蒼夏の螺旋
  
 
小春風間 〜剣豪生誕記念作品(DLFです)
 

 

          


    「……………あ。ねえねえ、ゾロ。」
    「んん?」
    「お誕生日おめでとうvv
    「…あ、ああ、日付が変わったか。ありがとうな。」
    「プレゼントは会社から帰って来てからね?」
    「うん。………。」
    「ふや? ぞろ? ………あ。///// ねぇ…あのサ、さっき一回……。」
    「ん〜? 何かな?」
    「だから、さっき、あの…もう………。あんっvv



  ――― さぁさ、いつまで起きてるの?
      いい子は寝た寝た。なまはげが来るよ?
(笑)








            ◇



 のっけから、どうも失礼致しました。
(笑) ウチのサイトでは結構古株なシリーズであるにも関わらず、新興の『puppy's tail』と渡り合うつもりかこらこら、いつまでも新婚さん気分が抜けない、相変わらずにラブラブなご夫婦でございまして。今更の説明も何なのですが、いきなりこのお話から読んでいるという、酔狂な、もとえ…器用な方がいらっしゃらないとも限らない。簡単に解説を致しますと、このシリーズではルフィさんがちょっとばかり"事情わけあり少年"でして。中学生だった8年ほど前に、留学先の欧州にて大河に落ちて行方不明に。そのまま消息が知れなくなったため、家人親戚の皆様は亡くなってしまったものと諦めていたのですが…。実はとある人物に助けられて生きていた。ただ、その人物というのが"不老不死"になってしまう不思議な方法にて救ったがために、十年近い月日が経っていたにもかかわらず、ルフィは失踪した時のまま、つまりは中学生の姿のままだったんですね。一番仲が良かった従兄弟であるゾロは、自分の前へと不意に姿を現した"ルフィに良く似た中学生"に心揺れたのですが、何だか妙だと感づき始め、そしてとうとう彼こそがルフィ本人だと知る。だがだがしかし、そんな超自然の奇跡の存在であるのに、世間に身を現す訳にはいかないからと、改めて姿を消そうとする彼であり。ルフィを助けた金髪碧眼の美丈夫と、それを追って幾星層もの歳月を駆け続けているという美人ハンターまで現れて、さぁさ二人の運命は…っ!

   ………という、結構シリアスなお話だったの、皆さん、覚えてますか?

 一体どっから、こんな"新婚さん いらっしゃいvv"な話になったやら。やっぱ、あのオチがまずかったのかなぁ?
(笑)




 さてとて、この人たちの場合はオープニングのいちゃいちゃだけで"ここで終しまいvv"としても良いのかも知れませんが
おいおい、それだと あんまりですんで(まったくだ/笑)、お話をもうちょこっと続けることにしましょう。




 日付けが変わったばかりの夜半に"おめでとうvv"と一番乗りでお祝いの言葉を言ってくれた可愛い人。
"それだけでも十分に満足してるんだがな。"
 …あ、何を言ってるんですよ。ただの"それだけ"じゃなかったでしょうが、旦那。確かもう1ラウンド…むがもがむが。
「何してんの? ゾロ? Morlin.さん、苦しいってよ?」
「あ、ああ、そうだな。」
 ぷは、ぜいぜい…。なんて事するんですよ、この力自慢さんは。まま、昨夜のことはともかくも。
(笑)
「ね? 今夜はホテルでお食事だからね? だから、お家に帰って来ちゃダメだよ?」
 あどけない笑顔でもう一度と念を押す。待ち合わせしたのは、都心近くのリッチなホテル。
「ああ、覚えたよ。」
 ゾロとしては…頑張り屋なルフィ奥さんの手料理の方が、どんな豪華な食事よりも御馳走なのだけれど。彼が言うには、そのままそのホテルに泊まる予定にしているとのことなので、
"…ということは。"
 奥様としてのお仕事の数々…夕食に使った食器の後片付けとかお風呂の準備だとか、朝は朝で先に起き出しての朝食の準備だとか。そういったものへ向かい合うために、ちょっとだけ席を外すということが全くないまま、ずっとずっと傍らに居てくれるということなだけに、
"それなら嬉しいプレゼントだしな。"
 旦那、旦那。出勤前から鼻の下を伸ばさない。
(笑) 愛するルフィへの おのろけも、キュッとネクタイを締めて払拭し。きっちり着付けたスーツ姿も凛々しく、
「じゃあ、行ってくるな。」
 玄関先にて爽やかに微笑めば…。ああ なんて男らしいったらvv 何しろこの旦那、惚れ惚れするよな良い体躯をしてらっしゃる。背広という直線的なシルエットで構成された鎧による拘束にも負けない、かっちりとした肩に広い背中、厚みのある胸板。長い四肢に、そしてそして何よりも。目許涼しく口許くっきり、男臭くて精悍な、野生味あふれる面立ちの、何とも魅力的なことよ。
「いってらっしゃいvv
 満面の笑みにて小さな奥方が手を振って。さあ、ジャパニーズ・ビジネスマンよ、戦場への出陣でござる。

