月夜見
 puppy's tail 〜その99
 

 “十五夜の ウサギさんvv”
 

 おねさん、こんばわ。
 ねぇねぇ知ってた?
 きょーはネ、じゅーごやっていう日で、
 お月さま真ん丸なの きれーねーって観る日なんだって。
 お月様にはウサギさんがいて、
 大きなウスと キネでお餅ついてるんだって。
 大きなウスって
ウスなの?
 大きなキネは、じゃあ
キネなのかなぁ?
 ママにゆったら、ぱたんて倒れて、
 お腹痛いてゆって大変だったの。
 ウスって しゅごいね〜〜vv



    あんわんvv





どんなヒーローなんだろと、
つぶらなお眸々をキラキラさせてる坊やは
すんません、そっとしといてあげてください。(笑)

 さて、話を戻して

旧暦の八月十五日は“中秋の名月”と呼ばれる日で。
昔は大雑把にも(旧暦の)七月・八月・九月を“秋”としており、
秋の真ん中の八月の、そのまた真ん中に昇る満月を
空気の澄んだ中にくっきりと美しい名月と讃え。
それへ、収穫期の里芋がほらこんなに取れましたと
天帝様へ奉納するお祭りをしたのが合体して、この祭事に至るのだそうな。
団子を飾るのはそんなせいで、
ススキを飾るのは稲穂に見立てているとのこと。
ちなみに、十月の十三夜を“のちの月見”といって、
同じメンツで同じ場所で見ないと縁起が悪いそうなので、
覚えていたらば頑張って。(何をだ)

ちなみに、
ちょっとエキセントリックな響きのある“十六夜”は、
当たり前の話ながら次の晩の月。
1日違うと30分から遅れるので、
少々のんびり構えて観たい人にはこっちがお薦めかも。
月齢的には微妙で、こっちが満月という年もあるほどで、
つか、中秋の名月というその晩が、月齢的に満月とは限らない。
旧暦の基礎が 今ほど精密な天文観測からのものではなかったのだから、
それを思えば、むしろ
ここまでの誤差で現実に即しているところを凄いと讃えるべきかと。

 “おお、見事な月だよな。”

今日はお勤めの日だった ロロノアさんチのゾロパパさん。
隣町のアスレチッククラブにて、
お馴染みさんのアスリートのおにいさんと、
壮年に入ってもまだまだお元気な、どっかのCEOさんの
トレーニングを見守り、的確な指導するコーチをし。
次のスケジュールの確認をし、
更にツタさんに頼まれていた買い物をしてから、
やっとご帰宅と相成ったのは、
関東地方では音もなく暮れなずむ頃合いの宵の口。
都心と違って背高い建物こそ少ないが、
逆にいや背の高い山々が地平線を遮っている土地柄。
あちこちに被害を出したことは忌まわしかったが、
それでも台風の通過で空気がより澄んでいるのは否めない。
そんなクリアな宵の空に、輪郭も冴え冴えと丸い月が浮かんでいる様は、
成程、視線をついつい吸い取られるよな、ある種の威力ある佇まいだが、

 「……よしっ。」

このくらい注目すれば義理は果たせたと言わんばかり、
切れのいい声で いかにもな踏ん切りをつけたお父さんであり。
あんたもしかして、神社仏閣へ参るときも、
賽銭箱の前で同じことしてませんかというのを偲ばせる、
相変わらず大雑把な人なのは…まあ今更でしょうかね。(苦笑)

 「たっだいま〜。」

今日はそんなに遅い帰宅じゃあない。
ツタさんから頼まれたのは、低刺激成分配合の海(カイ)くん用の入浴剤で。
今宵のに間に合わない訳じゃあないけれど、
微妙に特別な品なので
オーガニックとか謡っているお店にしか置いてないのはゾロも承知していて。

 夏の間はシャワーだけという日も多かったが、
 これからは毎日のように湯船を使うこととなるだろうから、と

いつもの香りのを間違いなく買って来た満点パパが、
そういやお出迎えのなかったお廊下をたかたかと急いで通過し、
デザインガラスの嵌まった扉を開けて踏み込んだ居間は、


