ロロノア家の人々〜外伝 “月と太陽”
    
“思い出、ひとつ” A
 

 

          



 お腹も膨れたことだしと、さっそく今日のお仕事、船倉の整理に取り掛かる。ベルちゃんが加わってからのこっちは、使い勝手を考えての荷物の整理なども小まめに手掛けていたがため、そんなに手間取ることもなくて。冬物を収めるスペースと、大きな木箱やトランクもきっちり確保でき。さて、それから。
「春向けの薄物ったってなぁ。」
 二人の男の子たちにしてみれば、寒かったから重ね着た上着やコートが特別な装備だっただけの話。普段着ている服装が、言ってみれば"標準装備"なものだから特に準備の必要はない。幾つものトランクを実家から持ち込んだベルにすれば、そんなの常識外であるらしく、
「あらまあ、それじゃあさ。」
 次の島についたら新調しましょうよ。だってあんたたち垢抜けないものと、勝手な言いようをするお嬢さんに、坊ちゃんたちが少々うんざりと顔を見合わせた。どうもまだまだ、箱入りお嬢様の感覚が抜け切っていないベルちゃんであるらしく、
「あのね、ベル。」
 こういうことの説得は、物の言い回しをよくよく知っている衣音くんのお役目。自分たちはお上品な避暑や慰安のための旅行の途中ではないのだからねと言い聞かせれば、あらだって、身だしなみはキチンとしていなくちゃいけないわ、服装っていうものは そのまま人柄や気質を表すものだし、何もお洒落をして下さいって言ってる訳じゃあないのよと、ベルちゃんの方もこれがなかなか弁が立つ。
"付き合ってらんね。"
 さっき彼女は"垢抜けない"なんて言い回しをしたけれど、ホントに垢にまみれてるって訳でなし、結構さっぱりした恰好をしている自分たちなんだから放っておいてほしいよなと、うんざりしもって船倉の一室を後にする。指示されたお仕事は終わったのだから文句はあるまいと、甲板へ出て、

  「…え?」

 おおうと、船長さんがその翡翠の眸を見開いた。あんなに明るく晴れていた空が、いつの間にやらどんよりと雲を垂れており、今にも雨が降り出しそうなお天気へと様変わりしていたものだから。
「おいっ、早く上がって来いっ。」
 せっかく干した何やかや。雨に濡らしては元も子もない。自分でも張り渡されたロープの元へと駆け出しながら、船倉でごちゃごちゃやってる仲間二人へ声をかけ、少年船長さん、まめまめしくも洗濯物の取り込みにかかったのであった。





 結局はやはり雨脚の強い降りになったが、早めに気づいたのが功を奏して、毛布だの防寒用マットだのという大物たちは濡れもせず。わたわたと担ぎ込まれて船室を埋め尽くしたそれらを、今度は船倉へと運び降ろす。もう少しのんびりと掛かるつもりだったものが一気に片付き、そのお陰様で…昼下がりは一気に暇になった。本でも読もうかしら、ああそう言えば。1つ1つの荷をどこへ収めるのかと、てきぱき指示を出していたベルが、倉庫の戸締まりをしつつ思い出していたのが、
"あれって、確かさっき荷と一緒くたに引っ張り込んじゃったから…。"
 朝のうちは清々しくも晴れていた甲板にて、デッキチェアを広げて読んでいたグラフ雑誌。雨だと聞いて慌てて何もかもという勢いにて取り込んだ中に紛れてたわよねと思い出し、誰もいないキッチンキャビンへと入ってその奥の、男の子たちのお部屋につながるドアを軽くコンコンとノックした。万が一の夜襲を考えて、甲板にある船室、キッチンキャビンの隣りを男の子のお部屋とし、ベルが寝起きしているのは船倉の、それでも小綺麗に整頓し装飾を施した居心地のいいお部屋と割り振っており。…いや、それは今はさておいて。
「どっちか居るの? 開けるわよ?」
 これが逆なら痴漢行為だと半月くらいはこだわるだろうに、男の人の着替えや半裸には、実は…お店で抱えていた何人ものコックさんたちとの同居生活のお陰様で免疫のあるベルちゃんで。それで抵抗感も薄く、何の気なしに開けたドア。結構な雨脚のせいで聞こえなかったらしき船長さんが、ふんふんふん♪と 鼻歌混じりに、胸の前で両の腕を交差して今まさにシャツを脱ごうとしていたタイミングとかち合ってしまったものだから。

