月夜見
 puppy's tail 〜その113
 

 思わぬ絵ごころ?
 

おねさん、こんにちは。お久ゃしぶいですvv
雪こんこ、いっぱいぱい 降いましゅたか?
風邪こんこは ひいてましぇんか?
マァマが もちっとしたらヌクヌクの春(はゆ)になるって、
ニコニコしてゆってました。
雪こんこも好ゅきだけど、お花ひらひらも好ゅきだかや、
早ぁく来ないかなぁ…。



     ◇◇



箱根という土地は、確かに標高がある分、
秋や冬の訪れは都心なぞに比べれば早いし、
雪も毎年必ず降りしきる。
とはいえ、毎年雪下ろしが欠かせぬ日が長々と続くほどの北国でなし、
今年はこの厳寒期にあっても積雪の陰すら見られない。

「地域によっちゃあ温泉地でもあるくらいだしねぇ。」
「それに今年は暖冬な方だそうですしね。」

寒いと朝起きるのが大変だもんと、一瞬だけ不快げに眉を寄せたものの、
そんな鹿爪らしいお顔もすぐにもふやかしてしまい、
リビングのソファーにて ツタさんが淹れてくれた甘くて温かいカフェオレを、
ご機嫌そうに満喫しているルフィお母さん。
大好きな旦那様は今日も隣町のジムへ出勤しており、
あの大きな頼もしい存在がいないのはちょっと寂しいけれど、
これはもうしょうがない。
そういやプロ野球のキャンプとやらも始まったよね、
でもだったらもう個人的なトレーニングはやんないはずだし、
別のギョーカイの人のご指名かなぁなんて。
実はあんまりご亭主の仕事について詳しくは知らないくせに、
それでも通なんだぞという口ぶりで話題を振って見せ。

「さようでございますか。」

こちらはその辺もちゃんと把握したうえで、
大変ですねぇと、
無難に、でもにっこり笑ってくださるツタさんなのへ、
大人ってややこしいよなと、そういう“同感だ”顔でうんうん頷く
わんこのルフィさんだったりし。
そも、ゾロからして自分の仕事の話は家では持ち出さぬ。
聞かれれば話してくれるが、もともと口下手というか、
その筋の人ではない相手へ専門的なことをどう言ったら通じるのかという
工夫というか語彙をへの模索とかは苦手なお人。
でもでも、まだいろいろと幼いルフィには
邪険な、若しくは“そういうものだ”という言い方で通すのは
誰でもないゾロ自身が嫌みたいなので、
あーうーと言葉を探すのに時間を食ってしまう。
誤魔化そうという言葉探しでないのは
ルフィの側でも判るので、
にゃは―と笑って、言葉が出るまで結構お付き合いしてやっていて。

 “うんうん、俺っていい奥さんだよなvv”

自画自賛でにんまり笑った視線の先には、
ムートンの上へ小さなお膝を落として座り込み、
それは大きなスケッチブックを広げ、
大きめのクレヨンを小さなお手々に握って
ぐりぐりと赤や緑の丸を描いている海くんがいる。
手のひら全部でクレヨンを横づかみにしての、文字通りの赤ちゃん握り。
それでも結構上手に操っており、
少なくとも画用紙のうえへクレヨンを載せての
所謂 殴り描きが楽しくてしょうがないらしく。
画帖に散らばったカラフルな渦巻きには正円を描いているものも多数。
何を描いているの?と訊くと、
赤いのはお花で、水色のはウサギさんだとか。
最近になって覚えた“お絵かき”は、これでクレヨンも2箱目だし
スケッチブックに至ってはあっという間に1ダースを消費し、
これではおっつかんと慌てた大人らが、
近在の文具センターに相談し、業務用の問屋で大人買いしてきたほど。
鼻歌かひとりごとか
“ふんふん、むーうー、なんなんなん♪”と何かしら口ずさんでさえいる坊やは
ただいまご機嫌絶好調であるらしく、

「でも、カイにはゾロの絵心が遺伝しててよかったなぁ。」

お絵かきを覚えてからというもの、
雨や雪の日に、でもお出かけしたいとむずがって
坊や大事な大人たちを困らせてしまう率がはるかに下がっており。
そこのところは確かに“お絵かきバンザイ”な状況ではあるが、

 「絵心、ですか?」

さようですか?と、これにはツタさんも即答での同意は出来なんだらしく。
だって、ルフィママが坊やと一緒になって
何やら落書きにいそしんでいるところはよく見かけるものの、
ゾロの方が何か絵を描いているところは観たことがない。

「奥様もお絵かきはお好きでしょう?」
「でもさ、ゾロに言わせると俺の絵は“へべれけ”らしいし。」

む〜んと口許をとがらせてから、
ちょっと失敬だよなアレ、と
ご指摘自体は不満か、
むむうと口許をアヒルのくちばしみたいな形へよじらせてから、
だけれども

「それにさ、ゾロってば こないだいろんな雪だるま作ったじゃんか。」

それは楽しかったことを思い出したからだろう。
膨れていたのはほんの一瞬、
すぐにも満面の笑みというので幼いお顔を塗りつぶした彼なのへは、
そういえばとツタさんも目許を弧にして笑って見せる。
先日ここいらでも結構な雪が降った日のこと。
やはり、ジムまでの出勤日だったゾロが車で出かけたその後に、

