月夜見
 puppy's tail 〜その93
 

 “冬の朝も楽しvv”
 

 おねさん、お元気してましゅか?
 カイはネ、いっぱいぱい元気でしゅ!
 でもネあのネ、きのーはサムサムだったのに
 今日はホカホカになったりすゆのって
 な〜んか イヤよねぇ?
 でもでも あーたは またサムサムなんだよって。
 誰がそんな いじゅわるしてるの?
 見つけたらカイにゆってね?
 そんな悪い子、カイがカプッてしちゃうんだもん。
 ホントだよ?



    ◇◇◇


なかなか落ち着かない気候なのは大人にとっても辛いところで、
出来ることなら
ホンマにカプッってしてほしいところですが。(おいおい)
叶わないことを、
しかも幼子に頼ってどうしますか…ということでオチとして。

 「ちゅたさん、ママは?」

ウェスティの姿で起っきしたものの、
サムサムな朝なのでそのまんまだと鼻の頭がムズムズするとか。
くしゅんと可愛らしいクシャミを一つご披露してから、
するするするっと坊やの姿へ変化(へんげ)した海(カイ)くん。
クシャミを聞きつけて
お着替えを手伝いにと子供部屋まで来てくれたツタさんと、
さあ ご飯だとリビングまで出て来たものの。
パパもママもいないのへ、あれれぇ?と小首を傾げた小さな王子。

 「パパは“おしもと(お仕事)”ね? ママは?」

リビングに居ないってだけじゃあなく、
お家の中にも気配がないのが、さすがはわんこで判るのらしく。
その割に“あれれぇ?と、ソファーの後ろやテーブルの下などを、
小さなその身をもっと丸々と手鞠のように丸め、
覚束ぬ所作でいちいち覗き込む姿が何とも愛らしい。
大きめの家具の陰を1つ1つ確かめながら、
ねえねえ何処いったの?と訊く坊やなのへ、

 「じきにお戻りですよ?」

温かい蒸しタオルをほわほわと広げ、
小さな坊やのお顔を拭って差し上げておれば、

 「あうっ、あんわんっ。」

お元気なお声が玄関から届き、
はうはうという吐息とともに、
小さな存在が たかたったと駆け込んでくる。

 「お帰りなさいませ。」
 「ま〜まvv」

リビングまでを真っ直ぐ駆け込んで来たのは、
絹糸のような毛並みも優雅な、
坊やととっつかっつという大きさの、
小さなコリー、もとえ、
シェットランド・シープドッグのるうちゃんで。
胸元や腹、首条などという部分には
目映いばかりの白地がベースで、
それ以外の頭や背中には
黒っぽい濃茶や淡茶がそれは可愛らしく配色されており。
中折れのお耳も愛らしくのひょこひょこ揺れるまま、
こちらさんもお元気なフットワークで駆けて来たのを、
家人もそれは明るく出迎えて。

 「お外はお寒かったでしょうに。」

そう言いつつのツタさんから、
坊やが抱き着くのへと一緒くたにかぶせられたのは、
玉子色の起毛が暖かそうなフリースのブランケット。
小さな背中へふわっとかぶさったのとほぼ同時、
それほど薄手の品でもないのに、
内側が透けるほどの強さでぽわんっと一瞬光ってののち、
無邪気なお顔が折り目の首からにょきっと出て来て、

 「たっだいま〜vv」

実は二つ折のポンチョになっているブランケットの四方から
細っこい手足をにょきにょきっと出しつつ、
小さな王子を抱っこしたのは、
坊やに瓜二つのお顔も愛らしい、当家の若奥様だったりし。
寝起きの坊やもそうだけれど、
わんこの姿から戻るときだけは裸んぼさんなのが
この時期の“変化”の唯一の難点で。

 『夏ならいいのか。』
 『お風呂場へ直行すればいいだけじゃんvv』
 『じゃんvv』

大小お揃いの可愛いお顔に見上げられては、
そんな物言いはよしなさいとも叱れない…と、
惚気混じりに言い訳しても通じませんと、
これはパパさんの負け〜っという判定を下したのも
実はツタさんだったのだが、まま それはさておき。

 「明日あたり、また雪になるって。」

箱根のお山は標高も高い。
ゆえに既に結構な率で降っては積もりしているが、
ここいらはどちらかというと平野部の市街地寄りなので、
北国ほどの…根雪がいつまでも消えないとか、
雪かきしないと家に入れなくなるとかいうほどの大変さはなく。
暑いのは苦手だが寒いのはへーきだぞという家人らにしてみれば、
むしろ、

 「毎日降ってくれてもいいのにな。」

ツタさんのみならず、
筆者もひぇえ〜っと震え上がりそうな暴言を
けろっと吐いて下さる豪傑揃いでもあったりする。
とはいえ、

 「まぁま、雪こんこって誰がゆってたの?」

襟元や袖口からちらりと覗く、インナーシャツの濃ピンクに合わせた、
淡色シュガーピンクのモヘアのセーターと、
ラフでルーズなシルエットの、
フリースのインナーパンツをちょちょいと着る間だけ、
一旦ソファーに座っててねと降ろされたカイくんが、
ねえねえとお膝で立って来て訊いたのがそんな一言で。
誰が微妙に“だえ”になってる、
まだまだ舌っ足らずな坊やにそうと聞かれ、
んん?と、大きなお目々を見張ったルフィママだが、

 「誰かから聞いたんじゃねぇって。」

あっはっはっと愉快そうに笑み崩れてから、
可愛いなぁカイはと、ふわふかなお胸へ抱っこし直してから、

 「何となくな、風の匂いとか湿り気とかから判るもんなんだ。」
 「によい?」

あれあれ? でもネあのネ、
ママがいないのは によいで判ったのよ、カイも。
…という下敷きがあったものだから、
なのに、カイも大好きな雪こんこのによいは判らなかったのねと、
そこがまたまた、坊やには不思議だったようで。

 「???」

人の和子の姿じゃなく、ウェスティのまんまでも、
ちょこりと低かったカイくんのお鼻では無理なのかなぁと。
真ん丸なお顔、かっくりこと傾けてしまう、
ロロノアさんチの小さな王子様だったのでした。



    〜Fine〜  13.02.05.


 *シェルティの姿のルフィママに
  ご無沙汰してるなぁと思いまして。(笑)
  人間だって年が行くと、
  古傷が痛んで来たんで 雪とか雨とか寒くなるなとか
  何となく判るようになるんですよ?
  いやいや、まだ尻尾は二つに裂けてませんが。(おいおい)

 *それにしましても、この気温の乱高下って何ごと?
  三月とか もっと暖かくなってから、
  なのに不意に雪が降る日があってびっくり
  …っていうのなら覚えもありますが。
  まだまだ寒くて用心しいしいって時期に花見の暖かさになって、
  そこからのォ、雪とか?
  サプライズですか? そういうのは要りませんから。
  少なくとも日本は
  自前のびっくりなあれこれで今のところ手一杯なので、
  これ以上振り回さないで下さい。ホンマです。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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