  「………お。」
  「あ、と…。//////

 気まずいところに鉢合わせちゃったなと、ベルが思わず息を引く。そこへかぶさったのが、緑髪の船長さんのお声で、

  「見たな。」
  「…馬鹿っ!」

 にっかり笑いつつの言いようだったものだから、これはからかわれたなと直感し、どっちの台詞よと、腹立ち半分に音高くドアを閉じたベルだったのだが。

  "…あ。"

 脳裏にフラッシュバックした像の中、横を向いていた彼だったにもかかわらず、くっきりと印象に焼きついたとある代物に想いが及ぶ。
"そういえば…。"
 さっきは…季節毎にお洋服を着こなさないの?とベルがついつい呆れてしまった船長さんだが、だからと言ってさほどにまでだらしがないという訳ではなく。日頃からきっちりとシャツだのベストだの、肌を出さないようにと着付けている方だ。陽が強くない海域でも海上の紫外線は半端ではないし、むき身のまま潮風に晒され続けると肌がひりひりと荒れるもの。海の男の常識の範囲内にてそうしているものと思っていたのだが、

  「? どうしたの?」

 自分たちの部屋に続く扉の前にて立ち尽くすベルに気がついて、甲板の上、このキッチンキャビンの屋根の上に設けた菜園の様子を見て来たらしい衣音が、雨合羽を脱ぎながら声をかける。
「その部屋に用事?」
 あいつが入れてくれないのかい? 何をふざけているんだろうね、それとも雨の音で聞こえないのかな?と、歩みを運んで来かけた彼の方へと向き直り、ベルはふるふるとかぶりを振って見せた。
「違うのっ。そうじゃなくってね。」
 用事は大したことじゃなかったからもう良いんだけれど、あのねと。黒髪の航海士さんの腕を取って、そのドアから離れた辺り。今さっき彼が入って来た方の扉の傍らまで立ち戻ると、

  「ねえ、あの傷って…何ごと?」

 先にも触れたが、きりりと冴えた面差しに投げナイフという手練の技を駆使する、頼もしき相棒の衣音くんと船長さんとは幼なじみで道場仲間。だからして、さっき垣間見えた…胸板から腹にかけて、結構大きく走っていた数本の古傷の背景も、彼になら判るかと思ったベルだった。そして、

  「………っ。」

 そうと訊かれた衣音くんが、それまでの穏やかだったお顔を一転、少しばかり強ばらせた…ような気がして。思いもよらなかったからという程度の、ああ、あれねという軽いリアクションではんかたものだから。
「あ、あの。ごめん。」
 そうよね。あれほどの跡が残っているだなんて、一体どんな怪我をした結果なのかと訊いてみただけだけれど。怪我をしたということは、痛かったり怖かったりと、少なからず辛かったということでもある。忘れたいものをほじくり返すのがいかに酷いことか、今頃になってハッと我に返って反省したベルだったのだが。

  「…いや、知っててもらっといた方が良いのかもしれないかな。」

 衣音くんは うんと頷き、ベルが問題の傷を見てしまったらしき奥の扉から出来るだけ離れての、甲板へのドア近く。椅子の代用に使っている樽を1つ引き寄せると、そこに彼女を座らせて、

  「本人は特に気にしちゃあいないんだろけどね。
   結構、大騒ぎした結果のものなだけにサ…。」

 どこか淡々と、だが、気のせいだろうか少々気鬱な話でもあるかのように、衣音は静かに語り始めたのだった。






            ◇



 彼と船長さんの育った故郷は、イーストブルーと呼ばれている東の海域にある"和国"という国の、そのまた奥まった山野辺の寒村で。それは穏やかで平和な、のんびりとした農村であったのだが、そんな土地だのにもかかわらず、時折、乱暴な荒くれ者たちが襲い掛かって来ることがあったりもして。当初の半分くらいは、海賊王や大剣豪の寝首を掻きに来た、怖い物知らずな馬鹿者共だったが、無論のことそれだけではなく。世情の退廃は海の上でだけの話にとどまらなくて、山野辺の寒村にまで野盗や山賊が傍若無人にも襲い来るような、そんな時代でもあったからのこと。そして、だとするなら…悲しいことだが戦う術を知らない無力な村人たちは、略奪の憂き目に遭っても抵抗も出来ぬまま、泣く泣く財貨を失い、下手をすれば大切な家族までもを傷つけられていたところだったが。そんな寒村には不似合いなほどに…腕のたつ門弟たちを多数抱え、何より、師範様は世界一の剣豪というとんでもない道場があったりしたものだから。ならず者たちによる奇襲や何やには一度たりとも被害を出したことがないという、奇跡のような村としてその筋では有名な土地となった。そんな道場には村の子供たちも多数通っており、師範の息子と遊び仲間だった衣音もまた、早い時期から木刀を振り回す習練に加わらせてもらっており。いざ何かあったれば、大人の相手を叩き伏せるまでにはまだ届かずとも、毅然として立ち向かえるともと、そんな自信を彼らなりに身につけていたのだが。




