月夜見
 puppy's tail 〜その90
 

 “メンメのメ”
 

 〜〜〜〜〜〜。
 ぷうぷうぷう。
 今日は おねさんともお話しませんの。
 カイ、プンプンですもの。
 だって、カイはいい子なのに。
 なのにネ、パパが メンメてゆったです。
 もう、ぷぅ〜〜〜んん、だ。



    ◇◇◇



判りにくいです、坊ちゃん…という始まりようですいません。
いつもご機嫌さんな坊やですのに、
この暑さのせいでしょか、
ちょいと何かが斜めに曲がっちゃってるようでございまし。
ソファーへ上がり込んで、
小さな体を鞠のように真ん丸に丸めているおちびさんなのへ、

 「まあ、暑いのは誰しも同じなのですし。」

それを理由にしても良いことと悪いことがあると、
ツタさんが ちょっぴり困ったような笑い方になったのもまた道理。
それへと大きく頷くと、
むうむうとお口を曲げてしまっているロロノアさんチの王子様へ、

 「そだぞ、カイ。」

ルフィママが傍まで寄ってのお声を掛ける。
曰く、
母ちゃんだってな、凄げぇ暑いけど そんでも、

 「大人は軽々しく裸になっちゃあいかんから、
  どんな暑くても上も着てなきゃいかんのだ。」

 「………奥様、我慢自慢してどうしますか。」

ツタさんがついついツッコんだのは、
むんと胸を張ったその姿が、
女の子用のチューブトップにジョギパンという、
威張った割に 裸同然だったこともあってかも知れぬ。(笑)
第一、

 「カイ、裸んぼさんでメェゆわれたのと ちやうもの。」

むむうとますます口許を尖らせる王子様。
そう、今朝方の坊やがついつい発揮した腕白ぶりが、
日頃は何をやらかしても、甘いこと この上ないパパの
滅多に働かぬお怒りセンサーへと触れたらしくって。

 『カイ、ちょっと来なさい。』

ぱたたた…とお元気に駆けてったのを呼び戻されの、
大きなお手々でやや強引に、
向かい合うようにと座らされのして。

 『ツタさんとママに ドンしただろうが。』
 『ふや…。』
 『後ろ向いてるところへぶつかったら危ないよな?』
 『うっと…。』
 『何もしてないのに ペチッてされたら、
  それもいきなりだったら、カイだってびっくりするだろうが。』
 『ふみ……。』

もちょっと細かく言うならば。
ぶつかられた側が もしも何か抱えていたらば、
それがぶつかったカイくんへも降りかかっていたかも知れぬ。
取り込んだばかりの洗濯物くらいなら、
わあびっくりした……で済むのだろうが、

 『煮えたぎったお湯だったらどうするか。』

そうと続いたお説教へ、
言い合わせたようなほぼ同時、
“それは有り得ない有り得ない”と、
顔の前で手を煽ってパパさんへとツッコんだ、
ツタさんとルフィママだったのは言うまでもなくて。
そうですよね、
どんな一般家庭で
そんな危ないもの抱えてリビングを横断しますかい。(う〜ん)
ただまあ、カイくんもそろそろ赤ちゃんとは言えないお年ごろ。
ドンッとぶつかったなら“ごめんなさい”と言えるお行儀を
身につけさせるのに丁度いい頃合いでもあって。
これは見逃せぬとしたらしい、
実は実直誠実なゾロパパだったのだけれども。

 『う〜〜。』

ご機嫌さんだったのを、いきなりお説教に運ばれて、
“何が どうした”が
今一つ繋がっていなかったようであり。
突然パパが怒り出したのへ、
まるで対抗するかのように、
真ん丸な頬っぺをぷくりんと膨らませるばかりになっちゃったようであり。

 「カーイ、パパに“ごめんね”は?」
 「ちらない。」

間の悪いことには、そんなお説教の最中にお仕事先からの電話が入った。
待ってなさいと言われたのに、
ぷいっと膨れたまま勢いつけて立ち上がった王子様、
お庭へ逃げてってのそれっきり。

 「ゾロも書斎に入っちゃったからねぇ。」
 「ですねぇ。」

何でも、
盆休み明けに、例のアスレチッククラブへ、
次世代五輪候補の若手アスリートが何人か、トレーニングに来るとかで。
施設を使うというだけならどこでも同じ。
有名なコーチに付いてほしいとのご所望である以上、
練習メニューを練らねばならなくなったらしいのだが、

 「……………ふみ。」

とてとて駆けてってギュウすれば、
ママでも“おっ、やるか?”って遊び相手になってくれるけど。
ギュウしたまんま頬っぺスリスリしたらば、
ツタさんだと“あらあらおネムですか?”って判ってくれるけど。
ママとの鬼ごっこ&くすぐり攻撃も、
ツタさんの“ねんねんよいこ”も大好きだけれど。

  でもでも、あのね?

お膝に飛び乗ったそのまま、
かたかたのお腹蹴り蹴りしても
“あっはっはっ”て笑うパパの方が。
そのままひょーいって、
カイのこと頭の上まで片手で楽勝で抱え上げちゃって、
手でも足でも頭へ届いたら、パパの分のおやつの半分やるぞごっことか。
今日は出来ないのかなぁって思うとネ、

 「〜〜〜〜〜〜にゅい。」

そりはやっぱり寂しいなぁって、
思ってしまうカイくんらしく。
そはーの上も一人じゃ広すぎ、
パパの大きいお手々が恋しい。
小さいお電話の む〜〜んんってゆう音が遠くからして、
でもって、パパが何かゆってるのが聞こえて。
そいからそいから、お二階のお部屋のドアが
ガチャッて開く音がしたから、あのね?
玄関の傍の階段のトコまでを たかたかたかって駆けてってね?

 「……じゃあ、20日からは毎日出勤になるんだね。」
 「そういう事だな。」

ママとお話ししてるパパを、
そおって覗いて、それから…あのね?


  あのねあのね? パパ、あのね?
  カイね、あのね……?





    〜Fine〜  12.08.03.

  *カウンター 405、000hit リクエスト
    ひゃっくり様 『カイくんを真剣に叱るゾロパパ』


  *すいません、叱るところがあんまり書けてません。
   相変わらず子煩悩パパです、
   そんなネタでいきなり叱ってもと、
   ルフィにまで呆れられてますが。
   そういうもんです、不器用ですから。
   間の悪い電話のせいで、
   資料整理に取り掛かりつつも、
   実はパパもまた、胃が痛かったりしたんですぜ。
   どこの筋肉バカだ、この野郎くらい思って
   コーチングに取り組んだかも知れずで、
   カイくんの方から“めんね?”と歩み寄ってくれたこと、
   感謝しなければなりません。(そんなオーバーな・笑)

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