月夜見

      “仔猫は いづこ?”  〜月夜に躍る・]X

 


凍るような夜の闇だまり。
高台から海へと吹きおろす陸風が、風籟の笛をひゅうぅんと吹き鳴らす。
薄手で伸縮性に優れた、なのに途轍もなくの暖かい素材というものが、
最近では巷にも存分にあふれてて。
夜間作業だ外回り勤務だという御仁らを、
陰ながら暖めての思う存分助けているが、

 「…っくしょいっ!」

だーもうっ、こん畜生っと。
どこのオヤジですかとツッコミたくなるようなおまけつきの、
大きなクシャミを盛大にかましておいでの誰かさん。
屋根の上なんてな足元不安な場所を渡り歩くには、
あんまり着膨れちゃあ勘が鈍るし。
そうかといってだだ寒い薄着でいると、
体の節々が凍ってしまい、上手く動けずそれも危ない。
これだから寒い晩の仕事は ヤなんだよと、
せめてもの救いは寒さのせいで、
どちらさんのお家も窓やカーテンをぴっちり閉ざしておいでだから、
まま、滅多なことでは目撃もされないということくらいか。
それにしたって、大声を上げれば何事かと不審がる衆目だって集まろうに?

 “いんだよ、今晩は。”

泥棒の仕事での歩きじゃねぇんだ。
だから、屋根の上なんぞを歩ってる妙な奴ではあっても、
何にか盗まれてての捕まる根拠はねぇんだよと。
妙なことで胸を張った彼こそは、

 「…っくしょいっ!」

だーもうっ鬱陶しいっと、やっぱり付け足しのあるクシャミが止まらない、
怪盗“大剣豪”こと、ロロノア=ゾロさんじゃあ、あ〜りませんか。
この小さな港町を主な拠点とし、
微妙な意味合いで“自分の利益”からは獲物を決めない変わり種。
不当な経緯や無体から、無理から奪われた何かしら、
どうあっても取り戻してほしいとする依頼だけを請け負って、
そりゃあ難儀な金庫や倉庫、
身ひとつで侵入しての、そりゃあ鮮やかに盗んで取り戻して差し上げる。
襲われた手合いは大概が、すねに傷もつ胡亂な輩だったりするものだから、
盗まれたものより何よりも、
それと一緒に持ってかれて邪魔だからとばらまかれた、
別件の談合書類や何やらが、
当局の目に留まってしまってのてんてこ舞いとなるもんだから、
取り戻した格好のお人が怪しまれて報復された例は今のところゼロというから、
そんなところも心憎い、皆から英雄視されてるほどの、凄腕の怪盗さんだが、

 いつの頃からだろかしら、
 そんな彼をば引っ掻き回す、末恐ろしい存在が現れて出でて。

身のこなしも軽いし、度胸もあるし、
怪盗さんは苦手なPCじゃネットじゃ使っての、
情報収集や情報操作なんてお手のもの。
そんな現代っ子のおチビさんが、
グルービーの如くについて回ってての気がつけば、
ちゃっかりと“補佐役”に収まっているから大したもので。
目眩ましのおとり役から、アリバイ作りのお手伝い、
果ては逃走用の足やら翼やらの用意まで。
場合によっては女装も辞さない、張り切りボーイの彼こそは、

 「いーかげんにせんかっ、ルフィ〜〜〜〜。」

あらやっぱり。
ルフィ相手のまたまた鬼ごっこですか、怪盗さん。
(苦笑)


コトの起こりは、年明けの晩のこと。
鐘やら港からの一斉に鳴らされる汽笛とともに、
ニューイヤーのお祝い、誰彼なくの間近にいた人へキスをするその瞬間、
選りにも選ってルフィがいたにも関わらず、
その頭越しにどこぞかの美女から熱烈なキスを送られたゾロだったため。

 『こんの浮気もんっ!』
 『ちょっと待て、それはどういう理屈だ、おい。』
 『お前こそちょっと待てや。
  何でルフィから“浮気者”なんぞと言われとるか。』

相変わらず過保護なお兄さんまで一枚咬んでの、
何ともややこしい睨み合いが2週間ほども続いたろうか。
そんな険悪な空気の中でもお仕事の依頼はやって来て、
ナミさん経由の奪還作戦、
金満家の所持する大時計のダイアの振り子…を盗むついでに、
その時計の心臓部にはめ込まれてた、駆動用の水晶柱を取り戻し、
意気揚々と戻って来たところが、

