蒼夏の螺旋

   “春が通過中”
 


今年の春も
相変わらずに気まぐれな趣きでやって来た感がある。
冬の極寒が踏ん張る二月が終盤を迎え、
節分や立春が迫って来ても、
どうせなかなか寒さは引かないのよと
失望する前に決めてかかっていたところ。
最強とされる級の寒さは、
案外あっさり、通り過ぎゆきて。
寒くなる日も戻りはしたが、
それでも陽の濃さはぐんぐんと増してったし。
終まいには 四月を待たずして初夏のような陽気となったほど。
そうともなると不思議なもので、
おや 桜はまだなのかいと、
まだで通常なのが“遅い”と思えてしまうから、
人の感覚もいい加減。
でもでも、それへと応じるように、
四月を待たずして咲き始めた桜のほうも
付き合いが良いというか何というかで。

 “そんな目茶苦茶吹っ飛ばす勢いで、
  寒の戻りも目一杯に乱入したけどな。”

そうそう、
都内のあちこちでは
あっと言う間に満開近いほど咲き乱れ、
上野や不忍やの名所ほど
お花見の予定をじっくり立ててる余裕もない春だったし。
本来の満開、桜の盛りだろう7日8日辺りに列島を襲った
真冬並みの寒さは凄まじかったし。

 “まあ、季節のイベントほど、
  がっつり構えたのとか、お膳立てしたのとかは
  全然期待してねぇけどな。”

ポテチの袋から、そろそろ大きめのが摘まめなくなり、
おやと中をのぞき込んだのは、
そういうのを一番一緒に楽しみたいお相手が、
だがだが イベントを立案し企画するのをお勤めにしているお人ゆえ。
ご亭主が長と付く役職になった今、諦めるのがお利口と、
腹をくくって久しいルフィ奥様、その人であり。

 お花見も結局は
 コーチを任されているサッカーチームの皆さんと出掛けたし、
 ゾロはゾロで、
 じゃあと評判の桜スィーツを山ほど差し入れしてくれたので、
 ルフィの面目は ずんと立ったのではあるけれど。

 「……。」

花見はいいんだ、今更だし どうでも。
たださあと、口元がついついひん曲がったのは、

 【 スイカがもう出てるんですね。
   早いなぁ。あ、でも高いっ。】

昼間の情報番組で、割とよく見るタレントさんが、
どこかの市場のレポートをしていたのだが、
そこで紹介されたのが、
この時期にもう収穫されたらしいスイカの話題で。

 “そっか、やっぱりとんでもなく早かったんだ。”

早生のビワやらスイカやら、
実はもうとっくに口にしていたルフィさんだが、
それも全ては
凄腕営業マンである旦那様の手腕あっての恩恵で。
確かに美味しかったし、
一緒に食べた小さいお友達の皆もお母様がたも、
ゾロさんて凄い凄いと、褒めてもくれたれど。

 頑張って伝手を辿って珍しいもの手に入れてくれるより、

 「オレ、
  差し向かいで食う花見団子の方が
  断然いいんだのにな。」

一流の店のとかでなくて、
そこいらのコンビニやスーパーで売ってる
製パン工場製のとかで十分で。
近所の公園の桜を見上げつつ、
美味いな、綺麗だなって、
散歩の途中の、ついでみたいな花見でよかったのになぁと。
惰性で口へと運んでるポテチが、
とうとう粉っぽくなっているのにも気づかずに、
あぁあなんて口許を曲げたままでいたところ、

  ♪♪♪♪♪〜♪♪、と

テーブルの上に放り出してたスマホが、
そのご亭主からの着信を告げる。
ありゃりゃ?まだ昼だぞ、帰るには早いのな、
何か忘れ物とかかなと、
ポテチまみれの手を見やり、
行儀は悪いが背に腹は代えられぬ、
Tシャツの胸元で大雑把に拭ってから手に取れば、

 【 ルフィか? 今、暇か?】

おや。噂を…してないけど、そんでも影って奴かなぁ。
選りにも選って、というか、やっぱりゾロからの通話で。

 「おー、暇してるぞ〜。」

あ、やべ。やっぱ画面がベタベタのツルツルだと、
こっちの事情にありゃまあと気を取られておれば、

 【 そんじゃあ、出て来ねぇ? 駅前まで。】

 「え? 何んでなんで?」

それって、ゾロはもう駅前にいるって事?
ごろんと寝転んでたのが一気に起き上がって訊いたれば、

 【 ああ。今日は直帰でよくってな。
   したらお前、ここの駅前って今頃が桜の満開で。】

毎日通ってるのに、
何で気が付かなかったかな俺っていう反省もかねて、
近所の公園とかの桜探して、花見を決行しようぜ、だなんて。

 「えと…じゃあ、何を持ってけばいいのかな。」

ウチにある缶ビールとか要る?と訊けば、
そういうのは出先で買えば良いからと、
ざっかけない言いようが返って来て、

 【 たださ、お前が居ないと勿体ねぇと思ってな。】

 「う…。/////////」

こんのカバヤロ、
何でそうも、不意打ちでキザなこと言うかな、
しかもそんなにいい声で。
何の話だってか? すっとぼけるか?
よーし いいだろ、じゃあ俺も
何か こそばゆいこと言ってやるからな、
覚悟して待ってろよ。


  遅咲きの桜が赤面するよな、
  そんな騒ぎが起きそうな、
  とある昼下がりだったとなvv




     〜Fine〜  15.04.12.



  *変な〆めですいません。
   明日からまた雨ですってね。
   今年はとうとう
   まっとうな花見って出来なかったなぁ、くすん。


ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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