月夜見
 puppy's tail 〜その94
 

 “かまえ!”
 

 おねさん、お元気してましゅでしょか?
 なんか あのね、
 こないだから風がびゅうびゅうって、しゅごいよねー。
 お窓の外の、マキってゆう木の葉っぱがネ、
 ブルブルブルッて、
 かじょえ切れないくあいのバイバイバイバイって
 いっぱいぱい ふゆえる(震える)んだよね?
 わーって、しゅごいーて、お窓にくっついてたら、
 頬っぺが ちめたくなっちって、
 パパに メェよって怒らりちったの。
 んでも、そんな ちめたくなかったのにね。
 こえって“はゆ”が来てるからなんだってよ。
 早ぁく来よ来よvv



    ◇◇◇


強い風が吹くと、激しい雨が降ると、
ちょこっと前だったら
“風雪や凍結に厳重に注意”と叫ばれていたものが、
ここのところは“春が近いですねぇ”と続くようになった。

 「はゆ♪」
 「そだなぁ、何か嬉しいよなぁvv」

愛しい坊やから、
ふくふくの頬っぺにまろやかな笑みを頬張って
そりゃあ元気よく宣言されては、
ママとしてはうんうんと頷くしかない
慶兆的ご報告の他ならず。
えーい、このヤロがぁ♪と
飛びついて来た坊やを軽々と抱え上げ、
薄い胸元へむぎゅうと抱え込むお母様だったりし。

 「……薄いは余計だ。」

聞こえましたか、すみません。(苦笑)
それはともかく、

 「こんな一気に暖かくなると、なんか調子が狂うよな。」

リビングのソファーに腰を落ち着けたルフィさん、
さすがはお母さんだからか、何とも一丁前なことを言い、

 「さようでございますね。」

お昼を回るころには、外にいると小汗をかくほどですものねと。
そのお外にある家庭菜園で、
そろそろ毎朝摘める頃合いまで育ったキヌサヤ、
ざっと洗って水を切ったののスジを取っておいでのツタさんなのへ、

 「あ、俺も♪」

さっき手は洗ったからいいよねと、
ルフィママが大きなザルへ手を伸ばせば、

 「おまめプチプチvv」

スジ取りなんてな細かい作業のお手伝いは
まだまだ無理だけど、でもね。
摘むの、カイも おてちゅだい たぁのと、
真上になってるママを
嬉しそうに見上げる坊ちゃんだったりし。

 「そっかぁ、カイも早起きさんだもんな。」

残念ながら、
そっちは寝こけていて、お手伝いどころじゃなかったママ。
いい子だなぁと
塞がってる両手の代わりにやわやわの頬っぺで、
坊やの頭へグリグリと頬擦りして差し上げる。
キヌサヤはうっかり摘み損ねるとどんどん太く中の豆が育ってしまい、

 「厳密には違うらしいけど、
  あれもグリンピースなんだってな。」

厳密には“グリーンピース”ですが、お母様。
さすがにツタさんはそんな大人げない揚げ足取りもしないまま、

 「そうですね、
  種類が違うというより、
  グリーンピースとして食べやすい品種に
  改良されたのがあるということなんだそうですが。」

関東では“うすいまめ”とか言うのでしょうか?
鞘が平たいうちに摘む、
スイートピーみたいな白い花が可憐な緑のお豆。
毎年結構な株を栽培し、
煮物や茶碗蒸し、三食どんぶりなどなどへの彩りの他に、
含め煮にして玉子でとじたり、
わざと取り置き、膨らませたので、
豆ご飯も炊いてしまわれるツタさんで。

 「豆ご飯っ!」
 「まめごあんvv」

そっくりさんな母と子が、続けざまにお声を上げたのへは、
さしものツタさんもついつい“あらまあ”と吹き出してしまい、

 「それこそ、
  お店に出ているグリーンピースで良ろしければ
  今夜にでも炊けますが。」

リクエストお受けしますよと一応聞けば、

 「やだっ。」 「やぁの。」

まずはママさんがぶんぶんとかぶりを振り、
坊やもそれを真似っこして見せる。
お揃いの反応を、お顔を見合わせて確認しあい、
ねぇ〜っと笑い会うのがまた、子供っぽくて何とも愛らしく。

 「やっぱ取れ立てのを食べるのが一番いいんだな。
  ウチのがまだなら待つぞ。」

 「まちゅぞ。」

こんなことへと大威張りする、
何とも天然無垢なお母さんと坊やであり。
ああもう、なんて可愛らしいのだか、
キヌサヤさんの他に、グリンピースも植えれば良かった、
こうなったら早く沢山実をつけてと、
ツタさんが思ってしまったのも無理はなかったのでありました。




       ◇◇◇


毎朝、お庭の一角、勝手口近くの菜園まで、
今ならキヌサヤ、夏ならキュウリやトマトを、
ツタさんと一緒にキャッキャと収穫しているのがカイくんならば。
以前は結構早起きしていたものが、
そういやこの頃では
すっかりとお寝坊さんな身となっておいでのお母様であるような。

 「だって、しょうがないじゃんか。」

冬場はあのな、
寒いからってゾロにいつでもスリスリくっつけたし。
ルフィは子供体温だよななんて、
偉そうに言って、
でもってスケベな手でぎゅぎゅうって
抱っこしてくれてたゾロなんだけどもな…と、
大甘な お惚気トークへ突入かと思いきや。

 「春は何かと忙しいんだと。」

  は、はいぃ?

