月夜見 “真夜中のテレフォン”  〜月夜に躍る・\
 

 

もうすぐ日付が変わるってのに、月はまだ出てない。
暦で見ると今週はずっと真夜中に昇るんだそうで。
まあ、今時は月明かりもさほど重宝されてねぇから、あんまり関係ないけどな。
だってほら、ここんトコ随分と春めいて来たから町にも観光客が多くってサ。
港に着く客船だって増便されてるし、
遅くまでやってる店とかも増えて、ネオンとかが眩しいくらいだし。
港町のムーディな夜景ってのは、
山の手のホテルのラウンジから見下ろすとそりゃあ綺麗だからって、
規制がかかるどころか、あんまり露骨な風俗系統じゃないなら、
むしろ一晩中でも点けててくれって要請があるほどなシーズンに突入しつつある。

“……………。”

そうなんだ、町は華やいで来たってのに。みんな生き生きしてるってのに。
俺は朝からすこぶる詰まんなくって。
サンジは店が忙しいからってまだ帰って来てないしさ。
俺だけ することもないからって不貞寝したのに、
こんな半端な時間に目が覚めちまうしサ。
月はないのに妙に明るい町の夜空を窓の向こうに眺めては、
は〜ぁあと、やるせない溜息なんか ついてみてたりすんだもんな。

――― pi pi pi pi pi pi pi pi pi …。

お。携帯が鳴った♪
こんな時間帯に掛けて来る奴って言えば、親しいダチに決まってて。
でも、俺ってば“朝型人間”だってコトも結構知れ渡ってるのにな。
なのに掛けて来ただなんて、一体 誰だろう。

【ルフィ? もうネンネしていたの?】
「…うううん、起きてたぞ。」
【そうなの。…ねぇ、まだ怒っているのかしら?】
「どうだかな。」
【怒ってないんだったら、そんなお声、出したりしない筈よん?】
「そっちこそ。そんな風に訊くってことは、罪悪感があるんじゃねぇの?」
【罪悪感って何よう、それ。】
「疚しいとか後ろめたいって気持ちのことだよ。」
【あなたに言葉を教えてもらう日が来るだなんて、
 思ってもみなかったわねん。どうにもお偉くなられたこと。】
「どうもありがとーvv」
【………ねぇ。もしかして、昨日話してた“変換器”使ってなぁい?】
「うん。つけっ放しになってたみたいだ。」
【外してよ。お・ね・が・い♪】
「え〜〜〜、いいじゃんか。誤変換はされてないみたいだし。」
【その“誤変換”を確認する機能のせいで、あたしの声がこっちにも筒抜けなのよんvv】
「いい声じゃんvv」
【い〜いから、外してよう。】
「はいはいvv」
変換器と言っても、別に何か仰々しい機械を取り付けてる訳じゃあない。
そういう名前のソフトを携帯のメモリーに読み込ませてあるだけの話で、
スイッチの切り替えですぐにも解除出来て、
「外した。」
【……………ったく。何てもんを考えやがんだっ、お前はよっ!】
あ、怒ってる怒ってるvv
「面白いじゃんかvv」
【面白くねぇっ!】
そりゃな〜。
天下の怪盗“大剣豪”がおネエ言葉で話してちゃあ形無しだもんな。
(笑)
ほら、車のナビとかでサ、
合成音声を関西弁とか名古屋弁に変換出来るってのがあるじゃんか。
あれと自動翻訳ソフトを応用して、
リアルタイムでの会話を即座に別の“性格”に変換しちゃうってソフト、
実用レベルのを作っちゃったんだな。

 *差し支えがなかったら、
  上の【】の台詞は中井和哉さんの声で想像してみて下さい。
  差し支え、大有りでしょうか?
(爆笑)

「考えたのは俺だけど、ソフトを作ったのはウソップさんだもんね。」
【うう…。】
ゾロの知り合いの自称“芸術家”で、それ以上に凄腕の発明家。
時々、仕事で使う小道具とかを仕入れてくれるって縁から、
連絡係をしたりする俺も親しくしてもらっててサ、
暇な時にPCの色々な裏技を教えたらば、
あっと言う間に師匠の俺を追い抜いて、もっと凄いもの作れるようになっちまった。
やっぱ、大人は違うよな〜。
同じように教えた“別の大人”は、全然 物にならんかったけど。
【…何か言ったか?】
「ん〜ん、何にも。」
ははは、変なトコ鋭いんでやんの。
(苦笑)
デジタルには弱いけど直感とかは鋭いんだよな、ゾロってば。
【声紋を誤魔化す変声器ならまだしも、意味あんのか、それ。】
「だからサ、仲の悪い人とかあんまり好きじゃない人からの連絡も、
 これを通しゃ笑えるから、場が和むんじゃないかって。」
パーティーグッズみたいなもんじゃんかって笑ったら、

