月夜見
 puppy's tail 〜その107
 

 “春は まだまだ?”
 

  おねさん、おしさしぶりでしゅね。(訳;お久し振りですね)
  元気してましゅたか? そですか、そりはよかった。
  サムサムで、風ピューピューで、
  もぉヤダヤダなお天気ばっかしでしゅね。
  でも、時々ネ、いいによいが しゅるのね。
  あれって春のによいなのかなぁ?



      ◇◇◇



ロロノアさんチは箱根の旧別荘街、
にぎやかな湯本などからは やや奥向きの保養地に位置しており。
標高の関係から、秋めくのは早いが春めきはやや遅い。

 「あんっ、おんっvv」

海(カイ)くんが小さなウェスティに変化(へんげ)すると、
真っ白な毛並みが輪郭ごと紛れてしまう、
隠れんぼに最適な(?)白雪もまだまだ山ほど居残っており、

 「あ、こら。そっちはダメだぞ。」

先日のいいお日和のおり、
雪を掻き分けて土を起こした花壇もどき。
ツタさんとルフィとで、
何やら種だか球根だかを植えていたところなので。
いくら小さい子犬の身であれ、
傍若無人にも踏み荒らしてはいけないよと
大きな歩幅で追いついたいい体格のお父さんが、
スキーウェアみたいなハーフコート、
温かいその反面、身動きしにくいかと思や
全く響かせない俊敏さで追いついたそのまま、
足元を駆けていた小さな子犬の坊やを身を折ってのひょいと捕まえ、
平たく開いた大きな手のひらの上へ余裕で抱え上げる手際の良さよ。

 「きゅう?」

わんこの姿となっていても、こちらの言うことは当然通じている坊や。
とはいえ、見栄えはただの平らかな、
わんこには魅力的な匂いのする土の上、

 何にもないのに踏んではいけないの なぁぜ?、と

ふさふさの毛並みに覆われた愛らしいお顔を傾げ、
黒みしかないよな、しかも潤みの強いつぶらな瞳で
じいっと見上げて来られては、

 「………うっ。」

どんなにいかつく恐持て顔のアスリートの皆様が相手であれ、
切れ長の双眸を眇め、
眼光鋭く一瞥するだけで気迫押ししちゃう伝説の猛者が。
それは雄々しくも屈強な肩をひくりと上下させたそのまま、
凛々しい口許うにむにとたわめ、
笑いたいのか やに下がりたいのか、それとも焦って執り成したいのか、
微妙で複雑な顔をして見せており。

 「少なくとも、困ってる顔には違いないよな。」

 「…奥様。」

判ってらっしゃるなら加勢してあげればとか、
そのおつもりがないのなら
せめて見て見ぬ振りを通してくださいましとか、
ツタさんが やや呆れたような声を掛けた若奥さんは。
小わきに抱えていた大きなステンレスのボウルの中、
ココアの香りも優しく甘い、
チョコレートの
シフォンケーキの生地をゴムベラでくるんと掻き混ぜると、
仕上げに掛かるツタさんに はいと手渡ししつつ、

 「いーんだよ。本気では困ってないんだし。」

 「おや。」

やや口許を尖らせつつも、
これは俺からの“武士の情け”とゆー恩情だと、
つまりは そうと構えておいでならしくて。

 “大人になられましたねぇ。”

下界では梅や早咲きの河津桜や、沈丁花などなどが咲いてるそうで。
春の訪れがちょっぴり遅いここいらでもそのうちコブシが咲くだろし。
温室をお持ちのお宅からいただいた、
フリージアやスィートピーの可憐なお花も甘くていい香りをそよがせており。
そんな春めきにむずむずしている小さな坊やに負けず劣らず、
腕白で小さな奥方も ちょっとずつ大人になってはいるらしく。

 「で。そのケーキ、いつ焼けるんだ?」
 「え? ああ、えっと、20分くらいでしょうかね。」

生地を型へと流し込み、空気抜きにとんとんとんと、
調理台の上で軽く上げては落としの仕上げをしているツタさんへ、
ワックワクの眼差しを向けたルフィさん。
そんなお返事を訊いたその途端、

 「そか、じゃあ。」

俺も遊んでくると言うやいなや、
ふわっと淡く光ったその姿が、
あっと言う間に毛並みもつややかなシェルティへ 変化してしまう早技っぷりよ。
コートをごそもそと羽織るのももどかしいし、
20分ではすぐにも呼ばれるから、という、素早い判断からのことだろと、
そこはツタさんも慣れたもの。

 「行ってらっしゃいませ。」

庭へ出る掃き出し窓をからりと開けて差し上げれば、
ありがとという会釈なのだろ、
視線の高いこちらを振り仰いでからふかふさのお尻尾をくりんと振ると、
雪の居残るお庭へ
たったかと駆けてくおっ母様も参戦し。

 「わふっ♪」
 「きゃうvv」
 「おお、来たか。」

小さいがバネのあるシェルティさんから
ドーンと体当たりされてもあんまり動じないままのパパの手元から。
そちらも よじよじともがいて抜け出した坊やもまた、
パパの足元へ後足で立ってのじゃれついて。
ご町内でも評判のお元気一家、
春も間近の昼下がりを、キャッキャとはしゃいで過ごされたそうな。


  「事情が判らない人には家族の団欒には見えないのが難点ね。」

  「あら、ロビンさん。
   お久し振りですね、こんにちは。」


おおお、オチをどうもでございます。(こらこら)




     〜Fine〜  15.02.26.



  *JAバンクの新CM、
   魔術師先輩と こねこ先輩篇が楽しくてしょうがないvv
   営業の基本は相手の懐ろに入り込むこと…って、
   あれはない、あれは。(苦笑)
   ようつべにメイキングがupされてますが、
   長テーブルの上で何か見つけたか
   ピョコンと撥ねる姿がまた可愛いです、先輩vv

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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