月夜見
 puppy's tail 〜その108
 

 “気配にムズムズ?”
 

桜が早く咲いた割に、
四月は晴れ間が少なかったせいだろう、
あちこちから野菜が高いという声が聞かれ。
そのくせ、五月に早々と真夏日がやってきたほど、
やっぱり季節は前倒しな感も強い今日この頃。

『あれかな、地球温暖化が早まってるとか。』

『…どうしたルフィ。
 野菜が足りないと賢くなるのか、お前。』

結構本気で聞いたらやっぱり本気で聞き返されたので、

 『…っ#』

わざわざ毛並みふさふさのわんこになって、
お気に入りのおもちゃを庭の一角へ埋めるよな所作、
バネは結構ある後脚で
ご亭主の向う脛へキックの連打をかましてやった
お茶目な奥様だったりし。(笑)

「気温の乱高下や台風の前倒しも大変ではあるけれど。
 それ以上に不気味なことも起きつつあるでしょう?」

聞きようによっちゃあ“お惚気”ともいう、
それは可愛らしい武勇伝を、
ご本人はやや憤慨しつつ披露したルフィさんだったのへ。
それは艶やかに微笑い返しながらも、
潤みの強い目許へかすかに案じる気配を悩ましげに滲ませたのが、

 『リョービンちゃvv』

久し振りに訪れたそのまま、
小さな王子に“きゃあぃvv”と飛びつかれた麗しき人、
ルフィの知己でもある、ミステリアスな女流作家のロビンさんで。
お母さんの子供の頃というか、
童顔な今のお母さんを
そのままミニチュア版にしたような風貌の小さなカイくんを、
シャープに見えて実は結構豊満なお胸へ
掻い込むように抱っこをし、
リビングのソファーに腰かけておいでのお姉さまは、

 「あちこちで地震だの火山の活動だのと、
  今年は特に落ち着かないじゃない。」

この数か月の間にも、
北海道から九州南端までという広範囲のあちこちで、
大きな地震や突然の火山活動などが報じられていて。
こちらのロロノアさんチが鎮座まします土地も、
近日その活動の活性化を大きく騒がれていた
箱根の一角であるがため。
そこを案じたらしいロビン嬢、

 「何だったら、
  沈静化するまでは東京の方で過ごしてはどうかと思って。」

彼女もまた、ルフィと同じく精霊の末裔という
微妙な事情を持つ身だが、
その才覚や落ち着きある人性をもってして、
協力者や理解者を着実に得たうえで、
ミステリアスな作家としての生活を滞りなく送っておいで。
そうと落ち着いた身であるからこそ、
ルフィの危地や窮地は何としてでも助けてやりたいと思うのか、
今回も久々に顔を出したそのまま、
そんな心情を口にしたらしかったが、

 「それな。」

言われた側の小さなママはといえば、

「ナミさんにも言われたんだけど。」

そちらも東京在住らしい知己の名前を挙げたのは、
ロビン同様、落ち着くまではこちらに来ないかと
案じたうえで誘われたことを忍ばせて。

「でもな、
 ここいらって、箱根とはいっても
 今回の噴火口からはずんと遠いんだよね。」 

これはよそでも問題になってたことで、
地名に“箱根”とついてるだけで、
危険な地域なんじゃあないかと警戒された挙句、
お宿や観光名所への来訪者が一気に激減してしまったそうで。

「そりゃあ、とんでもない噴火が起きたりしたら
 東京なんぞに比べりゃ間違いなく近場ではあろうから、
 いろいろ被害も出るんだろうけどな。」

でも、今んところはそこまでを案じてくれなくてもいいぞと、
表情豊かな口許をほころばせ、
大きなどんぐり目をにっかとたわめて見せるので、

「…そう。だったらいいのだけれど。」

ロビンさんとしても、本人の意思を優先したいか、
それ以上は言及しないとしたらしく。
ただ、そんな彼らのやり取りを、
やや憤然という顔つきのままで聞いていた、
今日は休みで家にいたんですよの、
家長でパパのゾロがおもむろに訊いたのが、

「あんたは、地震とか大雨とか、
 未然に気付くことができるのか?」
「?」

憮然としているのは、
精霊同士だからこそのいたわり合いの滲む会話に
入れなかったから…ではなくて。
普段は“パパ大しゅきvv”とばかり
自分にくっついて離れない坊ちゃんが、
今日は来客のお姉さまの、やわらかそうな胸元に
仔猫のように懐いているのが、
微妙に面白くないからで。

 “…って事情が判ってる俺たちはともかく、”

そうでない人には、
きれいなお姉さんにそうまでくっついてと、
子供相手に嫉妬してるように解釈されかねないぞ…だなんて。
にやにや笑って案じてやってるルフィさんだってことへこそ、

 “そんな大人の解釈が出来るようになられてまあまあ。”

ツタさんから別方向からの感心を呼んでることへは、
おそらく、気づいていないに違いなく。(笑)

 「地震や大雨、ねぇ。」

そんなこんなには当然気づいてないロビンはといや、
訊かれたことへと う〜んと小首を傾げて見せてから、

「あんまり気が付かなくなったかな。」

だからって別に困ってはないけれどと、
クススと笑ってお返事を返す。

「精霊だといってもね、
 こうまで人工的に埋めたり削ったりされてしまっては。」

普通一般のわんこ達より鋭いにしても、
これでは地脈や何やも伝わってはこないというものよと、
それは嫣然と笑ってから、

「あんたも…と訊いたからには、ルフィやカイくんも?」

そうとスラリと切り返すあたりがお流石で。
まま、このくらいは簡単なロジック、
だというに、言わないことまであっさり推察されたのへ、
ちいしまったとでも思うたか、
ちらり眉尻が震えたゾロであり。

「??」

そんな彼らの言外でのやり取り、
それこそ気配だけは察したらしいルフィ、
おややぁ?と小首を傾げて見せてから、

「俺やカイが、地震とか噴火の気配に鈍いのは
 それはもうもう仕方がねぇことだぞ、ゾロ。」

「…そうなのか?」

別に責めたわけじゃあないが、それでもそうと思われないかと、
この荒くたい彼にはぎりぎりの代物だろう、気の遣いようをしていたらしく。
それがあっさりと瓦解しちゃったような気がしたものか、
ややもすると気が重そうに応じたところ。

 「だって、俺やカイにしてみれば、
  ゾロが帰ってくる気配を
  聞きのがすまいってしてるからさ。
  それ以外の気配とかどうとか、
  あんまり関心ないんだな。」

なあ、カイもそうだよなと
のびのびにっぱし笑ったお母さんの声掛けへ、

 「うんっ!」

坊やも異議なしと元気に返したものだから。

 「……お。////////」

あらまあと微笑ましいお顔になって
可愛らしい親子三人を見やったお姉さまたちの視線も何のその。
アスリートたちから鬼の教官と呼ばれる
伝説のコーチ様が、
どう隠しても隠し切れないにやけ顔、
大きな手のひらで何とか隠そうとしたのが
何とも可愛らしかった、梅雨の半ばのとある午後の一幕だったのでございますvv



  〜Fine〜  15.06.17.


 *翻弄されておいでの方々がいるのに、
  ネタというか、こういうお話の題材にしてすいません。
  本当に、尋常じゃあないペースで
  地震だの火山活動の活発化だのという
  地球のむずがり系ニュースに事欠かぬ毎日で。
  そこへ加えて気象も落ち着かないですしねぇ。
  非力な人間はせめて大人しくしてようねと、
  おばさん、思うんですがねぇ…。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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