  "…ノリすぎです、Morlin.さん。"



            ◇



 ロロノア=ゾロさんの職場は、某一流商社の東京本社の企画課である。今はクリスマスや年末、お正月に向けての企画がそれぞれに始動したばかりで、発案&立ち上げ担当班の部署はとりあえず一段落ついたところ。実際の現場にも当然立ち会う顔触れがいるのだが、そちらは"統括担当"という総合司令塔系の位置になるので、物資やら人材やらの調達やスケジュールが実際に動き出し、それぞれの担当者からの報告が集まってこなければ始まらない。
「ああ、ロロノアくん。」
「はい。」
 今回の冬の企画班の中、ゾロが担当したのは とあるクリスマスイベントの企画で。格式あるホテルが主催し、各界の名士も集まるとかいう代物であり。まま、その辺は誰が対象でも関係ないという頭であたった彼だったのだが。
「例のオーナメント。なんと全国紙が取材したせいで、海外にまで話題が飛び火したらしいぞ。」
「そうなんですか。」
 イベント会場にて飾られる大きなツリーには、伝説の名匠が作った手作りのクリスタルボールが吊るされる。きらきらと光る丸いガラス玉は昔からお馴染みのオーナメント。だけれど、今回ゾロさんが準備したものは、安価なプラスチックのものが主流となったせいで跡を継ぐ人もなく、已なく作るのをやめてしまった名人の手になる、それは美しいガラス玉。光の当たり方で他の色をも発色する、宝石のような奥深い輝きをたたえた、それは綺麗な逸品であり、これを廃れさせるなんて勿体ないと、何日も何日も通って"もう一度作ってみませんか"と頑迷な職人さんを口説き落とした代物だ。
「何せ海外の方が本場だからな。それに、オーナメント以外の製品への応用が利く製法だ。」
 ここのところで"ふふん"と、課長さんは意味深な笑い方をし、
「特許を申請させたな、君が。」
 それも日本の特許庁だけへではなく、欧州やアメリカの担当関係筋にまで、水をも漏らさぬ申請済みだとかで。様々な企業がこぞって提携やら弟子にという人材派遣やら、山のように申し出ているのだそうで。だが、そんなことを仕立てたらしき"張本人"さんはというと、
「さて。」
 まだまだ若手だというのに、課長さんへとすっ惚けて見せる厚顔さよ。しれっとしたお顔に、だが、課長さんも"うんうん"と頼もしげに頷いて、
「直接の窓口はウチだからか、問い合わせや発注が凄まじい勢いで押し寄せているそうだ。ま、そういう訳だから、冬の賞与は期待していておくれということだ。」
「ありがとうございます。」
 まあまあ、この不景気な御時勢にvv 課長直々のお褒めのお言葉をいただいてから、所属の部屋のブースに戻り、デスク上のPCを開くと、
"…お?"
 何やら見慣れぬ名前のメールが1通。よもやウィルス関係か?と廃棄しかけて…、
"ああ…。"
 見慣れぬ、ではなく、あんまり見たくないの間違いだったと気を取り直す。そう。彼奴からだと気づいたのは、件名にこうとあったからで。

