月夜見
 puppy's tail 〜その96
 

 “夏の手前の…”
 

 てぇびのおねさんが、
 今年のチュユは降いましぇんねぇってゆってて、
 チュユに雨こんこんがナイナイだと
 プユが出来なくなりゅかも ちれないだって。
 どーしおー、プユないないは カイもヤダーっ。
 ママも“ヤダーっ”て ゆってて、
 せなか掻き掻きすゆ“ぼー”に
 ヒラヒラいっぱいぱい くっちゅけて。
 ナムナムナムってゆってたよ?
 そやって かみしゃまにお願いすゆんだって。
 カイもお願いすゆよ?
 雨あめ、今だけ こんこんしてくらさい。



    あんわんvv




自然が豊かだと こういうデメリットも付いてくるというのの最たるもの。
黒いGブリにさえ滅多に動じないほど頼もしいツタさんでさえ、
思わぬ拍子に遭遇すると、
ビクリというリアクション見せつつ、その場で立ち尽くしていたほどの、
結構 発育のいい毛虫たちの大発生も、何とかピークを越えたようで。
そうなると お次は、

 「あ・ツタさん、
  こんなところにアゲハが実(な)ってるよ?」

海くんと芝草の上でのボール遊びをしていたロロノアさんチの奥方が、
受け止め損ねたビニールボールを追った先、
足元の小さなそれを拾い上げようとし、
少し屈んだせいで視野に入ったらしいものを指差して見せる。
いいお天気の下、そちらはシーツや大判のバスタオルなぞを、
ここぞとばかりに大きく広げて干しておいでだったツタさんが、
あらあら何でしょうかと、
育ち盛りな芝をさくさくと踏みしめて近寄れば、

 「あらまあ。」
 「うや?」

床下への換気のために開けられた通気孔の縁という思わぬ場所に、
それは鮮やかな模様も特徴的な、
大きなアゲハ蝶が、翅を下にと逆さになって留まっている。
何だ何だとついて来たカイくんも
お母さん似の大きなお眸々を見張っており。
花も咲いてはない場所だし、逆さまというのも不自然だからと、
そこで“実る”という印象がしたルフィだったのだろうが、

 「それはきっと、
  そこでサナギから孵化して翅を乾かしてたんでしょうね。」

こうまで至近に人が寄っても飛び立たないのも頷ける。
餌場だった柑橘の樹から離れた思わぬところに、
サナギにならんとしているところというのも結構目撃されるお庭だが、

 「こんな低いところというのは珍しいですね。」
 「そうだなぁ。」

物知りなツタさんへ、同感だというお返事を返したのは、
今日は家に居たんですよのゾロパパで。
横への距離を稼ぎ過ぎて、上へ登る力が足りなくなったか、
雨さえ掛からないなら、高さはどうでもよかったのかも知れませんねと。
知ってはいたが実物を観る機会はそうそうないものか、
まとまりは悪いがふかふかしたところもお揃いの、
同じような髪形した黒髪を乗っけた母子が
見物だと ちょこりとしゃがみ込んだその後方で、
こちらも並ぶ格好になって、同じ通風孔を覗いている大人二人であり。
傍から見れば、とんだ“親子の蝶々観察”の図となっておいで。
これほどの注目を浴びていても、
全く動じず ぶら下がったまんまのアゲハ蝶であり。

 「まだ飛ばないのかな。」
 「そうですね、翅がまだ出来上がってはないのでしょうね。」

やさしい黄色をベースに青と茶色が配され、
それらを縁取る黒がまた鮮やかで、そりゃあ綺麗な大きい翅だが、
見た目にはすっかりと張りもあるようでも、
そこは“ご本人”にしか判らない、加減やタイミングがあるのだろう。

 「セミも成虫へ脱皮した後は、
  半日くらいかけて羽根や体を乾かすものな。」

 「え? そんなにかかるのか?あれ。」

だから抜け殻はあんなカラカラに乾いてんのか、そうかぁと。
何だか斜めな納得をしたようなルフィだったのを、
ああいえ、それはちょっと違うかも…と、
いなしかかったツタさんの傍らで、

 「こういうところを見ていると、
  小学生のころ、朝顔が咲くところを見たくて工夫したのを思い出すな。」

 「え? くふーって何だ?」

こちらのお宅でも、グリーンカーテンを兼ねてのこと、
風船かずらと朝顔を、
リビングやダイニングの出窓の下、プランターを並べて植えておいで。
今年から始めたものではなくて、
特に朝顔のほうは 毎年植えては真ん丸なお花を楽しんでいるご一家なのだが、
ちょっぴりお寝坊さんな奥方は、咲いてしまった朝顔しか見たことがなく。

