月夜見
  
  
卯花月夜   〜蒼夏の螺旋・幕間
 


 初夏の上天気は室内にいても十分に判るほど。思わず窓を開け放したくなるような色をした空と、気の早い夏のそれを思わせるような力強い陽射しとが、頬に肩に眩しい悪戯の手を差し伸べてくる。そんな居間を通り抜け、昨夜のうちに用意してくれていた小振りのボストンバッグを手にし、寝室へ足を運ぶと、
「…じゃあな、もう出掛けるから。」
「うん。あ、」
「? 何だ?」
 わざわざすぐ傍らまで寄ってくれたのへ、どこか恥ずかしそうに小さな声になって、
「あの、あのね。………また、カレーで良いかな。」
 何がどうして朝っぱらから"それ"なのか。随分と省略された台詞だったが、背の高い従兄弟殿には十分通じたらしい。鹿爪らしく考え込んで、
「う〜ん、そうだな。あ、先週作ってくれたメンチカツ、あれ美味かったな。」
「判った。じゃあ、カレーとメンチカツだね?」
「ああ。…じゃな。」
「うん。いってらっしゃい。」
 ベッドの中から腕を伸ばしてくる。大きめのパジャマの袖をすっかり付け根に残して、細っこい腕が剥き出しになった。その間へと体を割り入れ、こちらからも掬い上げるように抱きすくめて、腕の中、小さな肢体をきゅうと抱き締める。
"…まるで今生(こんじょう)の別れみたいだな。"
 大仰かもなと、そんな風な気も僅かにしたが。しばしの別れになるのが寂しいのには違いない。2泊3日の出張だ。初めてのものではないけれど、だからこそ、今から前回の寂しさを思い出しての、この腕の懸命さと切なさなのかも。



            ◇


「え? 出張?」
 前の時もそうだった。帰って来るなりいきなり言われて、しかも明日の出発で。
「ゾロの会社ってあんな大きな商社なのに。メールとか社内
イントラネットとかでやりとりしてないの?」
 今時のオフィス事情から言って、社運を賭けた巨大な契約をセレモニーめいた雰囲気で取り交わすのでもない限り、打ち合わせ程度ならメールとかチャットで済むのではなかろうかと感じたルフィらしいが、
「系列の会社が相手じゃないからな。開発部が地道に歩いて回って見つけた大阪の町工場さんでな。設計とかにはPCも使ってるらしいけど、商談とか打ち合わせには、電話やメールとかじゃあ何か頼りないらしいんだよ。」
 どうやら何かしら新しい企画の、書類管理系統のではなく製作現場の担当になったらしいゾロで。さばさばと語る口調からして、本人としては"やり甲斐のある仕事"だと感じているらしいのだが、
「大体、営業じゃないのも変だ。」
「しょうがないだろ。コネで入ったんじゃないんだからな。」
 …こらこら、語弊がある上に分かりにくいぞ、それ。えと、つまり。ロロノア=ゾロ青年は、学生時代にあれほどの剣道馬鹿だったにも関わらず、今勤めている商社へは先輩や知己のコネなぞを一切頼らない、自力の志願と手続きをもって入社したのである。ところでスポーツ関係者は、その…血の絆より固い"先輩後輩"の結束力という伝手が結構武器になるので、営業関係に配属されることが多い。その前の段階、入社自体が所謂"推薦"によるものな場合も少なくはない。(スポーツの種類によっては、公告塔や看板を兼ねた入社だから…という理由も加わるが。)だからして"そうではない"彼なのを、ルフィが"変だ"と言い立てたのである。とはいえ…確かになぁ、今頃そんな風に言われてもなぁ。
第一、営業の方が酋長は多いぞ。(笑) 今現在配属されている"企画部"というのも、本人からしてたいそう気に入っていて、まま、それはそれで良いのだが。
「…なんかさ、今年度は隔月で出張があるんだね。」
 昨年の初夏に劇的に再会して、それからの同居が始まってそろそろ1年。ダーリンの勤め先がどういう職場で、どういう行事があってとかいうものにもそろそろ馴染んできた"若妻
(笑)"は、だが、去年度には一度もなかった"泊まりがけの出張"が気に入らない様子。ちなみに"今年度"が始まってまだ3カ月だが…。
「………。」
 はっきり言って"つまんない"という顔をし、背広のかかったハンガーを抱き締めたまま、細い肩を落としたのも束の間。
「さ、ご飯にしよっvv」
「…ああ。」
 けろっとした顔に戻って、旦那様を夕餉の待つキッチンへと促したハニーである。


