東証一部上場の某一流商社の本社営業部企画二課所属。この春にやっと社会人四年生になろうかという、まだまだ若手という身でありながら、既に単独にての交渉で新規有望顧客を数々と開拓していて、大きな企画や取引を幾つも成立させ、次世代の会社を背負って立つ"ホープ"と目されている"出世株"筆頭。計算高くて要領のいい、今時のマニュアル男では決してなく。むしろ、頑迷で一途なばかりの不器用なところを買われたり ほだされたりという形にて、それはそれは太くて強い信頼の絆をしっかと結ぶことで、骨の太い連携を幾つも幾つも作っている。そんなせいか、先の楽しみな青年だと、どこへ行っても悪い評判は聞かない、それは頼もしい"ジャパニーズ・ビジネスマン"であり、しかも加えて…容姿端麗、屈強精悍。彫の深い面差しはいかにも男臭く鋭角的で、切れ上がった力強い眼差しに きりりと引き締まった口許は、強くて揺るぎない意志をそのままに映して頼もしく。また、スマートなスーツに鎧われながらも決して押され負けしてはいない、隆と鍛え抜かれた強かな体つきは、上着を羽織っていれば肩や背中に男らしさを滲ませ。シャツ姿になればなったで、その軽快にして爽やかな印象に、広い背中や、大きいばかりではなく機能的に働く頼もしい手などがこれまた良く映えて。強かに締まった腰や走らなくともスタンスの広い長い脚は彼がいかに闊達で機敏であるかをさりげなく示し、深みのある響きの良い声は、その口が紡ぐ至って廉直で誠実な弁舌の説得力を倍加させ…と、正に
『向かうところ敵なしっ!』
そんな晴れがましい あおり文句が、どどんと背景に明朝体 82フォントくらいでプリントされそうな男前。おいおい それが、我らがロロノア=ゾロさんなのであるが…。
「……………。」
どういう訳だか、この何日か。妙にお元気がないような。相変わらず清潔そうないで立ちをぱりっと着こなして、きちんきちんと定時に出社して来ては、昨日から引き続いている仕事はないか、今日懇談する相手はいないかとスケジュールに目を通し。新しい企画の構想を練りつつ、現在進行中のプランの経過をチェック。来客への挨拶や商談応対を単独で任されることがたまにあるため、それ以外の時間は集中してデスクに向かい、新企画への必要な資料を整えたり、様々な部署との連携を考えた段取りを切ったりと、緊張感あふれる後ろ姿がまた素敵と、わざわざ遠くの秘書課や庶務課の女性社員が用事もないのにブースまで足繁く覗きに来るほどの彼だというのに、
「……………。」
営業部企画課ロロノアくん、このごろ少し変よ? どうしたの・か・な? …と、覗き見の常連組が小首を傾げて噂を取り沙汰するほど、何とも妙に覇気が足りない。ふと、ぼ〜〜〜っとどこを見るでなく視線が宙に浮いていたり、目の前で内線の呼び出しが鳴っていても気づかなかったり。果ては…何となく気鬱そうな溜息をついたり。
「一体どうしたのかしら、ロロノアさん。」
「営業の交渉が上手く行ってないとか?」
「それはないわよ。第一、今は春のプランが全部稼働中。」
「そうそう。ロロノアさんは次の企画を考案中の筈だもの。」
「じゃあ、上司に叱られたとか?」
「あんのビール腹の古狸が、ロロノアさんをいびったわね〜〜〜。」
「う〜ん、それもないと思うな。」
「なんで?」
「だって、いまの企画二課はロロノアさんで成り立ってるよなもんだもの。」
「あ、そっか。ロロノアさんが入る直前て、二課は縮小されかけてたんだったわね。」
「え〜〜〜、じゃあなんでなの?」
「お食事は普通に社員食堂のランチを食べてるしねぇ。」
「でも、なんか少ないのよね。どかすると、あたしたちと変わらないくらい。」
「…それってまさか、恋の悩み?」
「え〜〜〜っ、それって何処の誰とよっ。」
「あたしに黙って、そんなこと許せないっ!」
――― おいおい。お嬢さんたち、仕事しな。(笑)
いかにも かしましい彼女たちには悪いが、それはまずはあり得ない。何たってこのロロノア氏には、それはそれは愛らしい愛妻がいる。日本の現行法では入籍出来ない同性同士なので、表向きは"同居人"ということになっているものの、会社が休みになれば一日中でもお膝に抱っこしていたいような愛しい人。平日だって…接待以外の飲み会には"俺、下戸なもんで"などという大嘘を臆面もなくついてでも全く参加せず、伝書鳩とレースしても勝つぞという勢いにて真っ直ぐ帰宅しているほどだというから、物凄い吸引力であり。そんな対象がいる限り、恋の悩みなんてものは成立しない筈なのだが………もしもし? ちょっと旦那? 一体なんでまた、そんなに悩ましくも切ない溜息ばっかりついているんですの?
