オレンジケーキ
  “Tea time”より

                     『Erde.』SAMI様より、寄贈


 どこかのんびりとした、冬の日差しの中。
 縁側にいて親子3人が仲良く日向ぼっこをしているようにも見えた。程よく暖かな金色の午後の日差しがガラス窓越しに差し込むその縁側の上には、3人の前にお皿と紅茶セットが直接置かれていた。その皿の上には、先日ようやく5つになった妹がお手伝いさん達の間にいて、遊びながら教えてもらったと言うオレンジを焼きこんだスポンジケーキが恭しく置かれていたりする。それに合わせて、二人いるお手伝いさんのうち、彼女にケーキを教えてくれた若いお手伝いさんの方が「ケーキでしたら、紅茶のほうが合いますでしょ?」と、わざわざ自宅へと取りに行ってくれた紅茶セットも並んでいた。程よい色に淹れられたその濃い黄金色の紅茶は、柔らかな香りが周囲を満たしている。
 そういえば、もう何年もサンジの作ったお菓子食べてないな、と見事にセッティングされたそのおやつを見ながらルフィは笑った。ツタさんがいつも作ってくれるそれは美味しい和菓子に慣れていて、それが当たり前の日常へと変化していた。普段は思い出す間もなく過ぎていく、その忙しい日々の中にとっぷりとその身体は漬かっていて、ふと今目の前に並べられた懐かしい光景に笑ってしまった。オレンジが焼きこまれている所が、懐かしい仲間達の笑顔を鮮明に思い出させる。
「お母さん、これね」
手つきが覚束ないながらも一生懸命に自分で焼いた、というよりは焼くのを手伝ってもらったというほうが正解かもしれないが、その綺麗な所と、少し焦げ色の残るケーキにナイフを入れ、差し出した皿をルフィは楽しげに、しかし丁寧に受け取った。
「お兄ちゃんは、これ」
「……お前が作ったんだろ? 食えるのか?」
「食べれるもんっ!」
「だってお前が作ったんだろ」
「一生懸命に作ったもん、食べれるもん!」
年端も行かない子供ながらも、一端の口の利きようをするようになった二人の子供の様子に、ルフィは思わず笑みがこぼれてしまう。それでも親の前での兄妹ケンカは止めておかなくてはいけない。特に食べ物の前では。
「待て待て。せっかくのお菓子の前でケンカしちゃダメだ」
「だって、何だか焦げて…」
何かを言おうとした兄の頭に軽く母の拳が落ちる。
「だってお兄ちゃんが…」
「はいはい、口答えもしない。せっかくケーキが美味しく出来上がって、二人に食べてもらうのを待っているんだからな、ケンカしないで美味しく頂くこと」
「はーい…」
どこか納得のいかないような返事をしながら、それでもやはり子供でお菓子を食べ始めると満面の笑みになるから不思議だった。

  ―――― オレもあいつらにこんな風に見られていたのかな?

そういえばサンジも自分が機嫌が悪かったり、不安だったり、誰かとケンカしていたりするとさりげなく美味しいケーキを焼いてくれていたな、とふと思い出す。
 美味しいそのケーキはどこか懐かしい苦味を伴っていたような気がした。



