月夜見
 puppy's tail 〜その111
 

 翠さわさわ
 

おねさん、こんにちはvv
いーきせちゅになって来ましゅたね♪
お外は葉っぱのによいとかお花のによいとか いっぱいぱいで
おしゃんぽ行くと うきうきしましゅvv
嬉しい嬉しいてピョンピョンしゅるとね、
パパが抱っこして帰りゅことになんのね。
なんか変なの



     ◇◇


思春期前の坊やは、ママがそうだったよに毎朝わんこの姿で目を覚ます。
ウェスト・ハイランド・ホワイトテリアという可愛い系の真っ白な子犬は、
それでなくとも腕白で運動量も多い海(カイ)くんの
愛らしい所作動作をそのまま映して出すものだから。
早起きなパパをリビングに見つけようものなら、
わあパパだパパだvvとはしゃぎだすのと同時に突撃を敢行し。
新聞を広げたお膝へ飛び上がったそのまま、
そのままトレーナーの袖口なんぞを咬み咬みして、
食いついた袖口よりも自分の小さな胴体の方が振りきられるほど
ぶんぶんぶんと首を振り抜いては、
積極的に“構って構ってvv”と持ってくため。

 「判った、わーかった♪」

そこまで全身で懐かれては、
ただでさえ溺愛の一粒種が相手なことも相まって、
日頃、むくつけきアスリートたちを半泣きにさせる鬼コーチを、
よーしじゃあお散歩に行こうなと、

 「あのゾロが散歩に“お”をつけちゃうんだもんな。」

こちらはこちらで、変化(へんげ)すれば
さらさらした毛並みが風に泳いでそれは品のある風貌の
シェットランド・シープドッグという
世界的にも有名な牧羊犬の姿になってしまうルフィママが、
もしかしてもしかしたら半分くらいは焼きもちからか
朝も早くからリードはカッコだけというお散歩にと
街路へ出てゆく父と子を横目で見送っていたりするのだが。

 「奥様もついていかれればよろしいのに。」

遠慮なんてらしくありませんよと、ツタさんが口添えすれば、
途端にきゅうんと大きな目許を甘えるように緩ませて、

 「それはヤダ。
  ツタさんの美味しい朝ごはん、俺も手伝うんだから。」

こちらはもうすっかりと慣れましたのおむすびを、
いい按配で製作中の
名アシスタントぶりなのは譲れないらしいところが
いつの間にかいいお母さん(見習い)にもなりつつある腕白な奥様で。
時々両手を弾ませもって浮かせては
ぎゅっぎゅと適度なにぎり加減でご飯を丸めてゆく手際は
毎朝、それも自主的にお手伝いを重ねただけあって成程大したもので。

 「今日のは海苔を巻くの?」
 「そうですね、半分はそうしましょうか。」

残りはでんぶとふりかけで飾りましょうねと提案すれば、

 「あ、オレ、桃色でんぶ、甘くて大好きだvv」

並んで立ってる調理台のカウンター前で、
ピョンピョンと飛び跳ねてしまう辺りは
さすがは母子だなぁと、こそりツタさんに思わせた、
実は実は平生のその姿もそっくりな可愛らしい親子。
窓の外にはピカピカな新緑が広がる奥箱根の別荘地、
あとでお迎えがてら出かけましょうねとお母さんに微笑まれ、
それへもはしゃぐ可愛らしい小さなお母様へ、
ハナミズキの柔らかな梢が揺れて、
微笑ましげにどうどうどうと宥めの声を掛けてるようだった。




     〜Fine〜  16.06.02.


 *この何日か朝晩は涼しいのが戻って来て、
  ああそういやこんなだったかなと、
  遅ればせながら(?)
  5月はあんまり出番がなかった長袖のTシャツを
  引っ張り出しておりますよ。
  ルフィ母さんやカイくんは地毛があるから…その辺はどうなんでしょね。
  夏はでも、人の姿だと汗かけますから、
  普通のわんこよりは少しはマシだと思うのですが。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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