蒼夏の螺旋 橘花薫風
      
*船長BD記念SSです。DLFですので、よろしければお持ち下さい。



 そういえば、最初の時はどうしたんだっけ。あ、そうそう。ベルちゃんの誕生を控えてたサンジが日本に来てて、何でだかドタバタしちゃったんだったっけ。去年はゾロの出張と重なったんだよね。でもでも、ゾロってばちゃんと覚えてて、この指輪くれたんだった。ゾロとこうして暮らすようになってから3回目の誕生日。俺には停まってた時間が再び刻まれ出して、それが嬉しかったんでつい、記念日には女の子みたいに敏感になってるのへ、そういうのホントはあまりこだわらない人だった筈のゾロがいちいち付き合ってくれるのが…やっぱり嬉しいvv プレゼントなんてどうでもいい。覚えててくれて、おめでとうなって笑って言ってくれたらそれでいい。


  ――― でもね、でも。………うんと、ね?
       出来たら一緒に何か楽しいこと、したいかなって。
       GWでイベントがあって、忙しいから無理、だよね。
       いいんだって、気にしなくたって。
       ほら、潮留の発泡酒祭りとお台場の冒険島フェスと、
       2つも掛け持ってるんでしょ?
       遅刻しちゃうから、早く行った行った。





            ◇



 ルフィの自慢の旦那様はロロノア=ゾロといい、某一流商社の営業部企画課に所属する、将来を嘱望されてるジャパニーズ・ビジネスマンであり。相変わらず不景気でシビアなこの御時勢、癒しが持て囃されている世情にあって、いかにも恐持てのしそうな面差しにいいガタイをした、それはそれは鋭角的な印象の強い男性だというのにもかかわらず。実直で誠実な人柄から人望を集めやすいのか、取引先の新規開拓への成績もよく、若手の中ではダントツに好成績を上げている出世頭でもあって。恐持てがすると記したけれど、ずっと剣道を嗜んで来たそのあおりで、存在感があって鋭角的な風貌をしているところがそうも見えるというだけのこと。見様によっては…野生味あふれる男臭さが何とも精悍であり、スーツの直線に鎧われた屈強そうな体躯には、奔放さを封じられた禁忌な香りさえして、

  ――― ズバリっ、きりりと冴えたいい男!

 何だか"真夏のキャンペーン中ですっ"ていう、新製品のビールや発泡酒向けのキャッチフレーズみたいだが。
(笑)

  "キャンペーンなんか張らなくたって、注目浴びちゃう良い男だもんね。"

 そんな素敵な恋人さんを、鼻高々になって自慢してみたいけれど、そんなして女の子たちの注目浴びちゃうのはヤだし…だなんて。それはそれは贅沢なアンビバレンツに苛まれ、いい男が恋人だと、ホント困っちゃうよななんて、惚気以外の何物でもないよな苦衷を胸の裡
うちにて転がしながら、時々ポケットから思い出したように携帯電話を取り出しては、メールが届いてはいないかって確かめてみる。そのご自慢の旦那様と、今日は都心で待ち合わせ。連休は販売促進関連のイベントが続いてて忙しいって知ってるのに。だから、お仕事に集中してよって言ったのに。

  『なかなか料理の美味しいカフェテリアってのがあるらしくてな。』

 確かにイベントの主催スタッフではあるけれど、自分は"企画担当"だから。開催という幕が上がってしまった当日の現場では、することと言ったってほとんど無いんだと余裕の笑顔になってたゾロ。会場近くのアミューズメントスペースに、評判のお店があるそうなので、そこで夕食をとって、後はベイエリアのホテルでのんびり一泊しようって誘われた。今時は"ウォーター・フロント"って言うんだよって茶化しつつも、
"そんな風に気を回せるようになっただなんてね。"
 およそ流行
ブームってものに疎くって、カタカナ読みのものはついつい棒読みになってしまうんじゃないかってほどに朴念仁で。そんな人が今時の企画課だなんて、ちゃんと勤まるんだろうかなんて感じちゃうほどに、古風で頑迷な石頭さんだった筈なのにね。なのになのに、そんなゾロには似合わないお洒落なことを、ルフィが喜ぶだろうからと頑張って考えてくれたんだろうなって。そうと思えば…お澄まししててもついつい"うくくvv"って微笑ってしまうほど、何だかとってもね、嬉しかったルフィである。

  "…あ、でも。"