 「だから。
  ゾロがお世話する世代の学生さんたちは、
  春休みってゆーのが長いから。
  何人もがコーチの依頼して来て、
  プログラムを組むお仕事とかも増えて、
  忙しくなっちゃうし。」

あ、そういうことですか。
ソファーの上で、ひょろりとした脚をお膝のところで抱え、
ぷぷ〜いっと下唇を突き出して、
せっかくの春なのにぃと、不満でございますと、
そんなお顔になったルフィ奥様。
あれれ? でもでも、
旦那様が忙しくなることと、お寝坊さんになってしまうことと、
一体どうつながるんでしょうか?と、
まだ何かすっ飛ばされてるようなお言いようの、
真相はといえば…。

 「……ぞ〜ろ。」

陽も傾いて、ご飯やお風呂も堪能し、
小さなカイくんもお目眸をこしこししつつ、
大人の皆さんへ“おやしゅみなさい”をしてしまい。
こちらも二人揃ってお二階のご夫婦の寝室へと引っ込んで幾刻か。
今日はさすがに、
コーチングのためのスケジュールだの
トレーニングメニューの構築だのとかいう
“お仕事”に手をつけている旦那様ではなさそうなのにね。
リビングのよりは一回り小さいテレビ、
じいと見やっておいでのパパさんの、
胡座をかいたお膝へもぐり込み。
なあなあ、ねえねえと、
堅いお胸に頬をくっつけたり。
いつも背中まで腕が回り切らないけど
今日こそは挑戦だと、頑張って抱きついてみたり。
微妙に反応が薄い、スポーツ馬鹿のご亭主なのへ、
業を煮やさないことをこそ褒めたくなるほど、
構え構えとじゃれかかっておいで。

 「なあなあ、野球ってそんな面白いか?」

これがサッカーや柔道なら、
一緒になって 頑張れ頑張れという
“応援モード”で観ていられるのだが。
妙に形式的というか、
ピッチャーが投げることでやっと動き出したその後も、
決まった方向へ打ったの、
野手がどう処理するかの流れというのがまた、
何か型が決まってることみたいにしか見えなくて。

 「そうか?
  物凄いスピードで飛んでく打球に、
  野手が飛びついて取って投げてって、
  その展開にハラハラするだろうが。」

 「そうっかなぁ。」

ルフィママ、
実は野球だけはあまり体験したことがないらしく。
それもあってか、
いちいち仕切り直す感の強いスポーツは、
野球もアメフトも 今一つ良く判らないらしい。

 「なあなあ。まだキリが着かんのか?」
 「それもいうなら鳧がつく、だぞ。」

真冬ほど寒くなくなったから、
分厚く着込んでもないし、動きも緩慢でないし。
がっつり雄々しいご亭主のお膝にまたがり、
なあまだか?なんて、
黒みが潤み出そうな大きなお眸々で見上げて来る
愛しい奥方なんだのに。
それをも放っぽとける野球って凄い…と思いきや。

 “………う〜んと。////////”

いやいや、実は真相は。
野球に熱中しているのはホントだが、
それも最初のうちだけで。
何らかの佳境に入っての、それが明け、
ふっと 我に返ってみたなれば。
いつの間にやら…柔らかくて暖かい、
最愛の奥方が、構え構えとお膝においで。
だからと言って、じゃあお言葉に甘えてもなかろうしと、
何故だか手が出せなくなるところが、
この不器用なご亭主の、微妙な情緒の困ったところで。
せめて中継が終わるとか、
ルフィの言いようではないが キリのいいところになったらと。
それこそ 良く判らない
“けじめ”というか“鳧”というかに箍を嵌められ、
野球観戦のほうにも身が入らぬままになってるのだとか。
そんなこんなの中継観戦が、

 こないだなんて日付が変わるころまでだったから。

 「そのあとになっちまうから、
  あのそのなんだ、
  寝坊になっちまうんだよなぁ。/////」

困ったもんだ、うんうんと。
胸高に腕を組んでの、感慨深げに何度も頷く、
天真爛漫ならぬ、天然爛漫な幼い奥方。
構え〜っとくっついたからには、
きちんと構っていただかないと
何となく収まらない…と来ているところは、
頑固なんだか、甘えん坊なんだかで。
(笑)


  いやはや春です、うんうんうん





    〜Fine〜  13.03.13.


 *今朝方のワイドショーで、
  WBC観戦なさってるお宅を観察という企画がありまして。
  まだお子さんが小さい年頃というお家だったので、
  テレビはリビングに1台しかなくて。
  普段はお子さん中心で、
  アニメのDVDとかで占拠されてるところなのだけど。
  今だけは野球が見たいパパの葛藤がなかなかに愉快でございましたvv
  昔はわたしも、
  贔屓の球団がありの、選手の名前も覚えておりのと、
  結構 野球って馴染みがあったんですけどね。
  (しかもパリーグだったんで、あんまり中継されなくてねぇ。
   今だったらCSのスポーツチャンネルとかありますが、
   当時だとせいぜい土日のデーゲームでしか、
   テレビ観戦は出来なんだです。)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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