  【親愛なるルフィの従兄殿。お久し振りだな。】

 親愛なる…なんていう ご挨拶上の決まり文句も、どうせ"ルフィ"の方に重きを置いているのだろうというのがありありと分かる、地球の裏側に住む、某知り合いからのお便りであるらしい。
"何だ何だ、こんな時期によ。"
 せっかく…愛想の良かった可愛い奥方に送り出してもらい、課長にお褒めいただき、すこぶる上機嫌でいたものが、あっと言う間に眉間にしわが浮かぶほどの急降下ぶり。年に一度の誕生日なのにツイてないよなと…そこまで言うかい、お兄さん。
(笑)
"………で? なんだって?"
 ぶちぶちと愚痴っていても始まらない。内容によってはルフィにだって、同んなじ…いやいや、もっと丁寧で甘ぁ〜いメールが届いているのかも知れない。だのに、事情が通じていなかったなら、何か根に持ってわざと読まなかったんだなとお叱りを受けるか、はたまた"そんなに嫌わなくたって…"と悲しませるか。そうなる結果は目に見えているので、渋々ながらも開くこととする。

  【恐らくは、開くのに何秒か逡巡したことと思う。】

 まずはすっぱりと、こちらの状況が言い当てられており、
(笑)

  【警戒されるような内容ではないので、念のため。】

 あはは…vv 相変わらず、相手の方が一枚上手だねぇ。

  "うるせぇよ。
(怒)"

 そんな睨まんでも…。さあさ、内容を読んでくださいな。


            *


 まずはお誕生日おめでとう。ルフィの大切な従兄弟殿だってのに、これまでお祝いするのをすこ〜んと忘れていて悪かったな。ベルが描いてくれた"お兄ちゃんの絵"を添付したので、後で開いて見てやってくれ。それと、俺からの贈り物は…色々と考えたのだが。あまり思い入れの籠もったものだと、却って気を遣うか気味が悪いと思うだけだろうから。極端に色気のないもので悪いが、ビジネス方面への加点ということでいかがなものか。この冬に貴社が発表した"クリスマス用デコレーション"のオーナメントセット。まさかあの『クリケット工房』のクリスタルボウルを復刻してくれようとは思わなかった。聞けば、貴君が直々に奔走し、それはそれは骨を折って、今回限りの復活に漕ぎ着けてくれたのだとか。そこで、欧州の市場へ たぁ〜っぷりと宣伝を打っておいたので、今頃は山のようなオーダーがそちらの窓口へ殺到していることだろう。殊勲者である貴君の名前をちらほらと匂わせてもおいたから、それなりの評価が出ている筈だ。いささか野暮な代物ではあるけれど、良ければ甘受してくれはしまいか?


            *


 末筆は"季節柄ご健勝を"というご挨拶で結んだ、きっちりと日本人仕様な書式によるメールだったのだが、
"………。"
 全部を読んだゾロはというと。ちょっと意外だったなと言いたげな、何だか肩透かしを食ったというような、そんな顔になっている。課長が言っていた"海外への波及"というのは、この…経済界の大立者、サンジェスト氏が一役買ってのものだったらしく。だが、身内の懐ろを潤すためだとか、知己の評価を挙げるためだとか、そんな形での"情報操作"をやるような人物ではない筈だと、心のどこかで…自分でも気づかぬ形で彼を買ってもいただけに。いくら誕生日の贈り物だとはいえ、そんな趣向を組むとはねと、何となく興冷めしてしまった模様である。
"…まあ、クリケット工房を知ってたってのは意外なことだが。"
 メールの中でも触れられていたこと。伝説の名匠による手作りのクリスタルボール。虹色のガラスの膜の中に瑞々しい色ガラスを封じ込め、それは深みのある色合いを出す特殊な製法で作られるオーナメントは、歳月が経っても色褪せず、そのくせ薄いガラスであるが故に脆い。そんな儚いところまでもが魅力的で、この…いかにも荒らくたい、体育会系のお兄さんが声もなく見惚れた、正に理屈抜きの逸品。クリスマスという外国の風習を飾るアイテムだというのに、日本の小さな工房がその本場の製品に負けないくらいの評判を集めていた品を作っていたとはと、その点へもたいそう驚かされたものだ。
"………。"
 何となく拍子抜けという観があったものの、所詮は"ルフィのついで"という把握してされてはいない自分であるのだし。今回、彼が仕事の上で手をつけた物品が、たまたまゾロの手で掘り起こされたものだったからと、誕生日にかこつけて寄越したご挨拶のようなものだろうと、そんな解釈をすることにして。メールに添付されてあった、いかにも幼児が描いたらしき絵を見て、やっとのこと、相好を崩したゾロだった。














          