 そんなお洒落なお店って、一体誰に教わったのかな。ゾロがそんなことに普段から注意を向けてる筈がない。夜は真っ直ぐ帰ってくるし、お昼ご飯は…現場や出先ではコンビニおむすびか、下手すると仕事に集中しすぎて取り損ねてたりするって言ってたし。かと言って、マニュアル本に頼ったとも思えない。そういう雑誌があるって事、知ってはいても…不思議だよね、お仕事でしか見ないんだもの。ゾロの頭の中では、そういう本はあくまでも"資料"って分類がなされちゃっているんだろね。

  "スタッフの女の子に聞いたのかな。"

 この辺で美味しいお店って知らないかって。あああ、そうだよ。ゾロってば、妙に無警戒っていうのか、自分がどれほどカッコいいかっていう自覚がないからな。そんなことを女の子に軽々しく訊いちゃいけないのにぃ。お教えしますよなんて言われて、丁度今日、皆で行く予定なんですなんて誘われちゃったりしてたら どうしよう。何人かと一緒ならまだ良いんだけれど。あれれぇ? 訝(おか)しいな約束してたのにぃなんて、白々しい嘘ついて二人きりになっちゃうような、そんな人に誘われてたら………。

  "ううう〜〜〜〜。"

 御機嫌な様子で待っていた奥様だったのに、ひょこりと思いついてしまった勝手な憶測の翼がどこまでも広がりつつある様子でございまして。ご亭主、早く来ないとエライことになるかもだぞ?
(笑)





            ◇



 そのご亭主はというと、今日はお台場にて自分が企画したとあるイベント会場に、スタッフの一人として朝から詰めていた。ゴールデンウィークを中心にと設けられた、販売促進系の集合イベントだったのだが、ご来場者が連日のように予想を大きく上回り、会場内での出展ものへの関心も…本社の方でのリサーチ班の追跡調査によれば、日々好感度を増しているとの報告があって、クライアントからの評判も上々。この近場に本社がある某テレビ局から全国放映されていて、子供にダントツ人気で受けているアニメキャラクターとタイアップしたのが、子供同士の口コミという形で想像を上回る話題を呼んだようで、

  "情報をくれたルフィに感謝しないと、だな。"

 そのキャラクターの等身大パネルが並んでいる傍ら、現場での詰め所代わりのブースで一息ついていたロロノアさん、

  『お台場でファミリー向けのイベントするんなら、
   子供寄せには○○テレビのアレをフューチャーしなきゃvv

 ニコニコと笑って提案してくれたルフィだったことを思い出す。子供と言っても幼稚園児や小学生たちだけに留まらず、中高生やどうかすると大学生やOLにまで人気のある作品だからね。あと小さい子のお母さんたちにもファンがいるって。ほら、イケメン・ヒーローたちにお母さんたちが群がってブームになってたのは知ってるでしょ? あのノリで親御さんまでよく知ってたりするから、子供が観に行きたいって言い出せばそのまま"ああ、あれね"って話も通りやすい作品なんだよね。そんな風に推奨してくれたのをプランに生かしてみたところが、その作品の原作が掲載されていた大手の少年誌にも連日広告が出るわ、タイアップ記念の限定商品を目当てにと、予想外の層の若い女性客も大挙してお運び下さるわで。お陰様で"ボーナスは期待してくれていいよ"と、視察にいらした社長直々にお声がかかったほどである。
「あ、ロロノアさん。」
 早めの夕食を取りに外に出ていた現地リーダーが帰って来て、
「お留守番、すみませんでした。もう皆も戻って来ますんで。」
 上がって下さいなと笑顔でのお言葉。いちいち名前を思い出すのが大変な重役さんよりも、こういった現場で一緒にバタバタしているスタッフといる方が、どういうものか…馬が合って楽しいし、交わす言葉も心地が良い。一方で、第一印象はバリバリの切れ者と思われがちな"本社から来たロロノアさん"だが、半日も過ごせば…気安く接してくれる人だとすぐにも知れるからか、バイトの大学生たちにまであっと言う間に馴染んでしまえる主任さんでもあって。そんなチームワークの良さとモチベーションの高さもイベント成功の隠れた鍵になっているのかも。
「それじゃあ、お願いするかな。」
 このイベントは一応、今週末の土日まで開催されている。とはいっても、今日のGW最終日が一番のピークだろうと見越しており、
「後で、撤収班の◇◇さんが来るから、最終日の搬出スタッフの顔合わせをしておいてくれな。」
「はい。」
 それと、今日の資料のファックスを送るのを忘れないようにと、注意事項を申し送りし、仮設事務所へスーツの上着を取りに行く。今日はこれから、ルフィと外での待ち合わせだ。何たって今日は彼のお誕生日であり、ここのイベントが上手く運んだ陰の功労者でもあるのだからと、彼が喜びそうなことをこっそりうんうんと考えた。去年の指輪はたいそう受けたが、男の子だからそうそうアクセサリーばかりという訳にもいかないし。服や靴は寸法を計る必要がある。それでなくとも育ち盛りな年頃のルフィだから、買ったは良いが小さかったというのでは意味がないし、大きすぎては…お兄ちゃんからのお下がりじゃないんだから恰好が悪い。小物は好みがあるだろうし、家電製品は今のところ不満なく揃っているらしいし。第一、アイロンだのオーブントースターだのでは、まるで来週の母の日のプレゼントみたいで…何だかちょっと。どうしたもんかと唸っていたらば、
『あ、それって可愛いvv
『でしょ、でしょvv
 バイトの女の子たちの話し声が耳に届いて…プレゼントへの良いヒントになったものだから、
"こういうイベントで良かったよな。"
 渡りに船…という表現で合っているのか、今時の若い子の好みやトレンド、お薦めスポット。毎日のお喋りの中に色々と情報が詰まっていたのをさりげなくも拾い上げ、そこから絞って今日のプランを立ち上げた、さすがは企画課のホープさんである。
"ちょっと遅れそうかな。"
 手早く上着を羽織りながら、流れるような動作にて腕時計を確かめる。駅前で7時にと待ち合わせたが、その行動が相変わらずに軽快なルフィのことだから、家でじっとなんかしていられず、早い目に来て待っているかも。こちらも浮き立つ気持ちのままに、速足にてブースから立ち去ったご亭主の、颯爽とした後ろ姿を見送って、

