月夜見

   “解けるかな?”  〜月夜に躍る]\

             *船長BD記念作品、DLFです。よろしかったらお持ちくださいませ。


そういえば。
よほど外せぬ予定があるとか、
日帰りできぬ距離を遠出している時を除き、
以前は毎朝の食事を此処へと食べにくるのが常だった男だ。
それが、気がつけば
ここ最近は仕事の打ち合わせがてらでしか
顔を出さなくなっており。
別段、あんなむさくるしいのの顔なんぞ
そうそう毎日見たくもなかったので気にならなんだが、
来ないと妙に気になるのが不思議で。
まま、正確に言やあ、
奴が何か引き受けて“仕事中モード”に入ると、
それへと連動して、
奴の助手である可愛い弟も店へ顔を出さなくなるがため、
一体どんな依頼を受けやがったんだろか、
よもや危険な目に遭わせちゃあいなかろなとばかり、
ルフィ大事な兄バカの血が騒いでのこと、
無性に気になるだけの話なんだろうけれど。

 「で? 一体何のレシピなんだ、そりゃあ。」
 「違げぇよ。このやろが。」

新しい依頼がまたぞろ舞い込んだのか、
ルフィは朝早くから出かけており。
その代わりのように、
昼間際になって店の方へ現れたのがこいつの方で。
ガッコに行くのも好きだからか、
日頃からもあんまり寝坊するってこたあない、
それはそれは良く出来た弟ではあったが、
今日は港のフェスティバルの中日(なかび)なので、
公立学校はこぞって祭日扱いの休み。
だってのに出掛けたとなると、
このヤロが打ち合わせか何かへ呼び出したんだろと、
勝手に目星をつけての、
苦々しく思っていたのだが、

 「挑戦状がまた来ててな。」
 「…ほほお。」

この港町を拠点にし、
どんな困難な依頼でもその身ひとつで鮮やかに対処する
希代の怪盗。
ただ金目のものを掻っ攫うんじゃなく、
悪どい手口で肥え太った金満家や、
政治家との癒着が囁かれているような胡乱な業者連中を向こうに回し、
金をかけての武装に趣向を凝らしたのだろ、
厳重な金庫だの大怪我しかねぬ仕掛けつきの防犯装置だのを
そりゃああっけなく破りまくりの有名な義賊。
依頼された目当てが何なのかを判らなくするためか、
ついでにと手をつけて破った金庫の中から、
汚職の証拠・脱税の二重帳簿などを持ち出して、
週刊誌のデスクや新聞社の編集部へばら撒くおかげさま、
彼自身が誰から何を請け負ったのかは明らかにならぬまま、
それより何よりという特ダネ
(スクープ)
町中に広められての大騒ぎになる…ところまででワンセット。
そんな働きぶりが爽快なので、市民からは快哉を呼んでる存在なれど、
こちらの“グリル・バラティエ”のオーナー様に限っては、
どんなお手柄上げたって関係ない、
ウチの弟に怪我でもさせたら許さんぞというスタンスを
一向に変えてはおらず。
そんなせいでの敵対行為、
切れ長の目許を眇めての、じろりという鋭い一瞥へ、
だが、怪盗様も負けてはいない。
精悍で男臭いご面相の、特に眉間へ渋いしわを寄せ、
十分に威嚇的なお顔となりながら、

 「お前の自慢の弟様がよ、
  妙な宿題投げ込んでいきゃあがったんだ。」

そうといって、あめ色のつやが出たカウンターの上、
ダンと叩きつけるよに置いたのが、
徳用マッチサイズの無地の化粧箱が一つ。
目顔で促され、
グラスを磨いていた行儀のいい手を伸ばして蓋を取ると、

 「…なんだ、こりゃ。」
 「こっちが聞きたい。」

ぞんざいに扱ったのは壊れ物じゃあなかったからで、
中に入っていたのは厚紙のかけらが数十個ほど。

 「…ジグソウパズル、か。」
 「ああ。」

そうだってのは理解しているらしく、となると。

 「まさか、組み上げられんのか? お前。」

それもこんな少ないピースなのにと、
サンジが肉付きの薄い唇を笑う形にたわめると、

 「〜〜〜〜放っとけよ。」

図星だったか、ふんと鼻息荒くそっぽを向く正直なところ、
妙に笑える怪盗殿であり。

 今日はそれでなくとも、その…何だ、
 坊主の誕生日だからよ。
 何か欲しいもんでもあるんなら考えとけと
 打診をしといたらこの始末だ。

面と向かって言うのは憚られるものなのか、
それともこれを解いてる間に何か企んでやがるのか。
悪戯で振り回すってのはこれまでにもさんざんやられたサプライズだが、
今日はあいつの側の祝いの日だから、それはおかしいしと。

 “高校生に振り回されてることは認めるんだねぇ。”

天下の怪盗も形無しだなおいと苦笑をしつつ、

 「言っておくが、俺は何の相談も受けちゃあいない。」
 「う……。」

ルフィのためにって料理やケーキの趣向で忙しいんだ。
お前を振り回す余興もそれなり面白かろうがよ、
どっちを優先するかは明らかだろがと、
弟コンなことへ堂々と胸を張るシェフ殿であり、

 「うう……。」

ますます唸ったゾロの、
サンジに言わせりゃ無駄に雄々しい肩を叩いてやって、

 「ま、解かないと始まらないらしいから、
  パズルは組み上げてやっからよ。」

  大体、お前複雑な金庫のシステムとか、
  力技じゃあなくのきっちり解いて侵入してるんじゃなかったか?

  うっせぇな、
  こういうちまちましたもんとああいうのとは違うんだよ。

  そうか向こうは野生の勘で開錠してやがんだな、
  システム考えてるプログラマーとかが聞いたら
  悲観するか泣くような奴だな、まったくよ。

  五月蝿いっての。大体ルフィもルフィだ。
  日頃のあのへべれけな字だけで
  十分、俺へは難解なパズルも同然だってのによ。

その、へべれけな字による何かヒントとなろうお言葉が、
パズルの完成により明らかになるのだけれど、
たった一つで大の大人二人を翻弄しちゃえるグッズになる辺り、
この町で一番の実力者は、
もしかせんでもあの坊ちゃんなんでしょうよ、間違いなくと。
カウンターに飾られた早咲きのバラがクススとこっそり微笑ってた。





   〜Fine〜  10.05.05.

背景素材をお借りしました → Airy*Mint サマヘ


  *あああ、しまった。
   肝心なルフィが出てこなかった。(ダメじゃん)
   何はともあれ、

   
HAPPY BIRTHDAY! TO LUFFY!

   記念DLFは
   出来ればもう少し、書ければ書く予定ですので、
   どかお待ちをvv

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

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