 待ち合わせたのは、会社のある街に程近いプレイスポットの中にそびえ立つ、夜景が綺麗だと評判の真新しいホテルのエントランス・ロビー。
「あ、こっちだよvv」
 先に着いていたらしいルフィが、この秋に新調したツィードのブルゾンも愛らしく、ロビーへと入って来たゾロへと手を挙げて見せる。喫茶コーナーの評判が良いせいでか、宿泊客ではなさそうな若い男女も多数見受けられるロビーだったが、ちょっとばかり高級なことで有名なホテルには違いなく。クロークに立つフロントマンも、その傍らに専門のテーブルを構えたコンシェルジュも、自分のお仕事に自信があっての、どこか風格ある毅然とした態度が伺える。そこへと二人で近づいて、
「予約しましたロロノアですが。」
 実際に予約したのはルフィなのだが、どう見ても中学生にしか見えない彼では…ちょっとばかり風格で負けそうで。そこで、ゾロが代理での応対。きっちりと髪を撫でつけた、ゾロと大差無いくらいの年頃のホテルマンさんは、にこりと微笑み、
「ようこそいらっしゃいませ、ロロノア様。」
 極上のご挨拶をしてから、宿泊票をこちらへと向けてサインを求めて来た。ゾロが記帳しているその間、パソコンのモニターで予約を確かめていたフロントマンさんは、
「"マリナード"でのディナーをご予約ですね。」
 上階にある、このホテル自慢の展望レストランの名前だ。ルフィがこそりと…カウンターの下で手をつないで来たため、
「あ、はい。」
 彼が手配しておいたらしいと察して返事をすると、
「もうご用意は出来ておりますので、いつでもお運び下さいませ。」
 あふれんばかりの笑顔を向けてくれて、さして荷物のない彼らだが、お部屋まで案内するためのベルボーイさんを呼んでくれたのだった。



            ◇



 壁一面をスクリーンのようにする、継ぎ目のない大きな一枚ガラスの張られた大窓の向こう。眼下に広がるは、星の海を思わせる見事な眺望だ。都心の夜景が地平線の彼方まで見通せるのではなかろうかというほど、随分と高みに浮かぶ宙空のテラス。それに負けないほどの素晴らしいお料理を誇るシックなレストランは、特に何かしらという節目でもないせいか、客の数もまずまずの、なかなか静かな雰囲気に満ちていて。季節の素材を贅沢に揃えた"秋のコース料理"を予約していてくれたルフィは、窓辺の特等席からの眺めを、今日の主役以上に はしゃいで喜んで見せていた。
『今年は頑張ったでしょvv』
 この予約ではなく、まずはと通された部屋でルフィから手渡されたプレゼントがあって。昨年は手編みのベストだったものが今年はセーター。模様網みの網目もぐんと丁寧になり、冗談抜きに買って来た品だろうかと思ったほどだったし。それにそれに、今年はそんな作業をしていることを、全く全然ゾロに悟らせなかったほどだから、いかに余裕であたっていたかが偲ばれる。成長してますね、奥様vv
「美味しいねvv
 次々に運ばれるお料理の絶妙な味わいに、ニコニコと嬉しそうな奥方のお顔の方こそが、絶品なプレゼントだよなと。こちらも嬉しそうなお顔でいたご亭主だったが、前菜からスープとパスタサラダ、副菜まで進んだところで、
「ああ、そうそう。」
 今朝方、社の方に届いていた"お舅様"からのメールの話を持ち出した。ゾロには少々不本意ながらも、このルフィが肉親のようにそれは大切にしている対象だから。あまり貶めるような言い方にはしなかったが、もともと器用に態度の使い分けなどが出来るゾロではないせいか、何となくのニュアンスはやはり伝わったらしくって。
「クリケット工房のオーナメントでしょ?」
 ルフィは微妙な苦笑を見せる。交渉に当たってた段階から、名前をちらと聞いてはいたし、それ以上に何か含みでもあるらしく、
「…サンジはそんなことはしないよ。」
 ゾロの点数を陰ながら稼いでやったような、そんな手配じゃないと思うと、彼もまたあっさりと否定する。
「そうか?」
「だって。ゾロだって、おやって思ったんでしょ?」
「…まあな。」
 知り合った経緯が経緯なせいで、日頃から、あまり素直に打ち解けられない相手だが、それでもその手腕や心根は買っている。だからこそ、意外だなと何かしら飲み込めないものを感じもしたのは事実。だからこその、ちょいと複雑そうなお顔になったのを見て、
「そんなことしたって本人の実力が付いて来なけりゃ意味がないって。せいぜい その場しのぎなだけで、結局は破綻しちゃうって、サンジなら重々分かってるもん。」
 見かけは子供でも中身は一応二十代。ルフィもまたそういう見解を呈した後で、

