蒼夏の螺旋

   “ほっかほかvv”
 


今年は12月に入った途端にすこぶるつきに寒くなったし、
クリスマスもぐぐんと冷え込み、
年末の数日は微妙だったが年が明けるとまたぞろキンキンに冷え込んで。
さほど信心深くない層には 出掛けるのを控える理由を与え、
インフルエンザが途轍もない前倒しで猛威を振るい。
今日も今日とて、
都内は朝早くからの雪が所によっては積もりつつあるほどの寒さだったりし。

 「…の割に、
  今年はあんまりナベ食ってないんだよな。」

去年みたいに“今年は○○鍋がトレンド”とか
ワイドショーや料理番組で騒がれてないからかなと。
行きつけのスーパーの食品フロア、
カートをお供に回りつつ、
各社の鍋スープの素が積み上げられた平台を見やって、
ひたりと足を止めるところが素直といや素直かも。
今日は都内もずんと冷え込んでいて、
直前に桜の咲くころ並みという暖かさに触れたから尚更に、
マンションのエントランスから
表へ出るやいなや、
『☆の豚』みたいじゃんという
ノリで買ってしまった
飛行士みたいなフライトジャケットを羽織った肩を縮ませ、
うひゃあと震え上がったルフィだったれど。

 「ナベなぁ…。」

昨日はプルコギだったし、
その前は串カツのカレー・フォンデュで(……)、
その前は、えっとえっと…
あ、そうそう炊き込みご飯と おでんだ、おでん。

 「おでんは鍋のうちに入らないしなぁ。」

コンビニなどなどで買ってくるからとかいうのじゃなくて、
大鍋で煮込みはするが、
途中であれこれ継ぎ足してテーブルの上でも煮込み続けるというものではないため、
ルフィの感覚では鍋というカテゴリーに入らないらしい。
ちなみに、バナナはおやつに入らない派だ。

 “…関係あるんか、それ。”

いやまあ、参考までに。(笑)
煮込んでる途中でついつい
三色串天なんかをつまみ喰いしちゃうからというのもあって、
寄せ鍋やすき焼きに比べると
やっぱり“鍋”という感覚にはならないようで。

 “みぞれ鍋ってのもやってみたいんだけどもな。”

そうそう、大根おろしでシロクマ作るのが紹介されてたよなと、
シリコンの型がさりげなく同座しているのを見つけ、
ああこれかぁなんて
“にゃはvv”と笑った奥方だったものの、
大量の大根おろし作らにゃならんのを
途中で飽きるんじゃないかと、

 “〜〜〜〜。”

そうだった、その番組を一緒に見ていて、
ゾロがそんな風にこき下ろしてくれたんだっけというところも思い出し。
表情豊かで愛嬌のある口元を、
どっかのアヒルよろしく むむうと突き出してたわめてしまう。

 “第一、それやると
  シメのうどんまで“おろしうどん”になりかねねぇもんな。”

ロロノアさんチの鍋は、 すき焼きでもしゃぶしゃぶでも寄せ鍋でも、基本的にゾロは文句なぞ言わない。
ルフィが白米のおかず感覚になるのと違い、
彼にすれば酒の肴扱いなものか、
メインのカニだの肉だのも突々くて程度。
なので何を選ぼうとさしたる不平なぞ出ないものの、
ご亭主がそこだけは譲れないと言ってシメは いつもうどんと決まってる。
雑炊が嫌いだというんじゃなくて、
ただ、残ってしまったごはんが濁ったつゆと一緒に淀んで、
固まりながら冷めてくのを見ると
何とはなく気落ちするのだそうで。

 “妙なところに美学持って来るもんなぁ。”

あれはきっと、一人暮らししてるとき、
仲間で鍋やった次の日とかに
台所でそんな惨状を見ちゃあ げんなりしたんだろなと。
童顔をわざとらしくも鹿爪らしく顰め、
うんうんなんて頷きながら
一人納得しておれば、

 「何を感慨深くなってんだ?」

 「え? ありゃ、ゾロじゃんか?」

今日は出先からの直帰を決めたらしかった、
さっきからメニューの引き合いに引っ張り出されていた
大きなノッポのご亭主ご本人。
いつもより相当早いご帰宅となり、
今時分だと買い物かなと、
いつもの“帰るコール”も入れないで
こちらのスーパーへ直行した彼であったらしく。
目串は大当たりで売り場に目当ての存在を見つけたものの、

 『…?』

頭のてっぺんにポンポンのついたニット帽を頷かせ、
鮮魚の商品棚の前で何へか頷く姿がさすがに気になったか。
小さな背中を叩いて驚かせようと思っていたらしい
長身のご亭主、
打って変わって、案じるような声をかけて来たほどだったようで。

 「まさか、どれも美味そうだから
  この棚全部を買い占めようとか思ってたんか?」

 「お、それもいいかもだなvv」

びっくりしていたお顔が、見る見る にゃは〜っと破顔して。
目元を細め、頬へと口角をきゅうと食い込ませてという、
そのゆるやかな溶ろけ具合がまた、
何とも言えず愛らしいというか、幸せそうで暖かで。

 「う…。//////」

出先で困ったことに出くわした訳じゃあない、
むしろ久し振りに会えた ややご老体の匠の健在っぷりに、
気持ちも結構盛き上がり、
ルフィを驚かしてやろうなんてな悪戯っ気が出たほどだったのにね。
そんなして弾んでた心持ちを
更なる幸せであっさりと凌駕した
愛しい君の溌剌とした笑顔だったものだから、

 「よぉし、売り場のチーフを呼べ♪」

 「ゾロ、買い占めるなら、俺 肉のほうがいい。」

何だか妙に熱くなっておいでの
でこぼこコンビの盛り上がりへ、
居合わせた奥様がたが ギョッとしてから…
なぁんだと安堵し、
微笑ましいことよと
笑顔になるのに暇間もかからずで。
シャーベットみたいな雪が道をも覆い、
それはそれは冷え込んだ都内ではあったが、
こちらのご町内だけは、
ふんわりと暖かい午後と
相成ったようでございます。





     〜Fine〜  15.01.30.


  *そういや、明日は“愛妻の日”だなと、
   テレビ観ていて知らされました。
   徐々に浸透しつつあるのか、
   それとも“愛を叫ぶイベント”を毎年やってる
   日比谷花壇さんの奮闘ぶりの成果なのか。(おいおい)

   そして、ウチのルフィ奥さんは
   愛らしいブーケより食い気だと思います。(断言っ)
   花もそれなりに愛ではしますが、
   ズワイガニのむき身1キロパックとか、
   しゃぶしゃぶ用豚ロースのスライス以下同文の方へ
   ふらふらと引き寄せられるに違いなく。(笑)
   そこをしっかり把握しているご亭主、
   節分の恵方巻きセット1ダースとか、
   前倒しでお土産に持って帰って来そうですねvv


ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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