ロロノア家の人々
     
れんげ草の花冠  “Tea time”より


 桜の祭りも近く、穏やかな暖かさの中に、仄かに甘酸っぱい春めいた香りの風が吹くようになったある日のこと。ツタさんのお買い物に付き合って、ほとんどは自分の腹に収まる山のような食材を抱えての帰り道。
「…あれ?」
 家並みの続く通りを抜けて、道場付きの屋敷を取り巻く、少々いかめしい門構えまで続く黒板塀に差しかかった辺り。路傍にはまるで目印のように、随分と昔に植えられたものだろう柳の木がある。桜が終わる頃に若い葉を出す枝も、今はまだ芽も見えぬ裸ん坊なまま枝垂
しなだれていて、時折吹く風にゆらゆらと揺れているばかり。そんな柳の根元にしゃがみ込んで、えくえくと小さな拳を目許に当てて泣いている、小さな小さな女の子に気づいたルフィ奥様だ。玉子色のカーディガンやオレンジ色のエプロンドレス風のお洋服に包まれた手足も体も、ふかふかころころと小さくて、2、3歳くらいだろうか。ふわふわとやわらかそうな前髪をまとめて、頭の上のやや横っちょへ、ぼんぼりのついたゴム飾りでまとめている。丸みを帯びた小さなおでこに産毛が光って、何とも愛らしい。
「えと、確か…久世さんチのちよちゃんだったよな?」
 声を掛けると顔を上げる。もう随分とここで泣いていたらしく、ふっくらした幼い頬にうっすらと涙の川が刻まれていて、
「迷子か? お母さんは一緒じゃないのか?」
 訊くと、
「ちやうの。」
 かぶりを振って、
「にーた、ないない。」
 おうおうと泣きながらそんな風に言う。まだ随分と幼くて、言葉は幼児語なため、ちょっと分かりにくく、ルフィはツタさんと顔を見合わせた。何だかもうもうどうして良いのやら判らなくって泣いているという風情だが、そんな自分へ声をかけてくれた人が、いつも遊んでくれるお友達のお姉ちゃんのお家の"お母さん"だというのは判るらしい。立ち上がるとルフィのはいているGパンの脛辺りにしがみついてくる。本人に自覚はないらしいものの、これはどうも…迷子には違いないらしく、
「一旦、ウチまで連れてって良いよな。」
「そうですね。とりあえず荷物を置いてから、お家まで送って行ってあげましょう。」
 ツタさんも頷き、どこか心配そうに眉を寄せた。


