月夜見  〜睦言

すぐ間近に温みがある。
薄暗がりの中、輪郭が滲みそうになった肩と頬の線が見える。
規則正しい寝息がして、ゆるくほどけかけた腕の輪の中、
見上げれば、目を伏せたやさしい顔につい見入る。
無心に眠る俯いた顔。
悪鬼のようだと、血に飢えた野獣だと言われていたと聞いたけど、
そうまで恐ろしそうな印象は微塵もない。
目鼻立ちがはっきりしていて多分に鋭角的ではあるけれど、
起きてる時もどこか無愛想でぶっきらぼうではあるけれど、
目が合うと必ずちらっと口の端や目の端で微笑ってくれる、惚れ惚れと頼もしい顔だ。
大きな傷に蹂躙された厚い胸板も、
触れたものは容赦なく切り刻む腕も、
今はこんなに温ったかでやさしい。
“………。”
何でも言うことを聞いてくれる。どんな駄々をこねても最後には折れてくれる。
本当にこの男はあの“海賊狩りのロロノア=ゾロ”なんだろうか?
「…どうした?」
眠っていないとどうして判るのか、ふっと目を開けて静かな声をかけてくれる。
切れ長な目許が少し眠たげなのを見やりながら、
「なあ、ゾロ。」
「ん?」
「何で俺の我儘全部聞いてくれるんだ?」
「我儘って自覚があるのか。なら、今度から多少は控えるんだな。」
「そうじゃなくて…。」
焦れると、寝息の延長のような長い息を一つつきながら、
「俺は俺のしたいことしかやってない。出来ないことはやらんし、したくないこともやらん。」
「したいことだけ?」
「ああ。」
「けど…。」
言いかけた言葉ごと塞がれて飲み込まれて…幾刻か。
あれ?
「どうしたよ。」
「…何訊いてたのか、忘れた。」
そりゃあいいやとくつくつ微笑う。ちゃんとあれこれ判った上で面白がってる。
「思い出すまで付き合うぜ。」
「もういいっ! 寝るっ!」
乱暴に寝返り打ってそっぽを向くと、
「………。」
眠ろうとしてはいないのが気配で判る。
まるで必ず開くドアを眺めてるみたいに、きっと腕を組んで待ってるんだ。
「…寝ないのか?」
「う〜〜〜っ。」
向き直るのは癪だから、パタンと天井の方を真っ直ぐ向くと、
ずり下がってた掛け布を直してくれて、
「ほら、寝ろ。」
頭の下に腕がすべり込んでいて、最初の格好で掻い込まれてる。
“………。”
時々はこんな風で癪だけど、
何でも言うことを聞いてくれる。どんな駄々をこねても最後には折れてくれる。
どんな無茶でも簡単に受け入れてくれる。
本当にこの男はあの“海賊狩りのロロノア=ゾロ”なんだろうか?
「…どうした?」

………。 あんたたち、明日も早いんじゃないのかね? とっとと寝なよ。


             〜Fine〜  (01.7.17.UP)



*だらだら長い割に中身がない。
 いやぁ、熱帯夜が続いた頃だったからねぇ。
おいおい
 世間様が言うほど甘やかしてはいない、
 ちゃんと手綱取ってコントロールしてるんだよという話にしたかったんですが、
 結果的には甘やかしまくってるお父さん…。
 まあ、得てして他人の睦言やのろけほど詰まらんものはないということで
 …オチてないって。
 (加えて、さりげなく“初キス”させているような、いないような…。
  いやほらだから、暑かったからねぇ。
こらこら
  仄めかしはあっても、ウチは一線は越えないと思ってた皆さん、ごめんなさい。)

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