月夜見
 puppy's tail 〜その89
 

 “あちあちの夏”
 

    あちゅい…………。





    ◇◇◇


一体 何遍使ってるんだという、
夏にはお馴染みな始まりようですいません。
(苦笑)
それにつけましても、この夏もお暑うございますね。
昨年はそれでも、エアコンの室外機からの熱風が控えられたか、
ヒートアイランド現象とか、多少はマシだったらしいと聞いておりましたが。
今年は問答無用という勢いでの猛暑への突入で、
熱中症でばたばたと倒れる人も続出とか。
それを聞いちゃうと、
体のためにはエアコンも使った方がいいのかもと
ついついリモコンへ手が伸びてしまうというもので。
ウェスティくんの姿だと、汗をかけないので暑さも増すものか、
寝ている間にわんこに戻ってしまうおちびさん、
愛らしい舌をちょろりと出してのお目覚めを迎えると、
誰に言われずとも、まずはと
メタモルフォゼするのが日課となりつつあるようで。

 「  う〜っと。」
 「あ・これ、カイくん。」

わんこの姿からの変化(へんげ)は、
イコール裸んぼさんでのおはようさんでもあったりし。
朝から暑い日なんぞは、
早い頃合いから目が覚めたのを幸い、
こっそりとお部屋から出て来る坊やなのを
これまた見越してのこと、

 「待ちな。」
 「やぁも〜んvv」

恐らくは“ヤダも〜んvv”と言いつつ逃げ回る坊やなのを、
それをルフィママがパンツとTシャツを手に追い回すという、
何ともにぎやかな鬼ごっこから始まる
ロロノアさんチの朝だったりする今日この頃。

 「ほら、捕まえた。」
 「きゃうっvv」

わんこになった方が あんよは早いが、
そうなるとたちまちアチアチになる。
毛並みのせいもあるし、わんこは汗をかけない体で、
熱を発散させる仕組みが人の体ほど発達してないからだとか。
でもね、坊やのカイくんだと、
ママどころかツタさんにもやすやす捕まってしまうので、
う〜むむと お口をひん曲げてしまう考えどころだったりし。

 「あらあら、今朝はまたお早く捕まりましたねぇ。」
 「へっへぇ〜vv」

子供用のパンツと風通しのいいサッカー地のTシャツという、
お子様ならではな涼しいいで立ちを着せられて、
そちらさんは一応は大人のはずなのに、
さほど代わり映えのしない、タンクトップに短パンという
なかなかせくしぃな恰好のルフィママが、
小さな王子を抱えて向かった先では。
ツタさんが朝ご飯を用意してお待ちかね。
冷たいヴィシソワスープと黄桃とバナナのミックスジュース、
炒り玉子のと、レタスとハムのサンドイッチに、
ホイップクリームを添えた薄焼きパンケーキ。
トマトとキュウリのサラダは自家製で、
今年のトマトは甘いのがよく出来ており、
カイくんもおやつ代わりにパクパク食べておいでの大好きな逸品。

 「あー、ぶどーvv」
 「ホントだ。大きいの、もう出てるんだ。」

デラウェアは割と早くから見かけるが、
巨峰みたいな大きさの、緑色のは今年初。

 「今朝方、スーパーの朝市で見つけたんですよ。」
 「朝市っ!」

これも一種の“サマータイム”の導入か、
九時十時どころじゃあない、
八時前という早い時間から
もうお商売を始めておいでのスーパーが増えたここいらで。

 お客の取り合いでしょうかねぇ。

 買い物難民とかいう、
 近所にお店がなくなって
 お年寄りとか困ってる地域もあるって聞くのにねぇと

大人らしい会話を紡いでいるお二人じゃああったが、

 「あ、こらこらカイくん、
  ハムだけ食べちゃあダメでしょが。」
 「あらまあ、
  ソーセージとか炒めれば良かったですかね。」

あむあむあむと
小さなお手々で掴み取ったハムを堪能している王子様へ。
朝から食欲があるのはいいことだと、
お行儀は二の次になってしまうのも、
このお家ならではの順番なのかも?

 「何たってパパが甘いしvv」
 「……奥様。」

だってゾロってばカイが何やっても褒めるんだもの。
叱られるからって嫌われる役回りは、いっつも俺とツタさんじゃんかと。
ぷんぷくぷーと頬を膨らませる判りやすい奥方なのへ、

 “そういう奥様へだって大甘な旦那様ですのにね。”

暑いから寝苦しいと駄々をこねれば、
夜風にあたろうとお散歩に連れ出してくれる。
暑いけど、だからって触ってくれないのはヤダなんて、
ご亭主のお膝へ跨ったまま、
そりゃあ甘いお言いようをなさるのへ。
耳まで赤くなりつつも、

 『…こぉら。』

奥方の丸ぁるい頭を大きい手で引き寄せて、
おでこ同士をくっつけてみたりもする。
照れ屋でシャイなご亭主が、
ツタさんも通りすがりかねない時間帯や場所での甘えへ、
それでもちゃんと睦みの応対をしているのって、
途轍もない大胆な冒険にも等しい行為なのに違いなく。

 “忍耐をやしなっておいでなのかしらね。”

くすすと微笑う、余裕のツタさん。
今朝はまだおやすみの旦那様にも、そろそろ朝ご飯の支度をせねばと、
ふっくら身の厚い鮭ときゅうりの浅漬け、
エノキと豆腐のおみそ汁の仕上げをしにキッチンへ立ってってゆき。

  「……………あ、ゾロおはよvv」

入れ替わりに寝室から出て来た、大あくびつきのご亭主へ、
にゃは〜vvと微笑って飛びついた
大小でそっくりな愛らしい家族のお二人。

 まだまだこれからが本番の夏ですが、
 どうかお元気でお過ごしくださいませね?


   
暑中お見舞い申し上げます。




    〜Fine〜  12.07.31.


  *いやもう、
   あまりの暑さにワープロの前に座るのも侭なりませんで。
   学校の宿題とか、ほにゃららゼミのドリルとか、
   毎日 何十分かずつ
   机の前に座らにゃならないお子様たちも大変だろうなぁ。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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