月夜見
 puppy's tail 〜その109
 

 “しるばあ うぃいくって美味しいの?”
 

おねさん、こんにちは。
またまた おしさしぶいでしゅたねvv
暑いついの なちゅはどしてまちたか?
お腹ぽんぽこ、だしゅてまちぇんしたか?
カイんチは あのね?
もうとっても しゅじゅちいから、
じぇんじぇんだいじょーぶなんだな、まいったかvv



       ◇◇


特に通訳を付けずとも
ウチへお越しの皆様には大体判るだろうと、
今回のご挨拶は、原文のままとしました悪しからず。(おいおい)
といいますか、今年の箱根の夏は、
暑さもそうですが、
噴火の警戒レベルが上がったことでも大変だったのは皆さまもご存知かと。
あれは夏のバカンスシーズンを目前とした六月の末、
大涌谷でごく小規模な噴火が発生し、
警戒警報も入山規制がかかるレベル3に引き上げられた。
大涌谷の火口付近には温泉供給設備があったため、
立ち入り規制により点検管理がままならなくなり、
湯の花とも呼ばれる温泉成分が詰まったことで湯量が減った温泉施設も多数。
(名物の黒たまごも生産できなくなったんでしたよね。)
また、芦ノ湖や元箱根、強羅や仙石原などは
火口からは勿論、
警戒せよとされた区域からも結構離れた地域でもあったのに、
箱根というひとくくりとなってたせいでか随分と観光に響いたそうで。
噴火や地震というとその後もいろいろあったので、
自然現象というくくりになると台風やゲリラ豪雨ともまた、

凄まじいものが週替わりという勢いで次々に襲い来たので、
不謹慎ながら
“あれって今年だったんだなぁ”なんて思った遠隔地のもーりんはともかく、

 「そうなんだよな。
  ご近所の皆さんからも、
  お孫さんとか夏休みに来てくれないんじゃないかって話が
  聞こえて来ててさ。」

ロロノアさんご一家のお住まいがあるのは
警戒しなさいよというお達しが出たところからもっともっと遠い辺りだが。
それでも箱根のと冠がつくし、
そう遠くないところに温泉施設を利用した保養地もあるしと来ては、
住まわってない人々から一緒くたにされても仕方がなくて。

 「でもまあ、
  蓋が開いたら、そんなに変わりはなかったそうですが。」

どちらのお宅でも、多少の遅れはありつつも、
にぎやかにご親戚がお越しになっておられたようだしと。
日々のお買い物やら無邪気なご家族のお散歩やらにお出掛けしては
お顔を合わせることも多かりしなご近所のこと、
朗らかに口にしなさったそのまま。
ツタさんがほこりと微笑って、
大きな鍋掴み用のミトンを両手にはめると、
濛々と湯気の上がっていた大きめの四角い蒸籠をテーブルの上へと移す。
大人たちの足元でちょろちょろし、
よくは判らぬままながら
わぁいわぁいvvとはしゃいでいたカイくんだけのために、
どいたどいたと露払い役を買って出たルフィ奥さんだったが、
木製の蓋がパカリと開けられると、

 「わぁvv」
 「あ、こらこら。」

今度はそのルフィが蒸籠の真上へ顔をかざして覗き込もうとしたものだから、
こらこら熱いぞと
連休中だが ジムでのコーチ業も今日はお休みだったらしいゾロが
頼もしい腕で素早く引き留める始末。
というのも、今日は敬老の日で、明後日はお彼岸なのでと、
ツタさんが腕を振るってくださり、
今日はお赤飯、明後日はおはぎをたくさん作ってくれるのが
当家の例年のお決まり行事。
いつも通りにもち米を一升は使ったというから、
一体何人家族ですか、
そんなにお客様がお越しですかと聞きたくなるよな量だが、
此処にいるのが今年のフルメンバーロロノアさんチで。
だってのに、
果たして明日まで持つかなという食いしん坊が居るから恐るべし。(笑)

 「いい匂いだなぁ♪」
 「いいによいでちゅvv」

ほわほわと立ち上る湯気の向こうには、
小豆の漬け汁だけで色づけした赤飯が、
ちらばる小豆の臙脂の実を映えさせ
品のいい淡い桜色のお花畑みたいに広がっており。

 「うまそーvv」

底に敷かれてあった布巾ごとよいしょと持ち上げ、
お櫃代わりの大鉢へと移された大盛りの赤飯に、
早速にも視線が吸い付けられてる可愛い母子だったりし。

 「カイも、カイも見ゆのvv」

何でもママと一緒でなきゃあという
王子様からのおねだり、ズボンの腿辺りをクンクンと引っ張られ、

 「よぉし♪」

パパが早速にもひょいと抱え上げてやり
よく見えるように支えて差し上げれば、

 「きゃいvv」

赤飯の絶景もさることながら、
パパからの抱っこに、
ママそっくりなおちびさんがキャッキャとはしゃぐから呆気ない。
まあまあとツタさんとルフィとで笑いつつ、
リビングまで担がれてった小さなおみこしと担い手を見送って、

 「秋はそれでなくても美味しいものが多いから、
  ツタさんは大変だろけど俺には天国だなぁ。」

おはぎも楽しみだしお月見にはお団子も作ってくれるし、
カボチャの蒸しパンとか里芋の煮たのとか、
どれもすご〜く美味しくて。

 「いつもありがとなvv」

それこそ満面の笑みというのを浮かべた
朗らか明るい幼いお顔に、
おしゃもじでサクサクとお赤飯をさばいておいでのツタさんが、
あらあら改まってどうもですと、やっぱり優しい笑顔で返した秋の朝。



     〜Fine〜  15.09.21.


 *そうなんですよね。
  あまりにいろいろ、災害やら事件やらが立て続いたものだから、
  箱根の噴火が今年の話だって実感が早くも薄れておりました。
  地元の方には すみませんです。
  寺社仏閣に油が撒かれた事件とか、
  ドローンがあちこちで落っこちたり、
  そんなもんじゃあない陰惨な事件も多数起こって、
  相変わらず前途多難な国なんだなぁ…。
  せめてお元気に前向きに、ですよねvv

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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