 「テレビのスローモーション画像みたいなのが、
  しかも、好きな時間帯に見られる方法があるんだよ。」

 「早く起きなくてもいいのか?」

 「ああ。
  しかも“まだかまだか”って待つ必要もないぞ?」

後半は何故だかひそひそと、
あまり口外してはいけない特殊な技ででもあるかのように、
鹿爪らしいお顔で説いているご亭主だったので、

 “…もしかして、
  旦那様も“世紀の大技だ”とか思ってらっしゃるとか。”

おおう、ツタさんの珍しいツッコミが入りました。(おいおい・笑)
タネを明かせば簡単なことで、
今にも開きそうな大きめの蕾をチョイスしておき、
前の晩のうちから
板ガムの外包装のような小さい筒状の袋をかぶせておく。
夜が明けてから さてとそれを取り去れば、
見ている前で朝顔が咲いてくれるという手筈。

 「わ、わ、それって俺も見てぇな♪」
 「カイも、カイも見ゆの♪」

ねえねえと、可愛い愛らし そっくりさんな母子二人から、
一度にしがみつかれての“見たい見たいvv”と甘えられ。
どちらもさして大きくはない身なの、
左右の腕にてぎゅううと、
楽勝の余裕で懐ろ深くへ取り込んだお父さん、

 「よぉし、じゃあ夏のお楽しみに備えて、
  まずは朝顔のお世話を頑張ろうな。」

さも大事な計画のように宣言すれば、

 「おーっ!」
 「ばんばろー!」

そちらさんもまた、一大計画が立ち上がったぞと言わんばかり、
それぞれに小さなこぶしを振り上げて、
無邪気に鬨の声をあげるところが、まあまあ可愛いったらなくてvv

 「さぁさ、
  そんなところで長く屈んでらしては
  あんよが痛くなりますよ?」

 「あ、そだった。」
 「しょだった。」

希代のスポーツトレーナーとして、
スクワット五百本とか余裕で毎日こなしておいでのパパさんはともかく。
可憐という言葉がそのまま まとえそうな、
無邪気なお母さんと坊やはそうもいかない。
早くも“おとと…”と、
立ち上がりにくそうに よろめきかけたルフィママを、
ど〜れと軽々、腰へ回した片腕だけで
足が浮くほども支えて差し上げた伴侶様。
それへと“まあ凄い”というお顔になったツタさんだったの見たものか、

 「俺だって、
  カイを抱っこしてなきゃあ…。///////」

おやおや、高い高いに喜ぶ方じゃあないスイッチはが入ったようで、
俺だって負けてないぞと、頬が膨れかかってしまったママさんだったけれど。

 「してなきゃあ?」

何がどう負けないと言いたいのかなぁ?と。
そこは男の子の意地のようなものだけに、
同性同士で簡単に察しもつくものか。
ふふんと余裕の笑みを見せた男ぶりのいいお顔、
奥方のベビーフェイスに近づけたゾロパパだったところが、

 「両手でぎゅううってして、
  首ンとこに おでこグリグリくっつけて のーさつしてっ。
  ゾロがもっと
  俺ンこと手放せなくなる術を掛けられたんだからなっ!」

 「…………お。///////」(←あvv)

頑強壮健で、実直にしてやや頑迷。
でもって、奥方と坊やにはメロメロなの、
隠すことなくの むしろ誇っておいで…と。
今時こうまで雄々しくも頼もしく、
そしてそして 誠実な旦那様はそうそうおいでじゃありませんと。
日頃はちゃんと敬愛しているツタさんなのですが、

  “はい、これは奥様の一本勝ち。”

その胸中にて やはりツッコミを入れてしまった一幕で。
人通りも少ない表通りに向いたニシキギの生け垣の下では、
どこのお家で生まれた仔だろか、
まだまだあんよも覚束ぬ仔猫らが よちよちお散歩している初夏の庭先。
本気出してない梅雨の晴れ間に、
もうこんなに楽しいことがいっぱいのロロノアさんチは、
今から早くも 夏を待ち遠しいと見据えておいでのようでございますvv




    〜Fine〜  13.06.06.


  *本当はラストに出て来た仔猫の話を書くつもりだったのですが、
   実際に見たもののインパクト強しということで。
   ええ、はい、
   蝶々が思わぬところで翅を乾かしていた云々というのは実話でして、
   今朝のお洗濯タイムに遭遇しました。
   何でこんな、ユズや蜜柑の樹からも遠く、
   しかも足元近くに、ひらりんと ぶら下がっているものか。
   物干し場への途上だったので、
   カゴを抱えているまま、よくも蹴らなかったとホッとしたものです。

   ここだけの話、
   毛虫もアオムシも苦手ですが、
   どうしてでしょか、アオムシさんは殺虫剤対応しにくくてねぇ。
   刺される恐れがないからか、動きが緩慢だからでしょうかね?

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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