  「これ。」
  「…お。」

 ルフィがスラックスのポケットからごそごそと摘まみ出して見せたのは、問題のクリスタルボールだった。小さい方のサイズのもので、ただの緑色のガラス玉なのに、テーブルに飾られた小さなキャンドルの暖色やカトラリーたちの銀色の光を、曲線の肌に星々のように映し出し、きらきらと小さな瞬きを見せている。輪になった留め具を指先に摘まんで、吊るすようにしたそれを眺めながら、ルフィはぽつりと呟いた。
「あのね。これって、サンジには…俺にもかな。思い出の品なんだ。」
「思い出?」
 うんと頷いて見せてから、
「俺が溺れて助けてもらった時に、サンジが住んでた河畔の家。ちょっとしたコテージみたいな、しゃれた家だったんだけど。そこで暮らした最初の何年か、クリスマスに必ず飾ってくれたのが、このクリケット工房のオーナメントだったんだ。」
 名前はこっち風だが、何とこれはお前の故郷の日本製だ。日本人には歴史の浅い、異郷の風習だろうにな、なんて綺麗なもんを作るかねぇ…なんて。最初は無愛想であんまり笑わなかったサンジだったのが、クリスマス頃には随分と人懐っこくなってたな。
「あの頃のサンジはサ、本当に独りぼっちでいて。そんな、クリスマスなんて、何年も祝ったこと無かったんだって。飾りは家の倉庫に最初からあったもので、前に住んでた人が家族で飾ってたんだろなって。」
 此処に居るということを誰にも知られてはいけない存在だった。尋常ではない長さを生きられるが故の永遠の孤独。生きているのに幽霊みたいな、そんな日々を送っていた彼が、息を吹き返した切っ掛けとなった、生きることに意味を持たせた存在がルフィであり。そしてそこから…彼と出会ったことから、永劫続く筈だった"シジフォスの岩"のような意味のない繰り返し、時の止まった"エンドレス"から彼を解放する新しい歯車が回り始めもしたのであって。そんな幸いを運んで来たルフィの切なる願いを叶えてやろうと構えて。この日本へとやって来て。そして…ゾロと出逢った。そこまでを辿ったからこそ、最後の孤独に別れを告げた、そんな頃を懐かしむことが出来る"今"を彼に齎したのであり、
「…そっか。」
 ルフィが言いたいことがゾロにも何となく伝わった。
「うん。サンジはサ、ゾロにもちゃんと感謝してるんだと思う。俺を覚えててくれたことや、このオーナメントを復活させてくれたこと。」
 ふふと、何だか泣き出しそうなお顔で小さく微笑ったルフィは、
「俺だって物凄く感謝してる。ゾロが居てくれたから、だから、今の俺が此処に居るんだもん。」
 ガラス玉を摘まんだ小さな手の、薬指にはプラチナの指輪。お誕生日にゾロから貰ったステディリング。ゾロにもお返しに同じ指輪をと思ったのだけれど、それだと"結婚したのかね?"なんて上司の人や周囲から詮索されないかしらとナミさんから忠告されて諦めた。普段は飄々としていて、どうかすると野暮ったいくらいに気が利かなくって。それでもね、芯の強靭な頼もしいゾロ。小さい頃から大好きだった、今ではもっと大好きなゾロ。そんな彼が生まれたこの日を、祝わなくてどうするか。
「お誕生日、おめでとう。」
「ああ、ありがとう。」
 さっきもお部屋で言われた言葉。でもね、今度のは二人分。ううん、ナミさんの分も、ベルちゃんの分もの4人分の"おめでとう"と、


  "…ありがとうね、ゾロ。"


  しし座に星が舞う夜も間近い。
  そんな冴えた秋の夜に、生まれてくれたあなたに幸せを…。







   〜Fine〜  03.11.16.〜11.19.


   *剣豪生誕記念作品、その3でございます。
    やっぱ、この二人は外せないでしょう♪
    その割に、
    相変わらず主役の影が薄い展開になっておりますが。
う〜ん
       久々の"お母様"の登場のせいだろうな、きっと。
(笑)
    こちらも"DLF"と致しますので、
    よろしければお持ち下さいませvv

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