"………最近、ルフィが冷たい。"
――― おいおい。
ちょ〜っと待ちなさい。あの、ゾロが居なけりゃ夜も日も明けない、嫌われたらどうしようって、たったそれだけのことでこの世の終わりくらいに感じてしまうよな、そんな可憐で健気な奥方に、一体何を言ってんですか、あなた。寝言は寝てる時に言うもんだぞだぞ?
"………。"
う〜〜〜ん。今話では筆者の突っ込みが届かないのか、それともそれほどまでに落ち込んで考え込んでいらっしゃる彼なのか。これもまたお珍しいことに、デスクへ肘をついて頬杖というポーズになり、
"何かこの頃、適当にあしらわれてるよな。"
そんなことを思い出す。例えば会社から帰って来て、愛しい姿を手が届くところにやっと見ることが出来た嬉しさから、ついつい背後からきゅうって抱きつきながら、深い懐ろへくるみ込もうとしたならば、
『あ〜っ、ちょっと待って、ちょっと待ってっ!』
小さな肩や腕をじたばた暴れさせて振り払い、
『火を使ってて危ないでしょ? もうすぐ出来るから向こうで待ってて。』
フライパンを片手に"もうっ!"なんて言ってぷくりと膨れて見せるし。そういえば…食事が向かい合わせなのはいいとして、その後。後片付けやらお風呂やら、ついでにPCでの連絡とかにバタバタした後、そのまま寝ちゃうなんてことも結構あって、あまり横には来てくれなくなったような。
"…そりゃあサ、俺はあまりドラマとかお笑い番組とか観ないから。"
海外マーケット情報とか、スポーツチャンネルとかNHKスペシャルとか、人間講座とか趣味悠々とか。おいおい それで、そんなテレビを自分も観るのはつまらないとか思うのかもしれないけれど。
"言ってくれりゃあチャンネルくらい変えるしさ。"
それより何より、あの小っちゃな体をお膝に抱える重みとか温みとかが心地いいのに。懐ろの中から、屈託なく見上げて来るお顔に笑い返すのが、何とも言えない優越感とか至福とか、胸の奥からじわじわ〜〜〜っと込み上げて来て、それが得も言われぬ快感だったのに。………そういうのも、このところお見限りなような気が。
"ま・それなりの…ことは、やってるんだけれども。"こらこら //////
いや、だからサ。それはそれで…それ以外の時間の話として。いつも傍らに居てくれる存在だからと、ついつい安心して どこかで手を抜いている自分だったのだろうか。でもだけれど、ルフィ相手に"釣った魚に餌はやらない"なんて馬鹿なことを思う自分ではない。いつも今でも愛らしくて健気でかわいい存在だし、そうそう、ちょっと前まで結構泣かせもしたっけな。あっけらかんとしてるように見せといて、でも実は女の子みたいに繊細なところもあって。記念日とかきっちり覚えてて、寂しいって想いに敏感で。
"……………出張だ、なんて言ったらさ。"
最初の1年なんて、1泊2日、ほんの2日ほど逢えないってだけで、まるでこの世の終わりみたいな顔してたよな。それを思えば、今は忙しいから後で…なんて振り払えるまでになった、堂々として来たのはむしろ喜ばしいことなのかも知れなくて。
"怖々と及び腰に構えられるよか、よほど良いこと、か。"
それよりも。こんな風な、いやいやもっと辛かったろう寂しさを抱えてた、最初の頃のルフィに ごめんなと言いたくて。これまで ついぞ思いもしなかった、ささやかな甘い気持ちへ、思わぬうちからの苦笑が洩れたりもする旦那様。丁度今 感じているところの、この、手が届かないからこその もどかしくも甘くやるせない気分を、世間様では"切ない"なんて呼ぶのだとは、まだ気がつかない、骨の髄まで体育会系な(笑)旦那様としては、
"…今日は出来るだけ早く帰ろう。"
そうと思う事にて決着をつけて、さてと背中をピンと延ばして。デスクトップ画面とおもむろに向かい合う。唐突に打ちひしがれて、唐突に気合いが入るとは、融通が利かない生真面目さんに見せながらも…なかなか奔放な人である。
◇
今日は何かの記念日でもないのにね。大好きな旦那様は、奥方がこのところハマっている駅前のパティスリーの、カスタードパイとイチゴのパフェ(テイクアウトVer.)を5つずつも買って来てくれて。
