月夜見 puppy's tail 〜その12
 

  “ヌクヌクなの♪”



 人口密度が低いからという訳でもないのだろうが、割と暖冬だと言われていたらしきこの冬は、だが、ここいらでは、例年とそんなに変わりのない淑やかな冷え込みをもたらしていて。そんなせいでか、ついつい寒い戸外に出るのが億劫になりもするのだけれど、天気のいい日は出来るだけ、ぎっちりと防寒装備を固めた上で可愛い海
カイくんの日光浴を兼ねたお散歩に出るようにしてはいる。のんびりのんびりベビーカーを押し、木洩れ陽の中、小鳥の声なんか拾いながらの短いお散歩。
『でもさ、昔と違ってサ。最近は"おぞんほーるの拡大"とかいうのがあって、紫外線の量が増えてるから、あんまり陽に当て過ぎると皮膚ガンの素を作っちゃって良くないって聞いたことがあるけどな。』
 テレビの情報番組で聞いたらしきお話を思い出しては、どっちが良いんだろうね?なんて、ツタさんが困るようなことを訊いてみたりする、好奇心の塊りな小さな坊や。一応は、17歳あたりの筈なのだが、どう見ても。ふかふかでさらさらな水気の多い黒髪の載った頭をかくりと傾
かしがせて見せる幼いとけなさは、中学生、いやいや、下手をすれば…今時の子供の平均と並べれば、もっと小さな、無邪気で屈託のない子供にさえ見える不思議な少年。それはお元気に輝く大きな琥珀色の瞳を据えて、小鼻にふわふわの頬や、小さな顎にて構成された、どこから見ても文句のつけようがない"童顔"をしている彼であり、
『なあなあ、ゾロぉvv』
 気安く背中におぶさっては、おねだりの甘い声を…効果覿面
てきめんな耳元で聞かせてくれたりする、何ともけしからん坊やでもある。(おいおい/笑) 甘えたでお元気で、でも、お母さんだという自覚もあって。ただの腕白さんではない、可愛い子。

  "…ったくよ。"

 この屋敷の若き主人であるゾロにとっては、もうもう既に…単なる同居人なんかではなく、大切な家族であり、ぞっこんに惚れ抜いているところの、何にも掛け替えのない"愛妻"であり。だからして、

  「………。」

 少し大きめのパジャマを羽織り、正座をふにゃりと崩したような恰好にて、脚の間に尻を落としてちょこんと座り込み。撓やかですんなりとした脚の端、小さなお膝にやはり小さな手をついて…と。どこぞのロリコン系グラビアガールによくあるポーズを、無意識だろうにやって見せてくれている小さな奥方が、まじ〜〜〜っとこちらを見やっているその視線が、何というのか…まるで質量があるかのごとくに、先程から横顔に当たっているのが意識され、何とも擽ったくてしようがない。もう夜も更けており、ここは二人の寝室で。おやすみなさいとキスをして、可愛いカイくんもお隣りのお部屋にとうに寝かせた。働き者のツタさんは、一階のお部屋で休んでいる筈で。静かな室内には時折パラリと、紙の音がひそやかに響く。

  "………。"

 本当だったら昼間のうちに片付く筈だった書類の整理。隣り町のアスレチッククラブにて、ソロが指導員としてトレーニングの補助や指導を担当している会員さんたちの、これまでの成果を綴った資料を、クラブ内のメインPCにも書き換える必要があるとかで。それで、手持ちの資料を書き込んだディスクに入力ミスがないかとか、様々にチェックしておく必要があったのに、ついつい…ルフィやカイくんと過ごす方へと気が逸れて、あとちょっとというところで仕上げ切れなかったらしくって。
"先に寝ろって言ってるのにな。"
 PC画面では見落としもあるかもと、プリントアウトした資料を最終点検している旦那様。自分の段取りや手筈が悪くての現状だから、ついつい焦りも加わっているがため。すぐ傍らのベッドの上にて、チョコンと座って待っている奥方の様子が、丁度ルフィのもう一つのお顔である"るう"になった時のように、お利口さんにも"おあずけ"を守っているかのようにも見えるらしいが、実のところは…。

  "ふやぁ〜〜〜。////////"

