月夜見
 puppy's tail 〜その98
 

 “夏休みも終しまい?”
 

 おねさん、こんにちは。
 何かずっと暑ちゅ暑ちゅでしたねぇ。
 カイは毎んち、プル入ってたですvv
 大っきいから
 ママとキャッキャゆって入りましゅvv
 でもねあのね、(こそこそ)
 ママはホントはね、(ひそひそ)
 泳ぐのって きやいなんだって。
 ナイショよ?
 ママのきちょーなシミツ(秘密)なんだから、ね?



    あんわんvv




外の通りからは少し遠くなるリビングに居ても、
お耳がいいので、
ましてや それがゾロが運転するウチの車の音ならば、
まだ何mか距離があっても、気配でそれと すぐにも判る。
ガレージに乗り入れ、ドアの開閉音がして、
玄関ポーチまで急ぐ足音、
ウチのドアを開けて“ただいま”を告げる声は少し小さめ。
ツタさんからご飯はどうしたかを訊かれて、夜食を食べたと答えつつ、
リビングまでを大股に急いでやって来るのを
じりじりと待つのは、一番大変で一番楽しい“おあずけ”で。

 「…ただいま。」
 「お帰りvv」

臨時職員で、特別講師であれ、
勤め先のスポーツジムへは一応背広やワイシャツ着て出掛ける、
妙なところが折り目正しいゾロであり。
今日びのクールビズ情勢の中でも、
ネクタイをしないと落ち着かないと言い通している変な人。

 『そうは言うがな、ルフィ。
  例えば、剣道の正式な試合では、
  面とか小手とかをつけて出ないと審判から怒られる。
  装備の不備ってことで失格になるかも知れん。』

ツタさんが、旦那様はお優しいですねと言うのはこういうところで、
変なのと言われてもむっかりしないで、
一つ一つ ちゃんと“そこへお座り”と言って諭してくださる
…って褒めてたけど、
これって“いいかいお前さん、よ〜くお聞き”と言って
お説教してるようなもんじゃないのかな?

  あれ? 何の話をしてたんだっけ?(もしもし?)

ここいらでも昼のうちは結構暑くなったので、
ゾロも上着はさすがに着てかなくなってて。
ネクタイを緩めながら ソファーにどさぁって腰掛けて、
ふーなんて長い溜息つくのは、
お風呂の湯船へ浸かりながらの溜息とよく似てて。
ツタさんが気を利かせて、
よく冷えた缶ビールをグラスと一緒に運んで来たのを、
嬉しそうに受け取ると、

 「では、下がらせていただきますね」 と

丁寧にご挨拶なさるのへ、
二人そろって“おやすみなさい”と笑顔でお返事。
だってもう時計は10時を指していて、
(カイ)もとっくに寝ちゃってる。
かしゅっとプルトップを開けて、
そのまま飲みかかったビールなのを、
でも、オレが見ているのに気がつくと、
やめてわざわざグラスへそそぎ直すのは。
行儀がどうのこうのではなくて、
ジュースで真似したオレが、缶の口で唇を切ったら危ないからで。
あと、俺がやることはカイも真似をするから、それも警戒してのこと。
琥珀色のビールは不思議な飲み物で、
グラスへそそぐと見る見るとたくさん泡を増やしちゃうから、
おっととと急いで口をつけるところは、何かちょっと面白い。
泡があるのは邪魔なんだったら、泡の出ないビールってないのかな。
前にそんな話をしたら、そん時にたまたまいたサンジさんから、

 『何言ってるかな、ルフィ。
  こいつはこの泡も美味いんだ。
  つか、これが“飲みごろだぞ”って目安なんだぜ?』

なんて言われちゃった。
あると邪魔だけどあるのが美味しいなんて、
骨つき肉の骨みたいだなって言ったら、
上手いことを言うって褒められた…って、あれれ?
また違う話になっちゃった。変なの。

 「なあゾロ。」
 「ん?」

同じソファーってだけじゃあ足らなくて。
ずりずりって寄ってって、よじよじってお膝を登ってまたがって。
あ、スーツの生地ってザラザラだ。
剥き出しの脚には、なんかチクチクする。
でも、ゾロも今の時期はズボン下はいてないのに、よく平気だな これ。

 「今日でコーチは終しまいか?」
 「ああ、終しまいだ。」

秋になると スポーツは本番の方がいろいろ始まるから、
下準備というか、練習にお付き合いするところまでという立場のゾロは、
基本 手が空くのだそうで。
勿論、ゾロのファン、もとえご贔屓さんからは、
通年契約して大会やツアーにもついて来てっていう
熱烈なラブコールもなくないらしいけど。

  そんなの、オレのゾロが受けるはずないじゃんかvv

すっかりリラックスして、どうかすると気も抜きまくりで座ってるのに、
でれんとだらしなく緩んじゃわない、堅そうな胸板とか腹とかが、
シャツの上からでも判る身へ、
ぱふ〜んっと飛びつくみたいに飛び込めば、
こらこら、ビールがこぼれるだろがって、笑いながら受け止めてくれて。

 「どした、ご機嫌そうだな。」
 「…うんvv」
 「眠くてハイなのか?」
 「違くってvv」

ワイシャツっていうのは凄い薄いし、
下に着ているランニングもそれほど分厚くないしで、
こうしてると
ゾロの胸板の形とか、腹筋のくぼみとかがモロ判って気持ちいい。
首の横へ頬っぺくっつけてスリスリすれば、

 お…っ、て。

持ち上げかけてたグラスが一瞬止まって、それからね。

 「もう1杯飲みたかったけどな。」
 「飲めば?」
 「お前、酒臭い息は嫌いだろーが。」
 「うんvv」

じゃあ しゃーねーな、後で飲もうって、
吐息混じりって言い方して、でも。

 「オレ、
  別にそんなん ねだってねぇぞ。」

子供じゃあんめぇしって言ったら、
ああって目許を細くして微笑うんだ、ゾロってば。
それって、凄げぇ優しい笑い方で。
カイとかにもあんまり見せたことない笑い方でサ。/////////
そいで、オレの頬っぺをそおっと両手で包むみたいにして、
おでことおでこをくっつけて。
ゾロみたいなごっつい奴でも、
上目遣いするとかわいいなぁって思ってサ。
同んなじようにしたらば…凄い早技で こっちのでこにちうして、
そのまま人んこと小脇に抱えてリビングを出てくの。


  え? それから?
  そんなの訊くなよな〜〜。
  お前、エッチだぞ?////////





    〜Fine〜  13.08.29.


  *さんざん惚気といて、これです。
   ウチのわんこが失礼こきました。
   カイくんと遊ぼうが定着しているこのシリーズですが、
   たまにはパパとママのお時間のお話もということで。
   箱根は過ごしやすかったのか、それともそちらも猛暑だったのか。
   とりあえず、今は
   涼しい秋の気配を一足先に満喫というところかな?
   調子こいて夏のままのカッコでいると、
   朝なんかてきめんクシャミで目を覚ましそうですね。
   いいなぁ、そういうの。
   (こちら、時々ながら、まだ夜もエアコンが要ります。)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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