「え〜、何で判ったの? ////////」
実はね、この何日かは、お買い物が多かったりPC教室の時間が長引いちゃったりしたんでお店に行けなくて。それで、えと…5日も食べてなかったの。イチゴのパフェの方は季節限定メニューだったから、一日でも食べられないと何だか損したような気分になるよねって、お隣りの奥さんと話してたとこだったの。でもでも、ゾロって甘いものに関心ない筈なのに。ケーキ買って来てねなんて短い頼み方だと、どこのだか判らないメーカーの、それもお誕生日用の丸いショートケーキをホールで買って来たりするのにね。誰か誕生日なのか?とか言ってサ。どうしたって笑みがあふれてしまうお顔なのを隠しもせずに、なんでなんでって訊いたらサ、
「ん〜、ここんとこ晩飯の後にいつも食ってたろうが。」
愛らしいガラスのカップに入ったイチゴのパフェと、キツネ色の生地のサクサク感が何と2日も保つ、驚異のパイケーキ。コンビニデザートにしては、カップをわざわざ取ってたりしたルフィだったので、店の名前はちゃんと覚えていたゾロならしい。嬉しすぎて目が眩んじゃいそうvv だなんて、可愛いことを言う奥方にくすくすと笑い、奥の寝室で手際よく、スーツから普段着のトレーナーと木綿のパンツというラフな格好へ着替えたご亭主。はしゃぎもって冷蔵庫にデザートをナイナイした奥方は、今日はポークジンジャーだよ、それとグラタン風焼ガキなんて、メニューを紹介してくれて。他にも、グリーンアスパラのベーコン巻きやら、ポテトサラダや若竹汁やらが美味しそうに待ち構えている温かそうな食卓の…自分の席へと着く前に。
「…あやや?」
冷蔵庫から出して来た缶ビールにグラスを添えて、テーブルの上、これも定位置へと置いたルフィの、小さくて薄い肩を背後からきゅうと抱き締めた旦那様であり、
「愛してる。」
耳元、なんていう至近から、大好きな低めの声で囁かれたのは、何とも甘い睦言だったものだから…。
「…何だよ、何か仰々しいぞ。////////」
耳やうなじまで真っ赤っかになった奥方が"うきゃ〜〜〜vv"なんて甘い悲鳴を上げながら じたじたって暴れちゃったけど。今回ばかりは離してやらない。だって…何だか、足りないから。
「ただの"好き"じゃ足りないんだよ。」
懐ろに余るほど小さくて、そのくせ、この腕から"たかたかっ"て簡単に抜け出せちゃうほどお元気な。愛しい君で中毒になりそうなくらいだから。だから…愛してるなんていう"呪文"をかけたくなった。何処にもやらないし誰にも渡さない。ずっとずっと此処に一緒にいてくれますようにと…。
おまけ 
"………ゾロってば、なんで判ったんだろ。////////"
男臭い、いかにも精悍な腕の中は気持ちがいいからvv
そこに きゅううってして欲しいって思ってたって。
そんな素振り、まだ見せてないのにね。
そやってから、あのねvv
甘いこと、たまには言って欲しいようって思ってたって。
でも恥ずかしくて言えなかったのにねvv
やっぱり、ゾロって凄いなぁvv
俺にだけ優しくて素敵なのvv
こっちからこそ 愛してる、だぞvv //////////
……… やってなさい。(苦笑)
〜Fine〜 04.2.29.〜3.1.
*カウンター124、000hit リクエスト
ひゃっくり様 『ルフィに"愛してる"と言うゾロ』
*そういや言ってませんね、ウチのゾロは。
しかも、このシリーズに限らず。
あの"puppy's tail"でさえ、態度で示すばっか。
これではいけません。
好きだよとか、今日は綺麗だねとか、
ちゃんと言わないくせに、判ってくれなんて言われてもね。
なのに、最近冷たい…とは何たることか。(力説)
…なんつってvv
こんな感じでいかがでしょうか?
放っておいても甘い方々、意識して甘くすると此処まで行きます。
本年度の最長不踏距離かも知れません。(笑)

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