  「衣音っ!」

 村の外れの小さな林。会わずの林という別名があって、奥にまで入り込むと必ず方向が分からなくなって迷うから、入った口の明るさが見えるところより奥に入ってはいけないと、大人たちから散々に言われつけていたその林で、春の山菜を摘んでいた子供らの前に、なんと…大きな熊が現れた。今から思えば、比較的小さい方の、若いツキノワグマであったのだろうが、それでも突然鼻先に見て穏やかでいられる相手ではない。冬眠から覚めたばかりか、だとすれば。お腹が空いているやも知れぬ。寝ぼけているならともかくも、そこまで覚醒しているのなら、こんな危険な野獣はいないと、仲の良いお友達が立ちすくんでいるのへ堪らず声を掛けた坊やであり、まるで金縛りにでもあったかのように固まっていた友の様子に気がつくと、

  「…っ。」

 思い切りの駆け足にて飛び込んで来た坊やが、なんとクマとお友達との間に割り入ったから、

  「あ…。」

 目の前に立ち塞がったのは、仲良しな坊やの緑の髪。それが視野を塞いだことで…衣音の方もやっと我に返れた。その途端に、これが尋常ではない事態なのだという認識も素早く立ち上がり、
「何やってんだ、おいっ。」
 なんでわざわざ自分から、危険なところへに飛び込んで来るかなと、自分と変わらない、小さな肩を揺すぶったが、
「うっさいなっ。」
 クマに睨まれて金縛りになってた奴が、偉そうに言うんじゃねぇと。小さな背中がそれこそ偉そうに言い返す。何だとと、力を込めて掴みかかった肩が…だが、

  "…あ。"

 がたがたと。震えていたのに気がついた。彼だって怖いのだ。なのに…。

  "…どうしよう。"

 自分たちでは敵う筈がない。やっと十になったばかりの子供だし、ナイフも何も持たない状態。持っていたとて使えたかどうか。時々強く吹きつける春の風に、若い枝々が震える木々の間。まだ萌え始めたばかりの下生えを踏みつけて、四つ這いになっていたクマが威嚇するかのようにその身を起こして立ち上がった。ひぃっと、思わず身を縮めた衣音が掴んでたトレーナー。その下で、小さな肩がぴくりと…大きく動いたような気がして。










   ――― ぎゃあああぁぁぁああああぁぁ……………っ !!!



「父ちゃんっ、痛いってっっ!」
 ぎゅううぅっと、晒布を強く巻かれたのが痛かったらしく、小さな坊やがじたばたと暴れもって、お揃いの緑髪を乗せた頭をした父親の手をばしばしと猛然と叩いて抗議する。その傷を負った時も声ひとつ上げなかった子だのに。それがこの大声だったものだから、さぞや痛かったのだろうなと察するかと思えば…豈
あに図らんや。
「馬鹿、大人しくしてないかっ。」
 応急処置だ。暴れて傷口が開いたらどうすんだと、きつい言いようで叱咤して、
「父ちゃんなんかな、刀で切られた傷を麻酔なしで自分で縫ったんだぞ。」
「ふやぁ〜…。」
 …おいおい。
(笑) それは凄いと単純に感心して、呆気に取られつつ大人しくなった息子と、
「何を履き違えた自慢なんかしてるかな。」
 言動の上でまでとんでもなく方向音痴な夫の頭を同時に叩いて、
「そんな話を付け足したら、衣音くんが余計に怖がるだろうが。」
 ぼそりと。耳元に囁いたのが、彼らの母であり妻である、モンキィ=D=ルフィさん。子供たちだけでこんなにも危ない林に行かせた訳では勿論なくて、転んでしまって泣き出した みおちゃんと衣音くんの妹のちよちゃんを先に家まで連れ帰って、さて。今度は坊やたちをと迎えに来たその眼前にて、子熊が愛する坊やとそのお友達へ襲い掛かっていた現場に遭遇したものだから。