  「カッコいいのよね、ロロノアさんvv
  「ホントよねvv まだ独身なんでしょ?」
  「でも、なんか…身持ちは堅いらしいよ。」
  「そうそう。合コンとか誘っても絶対に行かないって。」
  「そういうトコもああまで男前だと許せちゃうよね〜vv
  「知ってる?
   隣りのイベントのキャンギャルたちもサ、用もないのに覗きに来てた。」
  「それって、ロロノアさんが目当てで?」
  「らしいのよvv そいで、彼女らの追っかけカメラ小僧の悔しがること♪」
  「それだったら来客の女子大生たちの何割か、
   リピーターは殆どがロロノアさんがお目当てだったらしいよ?」
  「そうそう、それとサ。アコちゃんが言ってたんだけど、
   このアニメの、剣豪だったかな? なんかロロノアさんに似てるんだって。」
  「え〜〜〜、何それ。」
  「似てる…かなぁ。」
  「剣道はずっとやってたらしいけど…う〜ん。」
  「だって言ってたよ。日曜に近所で同人誌即売会があったらしいんだけど、
   そこから流れて来てた女の子たちってのが、
   皆してロロノアさんを目当てに見に来てたんだって。
   インターネットか何かで、
   剣豪そっくりのスタッフさんがいるイベントをやってるって情報が流れたらしい。」
  「うひゃあ〜〜♪」
  「凄いんだねぇ、そういう情報網って。」


 ………こういう話になるとキリがないんで、この辺にしときましょう。なんたって、今回は奥方のお誕生日のお話なんですしねvv






            ◇



 待ち合わせたのは某駅の改札口前。いつだってにぎわいを見せている大きな駅なのだが、今日のところは…連休中だからだろうか。時間帯的には、家路につく人と"これからアフター5だよん"と繁華街へ繰り出す人とで結構びっしり混み合う筈の頃合いだのに、今日は…ほんのちょっぴり、間延びしたよな空気が感じられて。連休最後の日だもんだから、お家で休んでいる人の方が多いのかな。そんなこんなと思いつつ、連絡用にと外部からの通り抜けになっている開放されたフロアの一角で、高い天井を支える大きな柱に凭れていたら、

  「あの…ねぇ、ちょっと。」

 気安いトーンの声が間近でした。自分にかけられたものとは思わなかったので知らん顔でいると、わざわざ真ん前へと回り込んで来た顔があって、
「ねぇ。ちょっとだけ、ボクらと話ししない?」
 ウェーブのついた茶褐色の髪の背の高い男の子が二人。ルフィの前に衝立(ついたて)のように立ち塞がっている。少しばかり小柄で、シャーベットピンクのサファリジャッケットに白いTシャツ、ボトムも淡いアイビーブラウンの七分ズボンで、足元はスニーカーとハイソックスなんてな愛らしいいで立ちをしていたものだから、
"あやや、勘違いされたかな。"
 今時はベリーショートなんていって、ルフィくらい短い髪形の女の子も珍しくはないご時勢だからか、本当にたまに間違えられることがある。今日はちょびっと"おめかし"してたから、それで尚のこと間違えられたんだろなと感じて、