 ロロノアさんチは村外れにある。元からあった古い武家屋敷を丁寧に修繕し、剣術道場を庭の一角へと移築して渡り廊下で繋いだ、少々風変わりな間取り配置の屋敷で、裏には広い竹林が山裾へ連なり、風のある日はさわさわと青い葉の波が躍って潮騒のような音を立てている。
「あ、お母さん、ツタさん。お帰りなさい♪」
 門をくぐり、結構広さのある前庭を突っ切って。そのまま玄関は避けてお勝手へ。台所の三和土
たたきへと踏み込むと、当家の主人がそれはそれは愛惜しんでいる一輪のヒナゲシこと、それはそれは愛くるしい娘御が、上がり端のところに腰掛けて、もう一人の若いお手伝いさんと二人、何やらお菓子のレシピ本を開いて覗き込んでいたところ。
「あれ? 遊びに行かなかったか?」
 確か、朝ご飯を食べてしばらくしてから、いつものように仲の良いお友達と待ち合わせている村の広場へ出掛けた彼女な筈で。途中まで、このお手伝いさんが送って行ってくれたのを見送ってから、こちらも市場まで買い物に出たのに。山のような荷物は調理台へ、そしてもう片方の腕に抱えていたちよちゃんを、長女が腰掛けている上がり框へそっと降ろしながら、キョトンとした顔で母が訊くと、
「行ったの。でも、誰も来なかったの。」
 少しばかり口許を尖らせて、だが、ちよちゃんを引き寄せると"いい子、いい子"と笑いかける姫だったりする。
「???」
 説明があまりに端的すぎてよく判らない母上へ、
「どうやら風邪が流行っているらしいんですよ。」
 一緒にいた若い方のお手伝いさんが、ちよちゃんの小さな靴を脱がしてやりながら説明を付け足してくれた。
「近くのお家、日向さんチのお母様が丁度お買い物にって通りかかられて。それでお話を伺ったんですけど、村の子たちの半分近くが風邪で寝込んでいるらしいって仰有られてました。」
「へぇ〜、そうなんだ。」
 これは気がつかなかったなと、ルフィはツタさんと顔を見合わせる。
「きっと昨夜急に冷え込んだからでしょうね。」
 この何日か、いよいよ春めいて来たねという暖かさだったのが、花冷えというやつだろうか、気まぐれにいきなり冷え込んだ。今日のほこほことした晴天も、今朝方は霜が降りるほど寒かった、所謂"放射冷却"を呼んだのちの晴れだ。
「ひよこちゃんも花南ちゃんも、皆んなお風邪なの。」
 それで已
やむなく帰って来て、本なぞ読んでもらって過ごしていたのだろう。ツタさんが手早く絞って来た手ぬぐいで、涙と埃がうっすら筋を作っていたちよちゃんの頬を拭ってやりながら、
「ああ、そうだ。ちよちゃんの話し言葉、判るかな? 何だか泣いてて、だけどよく判らないんだ。」
 母上が訊くと、娘御は素直にこくんと頷いた。
「ちよちゃん、どうしたの? 泣いてたの?」
「うっと、にーた、ないない。ちーよ、にーた、ろおにゃーってって、えんえんってたーの。」
 懸命に何かを訴える。先程と同じような言い回しで、大人にはなかなか把握しにくい不思議な幼児語で。ルフィはこれで直感が鋭く、言葉が通じない相手であっても結構ずばずばと読み取れる方なのだが、幼いちよちゃんはなまじ"言葉"を連ねるものだから、それに意味があるらしいと下手に考える分、却って要領を得ないらしいのだ。ふんふんと聞いていたお嬢ちゃまは、ややあって、
「あのね。ちよちゃん、お兄ちゃんを探してるんだって。ちよちゃんのお兄ちゃん、いなくなっちゃったんだって。途中までついて来たんだけど、どこにもいなくなっちゃったって。そいで、えーんえーんって泣いちゃったんだって。」
 そうと通訳してくれて。それを聞いた途端、
「ちよちゃんのお兄ちゃんって…。」
 あれあれれと、再び顔を見合わせた大人たちだ。