  『こんのクソ熊野郎がっっ! ウチの子たちに何してやがるっっっ!』

 どっかで聞いたような種類の怒声と共に、思い切りのゴムゴムのピストルを繰り出したお母上。子熊と言っても結構な大きさのあった相手を、林の奥まで軽々弾き飛ばしたその怒号が、すぐ裏手のお屋敷にまで届いたものだから。他の場所ならともかくも随分と至近だったからか、それとも…愛妻にのみ鋭敏に働くレーダーをお持ちだったからか。
(笑) 珍しくも迷子にならないまま、いち早く駆けつけたお父様が、胸元を抉られて倒れ伏していた息子に応急の処置をしてやっていたという訳で。お母様の殺気に満ち満ちた怒号と気配に熊が振り返りかかったのが幸いして、坊やの受けた怪我は見た目ほどには深くはなかったが、それでもね。
「…っく。ひく…っ。」
 こんなにも恐ろしい目に遭ったのだし、目の前で仲良しのお友達が大怪我をしたのがよほどショックだったのか、普段は年齢にそぐわないくらい落ち着いている衣音くんが、声を押し殺しながらも…泣き出したままで立ち尽くしているとあって。
「…あ。」
 乱暴に扱ったのは、手当てを手早く済ませたいがためのことだったのだが、これは考慮が足りなかったかと、父上様も反省する。そんな二人の間から、

  「何泣いてんだよ、衣音。」

 坊やの声が不意に上がった。ひぐうっと肩を震わせて、だが。名前を呼ばれたお友達は、恐る恐るという足取りで傍らまで歩みを進め、お父さんのお膝に抱えられていた坊やと、やっとのことでご対面。
「言っとくけどな。俺、お前んコト、庇った訳じゃねぇからな。」
 口許を尖らせる彼であり、
「お前が逃げなかったのに俺だけ逃げんのがヤだったから、そいで熊の前に割り込んだんだからな。」
「…うん。」
 頷きながらも、目許に拳を擦りつけ、なかなか泣きやまない衣音くんであり、しかも、

  「偉そうに威張るな。」

 ルフィがもう一度ポカリと坊やをこづいた。
「母ちゃんだって、物凄い心配したんだぞ? 衣音くんがいくら呼んでも、お前、顔上げなかったし。」
 胸元に巻き付けられた真っ白な晒布を見て、
「そんな詰まんないとこばっか、ゾロとお揃いになってどうすんだよっ。」
 何だか…どさくさに紛れてお父さんまでが、えらいお言いようをされているような。
(笑) そこへと、

  「…そうだぞ。」

 衣音くんがやっとのこと、声らしき声を出した。目許や頬を真っ赤に染めて、涙に溺れそうになった瞳で、真っ直ぐに坊やを睨みつけており、

  「俺、お母さんやお父さんに叱られても、こんなに泣いたことなかったんだぞ?」

 くしゃりとお顔を歪ませて、またぞろ泣き出してしまったお友達に、坊やはただただ…どうしたもんかと困ったように俯いてしまったのだった。








            ◇



『出来ることと したいことのギャップがな、まだまだ大きいんだよ、お前たちはさ。』
 後になって坊やと一緒に衣音も聞いた話では、父上がその胸板の傷を負った時も、母上はそれは怒って見せたそうで。
『この傷を負わせたほどの相手と真剣勝負の場で向かい合って戦ってた間はな、心意気をよくよく判ってくれて、だから手を出さないで黙って見守ってくれててな。』
 でも。その時の騒動が一通り片付いてから、みっちりと叱られた。心配したし…ちょっとはその、怖かったしと。………まま、船長さんのご両親のお惚気話はともかくも。
こらこら
「そんな傷だからさ。その、あんまり人には見られたくないんだと思う。」
 衣音が肩を竦めたのへ、
「熊につけられた傷だから?」
 別に恥ずかしい怪我じゃないじゃないと、ベルとしては納得が行かないらしいのへ、
「違うって。」
 衣音は首を横に振り、

