月夜見
 puppy's tail 〜その106
 

 “たいふー・ひゅーひゅー”
 

  うう〜〜〜〜。




     ◇◇◇



実は精霊の末裔という腕白坊やは、
同時に微妙なものへと敏感な質なため、
この秋を蹂躙し倒した台風には、
軌道によったものの
お家の中からながら それは果敢に
わうわう・あうと吠えて挑んでみたりもしたそうで。
リビングのテレビで、
大きな地図にぐるんぐるんて渦巻きが描いてあるのを見ても、
それが何かは ちいとも判らねど。
遠い遠いところで始まってた
ひゅうん・ひゅうひゅうという風籟のうなりも
人より早々と聞こえるらしく。

 「音だけじゃあなくて、何となくの気配も感じるからだろな。」

見えるもんじゃないところは、人と同じで。
だから余計に、怖いというか落ち着けないというかで。
大好きなパパやママに抱っこされていても、
ツタさんに 美味しいシチューのほろほろ鷄肉、
どーぞ・あ〜んて してもらってても、
気もそぞろになってるなと ありあり判るお顔をするものだから。

 「いやぁ、笑えるvv」
 「おいおい、可哀想だろうが。」

正体が判っているならともかく、
得体の知れないのの、気配だけ判るなんて、
小さい子供には さぞかしおっかないに決まってると。

 「俺が言うのもなんだけど、
  日本語がおかしいぞ、ゾロ。」

親ばかなのはもう慣れたが、
これはさすがに重症かもと、
何と言っても生みの親だけに同じ精霊で、
自分だって同じような感じ方をしているはずのルフィが呆れ。

 「………………あ。」

小さな王子を懐ろへ抱え上げてやり、
見えない逆毛をよしよしと宥めるようにして、
ゆっくり歩き回って ゆ〜らゆらと揺らしてやってたパパさんが、
何に気づいたかソファーの傍らまで戻ってくると、
半分呆れて見上げて来ていた、
そちらさんもまだまだ腕白さんで通りそうな童顔の奥方のお隣りへ、
ぽそんと腰掛け、腕を延べてくるご亭主で。
何だなんだと思いはしたが、逃げを打つほどでなしと、
素直に掻い込まれて差し上げれば。
頼もしい分厚い胸から響くようにして、
ルフィの大好きな声が そっと囁いてくれて。

 「すまんな。
  お前だってこのくらいン時は怖い想いをしたんだろうにな。」

まだこの家へ落ち着いていなかっただろう頃合いの小さなルフィさんは、
お父さんとの二人きりで、
あちこち人目を避けながら流浪していた身だったそうで。
時には人の姿になっての紛れ込みもこなしたのだろうが、
それでも根無し草な生活の方が長かったと聞いてもいるから。
短い軒下で雷鳴轟く豪雨を避けた経験だってあるだろし、
寒い中、身を寄せあって暖を取ったのも当たり前だったころもあろうと、
今更ながら思い当たってしまったご亭主だったようで。

 「う…ん、まあ そうなんだけど。」

もう大人になったからへーきだし、
そういうことをいちいち思い出しては、
ルフィ以上に感傷的になって ほろりとしないよな、
そういう方向で大雑把なところが助かってるのになと。
口に出して言ったならさすがに角が立ちそうなこと、
ちょろりと胸の中で思いつつ、

 「もうもう、何だよー。」

俺が男らしいのは今更だ、
そんな改まられっと照れるだろうが…なんて言い方をして。
そのくせ、にししと嬉しそうな笑顔を隠しもしないで、
坊やがお指を咥えて先に抱っこされていたご亭の懐ろへ、
俺もーっと頬を伏せた奥方だったそうでございます。




     〜Fine〜  14.10.21.


  *以前にも触れたと思いますが、
   嗅覚ほどじゃないにせよ、
   聴覚も鋭いわんこは雷の音が苦手だそうで。
   なので、花火見物とかへ強引に連れてくのは
   却って可哀想だとか。
   台風などの大風も、
   そのうなりが聞こえるものか、
   まだ気配さえ遠くとも早々と吠える子もいるのでしょうね。
   ウチも代々というカッコでわんこを何頭か飼ってましたが、
   どんな小さい系の子でも 何にへか遠吠えはしてましたものね。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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