            ◇


 中庭の枝折戸を出て数間ほど進むと、少し高めに浮橋のように渡された屋根付きの渡り廊下が、母屋と道場を繋いでいる横っ腹に行き当たる。短い階段があって、此処からでも直に上がれるようになってはいるが、道場へは許可なくして滅多に入ってはいけないことにもなっていて…母御はあまり気にしてはいないのだが
(笑)、姫などはこの渡り廊下にさえ上がろうとはしない。道場の師範でもある父が禁止した決めごとは、この家では絶対なのだと、この幼さで既にしっかり飲み込んでいるからである。
「確か、今日から練習に来るって言ってたよな。」
 この剣術道場には、大人たちへの指南とは別に、体を鍛えることが目的の幼年クラスというのがあって、十歳前後の子供たちがお行儀と剣術とを習いに来る。あの"元・海賊狩り"がお行儀を教えるという取り合わせは、昔の仲間たちが聞いたら…腹を抱えたまま2、3日は立ち上がれないくらい笑い転げることだろうが
おいおい、何も小笠原流などといった礼儀作法をきっちり教えるのではないし、師範本人にもそんなつもりは当然ない。ただ、ここへ通う子らは、背条もぴんと立ってきびきびと凛々しくなり、立ち居振る舞いや目上の人への態度など、基本的な行儀まで自然と身につくらしく。よって、ここいらでは、お転婆な女の子へのお説教に、
『いっそロロノアさんチで"やっとう"を習って来い』
という言い回しをされることがたまにある。これは"いっそ男の子になっちまいな"という意味と"少しはお行儀良くなるから"という二つの意味があるらしいとか。閑話休題(
それはさておき)
「ちよちゃんチってお洋服屋さんでしょう?」
「うん。普通のお洋服じゃなくって、道着とか作務服っていうのとかを作ってくれてるお家だけどもな。」
 もともと、隣村にある大師範の道場からの注文を一手に引き受けてらしたお家で、道着はご主人と奥様と何人かの縫い子さんとでそれは丁寧に仕立ててらっしゃる。あと、もう少し都会の大町にある、竹刀や木刀、防具などの専門店への発注も引き受けてくれていて、ロロノアさんチもこの土地に来たばかりの頃から何かとお世話になっている。そんな縁があったせいでか、久世さんチのご主人が、この度、息子さんの衣音くんを道場で鍛えてやってほしいと申し出て来られた。本来ならお稽古ごとの習いに従い、6歳になってから引き受けているのだが、当家の長男坊も同い年ながら道場に入ることを許されたばかりな身。子供同士、日頃からたいそう仲が良いことでもあって、特別に早い目ながらの入門と相成って、そしてそして、今日はその第一日目。
『衣音くんだったらもう来てるよ? 今はお兄ちゃんと二人、お父さんに道着の着方を教わってるの。』
 今日は昼下がりから幼年クラスのお稽古…もとえ、練習があるのだが、初心者の二人は当然のことながらまだまだ一緒には混ざれないので、当分は二人だけで少しずつ基本から教わることとなるらしい。時々背伸びをしながら、そんなこんなとお喋りをしていると、
「…あ。」
 控えの間がある奥向きから板張りの道場の方へと、廻り廊下をやって来た人影が。横手に伸びる渡り廊下の切れ目から覗いていた格好のこちらに気づいたらしくて、3人ともが立ち止まり、
「あ、ちよ。」
 殊に…師範の後に続いていた男の子がそんな声を上げる。父御のミニチュア然とした、緑の髪に腕白そうな容姿の長男坊と違って、どこか生真面目そうなやさしい面差しの彼こそ、久世さんチの長男坊にしてちよちゃんのお兄ちゃんである衣音くんだ。
「えと…。」
 思いもよらぬところに居た妹が気にはなったが、今は師範の監督の下に指導を受けている最中。どうしたものかと戸惑う坊やに、師範殿は小さく苦笑し、
「行っておいで。」
 そうと声を掛けてやる。
「練習が終わるまで待ってておくれって。」
「はい。」
 ぺこっと頭を下げてから、とととっとこちらへ向かって来て、
「ちよ、ついて来たらダメって言っただろ?」
 ルフィに抱かれた幼い妹をメッと叱りにかかるお兄ちゃんで。
「うう。」
 一瞬嬉しそうな顔をしかけたちよちゃんが、途端にふみみと萎
しぼんでしまう。
「まあまあ。」
 一丁前にお説教顔になった衣音くんへ、奥方が宥めるような声を掛けた。
「来ちゃったものは仕方がないよ。練習が終わるまで預かっとくから、ね?」
「はい。すみません。」
 やはりペコリと頭を下げるところが、お行儀がいい。ルフィはちよちゃんの小さな手を取って“バイバイ”と振って見せ、道場へ入ってゆく彼らを見送った。


            ◇


 練習と言っても、今日は初日で、しかも小さなお子たちのこと。道場での簡単な決まりごとの説明と、木刀での素振りを少々。あとは基本の体力トレーニングを幾つか教えてお開きとなった。道着から普段着に着替えて、母屋の茶の間へ向かった3人の殿御は、
「…あ。」
「えっと…。」
「おやおや。」
 ぽかぽかとした陽射しのあふれる縁側で、当家の母御の膝枕ですやすやと眠っていたちよちゃんの、何とも愛らしい寝顔と遭遇することとなった。
「さっきまではお手玉で遊んでたの。」
 お嬢ちゃんが小声で説明したのを引き取って、
「お兄ちゃん探して心配したり、迷子になって心細かったりしたみたいだからね。疲れちゃったんだよ。」
 ルフィがそっと髪を撫でてやりつつ小さく微笑った。坊ややお嬢ちゃんのお付き合いの中に混ざっては、子供たちと遊んだりお話ししたりする機会の多い奥方で。なればこそ、そういう機微にも殊更に敏感なのだろう。昔の、どこか大雑把である意味"無神経な朴念仁"だった頃に比べれば、大した進歩…なのかも知れない。見るからに心和む暖かな風景ではあったが、
「ちよ、帰るぞ?」
 制
める間もあらばこそ、衣音くんの手が伸びて来て、妹の肩を小さく揺すった。兄弟だからこそ遠慮しなかった、いやいや…この家の皆さんにこそ遠慮してしまった彼なのだろう。そして、
「ふにゃ?」
 目を覚ましはしたちよちゃんは、どこかぼんやりと覚束無い様子。寝起きのとろとろとした眼差しが、何とも頼りなげで微笑ましいばかり。
「もうちょっとはっきり目を覚ますまで休んでいきなよ。」
 ルフィがそうと勧める。実際問題、こんな小さな坊やにこの状態のちよちゃんを連れて帰るのは無理な話だろう。
「そうだよ。ご飯食べて行きなよ。」
 坊やもにこにこと勧めるのだが、
「もうすぐお昼ですし、お母さ…母も心配すると思います。」
 さすがは武道に関わるもののお仕事をしている家の子で、お行儀も既にしっかり行き届いている。衣音ちゃんの言い分は筋が通っているし、お兄ちゃんとしての彼の面子や希望は優先してやりたいが、それはそれとして、現実は…やっぱり無理だろうとしか言えず、どうしたもんかと小首を傾げたルフィが視線を向けた先、
「じゃあ、送って行こう。」
 小さく笑って言い出したのは父御である。うとうと半分、ぼんやりしているちよちゃんを大きな手で軽々と懐ろへ抱え、衣音くんを見やって促す。
「にゃ〜。」
 何が何だかとろんとした顔のまま、だが、師範殿の大きな手の暖かさに安心したか、ちよちゃんは再びとろとろと、うたた寝の中へ吸い込まれたらしくて。こてんと凭れて来たのを愛しげに見下ろして、二人を送って行くべく、若き師範殿は縁側を後にした。………と、
「? どうした?」
 そんな彼らが向かって姿を消した枝折戸の方を、何故だかじっと見送ったままでいる妹に、長男坊が気づいた模様。さっきまでの平生の明るい顔から、少しばかり…心なしか元気のない様子になっている。
「…ん、何でもないの。」
 本人は慌ててぷるぷるとかぶりを振るが、そんなやりとりを耳にしたルフィとしては…さすがは"お母様"でピンと来るものがあったらしい。口許へと引き寄せて、ゆるく握った拳の陰で小さく微笑って、それを別な…明けっ広げな笑みに塗り替える。
「さ。じゃあ、ゾロが戻って来たらお昼ご飯だよ?」
「はぁ〜い♪」×2