 『宣戦布告。
  俺、ゾロから大事なもんを盗んだから。
  返してほしくば探してみな。
  ヒントは昨夜の盗みのルートの途中だ。』

相変わらずにミミズがのたくったような象形文字を壁へ残しての、
弟子入りしたお師匠様の部屋の中を、引っ掻き回して出てった誰かさんだったりし。
こんな冷たい中をほっつき歩かせる訳にゃあいかんだろーがと、
兄上を説得してのヒントとやらまでを解読させて、さて。


 「とっとと出て来んかい、こらっ!」


こっちまで風邪引くだろうがよと、それにしちゃあ仕事時Ver.の薄着でのお出まし。
よほどのこと、早く捜し出したいという気合いも十分の装備にて、
昨日辿ったルートを駆ける怪盗さん。
よくよく考えたらば、
そのまま問題の屋敷まで辿り着いちゃうとヤバクないかと思ったものか、

 「こらはねぇだろ。」

ホントに中途でそんな声がし、
そちらを見やれば…寂れた教会の天窓から、見覚えのあるお顔が覗いてる。
こっちへ来いよと手招きされて、
やれやれと肩をすくめた怪盗さんが、それでも素直に従えば。
屋根の傾斜をそのまま天井にしたような、小さな屋根裏の空間に、
その広さには十分な、電気ストーブやら湯たんぽやらがきちんと準備をされていて。

 「???」
 「だから。今夜は特別な流星が降るんだってば。」

秋の様々な流星群とはまた別な、季節外れの流れ星の群れ、
それがよく望めるのが今宵の晩で。

 「ゾロが昨日の仕事しくじったらどうしようかって思ってた。」
 「ちょっと待て。」

お前、俺へとむちゃくちゃ怒ってなかったか?
あ? ああ、あれな。

 「ああしとけばさ。
  サンジもまさか、喧嘩までしてるゾロと
  出掛けやしないって思うかなって思ってさ。」
 「うぉいっ。」

だってさ、ゾロだって、
流れ星見たいなんて言ったところで、付き合ってくれる保証はなかったしさ。
冷えきった身へ、そちらさんは十分に暖まってた身を擦り寄せて来、
コーヒーもあるし、肉まんもホットサンドもあるからと、
まあまあ屈んでと執り成しての促して。
一旦どけてた望遠鏡を、天窓へとセットし直したわんぱく坊主。

  “流れ星、ねえ…。”

そんなもんが好きだったかねと、何となく疑問に思いつつも、
ふわふかな頬、柔らかくほころばしての、
屈託なく笑うお顔は…見ていて心が和むから。
小さな総身を湯たんぽ代わり、懐ろの中へと取り込まさせていただいて、

 「で?」
 「? なに?」
 「俺から何を盗んだって?」
 「あ?」

何もなくなってはいなかったが、それでもと。
ウチの壁へ前衛芸術残してったのは何処のどなただよと言い足せば、
あああれなと自分の書き置きをやっと思い出し、

 「だから。ゾロ、此処に来るまでの間のずっと、何を考えてた?」
 「何って、お前が何処に潜んでやがるのかってだな…。」

ほくほくと微笑って聞いていたルフィが言うには、


  ―― ってことは。その間中のずっと、俺んコト考えてたんだろ?
      まあ、そうなるかな。


ってことは。その間のゾロの時間を、俺が盗んだことになる訳だと。
どう考えたってこの坊やの頭から出たとは思えない、
そりゃあロマンチックなお答えへ、

  「…ふ〜ん。そういうもんか。////////」

あっさり納得している誰かさんは、
バラティエ・フェミニスト・サンジさんを小馬鹿に出来ないと思う、
今日この頃の筆者なのでありました。
(おいおい)


  風邪、ひかないようにね?




  〜Fine〜  08.1.19.


  *久々の怪盗ゾロさんです。
   ちゃんとお仕事こなしてはるようですね。
   そして、坊やとのすったもんだも相変わらずみたいで、
   そろそろツボとか掴めばいんですのにね。
   他のシリーズ同様、当初のカッコよさはどこへやらなゾロでございます。
(苦笑)


ご感想はこちらへvv**

back.gif