          *


 夕ごはんは、鷄のピカタとマカロニサラダ。カボチャのそぼろあんかけと、自家製のアサリの佃煮に、タマネギとジャガ芋のお味噌汁とナスの浅漬け。
「カボチャって夏野菜なんだって。知ってた?」
「え? そうなのか?」
「な? ゾロもそう思うだろ? どっかのお寺で冬至とかに食べるって言うし、ホコホコしてるしさ。俺も冬の野菜だと思ってて。でも旬は夏なんだって。」
「ふ〜ん。」
「あと、ホウレン草は冬野菜なんだよ?」
「う〜ん。一年中あるのにな。」
 屈託のない話題である。こういうマメ知識は仕入れた端から話してくれる少年で、
「階下
したのコンビニの奥さんが教えてくれたんだよ?」
 これもまた"その日に起こったこと"の一部なのだろう。このマンションの一階部分には、文化教室と並ぶ格好でコンビニエンスストアが一軒あるのだが、どこぞの大手フランチャイズのそれではなく、どちらかといえば雑貨屋さんを小ぎれいにしたものという感じの、本当に小さな規模のもの。小さいからかアットホームな雰囲気の店で評判は良い。
「コンビニって、あそこ、野菜とか置いてたか?」
「うん。この春先から時々にね。奥さんの実家がさ、食べ切れないほど送ってくれるから、悪くしちゃうのも勿体ないしって。」
 ニコニコ笑って報告し、
「ビール、お代わりは?」
「いや、そろそろご飯が良いな。」
「うんっvv」
 給仕をするのが楽しくて仕方がないらしい。大きなお茶碗へご飯をよそい、お盆に載せて差し出すが、
「あ、ほら。肘にマヨネーズがつくぞ。"おかずまたぎ"しちゃいけないだろが。」
「あやや。」
 食卓の皿の上で何か物をやり取りすることを、彼らの親戚筋では"おかずまたぎ"と言うらしく、
「ついてない?」
「ん。セーフかな。」
 小さな肘を二人して両方の脇から覗き込み、目線が合って…どちらからともなく"ぷぷっ"と吹き出す。………めっきり"新婚さんシリーズ"と化しておりますな、こっちも。
(笑)