 少し多めに作ってくれていたケーキをあらかた3人で食べ尽くすと、ぽかぽかした陽だまりが柔らかな眠気を誘う。とうとうと寝息を立て始めた二人に小さな昼寝用の布団を掛け、背を軽く叩きながら、傍らでルフィもその日差しと小さな寝息が誘い出す眠気にとろとろとし始めていた。
 どれくらいの時間が経過したのだろうか?
 ふと人の気配を感じて、薄く目を開けると見慣れた深緑色の瞳が自分を覗き込んでいた。
「……ゾロっ?」
「わりぃな、起こしたか」
「ううん、おかえり。いつ、帰ったんだ?」
「つい、さっきだ」
そのままこつんとルフィの額をその額で触れて、ゾロが部屋の中の座卓の前、普段自分が陣取っている床の間の前に座った。慌てて起き上がったルフィにゾロは不思議そうな顔を見せた。
「どうしたんだ? これ」
「あの子が作ったんだ。そのケーキは『お父さんの分』だってさ」
真っ白な皿の中に載せられた2切れのスポンジケーキ。少し困ったような、嬉しそうな笑顔になるゾロに、ルフィはティーポットに改めて別の茶葉を入れる前に暖めようとお湯を入れながら、少し呆れた顔になる。
「食べろよ?」
「ああ」
「……お前、顔、蕩けてるぞ」
「そうか?」
「……何だか今日はあいつらの気持ちが分かったような1日だった」
「?」
「きっと船に乗っていた時も、お前、そんな顔してたんだろうな」
当事者でいる時には、そんなことを全然気付きもしなかった。恐らくこんな様子だったんだろうな、とルフィはため息をつく。確かにこの様子では、面白がられていたのも想像には難くない。
「誰が?」
「お前。さっきから言っているだろ? 顔蕩けてんぞ?」
「そうか?」
何だか会話がぐるぐると同じ所を回っているような気がして、ルフィはゾロにその指摘をすることを止めた。そのまま無言で紅茶を差し出す。未だに困ったような嬉しいような顔をしているゾロは、懐手をしたままルフィの方を向き直った。
「ルフィ、一切れ食ってくれ」
「いやだ」
「あ?」
「食うなって言われている。きちんとお前が食えってさ」
ルフィが指差した先には、相変わらずの陽だまりの中、気持ちよさそうな寝息を立てて二人が眠っている。
「ムリだ」
「ムリでも食え」
「……何で不機嫌なんだ?」
「不機嫌、なんかじゃねぇ!」
ぷいと横を向いてしまったルフィの顔はどう見ても、これ以上はないくらいに気持ちが斜め加減になっている表情だった。やれやれと言った表情のゾロが、少し腰を浮かす。
「おい、ルフィ」
「何だよ?」
「こっち向けって」
「やだ」
ぎゅ、と瞑ったままの瞼の上に柔らかな感覚が下りてきて、ルフィは思わず『え?』という表情でその瞼と口を開いた。その口の中に不意に押し込まれた甘いそのスポンジケーキに、どわっと手足をばたばたさせて驚くとどこか悪戯な表情をしたゾロの笑い顔が目の前にあった。
「食ったな」
「ふがーっ!!!」
「大丈夫だって、こっちは自分でちゃんと食うから」
「オレが不機嫌なのは、それじゃねぇっ!!!」
「一体、何だよ」
「……せっかく、かっこいいのに、そんなにやけた顔すんな! お弟子さんたちとか、この子達に見られたら『大剣豪』とか『父親』の威厳も何も無いだろっ!!!」
「こんな事したりとか、か?」
ルフィのその細い腕を抱き寄せると、自分の腕の中へと取り囲んだ。小さいその顎を捕まえて、ふわりとその唇を重ねる。自分のその襟元を掴んでいた小さな抵抗は、幾度も重ねる口づけの中で、やがてゆっくりと力を失っていった。
「……バカっ! あの子達、起きたらどうすんだっ!!」
「まだ寝てるって」
「ツタさん達が来たら…」
「さっき、オレが帰ってきた時にちょうど買い物へと出掛けていったぞ?」
「…お弟子さん……」
「今日は試合で午後から休みなの、知っているだろ? いいから少し黙れって」
「……ゾロのエロ剣士」
「久しぶりに聞いたな、その言葉」


「……ねえ、お兄ちゃん、まだ寝たフリ続けないとダメ?」
「……ダメっぽいなぁ」
「ねえねえ、お兄ちゃん、お父さんみたいに、私にもちゅうして?」
「ダメだ、あれは好きな人とするんだ。大事なことなんだって」
「ふーん、私、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも大事で大好きだけど」
「黙って言うこと聞け」
「はーい」
金色の日差しは、変わらずに二人の眠っているはずの子供たちと、変わらない夫婦のいる部屋の中にまで降り注いでいた。


     〜Fine〜


……何だかSAMIの中では相変わらずゾロが壊れております(笑)。
ロロノアさん宅は、確か旦那さんが物凄く頼りがいがあって、格好良くて。
奥様はもうこれ以上は無いほどの、新妻っぷりを醸し出してくれて、可愛らしくて。
……どこを、どう間違えばこんな状況に陥るんだか……(とほほ)。
今回の大人大賞は、5歳の双子のご兄妹に決定、ということで。
また脱兎のごとく、書き逃げしてしまいますっ!!!
ところで、Morlin.さま。農協うらでしたら、SAMIの自宅の近くの農協ウラでも宜しいですか?
隣、交番ですけど…(笑)


うきゃ〜〜〜っ!
壊れております、すみませんっ!
だって、こんな…こんな可愛くて甘いお話をいただいてしまってはvv
幼い兄妹がかわいいvv
そして、いい加減にしなさいと思うほどラブラブな夫婦が…vv
んまあ、良く出来たお子様たちじゃないですか。
しかし…こういうお茶目なところもあると実は知っていながら、
お父さんをかっこいいと思ってる訳ですね? 長女は。(笑)
良い子たちです、ホンマに。
本当にありがとうございます、SAMI様vv
また、何か煩悩がくすぐられましたなら、宜しくお願い致しますねvv(おいおい)

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