  「俺が、気にするからだよ。」
  「あ…。」

 庇われたこと、この傷を見るたびに思い出すんじゃなかろうか。そうと思うからか、沢で水遊びをする時もシャツを着たままでずぶ濡れになってた彼だったし、学校の授業での水泳でも、衣音にはさりげなくそっぽを向いて通してた。
「今はもう、随分と薄くなってるんだろうにな。」
 それでも何となく、柄にもなく気を遣ってくれてのことだと思うよと、擽ったげに笑った航海士くんのお言葉に重なって。

  「…そうか。やっぱりまだ気にしてたんだな。」

 そんな声が割り込んだから、

  「はい…?」

 こちらの二人がぎょっとして振り返った視線の先、いつの間にかドアが開いていて、着替えの終わったらしき船長さんが、戸口に凭れてこちらを見ている。
「あ…。」
「あらあら。」
 どうやら雨の音が彼らにも災いしたらしく、ドアが開いた気配が届かなかったのだ。そして、
「どうもおかしいと思ってたんだ。」
 船長さんが、そんなことを言い立て始めたから、
「…? 何だよ、薮から棒に。」
 昔話を勝手に話していたことへという文言ではないような言いようをしもって、憤慨のご様子を示す船長さんであり、

    「お前がこんな旅に付き合ってる理由だよ。慎重派で生真面目な奴だったのが、何でまた俺なんかの思いつきに付き合ってくれているのか。今の今まで理由がさっぱりと分からなかったんだがな。そんな昔のことをまだ引き摺っとったんか、お前はよっ。」

    「な…っ!」

 これは論外な言われようだったのか、

    「何を履き違えたことを言い出すんだよ。」
    「履き違えた? 何言ってるんだかな。
     お前の方こそ、そんなにも俺んコト、頼りない奴だって見てたんだな。」
    「だから。そんなこと、いつ言ったんだよっ。」
    「今の話をきっちりと覚えてたってとこからして、そうだっていう証拠じゃねぇかよ。」
    「なんで そうなるかな。この単細胞がっ。」
    「なんだとっ!」

  ………あらあら。何だか風向きが妙によじれてしまっているような。

「俺の心意気へ失礼ってもんだぞっ?」
「何を分からないこと言ってるかな。」
 喧々囂々、真っ向からの言い争いはどっちも引かない様相で。そんな傍らに取り残されたベルちゃんは、肩を竦めると…ちらりと船窓から外を見やり、

  「悪いけど、付き合ってらんないから、あたしは撤退するわね。」

 くっきりはっきりとそう宣言し、

  「それと。せっかくの虹が台なしだから。喧嘩するなら小声でやって。」

 ふふんと笑ってデッキへと出てゆく。彼女の残した台詞の中、

  「虹…?」

 顔を見合わせた坊やたちが、閉じかかったドアを開け放つと、そこには。

  「…あ。」
  「うわあっvv

 空の笑顔のように、鮮やかにかかった大きな虹が、いつの間にか上がっていた雨の代わりに絶景を披露していて。これには、言い争いかけていた二人も…すぐさま笑顔になってご機嫌を立て直す。まだまだ青い坊やたちの諍いなんて小さい小さいと、空が笑って諭してくれたみたいな、冒険半ばのそんなひとコマでございますvv









  aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif

    「…なあ、ホントにこだわってないのか?」
    「くどいなぁ。俺は俺の、その…冒険心からついて来てんじゃないかよ。」
    「なら良いんだけどな。」
    「? 何が?」
    「だからサ。その…あっちの方もサ、
     そんなのが理由でのことなら、本意からじゃねぇってことになるからさ。」
    「………。」
    「そうなると、やっぱ、やだし。」
    「ふ〜ん。」
    「何だよ。//////
    「別に♪」


  ――― な、何を意味深なことを囁き合ってるキミたちなのかな?




   〜Fine〜  04.2.22.〜2.23.


  *あまりに久し振りすぎて、
   ベルちゃんは金髪だったか
   それとも水色の瞳だったか、思い出せなかったほどでした。
おいおい
   (思い切り“父ちゃん”なんて呼ばせてますし。)
   この子たちのお話は、ちょっとショックなことがあったせいで、
   なかなか書こうと思えないままだったのですが、
   そんなの理由になんないしと思い直して、
   頑張って書いてみた次第です。
   伏線が気になってる方々には申し訳無いですが、
   スローペースで進みますんで、その点、ご容赦を。


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