          *


 風呂から上がると冷やしたミネラルウォーターを一口…が習慣なのだが、冷蔵庫にいつものペットボトルがない。料理にと使い切った後、補充しなかったらしいなと苦笑をし、だが。
"買い置きは…どこに置いてるんだっけ?"
 調味料やら日常使いの食器やらはともかく、乾物やら買い置きのラップ類やら、あれこれと結構配置が変わっていて。背の低いルフィが自分の使い勝手に合わせているせいだろうが、
"そういや、ここんとこ買い物にも付き合ってないもんな。"
 今時のスーパーは宅配サービスも充実しているので、お米やミネラルウォーターといった重たい買い置き品のまとめ買いも、か弱い奥様が一人でこなせる時代。…とあって、ゾロの側の勘のようなものも薄れているようだ。一応は心当たりの床下収納も開けてから、
「…ルフィ?」
 ひょいっと覗いた居間に姿がない。今夜はお気に入りの時代劇がある曜日なのにと、無表情なまま沈黙しているテレビを横目に寝室へ入ると、
「あ、ねえねえ。3日だったら2日分で良いんだよな?」
 クロゼットから引っ張り出したのだろう。小さめのボストンバッグに、ゾロのワイシャツやら下着・靴下の替えやらを詰めているルフィである。
「いいよ、そんな用意なんて。泊まるのはビジネスホテルだから、晩の内に出せば朝までに洗って仕上げてくれるサービスもあるし。」
 カーペットの上、座り込んでの支度をしている様子へ、こちらは立ったままで声をかけるが、
「そんなのダメだよ。このところ暑いから日に何回も着替えることになるかもしれないしさ。ゾロって少しくらいの距離だったらタクシー使わないで走るだろ? それに…相手さんて、もしかして自宅が工場ってお家だろ?」
「あ、ああ。」
「だったらさ、奥さんとかが"あらあら昨日と同じシャツだわ"とかって気が付くかもしれないもん。今時のホテルのサービスとか知らないだろから…だらしないとか思われちゃったらどうすんの?」
 見上げて来ないせいで黒い髪とつむじしか見えないが、頬を膨らませているのが口調で判る。奥方?としては、そういう恥ずかしい想いをさせるのもするのも、絶対に嫌なのだろう。苦笑しかかったゾロだが………ふと、
「…ルフィ。」
 手が止まっているのに気が付いて。バスタオルを肩に羽織ったまま、すぐ傍らへと屈み込む。途端に"ふいっ"とそっぽを向くが、
「………。」
 じっと見つめていると、
「何かさ。何かやってないとさ…。」
 明日から数日ほど逢えないんだと。それを思うとたちまち寂しい想いが胸に寄せて来るから。だから、日頃はあまり気を回さない、こんなことに手を付け出したらしい。
「ルフィ…。」
 自分も床へと座り込み、ベッドとクロゼットの間という少々狭いところで、横を向いてる彼と向かい合う。膝に載せられた小さな手。自分のより、指も手のひらも幾回りも小さくて。でも、自分よりよほど器用に、煮物の面取りや飾り切りが出来るようになった手。
「アイロン掛け、上手になったよな。」
 バッグの口から見えている合いもののワイシャツ。ビニールの袋に入っているが、クリーニングに出したからではない。ルフィが洗った端からアイロンを掛け、保管袋へとキチンとしまっているからだ。
「飯も美味いしさ。」
 大学生の頃からの一人暮らしで、その頃から自炊していたから、ここ数年は腹が膨れりゃあいいという食事しか知らないでいた。それが今は、コンビニにも居酒屋にも寄らず、真っ直ぐ帰って来れば、
『お帰りvv』
 可愛い笑顔と甘い声でのお出迎えつきで温かい食事が待っている生活。最初の何カ月かは…結構面白い食生活でもあったが、半年もすれば慣れてきたせいか急に腕を上げ出して。おかげで台所の勝手をすっかり忘れてしまっている自分に気が付いた。
「俺、ルフィが此処にいてくれるのが当たり前なことだって、そんな風に思うようになってたみたいだ。」
「………?」
 ゾロの言いように、少しばかり気になる言い回しを感じたのだろう。ルフィが小さな肩を巡らせて、そぉっとこちらを向く。思っていた通り、今にも泣き出しそうな表情になっていて。まだギリギリで零れてはいない涙を拭ってやるように、バスタオルの端を目許へと伸ばしながら、
「物凄くありがたいことなんだよな、それ。ルフィの意志で此処に居てくれてるんだもんな。他所のどこへも行かないって。実家にも、その………"あいつ"んトコにも行かないって。」
 わざわざ選んでくれたのだ。此処を。居場所なんて沢山あるのに。素直で愛らしくて前向きな、そんな彼にぞっこんで何不自由のない生活を保証してくれるだろう人物も居るし、外へ出れば出たで、やはり多くの人たちから愛され求められるだろう彼なのに。
「…ゾロ?」
 キョトンとして。小首を傾げる幼い面差しを眩しそうに見やっていたゾロは、腕を伸ばすと小さな従兄弟を抱きしめる。
「それなのに、自分勝手ばっかりしてるよな、俺。…ごめんな。」
 寂しいと泣かせてごめん。拙かったものが"一生懸命"の成果でとても上手になったのに、ちゃんと気づいてやれなくてごめん。こまごまと手をかけて構いたいものを、手助けするのが嬉しいものを、つい振り払うような無神経をしてしまってごめん…と、長い腕で懐ろ深く抱きしめる。…一方で。
「えと…。」
 きゅうと抱きしめられた途端に涙が乾いたから、
"…不思議だなぁ。"
と感じつつも、ルフィは頬を赤く染めていた。こんな大きな図体だのに、きりっと鋭角的な男ぶりだのにも関わらず、自分へは何故だか…時々口下手な上に照れ屋なゾロで。でも。こうやって、時々、ずぼらした分をってまとめてそそいでくれるから。ホントは日頃もとっても優しいのに、もっともっと愛してくれるから。自分の方こそ恵まれてるよなと、それはもううっとり蕩けてしまうルフィなのである。
"…いい匂いだな。"
 お風呂上がりなのに、温ったかいゾロのいつもの匂いがする。それに包まれてるんだと思った途端、
"…/////。"
 何だか顔とか体とかが一気に熱くなってきて。さっきまで胸に抱えてた、どこか子供のような駄々も、もうもうすっかり溶けて跡形もない。
「………。」
 こしこしと。おでこを鎖骨辺りへと擦りつけると、少しだけ腕を緩めて顔を覗き込んでくれる。視線と視線をちゃんとしっかりからませ合って、
「此処はもう良いから、風呂入って来い。」
「うん。」
 二人きりで、あとは寝るだけの夜で。それでなのか、何だか甘い声になっているゾロなのが、ますますこちらを煽って照れてしまうルフィだ。ひょこんと立ち上がってバスルームへとパタパタ駆けてゆく小さな背中を見送って、
"………可哀想だが、仕方がない、か。"
 胸の底、ちょいと不穏な言いようをすると、ゾロはバッグの回りに準備されてあった靴下だのハンカチだのを適当に中へと放り込み、居間のソファまで運んで行った。



