蒼夏の螺旋

   “思い出すのは…”
 


梅雨入り前にそれは暑い暑い日々が襲ったそのまま、
今年も空梅雨なのかなぁなんて危ぶまれた今年だったが、
それでも気が付けばそれなりの雨も降った都内だったようで。

「ゾロの仕事にも多少は影響が出るんか?」

なんたって営業部の敏腕係長。
しかも自分で販路や何やを開拓しまくる熱血渉外担当なくせに、

「今時は気象関係のデータも読むから、
 それほど大きく左右はされんがな。」

そんな言いようをし、胸を張るところが

「可愛くねぇなぁ、このこのぉ〜〜〜。」

本当は、そういった先進のデータ関係は
ネットやPCに詳しい部下に丸投げしているくせに、と。
顔なじみになってるOLの皆様から聞いていて、
既にちゃあんとご存知の小さな奥方。
大型テレビを一緒に眺めていたリビングにて、
小さなこぶしを振り上げたので、
叩く振りでじゃれかかって来るかと思いきや、

「わっ。止めろって、こらっ。」

小さなぐうがパッと開いて、
広い胸板の両脇へすべり込んだからたまらない。
そうは見えない屈強精悍な男衆の旦那様だが、
実を言えば、脇のとある一か所だけ、くすぐり攻撃に弱いそうで。
そこをさわさわされてしまい、
こちらも大きめのソファーにめずらしくも押し倒され、
てぇいやめんかと、悪戯っ子な手を掴まえるのに
ひとばたばたしたのはともかくとして。(笑)

「大人にもあるんだなぁ、運動会。」
「いや、結構権威のある陸上大会だろ。これ。」

めすらしくもといや、
日頃イベント関係のあれやこれやにかかわっている関係から
土日祝日ほど仕事でお外が多いご主人が、
今日は朝から在宅中。
急な予定の変更が入ったそうで、

 『じゃあさ♪』

そこで、根は寝坊助な奥方が、
朝食の支度が要らないとなると
どうしても起きられない素直な身を起してもらい、
まずはと なでしこジャパンの試合を揃って観戦。

 『5時キックオフってのが微妙でさ。』

ゾロが出勤予定だったらだったで、
バタバタしちゃってやっぱり観てらんなかったかもと、
可愛らしくもにゃは〜っと笑いつつ、悪びれぬままに言ってのけ。
わああ勝った、やったぁっと、ひとしきり興奮したまま
そこから様々なスポーツ中継のはしごをしつつという、
アクティブなんだかインドアなんだかな日曜を過ごしていたのだが。
そんな彼らの辿り着いた先が、新潟で催されていた、
いろいろな代表権のかかってた種目がいっぱい盛り込まれていた陸上大会で。
何しろ、サッカーでいうA代表クラスのアスリートばかりが
次から次から出てくるものだから、
迫力もすごいし、年齢層も高くって。
大人の運動会なんて言いようを、ついついしてしまったルフィだったようであり。

「トラックで長距離って、途中で混乱しねぇのかな。」

1万メートルとかいわれても、
何周めかいちいち数えてられるんだろかと、
子供のようなところを心配している無邪気さに。
おやまあと点目になってから、

「大丈夫だ。
 耐久レースみたいに係の人が数えててくれてっから。」

案じるなと、ポテチの袋を差し出せば、
そかーよかったぁーとやっと破顔し、

「ピットインもあんのかな?」
「……っ☆」

そこまでオチがついてこようとはと、
渡しかかっていた菓子の袋を持つ手がくんっと止まってしまい、
何だよぉ、くれよポテチとばかり
膨れられてしまったご亭主だったのははっきり言って余談だが。(う〜ん)


「運動会じゃあないけどさ。」

やっとのこと進呈された、
お徳用うす塩ポテトの口を開きつつ、
何を思い出したものか、
うくくと楽しそうに笑った奥方に気がついて。
ご亭の膝に足を投げ出すという、
結構なお行儀の横座りはいいとして(いいのか)、
ちろんと見上げてきた視線から、もしかせずとも自分のことらしいなと、
そっちへ向けて
“何だなんだ何を思い出したんだ、こいつ”という心づもりをしかかっておれば、

 「ほら。ゾロってば途轍もない方向音痴で、
  ご町内マラソンに参加すると
  どんなに係の人を増やしても
  コースから必ずいなくなってさ。」

 「……思い出すな。////////」

遠足だの校外学習の見学会だのでも危なかったらしいけど、
そっちは何となれば腰ひも結わえるっていう最後の手段がとれたけど、

 「マラソンはスポーツだからそうもいかなくて、
  かと言って、ゾロだけ担当って監視役を作るわけにもいかなくて。」

どんなイリュージョンだってほど、
ほんのちょっぴり瞬きしただけでも見失っちゃあ
やったやられたって大騒ぎ。
だのに本人は、とっとと家まで帰ってたりして、
青くなった先生方が謝りに来るんで
いえいえこちらこそすみませんてなって
おっちゃんやおばちゃんたちがそりゃあ大変だったって、

 「くいな姉ちゃんが言ってたぞ。」

 “あんのおしゃべりがっ!”

その挙句に、とうとうご町内マラソンは出禁になったというところまで、
きっちり知ってたらしいルフィさんだが、

 「……。」

そういう奥方もまた、
ちょっと離れた自分の地元の町内会のマラソンでは、
沿道に出ていた人が連れてたかわいいわんこに気が逸れるわ、
指定のコースからやはり姿を消してしまい、

 『だってこっちの方が近道じゃんか♪』

勝手なショートカットにて、
田んぼや畑を横断したのが見え見えな草まみれでゴールインして、
にゃは〜っと嬉しそうに笑い、
体育担当のせんせえ方にしょっぱそうなお顔をさせた
とんでもない武勇伝も持ってることを、
こちらは父御や兄上から聞いて知ってたゾロとしては、
だがだが、自分がそれを言っちゃあ大人げないと思うのか、
何とも言い難い微妙な顔になったの、
せめて隠すかのように、
新しい缶ビールを開けてぐいと男らしくあおったのでありました。





  〜Fine〜  15.06.29.


 *幼馴染設定なのはこの二人だけだったので、
  彼らで書き始めたのですが、
  案外と大川の二人で書いてもよかったかもですね。
  あの小さな里のご町内運動会もなかなか楽しいそれだったしvv


ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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