  「あのね。悪いけど、俺、男だから。」

 まとまりの悪い黒髪をまさぐるようにして、こりこりと後ろ頭を掻いて見せたが、
「またまた、そんな。」
「そんな手で追い払われちゃうなんて、ボクら、怖いのかな。」
 性懲りもなくにやにやと笑うばかりな大学生風の坊っちゃんたちに、う〜むむと、奥方、困ってしまった。
"たまにいるんだよね、自分は絶対に間違えないって自信家な奴。"
 大体さ、例えば"誤魔化し"だったとしたっても、それって"あんたなんか好みじゃないわ"って遠回しに言われたってことでしょ? なのにこの食いつきってば、今時どうよ。そんな粘着質って、はやらないと思うんだけど。
"しょうがないなぁ。"
 やれやれと溜息を落とすと、片方の男の子の手を取り、
「ほら。」
 自分の胸元へと当てさせる。
「え? //////
 まずはドキッとしたらしき彼が、
「………え?」
 続いて、少々複雑そうなお顔になる。
"ホントは、ヤなんだけどね。"
 こんな、どこの馬の骨だか判らないナンパな奴に自分を触らせるなんて、虫酸が走るほど嫌なことだけど。そろそろゾロが来るんだから、早く追っ払いたかったの。嫌と言えばもう一つ、
"気持ち悪いとかサ、勝手な捨て台詞投げるんだよな、こういう奴って。"
 勝手に間違えたくせに、こっちが悪いみたいな言い方するんだよね。離れ際にサ。まったくもうもう、せっかくの御機嫌なお出掛けなのにな。こんなカッコで早速ケチついちゃったよう…と。とほほんだよなと気落ちしつつも、
「判ったろ? 俺は男なんだ。他へ行きなよ。」
 改めてのお言葉をかけてやったのだけれども、

  「……………。」

 何だか。胸元に手を当てさせた方の男の子の様子がおかしい。真顔というのか無表情というのか、時間が止まったかのように、じりとも動かず黙ったまんまでいるものだから、
「…おい。」
 連れの子も不審に思ってか、怪訝そうな声をかけたほど。どうなってんの?と、そっちの彼へと目顔でルフィが問うたけれど、俺にも判らないと困ったようにかぶりを振って見せるばかり。奇妙な沈黙の中、急に黙ってしまった彼くんを、その連れの子と二人、息をひそめて見守ることとなったルフィだったのだけれど。

  「あ…。」

  ――― あ?

 何なになに?と。やはり二人してその反応をじっと待てば。

  「あんた、可愛いなぁ。//////
  「はぁあ?」

  ――― よ〜く考えよ〜。相手は男だよ〜♪
こらこら

 男か女か判んないほどの胸にときめくとは、こやつ、よっぽど乳のスレンダーな子が好みのロリなのかと。…いやその、げほんごほん。
(苦笑) 妙に頬を赤くした青年へ、お友達がずざざっと後ずさり、ルフィもさすがにパッと手を離して身を躱す。
「な、何なの、この子。」
「知りませんてば。」
 こそこそと言葉を交わし合ってる二人を見やり、
「俺とも仲良くしようよ。な?」
 にひゃっと笑った大学生Aくんであり、
"これって どゆこと?"
 こんなパターンには初めて遭遇したものだから、勝手が全く判らない。相手の連れだというのに、この際だから何にでもすがれとばかり、もう一人の方の男の子の二の腕へ咄嗟にしがみつくと、
「何だよ、それ。そいつの方が好みなの?」
 今度は真剣な顔になって怒って見せたAくんなもんだから、

  "ひぃいいぃぃ〜〜〜っ。"×2

 何なんだろう、この人。まだ女の子と間違えてるの? それとももしかして…男の子が実は好みだとか? どっちにしたって迷惑だようと、すっかりこまった奥方だったが、

  「どうしたんだ、ルフィ。」

 すぐ背後からの声がかかって、反射的にびっくりしたものの、
"…あ、この声。"
 ふにゃりと。知らず強ばっていた体の緊張が解けて、やっとの安心に包まれる。頼りになる待ち人が来てくれたという安堵の想いに、小さな肩が見るからに下がったほどだった………のだが、

  "………え?"

