月夜見
 puppy's tail 〜その95
 

 “かりしゅまって おーしー?”
 

 おねさん、お元気してましゅでしょか?
 風邪こんこん引いてましぇんか?
 お花見おあって(終わって)ぽかぽかしてたぁのに、
 なんか しゃむしゃむで(寒さむで)
 や〜ねぇでしゅね?
 風邪こんこん来ないよに、おうどん食びよね?



    あんわんvv


いやまったく、
何でしょうかね、このお寒いGWは。
行楽にお出かけの皆様も、
お外はともかく、屋内施設とか寒かったんじゃないでしょか。
都内より標高のある箱根のご一家のお宅も
朝晩の冷え込みはなかなかなものであるらしく、

 「…っくちん☆」

花見どきの好天続きの頃合いから早々と薄着だったお若い母上は元より、

 「…っくちゅ☆」

朝は真っ白いウェスティというわんこの姿で目が覚める当家の王子も、
おはようの前に愛らしいくさめを放つことが多かりしなこの頃で。

 「ありゃ、海(カイ)ってば風邪か?」
 「マァマ〜。」

わんこから坊やへの変化(へんげ)を済ますと、
まだまだ油断はなりませぬと、
ツタさんが暖かめの長袖シャツに子供用チェニックと、
フリースズボンを用意してで待ち構えており。
それらを かわゆく着込んでのそれから、
ママ抱っこしてとかけよりかかるのへ、
そのママさんが“お鼻チンしようねぇ”と、ティッシュをかざすので。
鬼ごっこよろしく駆け回るおちびさんを
待て待てと追いかけるところまでが1セットなGWだったりし。
一際高いボーイソプラノでの、
“きゃあい〜vv”という弾むような歓声が上がって、
途中から完全にお遊戯と化す鬼ごっこを終えての さてと。
ツタさんお手製、
今日はふわふかパンケーキ、温ったかいココナツソースかけと
塩こうじで やわかくしたササミのフリッターに、
ミルクティーにイチゴのババロアという、
母子垂涎のスィーツディッシュモーニングなのを、
お手々を合わせて“いただきます”をしてから攻略に掛かる。

 「うあ、昨夜から渋滞だったんだってね。」
 「そうらしゅうございますね。」

時計の代わりにつけてたテレビでは、
連休後半戦の道路状況が報じられていて。

 「今日から四連休ですし。」
 「そかー、四連かぁ。」

とはいえ、当家にはあんまり関係がない。
カイくんはまだまだ学校には縁のない幼子だし、
ルフィは…厳密な話をすれば高校生くらいかもしれないが、
立派な幼妻なので(何だそりゃ・笑)やはり縁はないとして。

 「パパはぁ?」
 「ん〜? 今日も おしもとだよ?」

そうそう。
唯一 世間様と同じカレンダーに時々縁がある、
勤め人のゾロパパさんは、だが。

 「世間様がお休みのときほど忙しいんだから。」
 「まあまあ。」

ご自慢のやわらかい頬をぷぷ〜いと、
パンケーキだけじゃあなく、憤懣でも膨らませたママさんなのを。
小っさいフォークを手に見上げていた坊や、

 「いしょがしーんらから。」
 「あや。」

さっそく真似して、そっくりなお顔で膨れて見せたのへは、
か〜わいいvvとか言ってもいられない。
ありゃまあと目を見張った大人二人が、

 「しまったなぁ。」
 「そうですねぇ、何てそっくりなんでしょvv」

え〜? 俺こんなかぁ?
ええ。怒ってらっしゃるのに愛らしいったら、と。
そちらもフォーク片手に大ぶりな双眸をぱちくりさせたママさんが、

 「カイくん、パパの前ではそのお顔メェだからね。」
 「ぷ?」

とりあえずのメェを宣言する辺り、
誰が発端だったやらを思えばちょみっと現金だったするのだが。(笑)

 「四月のほうの連休は、
  いいお天気続きで蒸し暑いくらいで、
  お外で遊ぶのも楽しかったのにねぇ。」

あ、誤魔化すか。(苦笑)
……じゃあなくて。
当家で唯一の勤め人なパパさんは、だが、
今や業界でも“伝説の”という級の、
カリスマ・トレーニングコーチだったりするので。
連休だの、夏休みじゃ春休みじゃ、
ストーブリーグじゃという頃合いこそ、
予約が殺到して忙しくなる身。
よって、世間様の“行楽シーズン”には
あんまり乗っかれないご一家でもあるのが、
時々ご不満の奥方だったりするらしく。
前半戦の四月の連休も、
公園までお弁当持ってって
フライングディスクしにお出掛けしたのが1日あっただけだものと。
あとは隣町のジムにお泊まりという格好でのお仕事漬けのパパさんなの、

 “そこはやっぱり……ねぇ?”

と、言いたいらしく。
ふわふわで、端っこは ところどころがカリッとサクッの
そりゃあ美味しいパンケーキ。
あぐりと頬張り、むぎゅむぎゅと食べても食べても、
やっぱり頬っぺは ぷくり気味なまんまだったりし。

 「ま、寒い寒い中でバーベキューもないしね。」

連休が明けて、また ぬくとくなってから、
貸し切り状態の公園で、端から端まで使って鬼ごっこするんだもんねぇと。
お疲れで戻って来ようお父さんにはややお気の毒な計画を胸に、
そっくり母子が“おーっ”と、
今度はササミのフリッターのフォークに刺したまま、
勝鬨(かちどき)をあげてみたりするのであった。

 「奥様、お行儀が悪いです。」
 「はい…。」




    〜Fine〜  13.05.03.


 *衣替えの六月初めが、
  それまでの初夏っぽい暑さを裏切って
  一転、肌寒くなるってのはよくありますが。
  ex,やっと半袖だーって思ったのに、カーディガンがほしくなるとか。
  GWの真っ只中にこうまで寒かったってのは
  久しくなかったんじゃないでしょうか。
  北海道では雪ですて?
  青森の弘前城の桜もずんと遅れてるんですて?
  西や関東の桜は、嘘でしょというほど早かったのにね。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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