月夜見
 puppy's tail 〜その92
 

 “大人の日?”
 

 おねさん、おしさしぶいでしゅねvv
 (注;お久し振りですねと言ってるようです。)
 今日は“せーじんの日”って ゆう日だそうでしゅ。
 大人になったおにさん・おねさんへ
 おでめとーって言っておゆわいすゆのvv
 (注;お祝いするのと…)




    ◇◇◇


これも“ハッピーマンデー法”で第二月曜になってしまった祭日で。
そもそもは一月十五日、小正月だったということ、
お若い人は“覚えてない”どころか“知らない”んじゃなかろうか。

 「お年玉つき年賀はがきの抽選もその日でしたよね。」
 「そうそう、そうでしたよね。」

そっちは第三日曜だったかにズレちゃいましたね…と。
ツタさんとゾロという“大人”の二人が口にすれば、

 「子供の日は、
  こいのぼり揚げたり 柏餅食べたりするけど、
  成人の日だと何するの?」

起き出したばかりな海(カイ)くんのキッチンへの突撃を
お廊下で難無く受け止めたそのまま、
抱っこして来たルフィママがひょこりと小首を傾げれば、

 「うや?」

よく判ってはないけれど…それでも、
カイくんもまた
そっくりなお顔をキョトンとさせて、
かっくりこと小首を傾げて見せるお揃いっぷり。

 「そうですねぇ、特に広く決まってはないですが。」

割烹着も貫禄でお似合いのツタさんが、
えっとぉと宙を見上げてから、

 「昔で言う“元服”ですから、
  神職さんのお祓いを受けたり、
  その折にお神酒をいただいたりするとか。」

 「あとはまあ、
  地元の公民館なんかでお祝いの式典があって、
  市長さんや招待されてた有名人の祝辞を聞かされて、
  粗品が配られるくらいだな。」

ちょっとおざなりな今時事情を付け足したのは、
それへ渋々付き合ったの、思い出したらしいのが伺えるゾロパパで。

 「パパ、ど〜んっ。」
 「おおお、凄い威力だ。」

ママの腕の中から、向かい合ってたパパの方へ、
延ばしたお手々を飛び越しての
抱っこしてくれるという呼吸に乗っかって。
え〜いっと勢いつけてという、飛び移り方をした坊やだったのへ。
そんなやんちゃぶりを拾ってやってのこと、
“おおう”と大仰に驚くサービス満点のパパであり。

 「俺のときは、何だったかな。辞書と印鑑じゃなかったかな。」

ああいや、印鑑は高校卒業のときだったな。
万年筆とボールペンのセットだったかなと。
粗品を思い出してたパパさんなのへ、

 「食べるものとかはないのか?」

天真爛漫なママさんとしては、そっちが気になるご様子。
とはいえ、訊かれたゾロにははっきりした記憶は無さそうで。
短く刈った髪をもしゃもしゃ撫でくりつつも、

 「う〜ん、何だったかなぁ。」

無難に紅白まんじゅうだったように思うんだが、
何しろ甘いものはあんまり…と、
当時から左党だったらしいパパなので、
誰かに進呈したものか、食べた記憶がないらしく。

 「小正月なら小豆がゆですけれど。」

小豆や、土地によってはカボチャを入れたお粥や、
お餅も入れた雑煮もどきを食べる風習があると、
ツタさんが言葉を添えたので。

 「わわっ、俺それ食べたいvv」
 「はい、ご用意しておりますよ?」

相変わらずに卒のないツタさん、
花より団子、色気より食い気な奥方なのを
百も承知なところが、
手配りの周到さの肝なのですね、きっと。

 「♪♪♪」

朝ご飯と一緒に温めて来ますから少々お待ちをと、
キッチンの方へ去っていったツタさんを見送り。
朝のキッズ向け番組をと、いつもの調子でテレビをつければ、
この時間帯のワイドショーでも、
一日前倒しになっていた成人式の模様を軒並み紹介しておいで。
晴れ着姿の女性らは華やかだし、
古式ゆかしき平安時代の装束で
“元服式”を催したところもあったらしく。

 「大人かぁ。」

この寒い頃合いでも
“暖房してるじゃんか♪”とばかり
Tシャツに木綿のサブリナパンツだの、
時にはトレパン(注;パパのお下がりvv)だのという、
何とも軽快ないでたちの多い、お元気なママさんとしましては。
着飾るのがうらやましいとは思わないらしいものの、
それでも何かしら、
食べる物以外へも感じ入るものはあったようで。

 「俺の場合は、
  カイくん産んだからもう大人だよねvv」

微妙に人の和子ではない存在のママさん。
年齢的な成長はそうそうズレてるワケではないし、
幼いころは父上との流浪の生活をしていて
世間というものも多少は知っている。
また、こちらさんでの生活が始まったころには、
今は亡きゾロのお父上から、
基本的なお勉強も見てもらっているので、
良識的な部分も十分だけれど。
普通一般の同世代と全くの同じかといや、
本人にもちょみっと自信がなかったりするものか。
こういう言い方で言ってみたりするのがその現れかも。
だっていうのに、空気を読むのが微妙に苦手な旦那様、

 「う〜ん、そうと一概に言っていいものか。」
 「なんだよぉ

ぷんぷくぷーと膨れた奥方、
カイくんを抱えても広さ余りあるご亭主の懐ろを、
非難の籠もったそれ、
ぐうにした拳で とんとんとんと叩いたものの。
相変わらず率直なんだか、
いやいや、そうではなくてと、
珍しくも言葉を選んだ方がいいかなぁと躊躇したものか。
そっちの思慮からだったかもしれない その証拠には、

 「俺だってまだ大人と言い切れるかどうかだしな。」

そうと付け足した雄々しいご亭主。
ゾロとしては、半分くらいは謙遜で言ったんでしょうにね。

 「あ、それって、ぴーたん・しんどろんって言うんでしょ?」
 「…もしかして“ピーターパン・シンドローム”のことかな?」

微妙に古い言い回しだし、そういうんじゃないしと、
突っ込みどころ有りすぎなお返事へ、
パパさんの頼もしい肩がカクリと落ちる。
こういうところも
やっぱりやはり相変わらずなお人たちみたいです。





    〜Fine〜  13.01.14.


 *こっちも随分とお久し振りですね。
  東京では大雪だそうで、
  とんだ成人の日になっちゃいましたね。

 *とて。
  今のところは
  よそのお兄さんたちの成人式より、
  カイくんの七五三の方が大事なご一家ですしねぇ。
  (今年はいじれなかったけど、毎年のことだし。)笑

  「あ、でも、もしかして俺って まだ成人式前かもしんない。」
  「それはそうかもな。」

  こぉんな可愛いんだしと、目尻が下がりかねないパパだが、

  「だったら紋付きハカマを着るんだよなvv」
  「もんちゅっきvv」

  カイくん、来年の七五三はママとお揃いでやろうな?
  うっ、おちょろいvv

  …なぁんて、
  何だかやっぱり大きく斜めに勘違いされてたりしてな。(笑)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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