 その"背後"からの気配が。何だか…棘々しい殺気を帯びたような気がしたから、これまたゾクリ。何事だろうかと慌てて肩越しに振り返れば、

  「……………。」

 何だか堅い形相になっている人が立っている。お待ち兼ねの旦那様に間違いはないのだけれど。ついでに言うなら、5分ほど遅刻したくせに。何をそんなに不遜な態度でいるのかしらと、迫力に負けそうになりつつも目を離せずにじっと見やれば、

  「そいつは誰だ?」

 顎をしゃくって、まずはルフィがしがみついている方の青年を差して見せるロロノアさんであり。
"うわぁあ、さすがは元全日本チャンピオン。////////"
 一瞥されただけで"ピキーンっ"とその身が竦んだ青年Bには気の毒だったが、これってつまり………。

  "ゾロってば妬
いてるのかな。///////"

 日頃、自信満々なカッコいいゾロなのにね。俺んこと、余裕で甘やかして甘やかして。あんまり怒ったりもしなくって。それがこんなにも、判りやすくも怒ってる。我を忘れてというノリの、凄みを帯びた雰囲気に、
"うわぁ…vv ////////"
 こんな時だっていうのにね。うふふと嬉しくなってしまったルフィであり、
「俺も誰なのかは知らない。通りすがりにあの子と二人で、俺んことナンパしようとして来たの。」
 ぺろりと容赦なく言ってから、

  「でねでね、あっちの子はね。俺の胸を触っても男の子だって判らなかったの。」
  「何だと〜〜〜〜。」

 ……………そんな言い方するなんて。奥方ってば、結構"悪い子"である。
(笑)









            ◇



  「ホント、変な子だったよねぇ。」

 あの後、ちょっとばかし。大殺陣回り…と呼ぶには少々ちゃちいものだったけれど、大切な奥方に勿体なくも"お触り"したというけしからん輩を"とあっ"とゾロが投げ飛ばすという騒ぎがありまして。喧嘩に発展してはさすがに看過出来ないからと、その筋の追っ手がかかる前に、集まりかかっていた野次馬たちを掻き分けて脱兎のごとく人込みの中へと逃げ出した二人。そんなこんなの騒動で少しばかり気が立ってしまったため、落ち着きましょうよと水辺の公園を少しだけお散歩してから、予約をしてあった評判のカフェテリアに入れば。フレンチ風のイタリアンという何だか不思議な触れ込みの、それでも宝石みたいに綺麗で愛らしいコースのお料理が次々に運ばれて来る。時折テーブル越しに手を伸ばしては、ルフィの小さな手へそっと触ってくれるゾロだったから。メインディッシュの仔牛の香草焼きまで運んだ頃には、実はご亭主よりも興奮していた奥方の気分も何とか落ち着いたらしく。この段落の最初の一言を洩らしつつ、やれやれだよなと肩をすくめて見せていた。落ち着いたついでに、あの場では中途半端な説明しか出来なかったものを、今になって丁寧に語って聞かせたルフィであり。何もいきなり胸を触って来た訳ではないと、ことの順番をあらためて正しく説明されたゾロだったのだが、

  「何て奴らだ。」

 あんなくらいで勘弁してやるんじゃなかったと、こちらさんはますますムッとして見せる。怖かったろうにな、遅刻して済まなかったなと、やっぱりやはり奥方をこそ思ってやまない思考論理になっている彼であるところは変わりなく、

  "こんな興奮した夜って、もしかして…ヤバイかも?"

 おおう。そんな大人なことをも考えるようになりましたか、奥方。傍らの大きな窓からは、今夜泊まる予定のホテルの綺麗なフォルムがシルエットになって望めており、何だか奇妙な騒動がからんで、図らずも印象深いお誕生日となったようである。

  「ああ、そうそう。」

 ゾロからのプレゼントは、パワーストーンの携帯ストラップ。オーストリアの何とかクリスタルっていう、ちょっとしたファッションリングくらいはしそうなお高いビーズと、きれいなカットの水晶が連なった、そのままブレスレットにしても映えそうな逸品で。宝石だの貴金属だのには関心が薄いルフィでも、わぁ綺麗だと見とれたほどに、清楚ながらも品の良いデザインが気に入っていただけた模様。

  「でも、なんか勿体ないな。」
  「何が?」
  「こんな綺麗なのを普段提げてたら、お金持ちだと思われちゃうかも。」

 お子様みたいな言いようへ、ゾロのクスクス笑いがなかなか止まらなかったほど。それはともかく…ご亭主が愛してやまない、それはそれは可愛らしい奥方は、とってもそうは見えないけど本日めでたくも二十ン歳になりましたvv どうかこのまま、いつまでもお幸せにvv




  〜Fine〜  04.5.4.〜5.5.


  *原作船上Ver.を書いていたんですが、
   何だかこっちの方をムクムクと思い立ってしまいましてね。
   当日にこっちをUPする運びとなってしまいましたです。
   相変わらずに変なサイトですみません。(とほほん)

ご感想などはこちらへvv**

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