  …………………ちょっとばかり勝手が違っていた。


父の代からのそれ、
ごてごてしてまではないが、それでも落ち着いた型の応接セットが、
シックなペルシャ絨毯の上へ配置され。
実際に暖炉として使うことはないながら、
それでも実用可のマントルピースが重厚な。
庭に向いた側の壁のほとんどを占める大きな掃き出し窓とは別口、
眺めのいい出窓もあっての、
落ち着いていて快適な、いつもの見慣れたリビングだったはずが。

 「いらっしゃいませ〜vv」
 「まちぇ〜♪」

家具や調度はまあそのままだったが、
ダイニングとつながる刳り貫きにあって、
仕切りの代わりも兼ねているカウンターテーブルの上には、
そんなのウチにありましたっけという、藍染めの長暖簾が下がり。
真ん中から左右へと大きく掻き分けられた先の裾は
カーテンみたいにタッセルでまとめられていて。
テーブルの上には、
大きめの皿に並べられた串団子が色とりどりと来て。
ああそうか月見団子なんだと、そこまでは判るのだが。

 「お客さん、甘いの辛いのどっちがいい?」
 「どっちがい?」

 「自宅に帰って“お客さん”もなかろう。」

いやいや、問題なのは そこだけかい、ゾロさんたら。
一応の意見こそしたものの、
ワイシャツの襟元、大きな手が緩めるネクタイの上で、
精悍な口元に浮かんだのはくすぐったげな笑み。
まとまりの悪い黒髪を、ウサギのお耳つきのカチューシャで飾り、
ママの方は、
ウエストカットのジャケットに七分丈のズボンという変則スーツ、
但し、内着には、
襟がやたら大きくてフリルだのレースだのが盛大にこぼれてはみ出す
間違いなく女性ものだろうシャツブラウスと、
パールの長いネックレスや羽根飾りをふんだんに。
坊やのほうは、
上着こそママとお揃いだが、
ボトムは何故だかサーキュラースカート、
しかも、山ほどフリルペチコートを重ねたせいで、
バレエのチュチュみたいに裾が跳ね上がってる仕様のを
それは きゃわいく着込んだ、こちらもウサギさんらしいと来て。

 「峠の茶屋で〜す。
  今日だけ開店で、今日だけビールも出ます〜vv」
 「でまちゅ〜vv」

膝上まであるハイソックスがもぞもぞ気になるか、
しきりと引っ張りあげているのがいかにも不慣れな様子で、
そこもまた苦笑を誘うのが罪といや罪な、
絶対どこかで迷走したのだろ、困った結果に至っておいでのコスプレ親子。
ツタさんが窘めたり制したりしなかったのは、

 『これで表に出ようという勢いではなかったので』

だからだったそうで。(おいおい)

 「オレのお薦めは みたらし団子だぞ?」
 「カイはね、カイは れんにゅのが美味ーしかったのーvv」

まあまあまずは一杯と、
そちらはいつものエプロン姿のツタさんが、
枝豆と鷄の唐揚げとビールを載せたトレイを運んで来てくださり、

 「奥様も坊ちゃんも、お団子お代わりいかがですか?」
 「おうっ!」
 「おおー!」

さぁさどうぞと、看板娘(?)が薦められてりゃ世話はないが、
串つきのお団子、まぐと、あむと、それぞれに頬張って、

 「うう〜〜〜っ、美味しい〜〜〜っ!」
 「おいちぃ〜〜〜〜っ!」

それはそれは幸せそうに微笑う、そっくりなお顔に挟まれては、
パパさんとしても緩むしかなくて。
ねえ、こっちが主役ですよと、
窓の外、お月様がうらやむような、
わいわいと楽しい峠のお茶屋さんは、
今宵限りのしかも貸し切りで、限定営業中だそうでございますvv




    〜Fine〜  13.09.19.


  *いっちーさんこと、いちもんじ様からいただいたネタを
   ありがたく食させていただきました。(もむもむ・むぎゅむぎゅ)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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