            ◇


 息子だけでなく娘までお世話をお掛けして、本当にどうもすみませんでしたと何度も何度も頭を下げられて、いえいえこちらこそ、ちよちゃんをお預かりしてましたことをお知らせもせずにと恐縮しながら、どこか焦り気味に久世家の格子戸から出たのが丁度正午のこと。こういう形式張ったご挨拶や気遣いのエール交換?が、人と人とのお付き合いの中では大切なことだと重々分かってはいるし、これで結構慣れて来たつもりだったが、一対一の場ではまだ時々泡を喰うことがある、まだまだ未熟者な師範殿で。
(笑)
"…ふう。"
 ついついこぼれたため息へ苦笑をし、家まで戻る帰途、行きと違って、村の家並みを外れる川沿いの道を選んでいる。これは別に今日に限らない、いつものことだ。特に村人たちと顔を合わせるのがうざったいとか思う訳でもないのだが、一人の時はついつい人気の少なそうな道程を辿ってしまう。屈託のないルフィと違い、まだどうも純朴な人々との会話が苦手なせいもあろう。会釈くらいならともかく、人懐っこい人々から話を振られるとどうにも困ってしまうらしいところは相変わらず。少し大回りになるが、足は速いので、村の真ん中を帰るのとさして違いはない。さくさくと歩を進めて、屋敷を巡る黒板塀がもうすぐ見えて来ようかという辺り。
「…ん?」
 ふと、足が止まったのは、家で待っているか遊びに行くかしたろうと思っていた幼い娘御が、道の分かれ目に立つ小さな道祖神様の台座に座り込んでいたからだ。罰当たりなことかも知れないが、小さな子供たちには丁度いい高さの段差なので、ここいらの子たちはベンチ代わりにすることが多く、大人たちもさして咎めはしない。ゾロも同様に見たらしく、それよりもこんなところに一人で居たことの方が気になった。お友達も多い子だし、家で静かに遊ぶのも好きな子だ。そして、どちらにしても、必ず誰かが構ってしまう愛らしさなので…いや、父御の贔屓目を差っ引いても
(笑)…あまり一人でぽつんとしているような子ではないのだが。そうこう思ううちにもすぐ傍らまで歩みが届いていて、向こうでも気がついていた様子の娘御へ、
「どした?」
 静かに声を掛けると、
「んと…。」
 含羞
はにかみながら立ち上がり、おずおずと見上げて来る。さらさらと豊かな黒髪には、待っている間に編んだらしい、紅紫のれんげ草の花飾り。まるで可憐な花嫁のティアラのようにも見えて愛らしい。そんな愛娘に、そっと屈んで小さく腕を広げてやると、少し恥ずかしそうな風情はそのままながらも、素直に懐ろへと寄って来て胸元へしがみつく。その、たいそう小さな温みをそっと抱え上げ、父御は再びゆっくりと歩き始めた。佇んでいる間にすっかり陽射しに暖められたのだろう、顎の先に来ているつやつやした黒髪がぽかぽかと暖かい。
「あのね、お迎えに来てたの。」
 他の誰でもない、お父さんが帰って来るのを待っていた彼女であるらしく、こんな短い言いようでも十分通じて、
「そっか。」
 若い父御もまた、短く応じる。村の中央を突っ切る表通りではなく遠回りの道筋を辿って帰って来る父であろうということも、彼女にはお見通しであったらしいから、交わす言葉は少ないのに、良くもまあ互いを判り合っている父娘であることか。どこかでさえずる揚げ雲雀の声。春の昼下がりの空気はまったりと温かで、
「………。」
 ぎゅうとしがみつかなくても安心な、大きな手と頼もしい腕で支えられた、ゆったり広い父の懐ろ。和服の独特な香りに混じって、父御本人の大好きな匂いのする胸元に凭れ、しばし大人しく黙っていた娘御だったが、
「…あのね?」
 ふと。おずおずと小さな声を掛けてくる。
「ん?」
 立ち止まって見下ろしてくれるのは、やさしい緑の眸。母親に似た、やわらかでか細い自分の顔やら姿やらの造作とまるきり違って、かっちりと鋭角的な男臭い面差しは、いつ見てもドキドキと胸が落ち着かなくなるほど大人で素敵で。それでも“こくん”と息を飲むと、必死の決意を一生懸命に口にする。