 大好きな旦那様のそれはそれは真剣な横顔の凛々しさに、ぽわんと見惚れている奥方なのである。
"…だってさvv"
 何でこんなにカッコいいんだろうか。鋭角的で男臭い横顔の、伏し目がちになった切れ長の目許は何とも涼しげであり。意外と線の細い鼻梁とか、意志の強さをそのまま映してきりりと引き締まった口許などを、そぉっと盗み見ているだけなのに、何だか不思議、ドキドキするの。大きな手で引き寄せられて、大好きな匂いに包まれてキスされた訳でもないし、長くて逞しい腕や精悍屈強な胸元へと、ぎゅうって抱っこされてもないのにね。

  「…よし。」

 やっと一通りのチェックが終わったらしく、がさぱさと書類を不揃いなままにサイドテーブルの上へと載せて、腰掛けていた肘掛け椅子から立ち上がる。すると、

  「…っ♪」

 わくわくっと喜び勇むルフィの様子が、わざわざ見なくとも分かるくらいに、気配となって伝わってくる。お尻尾があったなら間違いなく、千切れるほどに振っているのだろう、大歓喜に満ち満ちた興奮ぶりであり、
「お待ち遠さま。」
 どさん・ぎしと。ベッドへ腰を下ろした大きなのっぽの旦那様。思わず膝立ちになってその身へとしがみつく。
「ゾロ、ゾロっ。」
 はいはいと。苦笑混じりに応じる彼の、お揃いのパジャマに包まれた頼もしい肩に掴まり、腕を上げさせ、あっと言う間にお膝の上から、広くて深い懐ろの中へともぐり込むその素早さよ。
"う〜ん、さすがは野生の証明。"
 何たって、その素養にはすばしっこい仔犬の性質が満ちている。ふかふかの毛並みをなびかせて、風のように弾丸のようにぐんぐんと駆け抜けられる、ずば抜けた速さと反射。そして…それらにも勝って余りある愛くるしさ。
「どしたよ、今日は。」
 何だかいつにも増しての甘えっぷりで。腕の中に収まっても落ち着けないのか、身を伸ばすと"んん〜〜vv"と躍起になって頬擦りしてくる興奮振り。ふわふわのマシュマロのような感触が、頼りないからもっと欲しくて、ついついこちらからも ぎゅむと押せば、
「ん〜〜〜、だってサ。」
 眉尻を下げつつ、甘えたさんな声を出す。
「あのね、るうになったら全然寒くないのにね。どうしてだろうね、こっちのカッコの方が、ゾロにぺた〜りって くっつけて、その方がもっとずっと温ったかいの。」
 興奮から気持ちばかりが先んじて、ただでさえ拙い言い回しが何とも幼い言いようになっていて。そんな様子がまた、何とも言えず愛らしいから。
「…うん。」
 急かすことなく、のんびりと聞いてやれば、
「そいでね、早くくっつきたかったけど。あのね、少し待って我慢したらね、こやってくっついた時に、我慢した分、もっと嬉しいの。」
 喉の渇きをもうちょっとって我慢してから飲むお水が、ちょっとだけ美味しくなるみたいに。目の前にいるゾロだけど、飛びついたりしないで我慢我慢ってじっと待ってて。飛びつきたいのに、のにのにのにって気持ちが前脚のバネにたまって、ヴ〜〜〜ってなりかかったところでやっと飛びついたらね、凄っごく嬉しくて、好き好きでヌクヌクになったの、と。
"………う〜ん、後半部分はちょっと難しい。"
 愛らしい擬音まるけの表現が、感覚的には理解出来んこともないのだけれど、このままではカイに影響が出かねないし、それは親としての会話としてどうかとも思うので、そのうち改善せねばならないことだなと…思いつつも。

  「ぞ〜ろvv

 いつの間にやら…脚を腰回りにぐるりと回して、がっちりホールドなんて されてしまっていたりして。
"…電柱に止まったセミみたいだな。"
 こらこら、なんてムードのない。
(笑)柔らかな温みと甘い匂いのする、ふわふわな髪に鼻先を埋めて。元気の塊りではあるが、まだまだ頼りない小さな体をこちらからもぎゅうっと抱いてやり、とりあえず…ルフィの言うところの"好き好きでヌクヌク"とやらを心から体感するゾロさんなのである。


  ……… 寒い冬の夜長も何のそのですな。お御馳走様ですvv





  〜Fine〜  04.1.21.


  *ちょっと久々の"ぱぴぃルフィ"です。
   放っておいてもヌクヌクな人たちで、
   相変わらずに ただのいちゃいちゃだけで終始してしまいました。
   カイくんも7カ月を迎え、
   お腹での"ずりばい"を始める頃だそうで。(ねぇ、某様vv
   春が待ち遠しいご一家でございます。


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