蒼夏の螺旋

   “武士の情けということで”
 


相変わらずに異常気象とやらは続いているようで、
まだまだ寒いはずの三月なんてゆう
チョー前倒しで来たその上、
あっという間な駆け足で “春”が通過してしまい。
これは毎年の感慨ながら、
そのまま真夏になだれ込むのじゃあないかというほどの、
爽やかながらも結構な陽の照りつける
“初夏”というやつが
目下の地上を蹂躙中だったりし。

 “そうなんだよな。
  そろそろカップのアイスより
  棒付きのアイスキャンデーの方が喰いたくなるし。”

ルフィがコーチを請け負っている
ちびっ子サッカーチームの練習帰り、
子供らと一緒になってコンビニに寄り道し、
ついつい買い食いしちゃうそのお目当てから
季節の移り変わりを感じ取ってる辺りは、
まだまだ子供の仲間内、
高校生みたいな感覚だけれど。
そんなこんな思いつつ、
腰にぐうを当ててという勇ましい直立不動で、
真っ向から向かい合っているものはといや、
ガスコンロにかけた小振りの片手鍋であり。
グツグツ沸騰中の湯の中に躍る、
半透明の麺状のブツの茹で加減を監督中。
慣れというのは物凄いもので、
かつては ただのカップめんでも
作る度に出来がまちまちだったほど、
料理になんて向いてない、
適当で大雑把な身だったはずなのに。
(そして、ま?いっかで済ましていたものが) 笑
今では、出汁巻き玉子も上手に焼けるし、
筑前煮もチキン南蛮もお任せという腕前になっており。
今時は冷凍でもコンビニのレトルトでも、
偏りのない、むしろ上等なメインだの総菜だのが
お手頃&お値頃で買えてしまうご時世なれど。
三度三度そればかりじゃあ何とも味気ないし、
この細っこい体型で、相撲取り志願かというくらい
途轍もないほど大食いな
ルフィさんでもあるがため。
大好きなご亭にご馳走したいぞ、文句あっかこの野郎という
何とも健気な(?)発端に、
家計の助けにもなるだろしなんていう、
取って付けたような言い分も盛って頑張ったところ、
向いてないはずだったものが あら不思議。
時々失敗することもありつつ、
それでも無難に “おさんどん”がこなせるようになっており。
鼻歌交じりに時々菜箸で鍋の中をかき混ぜていたところ、

「それ、何だ?」

通りすがりがそのまま近づいてきて、
こっちの小さな背中を懐ろの中にくるむように掻い込むと、
そのままひょいと
こちらの肩越しに手元を見やってくる。
あくまでも さりげなさを装う “誰かさん”なのへ、
暑苦しいと鬱陶しがるでなく、

“あ、シャンプーの匂いするvv”

むしろクスクスと楽しげに笑いつつ、

「心配すんな、春雨だvv」

揚げ春巻きでもと思ったけど、
あんまり暑いから
キュウリとハムと錦糸卵の千切りとで酢の物にすっからよと。
いとも簡単なことのよに、笑顔全開で応じてやれば、

「そっか。」

風呂上がりの香をまとわせていた
筋骨隆々な旦那様は、
微妙にホッとしたような雰囲気となるのが、この際は判りやすい。
この図体で、緊張感を解いたぞというのをありありと匂わせたのが、
ルフィでなくとも可笑しい限りなのだが、

“まあ、食いもんの苦手はしょうがないよな。”

ここは見て見ぬ振りを通してやって、

「煮豚の旨ンまいの買ったから、
 炙りとピカタにしたぞ?
 あとは、がんもどきの煮浸しだ。」

あ、やべやべ、
がんもが焦げてないかなと、
小さな腕白奥様が隣りの鍋を覗くに至り、
邪魔になるかと思うたか、
巻きつけていた腕をほどくと、
そのままキッチンから離れてゆく偉丈夫さんだけど、

 “あの図体で、
  何でかこんにゃくが苦手なんだよな、ゾロってば。”

あ、図体は関係なかろとか思っただろ。
だって、いつだったか、
ヘルシーダイエットサプリとかいう
健康食品イベントの企画があったとき、
試食すらしてないものは勧められねぇしって
本気で頭を抱え込んでたもん。
こんにゃくゼリーなんて
ほぼゼラチンみたいなもんなのに、
無茶苦茶咬まないと飲み込めないらしいし…と。
単なる“苦手”以上に鬼門ならしいこと、
でもでも、

“こればっかは、サンジにも内緒だな。”

そんな配慮に気づきもしないで、
リビングのほうで
缶ビール片手に野球中継なんぞ観始めている気配が届き、
しょうがねぇなと苦笑を重ねた奥方で。

「あ、ゾロ。
 オレ7時からのバラエティー観るからな。」

野球ならその後だぞと、
妙に大威張りな言いようを、
背伸びをしながら放って寄越した
初夏のある日の宵の口でございますvv


  〜Fine〜  15.06.01.


 *5月29日は “こんにゃくの日”だそうで。
  ウチの剣豪はこれが苦手としたもんたから、
  いつか書いてやろうと思いつつ、
  毎年 過ぎてから気がつく記念日なもので、
  こっそり悔しくもあったんですよね。
  (まさか剣豪からの念でも飛んでたとか?) 笑
  今年こそはと思っていたらば
  パソコの絶不調なんて伏兵にやられようとは…。

  まま、それはともかく。(とほほん)
  このお部屋のルフィさんは、
  向上心を持ってお料理に勤しんでおりまして、
  いわゆる “男の料理”というのともひと味違う、
  新妻ならではのご飯作りを頑張って奮闘中。
  困りごとに遭遇しても、
  頼もしい “実家の母”がおりますしねvv(大笑)


ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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