          *


 ややあって。ほかほかに温
ぬくもって寝室まで戻って来た小さな恋人を、ベッドに座ったままで軽々と抱き上げると、しばしの湯冷まし、まだ湿っていた髪なぞをお膝に抱えてタオルで拭ってやる。大きな手なのに、タオル越しにわしわしと髪や頭を揉まれるその動きはとても丁寧でやさしくて。
「………。」
 向かい合ってる大きな胸板がタオルの陰から見えるのへ、手持ち無沙汰なその手を伸ばし、パジャマ代わりのTシャツにそっと触れた。硬くてしっかりした感触。自分のふわふわと頼りない、すぐに骨に届く胸とは根本的に違う、雄々しくて逞しい身体。
「んん?」
 さすがに気がついたか、顔にかぶさっていたタオルの前垂れの部分を掻き上げてくれたゾロへ、えへへと笑い、
「もう良いから、さ。なあ…。」
 すりっと。身を倒しながらやわらかな頬を胸元へ寄せてくる。身長差があって胸元にすっぽり収まっている可愛い恋人さんの、少々拙い媚態をやさしく受け止めながら、
「まだきっちり乾いてないぞ?」
 肩から背中の向こうへと、すべり落ちたタオルの陰から。ぽあぽあと表面だけが乾いて、あちこち撥ねている髪が覗いたものだから。苦笑混じりに指に搦めるようにして撫でつけてやる。それを、
「…ん、んぅ。」
 まるで軽い愛撫であるかのように、眸を閉じて堪能しているルフィであると気がついて、小さく苦笑するゾロだ。
"猫か犬みたいだな。"
 それも、生まれてさして日の経っていない子供の。気持ち良さそうにしている様子は、無邪気な愛らしさだと思う。だが、
「…んん、なあって。」
 焦れたように見上げてくる彼が求めているものは、さすがに…あどけない"子供"がほしがるものとはちょっとばかり質が違うから。
「判った、判った。」
 少しばかり顔を下げ、不服そうに尖りかかっていた口唇に自分の唇を重ねる。
「んぅ、ん…ん。」
 淡雪のように、そのまま溶けてゆきそうなほど柔らかな感触の小さな唇。隙を突くように滑り込む男の舌を精一杯受け止めて。薄い舌を、腔内を犯されるまま、必死で応じてくる。
はぁ…。」
 ようやく解放されて、わずかにこぼれた唾液で赤々と濡れた唇をちろっと舐めてやり、こちらの両脚を跨いでいたのを抱え上げる。ゾロにとっては羽根のように軽い、だが、愛しくてたまらない温もりを、背中と膝裏に腕を回してひょいと抱き、

   「誘ったのはそっちなんだ。覚悟するんだな。」

 わざわざ耳元近くで囁くゾロの、声にまとわりついてた吐息のくすぐったさに、思わず首をすくめるようにして"くすくすvv"と微笑ってしまったルフィだったが、ただの冗談めいた睦言ではないと気づいた時には………。