【…そうか。俺からの連絡は笑えねぇってのかよ。】
「そんなこと言ってないじゃんか。」

大人が拗ねてんじゃねぇよ。
大体な、本来 拗ねてたのは俺の方なんだからな。
【…まだ、怒ってたのかよ。】
そっちにも気が回るとは、今日のゾロってば冴えすぎ。
「もしかして、ホントはゾロじゃねぇな?」
さては偽者だろうって訊いたら“バ〜カ”って言い返された。
【どこの物好きが俺の振りしてお前へ電話なんか掛けるよ。】
判んねぇぞ? サンジとかならやりかねねぇ。
あ、でもサンジなら別に“成り済まし”はしねぇか。
むしろ悪口並べるだけかもな。
上体を起こして窓の外を見てたんだけど、そのベッドにまた寝転んで、
枕を抱えるようにして…こっちから気になってたことを訊いてみる。
「今夜の“仕事”って、そんな難しい依頼だったんか?」
【そういう訳でもねぇけどな。】
「簡単すぎて、俺なんかが手伝っちゃあ却って邪魔だったのか?」
【違げぇよ。】

  じゃあ、何で………。

「連れてってくれなかったんだよっ。」
【………。】
あ、黙りやがった。でも、誤魔化しの黙んまりじゃないって判る。
ゾロってサ、口下手だから…それと真っ正直だから。
思ったこととかホントのこと、ちゃんと伝えるにはどう言えばいいのかなって、
それに、正しいことを正しく伝えても…傷つく人はやっぱりいるから。
それへと たじろいじまうんだって。
自分が誤解されんのは構わないけど、相手ががっかりするのは気の毒だからって、
それで口が重いんだって。
俺に言わせりゃ、それだって立派なズボラだよ。
どう受け取るかは相手に任せりゃいいじゃんか。
信じたくないって思ったなら自分で確かめようとするだろし、
真実がいつも正しい訳じゃないのは、
人を傷つけるような“事実”もあるってことは、だけどゾロのせいじゃないじゃんか。
小器用な嘘をつかれるよか、いっそ手痛いホントを突き付けられた方がいいってよ。
【…お前サ。】
「なんだよ。」
俺みたいな子供に、何 遠慮なんかしてんだよ。

【今夜はお前、誕生日だろうが。】
「……………うん。」
【そんな晩に、泥棒の片棒担いでてどうすんだよ。】

 ………………………………………………。

「…何でサ。」
【んん?】
「何でそんな優しい声で、そんなコト言うんだよ。」
【そんなこと?】
「自分のやってることを貶めるように言うな。」
【泥棒は悪事に違いなかろうよ。】
「でもさっ!」
もっと悪い奴がいて、どう考えたって悪い奴がいて。
なのに…法律をいかようにも扱えるような小利口な奴とか、
お金で買われた口の達者な奴らとかがそいつを守るから。
自分たちにばっか都合がいい法律さえ作っちまうから。
だから、そうするしかないんじゃんか。
【それでもな、そうするしかないってのは、やっぱ正しい理由じゃあない。】
「なんでだよっ。」
【そうするしかないからって、丸腰の市民を人質にしてもいいのか?
 そうしなきゃ世間や政府は聞く耳さえ持たないからって、
 爆弾使って大量虐殺してもいいのか?】
「……………。」
【悪りぃ。極論だな、こりゃ。】
「…俺は、ゾロが自分を貶めるのがイヤなだけだ。」
【ルフィ。】
「ゾロは俺だってそうしたいってこと、同じように感じてくれるから。
 そしてそれを、臆しもしないで自分の意志で実行しちゃってサ、
 完璧にこなせもする奴だから。」
【……………。】
「なあ、疚しいって思う正義漢なトコも好きだぞ、ゾロ。」
【…ば〜か。】
………お?
「なんだよ、それ。」
【今夜だけは、お前がそれを言う側じゃねぇってこった。】


??? えっとぉ?

【好きだぞ、ルフィ。】

あ………。///////



今夜は月の出が遅い。
月齢表ってので調べたら、日付が変わってから昇るんだって。
だったらその間に、月に見られないうちに、
電話越しってのは味気無いから、早く来て。
日付が変わって、俺が1つ大人になった瞬間に間に合うように。
お祝いはキスで良いからサ。
だから、月より早く来て………。





   〜Fine〜  05.4.28.


   *とりあえずの船長BD作品・第一弾です。
    ホントはweb拍手の“しゃれ劇場”用に考えてたネタですが、
    時期が時期だったので膨らませてこちらへvv
    ゾロは義賊の怪盗で、ルフィはそんな彼に憧れてる“追っかけ”でした。
    サンジさんはルフィのお兄さんで、
    ゾロが盗みの依頼の連絡(つなぎ)を取る、小さなスナックを経営してます。
    ナミさんが依頼を伝える連絡係です。
    パラレル設定で、しかも説明がない、特殊な代物ですが、
    DLFと致しますので、よろしかったらお持ち下さいませです。
(笑)


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