもんですか。
(笑)


  物知りお父さん、
  今月はお誕生日もあることですし、
  どうかそれまでは、威厳を保ってくださいませね。
(こらこら)





    〜Fine〜  11.11.07.


  *何の話だか…なネタですいません。
   でもね、アクが強くて渋々の柿が、
   なのに生き残れてるのって不思議だなと思いまして。
   でも、その柿シブは、
   例えば耐水性が出るからと
   和傘や特殊な和紙の加工にも使われて来ましたし。
   干してみたらばあら不思議、
   タンニンが抜けて、それはそれは甘い、絶品の果実になるそうで。
   上手いこと出来てはる。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

bbs-p.gif**


戻る