「あのね? わたし、大きくなったらお父さんのお嫁さんになるね?」

 とってもとっても恥ずかしかったが、一生懸命にお父さんの顔を見ての告白で。そして…そんな熱き想いを告げられた父御はといえば、一瞬、
「………。」
 わずかながら眸を見張った気配があったものの、
「ふぅ〜ん、そりゃあ楽しみだな。」
 ふっと小さく微笑んで、再び歩みを進め始める。あまりに平然としている彼に見えたものだから、
「ホントよ? ホントなんだから。絶対よ?」
 本気で大好きなんだからと、懸命に何度も言いつのる。ついさっき、可愛らしいちよちゃんを大切な宝物のように抱き上げたお父さんに、実はちょっとだけムッとしたのだ。とっても男らしくて頼もしくって。お顔もハンサムで背も高く、深い響きのうっとりするお声で。こうして抱っこされるとそれは良い匂いがして。門弟さんたちや周りにいる沢山のお兄さんたちの中、一番素敵で大好きなお父さんだのに、そのお父さんは誰にでも同じようにやさしい…ような気がする。お母さんに特にやさしいのは"ふうふ"だからしようがないけれど。その他の中では自分に一番で居てほしいのに、皆に同じようにやさしいお父さんだから、時々何だか胸の辺りがざわざわしちゃうことがある。
「お父さんのお嫁さんになるんだもの。絶対よ?」
 繰り返すお嬢ちゃんへ、
「ああ。」
 やさしく微笑ってこちらも何度も頷く父上様で。余裕っぽく笑うばかりで本気にしてないと、お嬢ちゃんはやきもきしているが、此処に奥方がいたならば…さぞや呆れたことだろう。

 『…ま〜たまた緩み切った情けない顔してんだから、もうっ!』と。


    ***

 そして、この10年ほど後には、娘御が引き合わせようとつれて来た“恋人”に、衝撃を受けてしまう父だったりするのでもある。(笑)


  〜Fine〜  02.2.8.


 *色んな人がいて当たり前なんですが、それでも"面白いなぁ"と思うのが、
  同じく"ゾロルが好き"な人たちであっても、
  ルフィファンとゾロファンでは微妙に"ツボ"ポイントが違うんですよね。
  Morlin.は両方同じくらい好きでして、(でも微妙に船長至上vv)
  日頃特に意識しないで書いてたものへ、
  そういう反応がくっきり分かれて出ると、何だか感じ入ってしまいます。
  で、これはリクがあって書いてみた作品なんですが…いかがなもんでしょうか?

 *リク下さいました久世様。
  衣音くんを優等生にしてみましたが、どんなもんでしょうか。
  宜しかったらお持ち下さいませvv


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