  乱れるはシーツの海、

  痛々しいほど小さな体を、ほのかな緋色に染めて。

  甲高く掠れる、悲鳴にも似た淫らな喘ぎに、細い喉を腫らして。

  溺れる意識を現世につなぎとめつつも、

  声は愛しい男の名ばかり紡ぎ、

  涙は真珠と蕩けるばかり………。
















            ◇


 朝食は久し振りにゾロのおむすび。案の定、起き上がれないルフィであり、
「いいから寝てな。もうしばらくすれば、家の中くらいなら動き回れるようになるだろから。」
 これまでにも何度かあったことだ。興に乗り過ぎたのが原因で"回復"が間に合わなくて。くったりしたまま半日ほど寝付いたままになった彼であり、今回のもそれだろうと、ゾロは髪を優しく梳いてくれる。
「ごめんな、見送りに行けなくて。」
「…あのな。」
 前回も、新幹線に乗るとこまでと言って聞かなくて。それで已なく付いて来させたものの、
"あんなに肩落として帰ってくのなんか、二度と見たくないもんな。"
 開かない窓越し、それは寂しそうに肩を落として手を振って。そのまま誰もいない家へ帰るのだなと、夜は夜で、話相手も居ないまま一人で何か食べて。まだ怖がりは治っていないのに、広いベッドに一人で横になるんだろなと。そうと思うとこっちだって辛かった。肝心な時に、一番寂しい時に、甘えないように頑張る意地っ張り。昼間は話相手もいようが夜は別だろうに、出先に一度も電話して来ず。かと言って、用もないのに電話するのは自分も苦手で。こんなことならこっそり連れてくりゃ良かったとまで思ったものだ。

  『帰って来たら、カレーが食べたいな。』
  『うんっ。』
  『エビとかイカのじゃねぇぞ?』
  『判ってるって。お肉のでしょう?』

 前の時、発車をホームで待つ間、思いつきで口にしたことだったのに、何とか嬉しそうな顔になったのを思い出す。それを覚えていて、今度は彼の側から訊いて来たのだろう。
「じゃな、向こうに着いたら、電話、入れるから。」
「良いよぉ、そんな気を遣わなくっても。すぐに取引先に行くんだろ?」
「そっちこそ、何、心配してんだよ。携帯からなんだ、歩きながらでもかけられるんだぜ?」
 あ、そっかと小さく笑って、立ち上がるのっぽな従兄弟を枕から見上げた。

  「行って来ます。」
  「行ってらっしゃい。」

 丸いおでこに小さなキス。いつもの朝と余り変わらない空気。ああそうかとやっと気がついて、やさしい彼の心遣いに、胸のところが甘く疼いて。スリッパの音が遠ざかり、靴を履く音、重い扉が開いて…閉じて。

  "…良い子で待ってるからね。"

 誰もいないのに、何だか恥ずかしくって。夏掛けを頭まで引っ張り上げて………。



   あとは、ナイショ☆彡




  〜Fine〜  02.6.25.〜6.26.


  *旦那様、出張すの巻。
   冷静になって顧みると物凄いオーバーな話である。
   いくら"男には外に7人の敵が居る"とはいえ、
   クロコダイルやミホークみたいなのが待ち構えてる訳でなし。
こらこら
   こういうの書いちゃう自分が自分で恥ずかしい。
(笑)
   でも、実を言うとこういうお話、大好きなのである。(爆笑vv)
   今のうちだけだぞ、
   こうまでドラマチックに寂しいだ何だと甘えてくれるのは。
   何年か経ったら、もう慣れたもので、
   お土産は何が良いだの、その間遊びに行ってても良いかだのと、
   全然寂しがってくれなくなるから。
(笑)
   それよか、例のお兄さんが
   "じゃあその間、ウチに来るか?"とか言い出したりしてな。
   とりあえず、このお話を書こうと思った切っ掛けを下さった、
   お素敵なTOP絵を描かれた久世様に感謝しちゃおうっと♪
   (ちょっとフライングだけれど、
    7月の御誕生日を祝して、謹んで進呈させていただきますvv)


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