『マァマ、うさたんvv』

カイくんが窓の外を見やってやたらはしゃぎ始めて見せて。
うさたん? ウサギなんか来たのか?と、
同じように出窓のところから外を見やれば、

『…お。』

そうそう大きな、門柱ほどもの雪だるまは無理だったらしいが。
それでもサツキの茂みの上にちょこんと雪の塊が置いてあり。
真っ直ぐの長い葉っぱで耳を、赤い南天の実で眼をくっつけたそれは、
確かにいわゆる“雪ウサギ”に違いなく。
誰に教わるでもなく楕円のお山と緑の耳なのに『うさぎ』と判った坊やの感性を、
帰宅したお父さんが褒めた相変わらずの“親ばか”っぷりは……後日談なので念のため。(笑)

『旦那様が作られたんですねぇ。』
『だと思う。なんかごそごそしてなかなか車出さなかったし。』

今日は遊べないのだごめんねと、小さな坊やに謝って出かけた親ばかパパ。
雪対策のチェーンを今頃巻いてるのかな、
いやいや確か昨日のうちに支度は済ませてたような…という
微妙な間合いを挟んで出かけてったのはこれのせいかと。
出窓の棚のようになってるところへ小さなカイくんを抱えて乗っけてやりつつ、
お母さんたち二人も爪先立って眺めておれば、

『にゃーにゃも、ぱんにゃもいゆの♪』

小さい手をどこか不器用に握り込め、お指を一本伸ばして指差した坊や。
なになにとその方向、も少し先を透かし見れば、
顔の部分だけ、しかもアニメっぽい ゆるキャラ風の
動物の雪像もどきが点々とまだ並んでおり。

『あ・ホントだ。猫とパンダだ。』
『本当ですね。』

融ける前に写メ撮っとこうと、
テレビのリモコンと一緒にテーブルへ置いていたスマホを手にしたルフィママ。
ちょっとそこまで用の丈の長いコーディガンをばっさと羽織り、
カイくんはツタさんに任せ、お勝手から出てって。
まずはリビングの窓へと手を振って見せてから、
ゾロの手になるものなのだろう作品群を眺めつつ、
端から順に かしゃり・しゃりんと撮影を始める。
一番奥の方、ここからでは角度があって見えないところにもう1つあったらしく。
いったい何の像だったものだろか、
それを判じているものか、それとも感心して見惚れてか、
しばしルフィが動作を止めてじいと見やっていたものの、
やおらスマホでの撮影を再開し、
肩を縮め、寒い寒いという所作をしつつ家の中へと戻ってくる。

『外は寒いぞ、雪も結構残るかもだな。』

ぶるぶるっと震えて見せつつ、コーディガンをばさばさ脱ぐと、
ポンと弾みをつけるよにしてソファーにお尻から着地。
そのまま慣れた手つきでスマホの操作をし、
な〜にと寄って来たカイくんが、
そちらはお膝からよじ登るのを引き寄せてやる。
フリースのベストの背中を引っ掴んでという
ちょっと乱暴に見えなくもない扱いようだったが、
力の加減はちゃんと判っているようだし、
何よりカイくん本人が、
お膝が浮くほど持ち上げられたのへキャッキャと声を上げてはしゃいだので、
ルフィが放り出した上着をハンガーへと掛けるツタさんも
お顔をしかめるような受け止めようはなさらない。
はしゃいでくっついた母子は、
そのままモバイルツールの小さな画面をのぞき込んでおり、

『ほら、こんなだった。』
『パンニャ♪』

雪の像と言っても、立体的な全身像ではなく、
円盤状の雪の画板へ顔だけをかたどったという代物。
猫の方は小鼻にミツクチというお顔に、お耳が尖っていてそれと判る出来、
パンダらしい方は、落ち葉を貼りつけて眼の周りの黒いところとしてあって、
ようよう特徴を掴んでいる描きよう。
そしてあと1つ、一番遠い茂みの上にあったというのが、

『これって…。』
『あらまあ。』

ルフィとツタさん、大人二人がやや困惑したような声を出したのは、
出来が悪くて評価の仕様がなく…とかいう感慨からではなく、

『ぴかちゅvv』

そう。今時のアニメ界では妖怪なんたらに押され気味だが、
それでも某猫型ロボットやあんぱん顔と並ぶほどに有名であろうアニメキャラ。
ウサギもどきの長耳に愛嬌のある真ん丸顔の、
小さくて黄色い発電獣…らしいお顔の像であり。

『上手だよねぇ。』
『はい。』

というか、あの無骨なお父さんがぽけもんを知ってたのみならず、
見本も無かったろうに此処までそっくりな像をひょいと作れるなんて。
そこのところへ言葉を失いかかってた二人だった…のを
ゾロパパの絵心への引き合いに出したルフィさんだったよで。
あれはきっとドラえもんも描けるんじゃないかとか、
俺がどっちかっていうとイーブイが好きだなとか、
お母様ズの話がひとしきり沸いて、
ほら、こんなんだと
…やっぱり大胆過ぎて判りにくい絵を描いて見せた無邪気な奥方だったりした、
ちょっぴり暖かな冬の日だったそうでございます。






     〜Fine〜  17.02.05.


 *ちなみに、ツタさんが好きなのはミニリュウだそうで。
  …ぽけもんGOとか、一家でやってたのかな、こちら様。(笑)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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